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金曜日、午後1時(レヴィン編)

12 王都に向かう理由

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「……何だ、こいつは」

 アニキが俺のリュックから取り出したのは携帯電話だ。
 やばい……。
 アニキに高いものだと思われたら、売られてしまう可能性大だ。
 携帯は俺の命綱、如月や康哉とすぐに連絡の取れる便利ツール(電波がよければの話)だから売られる訳にはいかない。それにメアリーや飛竜とのツーショット写真や(宝物)ラウルやリックやルーシェンとの写真(楽しい思い出)も入ってる。

『そ、それは……何でもありません』
「何でも無い物を持ち歩いてんのか?」

 う……確かに変だよな。携帯電話に似ている異世界の生活用品って何だ?洗濯板……いや防水じゃないし水に浸けられたら困る。

『ただのマッサージ器です。これでツボを押すとキモチいいので』

 咄嗟に思いついたのがこれ。イマイチすぎる言い訳だ。

「つぼ?」

 アニキが妙な者を見る目で俺を見ている。異世界にはツボという概念がないらしい。

『ええと、人の体にはツボというものがあり……ぅひゃあ!』

 俺の説明を待つより早く、アニキが携帯電話をズボンの上から俺の急所に押し当てた。マナーモードでブルブルしてる!その使い方、違う!

「あぅ~……」

 俺は薬のせいか前を押さえて再びトイレの床に崩れ落ちた。駄目だ。確実に敏感になってる。

「へぇ、おもしれえな」

 アニキは俺の携帯を服の内側にしまいこんだ。

『か、返してください……』
「マッサージなら俺がしてやる。お前、身分が高いってのは嘘じゃなさそうだな。こいつは上流階級の人間が持っている魔法の板って奴だろう?売ればさすがに足がつきそうだから売りはしねえよ」

 アニキは俺に悪魔の笑みを向けた。携帯電話の事知ってたのか……。知っててこの暴挙。アニキは鬼畜だ、ドSだ。それともただのノリのいい変態なのか?

 アニキは携帯だけに興味を示し、残りの荷物はリュックごと俺に放り投げた。
 ラウルの腕輪やリックのネックレスはともかく、ルーシェンにもらった守りの指輪に反応しないのが不思議だった。盗賊なら真っ先に貴金属を狙いそうな気がするのに。それともこれこそ一番足がつきそうな代物だからか?
 俺はアニキに悟られないように、ちらりと指輪のはまった手に視線を向けた。今は目立つから外すのをやめとこう。

「早くこい。王都に向かうぞ」
「……」
「どうした?立ちあがれないほど薬が効いてんのか?」
『どうして王都に向かうのですか?』

 普通、逃亡者ならもっと人の少ない田舎にむかうんじゃないか?それとも都会の人込みの中に逃げ込んだ方が見つかりにくいってことかな。
 もしかして、王都に会いたい人でもいるんだろうか。恋人とか……。
 さっきまでは、アニキは俺のストーカーで、俺を追ってここまで来たのかと思っていたけど、アニキには実は他に好きな人がいて、その人に会うために命がけで王都に向かっているのかもしれない。
 アニキだって人の子だ。鬼畜だけど、好きな人の前ではいい奴なのかもしれない。俺は勝手にそう思い、少しだけほっとした。

 だけどアニキは俺のそんな思いを鼻で笑った。

「もう一人、王都に殺さなきゃいけない奴がいるんだよ」
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