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帰還
20 悪夢みたいだ
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食事が始まり、王妃様とルーシェンは隣国の魔物の被害の話をはじめた。被害は思ったより小規模で、年内にはおさまりそうだという話だった。王様はしばらく部長たちと隣国に滞在するらしい。
王妃様の話にあいづちをうちながら、ルーシェンが消化によさそうなものを俺に渡してくれる。会話の内容や病み上がりなこともあり、あまり喉をとおらなかったけど。
エルヴィンを含めた部下たちの大多数は少し離れたテーブルで食事をしているので、会話の内容は王妃様とルーシェン、それに俺と専属従者しか聞いていない。エルヴィンが近くにいなくて少し安心していたら、食事会の終わり頃にエルヴィンが王妃様にお酒を持ってやってきた。
「王妃様、こちらは近隣の村から感謝の印に送られたお酒です。素朴な味わいですが、村人たちの気持ちですのでぜひ味わっていただきたく」
「あら、ありがとう。いただくわ」
目を凝らして見たけど、お酒には毒も魔法もかかってなさそうだった。王妃様も見える人だから心配していないのか、王妃様の従者が受け取ってグラスにお酒を注ぐ。
「王妃様、先ほどの褒美の件ですが」
「もう決めたの? もう少し考えてからでもよろしいのよ」
「私の欲しいものはどれだけ考えても変わることはありません」
エルヴィンは他人には美しく見える笑顔で目を伏せ頷いた。嫌な予感がする。心なしか頬を染めているように見えるけど気のせいかな。
「私をルーシェン王子の妃の一人に加えていただきたいのです」
食事会の席が静まり返り、俺は飲んでいた水を吹きそうになった。思わずルーシェンの顔を見ると、ルーシェンも驚いた顔をしている。
「私は魔法も得意でラキ王国の出身です。魔力酔いをすることもありませんし、王子の護衛もできます。世継ぎも産んで差し上げられます。王子が王太子妃様を溺愛されているのは存じておりますが、王太子妃様が体調を悪くした時には代わりに王子をお慰めすることができます。王太子妃様の立場を危うくするつもりはございません。私は王宮の王子のお部屋の片隅に住まわせていただけるだけで幸せなのです」
こいつ、しおらしい顔してなんて事を言うんだ。そんな性格じゃないことぐらい知ってるからな。絶対に俺を抹殺して、王太子妃の座に座るつもりだろ。
怒りで握った拳が震えた。人間って本当に腹が立った時は何もいえなくなるんだな。
「エルヴィン、悪いが……」
エルヴィンはルーシェンに向き直り、足もとに土下座した。
「王子、ただの護衛を雇うような感覚で構いません。お姿の見える場所に住まわせていただけるだけで私は幸せでございます。どうかお慈悲を!」
まわりの兵士たちがヒソヒソ声で話してるのが聞こえる。すべてエルヴィンに同情的な声だ。だってこいつはこの砦の隊長だし、俺は優秀なロベルトさんを謹慎させた浮気者だと思われているから。
エルヴィンの部下たちが膝を突き、声をそろえてお願いしますと頭を下げた。困惑するルーシェン。まるで悪夢みたいだ。
「護衛でもいいなら飛行部隊に入隊すればどうですか? 毎日王子のそばにいられますよ」
よく知った声が響き顔をあげると、巻物を携えた如月がこちらに歩いてやって来るところだった。
如月はエルヴィンの隣に跪くと、王妃様とルーシェンに正式な挨拶をする。
「ハルバート、久しぶりね。あなたの活躍は聞いているわよ」
「恐れ入ります。浮島の魔法石が操縦士に盗まれた件で報告に参りましたが、お邪魔でしたでしょうか」
「もちろん邪魔ではないわ。盗まれた魔法石のことは気になっていたのよ」
「ありがとうございます王妃様。エルヴィン隊長、あなたの望みはわかりますが、今は非常事態ですし、もともとは王子と王太子妃様の婚約旅行中です。もう少し時期を待ってはどうでしょうか?」
エルヴィンが頭を下げながらも如月に怒りのオーラを向ける。対する如月も見た目の爽やかさからは想像できないほど攻撃的なオーラだ。
「ハルバートの言う通りね。ルーシェン、あなたは王都に戻り、状態異常の魔法を完全に治しなさい。砦の防御は私の部下が代わりましょう」
如月が来てくれて助かった。あの空気だと、すぐにエルヴィンが妃の一人になってしまうような気がした。そう思ってほっとした瞬間だった。
