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雲の谷
1 入り口はどこだ
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『入り口はどこなんでしょうか』
「申し訳ありません。私は一度も雲の谷を訪れたことがなく……」
『そうなんですね』
「とりあえず降りて隊長達を待ちましょう」
『分かりました』
「何か魔物の気配はしますか?」
『大丈夫です』
上空を少しだけ旋回してから、降りられそうな場所を探す。崖に描かれた大きな絵のそばには、よく見ると細い道が作られていて、その先に平らになった岩場があった。
『この場所、飛竜とか、浮島の発着に使われてそうな気がしませんか?』
「そうですね」
地面に降りると飛竜は翼をたたんで休憩に入った。
『雲の谷はあんまり人の行き来とかないんですか?』
「雲の谷は王妃様の故郷なのですが、なかなか他の街のように交流の盛んな場所ではなく、訪れる者も少ないのです」
『険しい場所にあるからでしょうか』
「王妃様は魔法陣で行き来しているようです」
そういえばルーシェンがそんなことを言ってた気がする。
しばらく無言で休んでいると、飛んで来た方角に飛竜の姿が見えた。ほっとして手を振る。テレサさんとポリムの乗った飛竜だ。その後ろに小さく二頭。みんな無事みたいで良かった。
「ミサキ様!」
『ポリム! テレサさん、みんな無事でよかったです』
降りて来たポリムに飛びついて再会を喜ぶ。誰にでも抱きつくなってフィオネさんに言われてるけどこんな時くらいいいよな。
「さすが飛行部隊の方は飛行技術が高いですね」
「いえ、無理をさせてしまいました」
『テレサさんもすごいです。かっこよかった』
そう言うとテレサさんは少し照れていた。ロベルト隊長の岩みたいな飛竜と、飛行部隊の2人が乗った飛竜も岩場に到着する。
「全員いるようだな。無事にミサキ様を雲の谷まで送り届けられたようだ」
『ロベルトさん、みなさんもありがとうございます』
「いえ、私どもの力不足で快適とはいい難い旅になり本当に申し訳ありません」
『いいえ、助かりました。それよりはやく雲の谷に行きましょう』
「分かりました。雲の谷はあの壁が正門となります。約束がなければ決して開かれることのない門なのですが……雲の谷の使者に何か聞いていませんか?」
『そういえば鍵をもらいました』
リュックの中から紫色の袋を取り出す。中から半透明の丸い珠が出てきた。鍵と言われなければ分からない形だ。
岩場から壁の絵に続く細い道を歩き、壁画の正面までやって来る。
『近くで見ると大きいな』
世界遺産みたいだ。よく見ると壁に丸い窪みがある。探せば何箇所か穴があいていた。どこにこの鍵をはめればいいのか分からないけど、なんとなく鳥みたいな動物の口元に開いていた窪みに鍵をはめてみた。
鍵がカチリとはまり、壁にひび割れみたいな光が走る。どんな魔法なのか分からないけど、巨大な壁の一部分が跡形もなく消え、目の前に奥へと続く広い道が現れた。
***
「驚きましたね」
広く整備された道を歩いて中へ入ると、来た道が元通りの壁に変わった。つまりここは岩山の内部ってことになるんだろうか。でも空は明るい光に満たされていて、洞窟の中のような閉塞感もないし、寒さも感じない。緑の木々が周囲を囲み、道のそばには小川が流れている。一言で言うなら楽園といった雰囲気だ。さっきまで何もない寒い岩山の中腹にいたなんて信じられない。
黒髪の男の人が道の先から歩いてこっちにやって来た。端正な顔立ちだけど歳は四十代くらいかな。王妃様に似てる。紫色の衣装を優雅に着こなしていて、思わず背筋が伸びた。
「ミサキ様とお連れの方ですね。私はこの雲の谷の長をしております」
『は、はじめましてこんにちは! 鍵をいただいたので勝手に入ってしまいましてすみません。ルーシェンの婚約者のミサキです。王妃様にはいつもお世話になってます』
焦って正式な挨拶をすると、長は穏やかに笑った。
「実はお会いするのは二回目です。私は婚約式に呼ばれて参列しておりました。あの時のミサキ様の勇姿、覚えておりますよ」
うっ……。偽婚約者を殴り飛ばしたあの醜態を見られていたのか。
「ラキ王国の王妃、リリーメイは私の妹で、ルーシェン王子はかわいい甥だ。ミサキ様のことも家族と思ってよろしいですか?」
