好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

文字の大きさ
129 / 209

11 不安な気持ち

しおりを挟む
 崖のような岩肌に作られた砦は、天然の要塞の役割をしている。もしも俺が隣国の兵士だったら、この巨大な岩の壁はとても越えられる気がしない。下の方に関所みたいな石の門があるから、友好的にそこからくぐり抜けるしか国境を越える方法はなさそうだ。

 ただし、飛竜や浮き島、空を飛べたりするタイプの魔物には頑丈な岩の砦もあまり役にたちそうにないけどな。あと転移魔法陣はもれなく例外っぽい。
 
 浮島を砦の近くに浮かべて橋をかけると、俺やルーシェンや、くっついてきた半数以上の部下たちが一緒に砦に移動した。
 ルーシェンの飛竜のエストもルーシェンと一緒に砦に残るみたいだ。パートナーだからな。羨ましい。俺も残りたい。

 橋を渡った先の広場に、緑色のマントを身につけた兵士の男が部下たちと一緒に待っていた。ガチムチでも大男って感じでもないけど強そうだ。長めの髪を襟元で一つに結んでる。服装から判断すると剣も魔法も使えるタイプだな。つまりエリート兵士。
 砦にもとからいる兵士たちはみんな緑色のマントだった。国境を守るのは国王軍の部隊なんだろうな。

「ここに来るのは久しぶりだな」

 ルーシェンが砦にいた兵士たちの前に立つと、髪の長いエリート兵士の男がすっと片膝をついて正式な挨拶をした。それにならって部下たちも全員膝を着く。

「ルーシェン王子、ご無事で何よりです。私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「もちろんだ。たしか以前は王宮の護衛部隊にいたな」
「はい。王子に覚えていただけているとは光栄です。国王軍に所属しているエルヴィンです。この砦の指揮官を任されています」

 俺は思わず目を見張った。
 エルヴィンと名乗った兵士のオーラがなんか違う。強い兵士だからとか、魔法使いだからとかじゃなくて……なんというか、ルーシェンの名前を呼んだ時、強いピンク色に光り輝いたからだ。
 視線は合わせてなくても、ちらりとルーシェンの姿を見つめる瞳は恋する乙女のそれに近い。もちろんオーラが見えなければそんな事わかるはずもないし、傍目にはまともな兵士に見えるけど。

「エルヴィン、国境を守ってくれて礼を言う。しばらく滞在するから状況を教えてくれ」
「もちろんです、王子。こちらへどうぞ。豪華とはいえませんがお部屋をご用意しております。もちろん飛行部隊の方々にも」

 エルヴィンはルーシェンににこやかに笑いかけると、ちらりとこちらを一瞥した。目が合ったような気がする。これは、挨拶した方がいいタイミングかな。

『はじめまして。ルーシェンの婚約者のミサキです』

 エルヴィンは一瞬の真顔の後、素早く上から下まで俺を眺めると薄く微笑んだ。

「これはミサキ様、初めてお目にかかります」
『よ、よろしくお願いします』

 怖っ。
 この真っ黒なオーラ、久々に見たぞ。
 笑顔だけど、俺に向ける敵意がダダ漏れだよ。


『譲二さん、エルヴィンさんって強いんですか?』

 部屋に案内してくれるというので、ルーシェンたちの後を歩きながらこっそり譲二さんに聞く。

「ええ。確かアーク隊長とは昔からのお知り合いだとか。剣も魔法も得意なので、本当は飛行部隊に入りたかったようですよ」

『そうですか』

 礼儀なんて今まで気にしたことはなかったけど、エルヴィンだけはまともに俺と目を合わせてきた。王族の一員だと思われてない証拠だ。
 前を歩きながら戦況について話しているルーシェンとエルヴィン。話に入っていけない。それに俺、すぐに砦を出発して雲の谷に向かうから、しばらくルーシェンに会えない。
 知らなかった。婚約してても、こんなに不安な気持ちになるものなのか。





しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...