「ミサキ、あなたも一緒に王都に帰りなさい。それからエルヴィン、あなたもよ。プライベートエリアに部屋を用意するから、使ってちょうだい」
王妃様が笑顔でそう続けた。
王妃様の話にあいづちをうちながら、ルーシェンが消化によさそうなものを俺に渡してくれる。会話の内容や病み上がりなこともあり、あまり喉をとおらなかったけど。
エルヴィンを含めた部下たちの大多数は少し離れたテーブルで食事をしているので、会話の内容は王妃様とルーシェン、それに俺と専属従者しか聞いていない。エルヴィンが近くにいなくて少し安心していたら、食事会の終わり頃にエルヴィンが王妃様にお酒を持ってやってきた。
「王妃様、こちらは近隣の村から感謝の印に送られたお酒です。素朴な味わいですが、村人たちの気持ちですのでぜひ味わっていただきたく」
「あら、ありがとう。いただくわ」
目を凝らして見たけど、お酒には毒も魔法もかかってなさそうだった。王妃様も見える人だから心配していないのか、王妃様の従者が受け取ってグラスにお酒を注ぐ。
「王妃様、先ほどの褒美の件ですが」
「もう決めたの? もう少し考えてからでもよろしいのよ」
「私の欲しいものはどれだけ考えても変わることはありません」
エルヴィンは他人には美しく見える笑顔で目を伏せ頷いた。嫌な予感がする。心なしか頬を染めているように見えるけど気のせいかな。
「私をルーシェン王子の妃の一人に加えていただきたいのです」
食事会の席が静まり返り、俺は飲んでいた水を吹きそうになった。思わずルーシェンの顔を見ると、ルーシェンも驚いた顔をしている。
「私は魔法も得意でラキ王国の出身です。魔力酔いをすることもありませんし、王子の護衛もできます。世継ぎも産んで差し上げられます。王子が王太子妃様を溺愛されているのは存じておりますが、王太子妃様が体調を悪くした時には代わりに王子をお慰めすることができます。王太子妃様の立場を危うくするつもりはございません。私は王宮の王子のお部屋の片隅に住まわせていただけるだけで幸せなのです」
こいつ、しおらしい顔してなんて事を言うんだ。そんな性格じゃないことぐらい知ってるからな。絶対に俺を抹殺して、王太子妃の座に座るつもりだろ。
怒りで握った拳が震えた。人間って本当に腹が立った時は何もいえなくなるんだな。
「エルヴィン、悪いが……」
エルヴィンはルーシェンに向き直り、足もとに土下座した。
「王子、ただの護衛を雇うような感覚で構いません。お姿の見える場所に住まわせていただけるだけで私は幸せでございます。どうかお慈悲を!」
まわりの兵士たちがヒソヒソ声で話してるのが聞こえる。すべてエルヴィンに同情的な声だ。だってこいつはこの砦の隊長だし、俺は優秀なロベルトさんを謹慎させた浮気者だと思われているから。
エルヴィンの部下たちが膝を突き、声をそろえてお願いしますと頭を下げた。困惑するルーシェン。まるで悪夢みたいだ。
「護衛でもいいなら飛行部隊に入隊すればどうですか? 毎日王子のそばにいられますよ」
よく知った声が響き顔をあげると、巻物を携えた如月がこちらに歩いてやって来るところだった。
如月はエルヴィンの隣に跪くと、王妃様とルーシェンに正式な挨拶をする。
「ハルバート、久しぶりね。あなたの活躍は聞いているわよ」
「恐れ入ります。浮島の魔法石が操縦士に盗まれた件で報告に参りましたが、お邪魔でしたでしょうか」
「もちろん邪魔ではないわ。盗まれた魔法石のことは気になっていたのよ」
「ありがとうございます王妃様。エルヴィン隊長、あなたの望みはわかりますが、今は非常事態ですし、もともとは王子と王太子妃様の婚約旅行中です。もう少し時期を待ってはどうでしょうか?」
エルヴィンが頭を下げながらも如月に怒りのオーラを向ける。対する如月も見た目の爽やかさからは想像できないほど攻撃的なオーラだ。
「ハルバートの言う通りね。ルーシェン、あなたは王都に戻り、状態異常の魔法を完全に治しなさい。砦の防御は私の部下が代わりましょう」
如月が来てくれて助かった。あの空気だと、すぐにエルヴィンが妃の一人になってしまうような気がした。そう思ってほっとした瞬間だった。
「ミサキ、あなたも一緒に王都に帰りなさい。それからエルヴィン、あなたもよ。プライベートエリアに部屋を用意するから、使ってちょうだい」
王妃様が笑顔でそう続けた。
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