『は、はいっ。よろしくお願いします!』
「申し訳ありません。私は一度も雲の谷を訪れたことがなく……」
『そうなんですね』
「とりあえず降りて隊長達を待ちましょう」
『分かりました』
「何か魔物の気配はしますか?」
『大丈夫です』
上空を少しだけ旋回してから、降りられそうな場所を探す。崖に描かれた大きな絵のそばには、よく見ると細い道が作られていて、その先に平らになった岩場があった。
『この場所、飛竜とか、浮島の発着に使われてそうな気がしませんか?』
「そうですね」
地面に降りると飛竜は翼をたたんで休憩に入った。
『雲の谷はあんまり人の行き来とかないんですか?』
「雲の谷は王妃様の故郷なのですが、なかなか他の街のように交流の盛んな場所ではなく、訪れる者も少ないのです」
『険しい場所にあるからでしょうか』
「王妃様は魔法陣で行き来しているようです」
そういえばルーシェンがそんなことを言ってた気がする。
しばらく無言で休んでいると、飛んで来た方角に飛竜の姿が見えた。ほっとして手を振る。テレサさんとポリムの乗った飛竜だ。その後ろに小さく二頭。みんな無事みたいで良かった。
「ミサキ様!」
『ポリム! テレサさん、みんな無事でよかったです』
降りて来たポリムに飛びついて再会を喜ぶ。誰にでも抱きつくなってフィオネさんに言われてるけどこんな時くらいいいよな。
「さすが飛行部隊の方は飛行技術が高いですね」
「いえ、無理をさせてしまいました」
『テレサさんもすごいです。かっこよかった』
そう言うとテレサさんは少し照れていた。ロベルト隊長の岩みたいな飛竜と、飛行部隊の2人が乗った飛竜も岩場に到着する。
「全員いるようだな。無事にミサキ様を雲の谷まで送り届けられたようだ」
『ロベルトさん、みなさんもありがとうございます』
「いえ、私どもの力不足で快適とはいい難い旅になり本当に申し訳ありません」
『いいえ、助かりました。それよりはやく雲の谷に行きましょう』
「分かりました。雲の谷はあの壁が正門となります。約束がなければ決して開かれることのない門なのですが……雲の谷の使者に何か聞いていませんか?」
『そういえば鍵をもらいました』
リュックの中から紫色の袋を取り出す。中から半透明の丸い珠が出てきた。鍵と言われなければ分からない形だ。
岩場から壁の絵に続く細い道を歩き、壁画の正面までやって来る。
『近くで見ると大きいな』
世界遺産みたいだ。よく見ると壁に丸い窪みがある。探せば何箇所か穴があいていた。どこにこの鍵をはめればいいのか分からないけど、なんとなく鳥みたいな動物の口元に開いていた窪みに鍵をはめてみた。
鍵がカチリとはまり、壁にひび割れみたいな光が走る。どんな魔法なのか分からないけど、巨大な壁の一部分が跡形もなく消え、目の前に奥へと続く広い道が現れた。
***
「驚きましたね」
広く整備された道を歩いて中へ入ると、来た道が元通りの壁に変わった。つまりここは岩山の内部ってことになるんだろうか。でも空は明るい光に満たされていて、洞窟の中のような閉塞感もないし、寒さも感じない。緑の木々が周囲を囲み、道のそばには小川が流れている。一言で言うなら楽園といった雰囲気だ。さっきまで何もない寒い岩山の中腹にいたなんて信じられない。
黒髪の男の人が道の先から歩いてこっちにやって来た。端正な顔立ちだけど歳は四十代くらいかな。王妃様に似てる。紫色の衣装を優雅に着こなしていて、思わず背筋が伸びた。
「ミサキ様とお連れの方ですね。私はこの雲の谷の長をしております」
『は、はじめましてこんにちは! 鍵をいただいたので勝手に入ってしまいましてすみません。ルーシェンの婚約者のミサキです。王妃様にはいつもお世話になってます』
焦って正式な挨拶をすると、長は穏やかに笑った。
「実はお会いするのは二回目です。私は婚約式に呼ばれて参列しておりました。あの時のミサキ様の勇姿、覚えておりますよ」
うっ……。偽婚約者を殴り飛ばしたあの醜態を見られていたのか。
「ラキ王国の王妃、リリーメイは私の妹で、ルーシェン王子はかわいい甥だ。ミサキ様のことも家族と思ってよろしいですか?」
『は、はいっ。よろしくお願いします!』
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