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雲の谷
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「おはようございます。今日の調子はいかがですか?」
『昨日よりずっといいです』
久々に熟睡した。中庭は明るくて、時計がないから何時か分からないけどすがすがしい朝だ。
女の人が身体にいい朝食をテーブルに並べてくれる。ここは時間がゆっくり流れている気がして、すっかり昔からいる人みたいにくつろいでいた。
「身体の魔法はかなり薄くなりましたね」
木の実と野菜の入った雑炊みたいなスープを食べていると、女の人が俺を見てしみじみと言った。
『本当ですか? 昨日いっぱいお風呂に入ったので』
「今日もその調子でお願いします」
そのあとお爺さんから診察を受け、回復の泉のお風呂に浸かり、身体にいいおやつをつまみ、借りた異世界語の物語を読んだり、ダイコンや緑のふわふわ聖獣と戯れたりして過ごす。
真っ黒だった身体の模様はそのうちかなり薄くなった。まだ心臓の周りには染みみたいな黒い色がすこし残ってるけど。
最初は裸で過ごしてくださいと言われたけど、やっぱり気がひけるからパンツ一枚で過ごしている。落ち込んでいた気分も身体の模様が消えるにつれて楽になってきた。回復の泉って本当にすごいな。
奥の院にはお爺さんと女の人しかいないらしい。基本俺のことは放置だけど、食事の準備や薬の準備で忙しいのかも。
夕食の時に、みんなの事を聞いてみた。
『みんなはどうしてますか?』
「長からの報告によると、皆さまミサキ様の事を心配しているようです。ポリム様やジョージ様にご様子を聞かれますが、治療に専念しているとしかお伝えしておりません」
『そうですか』
みんな心配しているだろうな。ルーシェン達の方もどうなったのか気がかりだ。ジョシュの彼が手紙を送ってくれたと思うけど、無事に砦に着いたかな。
「それから王都からハルバート様がいらっしゃったようです。客間に滞在していただいております。こちらで用意した小型の飛行船に食材や薬品や武器を積んで出発の準備をされているようです」
『そうですか。ありがとうございます』
如月が来てくれたのなら心配ないな。あとは俺が元気になって砦に向かうだけだ。
『あとどのくらいでここから出られますか? もう元気になったような気がします』
女の人はふふっと笑った。診察中は表情も読み取りにくくて怖そうな人だと思ったけど、慣れてくると優しい気がする。俺に余裕ができてきたからなのかな。
「すっかりお元気になられましたね。魔法の痕跡を見せる事は心配でしたが、やはり噂通りあなたは強い方です」
『え? そうですか?』
「そうです。ああいった呪いの魔法は、本人がかけられていると感じると威力が増しますので、精神の強い方にしかお見せしないのです」
『でも、けっこう落ち込みました』
「申し訳ございません。必ず回復なさると思っていましたので。いつここを出られるかは診察の後で決めましょう」
『はい』
夕食のあとは再びお爺さんの診察だ。肌の模様もほとんど無くなったから自信満々だったのに、退院の許可は出なかった。
「まだじゃな」
『えっ、まだ?』
「あと二、三日かかるな」
『もう元気ですけど』
「馬鹿者、魔法を舐めるでない。完璧に消し去らなければ復活する呪文もあるのじゃぞ」
『分かりました……』
あと二、三日か。ここの生活は平和で癒されるけど、元気になるとはやく砦に戻りたくなるから不思議だ。
この時は少しがっかりしたけど、このあと俺はお爺さんが二、三日退院を伸ばしてくれたことに心底感謝することになるのだった。
夕食を食べ終わると女の人もお爺さんもいなくなったので、中庭に出てお風呂の準備をする。
今日は光が比較的少なくて静かだ。見ればダイコンの聖獣も緑のふわふわも数が少ない。寝てるのかな。
お風呂に浸かって、暗い空を見上げる。本当は屋外なのに、もやがかかってドームの中にいるような感じだ。ルーシェンと閉じ込められた魔法村の空もこんな感じだった。出られないのも同じだけど、魔法村にいたのは真っ黒オバケやゾンビだから、こことは全く違うな。
空を見上げていると、隣にダイコンの聖獣がやって来た。何匹かそろっている。
「何?」
最初はお風呂に入りたいのかと思ったけど違う。着いてこいと言ってるみたいだ。お風呂から上がり、パンツをはいてダイコンのあとを追うと、入り組んだ中庭の奥に光が見えた。赤い光だ。
みそぎ中に襲われた恐怖がフラッシュバックして、思わず木の陰に身を隠す。あの時も赤い光がさしていた。パンツ一枚なのも同じだ。怖い。ここは雲の谷の奥の院なのに防御魔法はかけられていないのか? それともそれを突破したのか?
ツンツン、とつつかれて顔を上げると周りにダイコン達が集まっていた。聖獣たちの様子に変化はない。攻撃魔法じゃないのか? 他に赤い光といえば……転移魔法陣?
