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11 不安な気持ち

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 崖のような岩肌に作られた砦は、天然の要塞の役割をしている。もしも俺が隣国の兵士だったら、この巨大な岩の壁はとても越えられる気がしない。下の方に関所みたいな石の門があるから、友好的にそこからくぐり抜けるしか国境を越える方法はなさそうだ。

 ただし、飛竜や浮き島、空を飛べたりするタイプの魔物には頑丈な岩の砦もあまり役にたちそうにないけどな。あと転移魔法陣はもれなく例外っぽい。
 
 浮島を砦の近くに浮かべて橋をかけると、俺やルーシェンや、くっついてきた半数以上の部下たちが一緒に砦に移動した。
 ルーシェンの飛竜のエストもルーシェンと一緒に砦に残るみたいだ。パートナーだからな。羨ましい。俺も残りたい。

 橋を渡った先の広場に、緑色のマントを身につけた兵士の男が部下たちと一緒に待っていた。ガチムチでも大男って感じでもないけど強そうだ。長めの髪を襟元で一つに結んでる。服装から判断すると剣も魔法も使えるタイプだな。つまりエリート兵士。
 砦にもとからいる兵士たちはみんな緑色のマントだった。国境を守るのは国王軍の部隊なんだろうな。

「ここに来るのは久しぶりだな」

 ルーシェンが砦にいた兵士たちの前に立つと、髪の長いエリート兵士の男がすっと片膝をついて正式な挨拶をした。それにならって部下たちも全員膝を着く。

「ルーシェン王子、ご無事で何よりです。私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「もちろんだ。たしか以前は王宮の護衛部隊にいたな」
「はい。王子に覚えていただけているとは光栄です。国王軍に所属しているエルヴィンです。この砦の指揮官を任されています」

 俺は思わず目を見張った。
 エルヴィンと名乗った兵士のオーラがなんか違う。強い兵士だからとか、魔法使いだからとかじゃなくて……なんというか、ルーシェンの名前を呼んだ時、強いピンク色に光り輝いたからだ。
 視線は合わせてなくても、ちらりとルーシェンの姿を見つめる瞳は恋する乙女のそれに近い。もちろんオーラが見えなければそんな事わかるはずもないし、傍目にはまともな兵士に見えるけど。

「エルヴィン、国境を守ってくれて礼を言う。しばらく滞在するから状況を教えてくれ」
「もちろんです、王子。こちらへどうぞ。豪華とはいえませんがお部屋をご用意しております。もちろん飛行部隊の方々にも」

 エルヴィンはルーシェンににこやかに笑いかけると、ちらりとこちらを一瞥した。目が合ったような気がする。これは、挨拶した方がいいタイミングかな。

『はじめまして。ルーシェンの婚約者のミサキです』

 エルヴィンは一瞬の真顔の後、素早く上から下まで俺を眺めると薄く微笑んだ。

「これはミサキ様、初めてお目にかかります」
『よ、よろしくお願いします』

 怖っ。
 この真っ黒なオーラ、久々に見たぞ。
 笑顔だけど、俺に向ける敵意がダダ漏れだよ。


『譲二さん、エルヴィンさんって強いんですか?』

 部屋に案内してくれるというので、ルーシェンたちの後を歩きながらこっそり譲二さんに聞く。

「ええ。確かアーク隊長とは昔からのお知り合いだとか。剣も魔法も得意なので、本当は飛行部隊に入りたかったようですよ」

『そうですか』

 礼儀なんて今まで気にしたことはなかったけど、エルヴィンだけはまともに俺と目を合わせてきた。王族の一員だと思われてない証拠だ。
 前を歩きながら戦況について話しているルーシェンとエルヴィン。話に入っていけない。それに俺、すぐに砦を出発して雲の谷に向かうから、しばらくルーシェンに会えない。
 知らなかった。婚約してても、こんなに不安な気持ちになるものなのか。





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