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雲の谷へ
8 ミサキ様にお願いが
しおりを挟む如月がしばらく考え込み、確かにそれはいい案ですねと頷いた。
最初は、何を言ってらっしゃるんですかミサキ様とか言ってた料理長や侍従長も、如月の意見に目を丸くする。
「もちろん、徒歩でミサキ様をこの森に放り出すわけにはいきません。なのでロベルト隊長と飛行部隊の数人に護衛をたのみ、飛竜で雲の谷へ向かっていただきます。これなら浮島よりずっと速く雲の谷へ到着できますから、食料も一日分で足りるでしょう。残りの皆さんを転移魔法陣で王都へ送り、私はもう一度ミサキ様と合流します。ロベルト隊長、それでどうでしょうか?」
ロベルトさんがなるほどと頷き、俺の案は採用された。
***
この計画は浮島で作業していたみんなに伝えられた。みんな王都へ帰る準備をしながら俺に挨拶にやって来た。露骨に安心した顔をしている人もいれば、謝ってくる人たちもいる。
俺も如月にもらった異世界リュックに最小限の荷物を詰める。旅行前、この部屋に豪華な荷物を詰め込んだ事が遠い昔の出来事みたいだ。家具にそんなに思い入れはないけど、少しの期間でもルーシェンと楽しく過ごした部屋を残して出て行くのは寂しいな。花粉が落ち着いたら浮島に戻って来られるだろうか。ずっと来られなかったら、この浮島も森の中の廃屋か遺跡みたいになるんだろうか。
「ミサキ様、これも持っていきましょう」
ポリムがアクセサリーや色とりどりの小瓶やドライフラワーの詰め合わせみたいなものをたくさん抱えて来た。ポリムも俺に付いてきてくれるらしいけど、荷造りしている物の大半はどう見てもいらない物のような気がする。
『それは何ですか?』
「これはミサキ様の宝石と、お風呂に入れる薬草と、香り袋に、髪に付ける香料と、肌に付ける……」
『ポリムの荷物だけでいいですよ』
「ダメです。雲の谷を訪問されるなら可愛らしくしていませんと。それに王子様に再会する時に傷んだ髪や肌でいいわけありません!」
『わ、わかりました……』
ポリムは俺を飾ることに使命感みたいなものを持ってるから水をさすのはやめておこう。
準備が終わる頃、ジョシュが部屋にやって来た。ジョシュは小さな袋にぎっしりと詰められたお菓子を持っていた。
「ミサキ様、これミサキ様の好きなお菓子です。日持ちするので持っていって食べてください」
『ありがとう、ジョシュ……。王都に着いたらゆっくり美味しいもの食べてください。家族のみなさんによろしく』
ジョシュは少ししんみりしていた。いつも明るいジョシュなのに珍しい。
「ミサキ様、無事に王子様と帰ってきてくださいね。僕お祈りしてますから」
『はい。頑張ります』
「それからその……図々しいのですが、ミサキ様にお願いが」
『何ですか?』
「僕と仲のいい飛行部隊の隊員が、王子様にこの事を報告に行くんですけど……きっとすごく怒られると思うんですよね」
『まさか。だって飛行部隊のせいじゃないのに』
「でも王子様は報告を聞いて激怒されるはずです。本人は仕事だから平気だって言ってますけど、僕には彼が怖がってるのがすごく分かるんです」
確かに。ルーシェンは会議中とか部下に恐れられていたような気がする。墜落の情報なんて持っていったら険悪な空気になること間違いなしだろうな。
『分かりました。ルーシェンに手紙を書きます。報告書と一緒にそれも持っていってください』
そう言うとジョシュはホッとした顔をしていた。
「ありがとうございます!」
『ジョシュは飛行部隊にも仲のいい人がいるんですね。顔が広いですね』
「へへへ……まだ付き合ってはないんですけど、何度か彼の部屋にも行ってて。身体の相性がいいんです」
お、思ったより深い付き合いだった。さすがジョシュだ。
『同じ職場の彼氏はどうなったんですか?』
「うーん、副料理長とは全然いい雰囲気にならないので今は飛行部隊の彼の方が好きです」
ジョシュの新しい彼氏は飛行部隊の隊員か。手紙を渡す時にジョシュの事あれこれ聞いてみよう。
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