好きになったのは異世界の王子様でした(ルーシェン編)

カム

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雲の谷へ

9 いかがお過ごしでしょうか

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 それから手紙を書くために大急ぎで必要な物を揃える。正式な手紙を書くための資料と辞書と巻物とこちらの世界の筆ペンみたいなやつ。
 俺、手紙とかほとんど書いたことないんだけど、みんながルーシェンあてに送ってくる嘆願書みたいなあれ、どうやって書くんだろう。

『涼しい風が吹く季節になりましたが、王子様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。こちらは浮島が墜落して雲の谷へは飛竜で向かう事になりました……』

 なんか変だな。異世界語としても日本語としても変な気がする。いかがお過ごしって砦で戦ってるに決まってるし。

 別に正式な報告書じゃないんだし、相手はルーシェンだから堅苦しくなくていいんだよな。
 思い直して日本で買っておいた百均のノートを一ページ破ると、同じく日本から持ってきていたボールペンで形式を無視して素直に書くことにした。

『ルーシェン、そっちの魔物はどうなった?みんな無事か? 
 ルーシェンがせっかく用意してくれた浮島だけど、墜落して動かなくなったから飛竜で移動することになった。ごめん。
 でもみんな無事だから心配しないでくれ。俺はまだ一人では飛竜に乗れないから、ロベルトさんやジョージさんに交代で乗せてもらうよ。
 雲の谷に着いたらまた手紙書くから、元気でいろよ。怪我とか絶対にしたらだめだからな。修平より』

 これでどうだ。問題なしだろ。ついでに簡単な飛竜のイラストも添えてみる。魚みたいになったけど翼を付ければわかってくれるだろう。

 でも少し心配になってポリムを呼び、異世界語の変なところがないか見てもらった。

『どうでしょうか?』

 ポリムは何故かうるうるした目で俺を見たけど、首を振った。

「ミサキ様、素敵ですけど……大事な言葉が抜けていますわ」

『大事な言葉?』
 
「愛です! 愛の言葉。恋人同士の手紙には絶対に必要です」

『そうなんですか?』

 なんか恥ずかしいな。

「私が例文をいくつか出しますから、そのうちの一つかまたは全部を追加してください。王子様もお喜びになります」

『わ、わかりました』

 そしてポリムが例文をあげる。

「王子様、貴方にお会いしてはじめて愛という言葉の意味を知りました。世界中の誰より貴方の事をお慕い申し上げております。貴方の肌が恋しくて夜一人で眠ることが耐えられません。愛しい貴方のことを思い出しては一人……」

『分かった! 分かりました、ポリム!』

 ミュージカルが始まったのかと思ったぞ。恥ずかしくて絶対書けない内容すぎる。

「えっ、もういいのですか? これから夜の事について話そうかと思ってましたのに」

『大丈夫です。愛の言葉入れますから』

 ポリムが納得しそうにないので、とりあえず『さみしいから早く会いたい』とだけ付け加えた。

***

 ジョシュの彼はすぐに見つかった。如月に預かった巻き物タイプの報告書を大事に背中の荷物に入れていたので声をかける。俺を見ると露骨に動揺して膝をついたので、じろじろと観察してみた。
 飛行部隊らしくキリッとした爽やかなオーラをしてる。顔をあげてもらうと、顔立ちもさわやかだった。ジョシュってこんなタイプが好きだったのか。以前付き合ってた警備兵はもっと年上で、どちらかと言えばおじさんぽかったような気がするけど。ストライクゾーンが広いって事なのかな。

「王太子妃様、私に何かご用でしょうか?」

 緊張してるのか声が震えてる。

『マークさんですよね。報告書をルーシェンに届けるんですか?』

「は、はいっ。これから砦に戻り、ハルバート様とロベルト隊長の報告書を渡す予定です。まさか私のような下っ端隊員までミサキ様に名前を覚えていただけているとは思いませんでした」

『浮島に乗ってる人たちはみんな覚えました。マークさん、すみませんがこれもルーシェンに渡してもらえますか?』

「はいっ。この命にかえても王子にお渡しします」

 そんな大したものじゃないけど。

『命にはかえなくていいですよ。報告書のついでに渡してもらえれば。魔物も出るかもしれないので、安全第一で適度に休憩もとって砦に向かってください。あ、そうだ。カゲクイとかいう魔物がでるかもしれないので、休憩する時は地面に直接降りずに、木の上とか岩の上にしてください』

 ジョシュの彼氏だから心配してそう付け加えると、マークは膝をついたままずっと沈黙してる。どうしたのかと思って声をかけるとマークは泣いていた。

『え? どうしたんですか?』
「す、すみません嬉しくて。ミサキ様のお言葉、一生忘れません……」

 ホレスみたいにさっさと逃げ出す人もいるけど、中にはマークみたいに忠誠心の塊みたいな人もいるんだなぁ。なんだかちょっと感動してしまった。


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