こそこそと木の陰から顔だけ出して見る。赤い光の消えた後に、見慣れた金色のオーラ。会いたくてたまらなかった人の後ろ姿が見えた。
「おはようございます。今日の調子はいかがですか?」
『昨日よりずっといいです』
久々に熟睡した。中庭は明るくて、時計がないから何時か分からないけどすがすがしい朝だ。
女の人が身体にいい朝食をテーブルに並べてくれる。ここは時間がゆっくり流れている気がして、すっかり昔からいる人みたいにくつろいでいた。
「身体の魔法はかなり薄くなりましたね」
木の実と野菜の入った雑炊みたいなスープを食べていると、女の人が俺を見てしみじみと言った。
『本当ですか? 昨日いっぱいお風呂に入ったので』
「今日もその調子でお願いします」
そのあとお爺さんから診察を受け、回復の泉のお風呂に浸かり、身体にいいおやつをつまみ、借りた異世界語の物語を読んだり、ダイコンや緑のふわふわ聖獣と戯れたりして過ごす。
真っ黒だった身体の模様はそのうちかなり薄くなった。まだ心臓の周りには染みみたいな黒い色がすこし残ってるけど。
最初は裸で過ごしてくださいと言われたけど、やっぱり気がひけるからパンツ一枚で過ごしている。落ち込んでいた気分も身体の模様が消えるにつれて楽になってきた。回復の泉って本当にすごいな。
奥の院にはお爺さんと女の人しかいないらしい。基本俺のことは放置だけど、食事の準備や薬の準備で忙しいのかも。
夕食の時に、みんなの事を聞いてみた。
『みんなはどうしてますか?』
「長からの報告によると、皆さまミサキ様の事を心配しているようです。ポリム様やジョージ様にご様子を聞かれますが、治療に専念しているとしかお伝えしておりません」
『そうですか』
みんな心配しているだろうな。ルーシェン達の方もどうなったのか気がかりだ。ジョシュの彼が手紙を送ってくれたと思うけど、無事に砦に着いたかな。
「それから王都からハルバート様がいらっしゃったようです。客間に滞在していただいております。こちらで用意した小型の飛行船に食材や薬品や武器を積んで出発の準備をされているようです」
『そうですか。ありがとうございます』
如月が来てくれたのなら心配ないな。あとは俺が元気になって砦に向かうだけだ。
『あとどのくらいでここから出られますか? もう元気になったような気がします』
女の人はふふっと笑った。診察中は表情も読み取りにくくて怖そうな人だと思ったけど、慣れてくると優しい気がする。俺に余裕ができてきたからなのかな。
「すっかりお元気になられましたね。魔法の痕跡を見せる事は心配でしたが、やはり噂通りあなたは強い方です」
『え? そうですか?』
「そうです。ああいった呪いの魔法は、本人がかけられていると感じると威力が増しますので、精神の強い方にしかお見せしないのです」
『でも、けっこう落ち込みました』
「申し訳ございません。必ず回復なさると思っていましたので。いつここを出られるかは診察の後で決めましょう」
『はい』
夕食のあとは再びお爺さんの診察だ。肌の模様もほとんど無くなったから自信満々だったのに、退院の許可は出なかった。
「まだじゃな」
『えっ、まだ?』
「あと二、三日かかるな」
『もう元気ですけど』
「馬鹿者、魔法を舐めるでない。完璧に消し去らなければ復活する呪文もあるのじゃぞ」
『分かりました……』
あと二、三日か。ここの生活は平和で癒されるけど、元気になるとはやく砦に戻りたくなるから不思議だ。
この時は少しがっかりしたけど、このあと俺はお爺さんが二、三日退院を伸ばしてくれたことに心底感謝することになるのだった。
夕食を食べ終わると女の人もお爺さんもいなくなったので、中庭に出てお風呂の準備をする。
今日は光が比較的少なくて静かだ。見ればダイコンの聖獣も緑のふわふわも数が少ない。寝てるのかな。
お風呂に浸かって、暗い空を見上げる。本当は屋外なのに、もやがかかってドームの中にいるような感じだ。ルーシェンと閉じ込められた魔法村の空もこんな感じだった。出られないのも同じだけど、魔法村にいたのは真っ黒オバケやゾンビだから、こことは全く違うな。
空を見上げていると、隣にダイコンの聖獣がやって来た。何匹かそろっている。
「何?」
最初はお風呂に入りたいのかと思ったけど違う。着いてこいと言ってるみたいだ。お風呂から上がり、パンツをはいてダイコンのあとを追うと、入り組んだ中庭の奥に光が見えた。赤い光だ。
みそぎ中に襲われた恐怖がフラッシュバックして、思わず木の陰に身を隠す。あの時も赤い光がさしていた。パンツ一枚なのも同じだ。怖い。ここは雲の谷の奥の院なのに防御魔法はかけられていないのか? それともそれを突破したのか?
ツンツン、とつつかれて顔を上げると周りにダイコン達が集まっていた。聖獣たちの様子に変化はない。攻撃魔法じゃないのか? 他に赤い光といえば……転移魔法陣?
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