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ending
3 なんでいるんだ?
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そんな無意味な日々を送っていたある日の事だった。
その日は休みの前日で、バイトもない日だった。俺は大学を出て、駅まで歩きながら翌日の予定を考えていた。
誘いを断りすぎていて、最近ではあまり誘われなくなっていたから、休みの日は完全にフリーだ。
明日は久々に動物園に行ってラクダでも見て癒されようかな。それともアルパカのたくさん飼われている牧場がいいかな。牧場だと触れあえるし。まあ、ラクダよりアルパカよりケビンの方が可愛いけど。
「岬さん」
あまりに自然に呼ばれて、なんの違和感もなく振り向いた。そして固まる。
「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
そこには、日本にいるはずのない男、眼鏡をかけた営業マンのような男が立っていた。
「き、如月!?」
「はい。如月隼人、またの名をハルバートと申します。ハルちゃんとよんでくださってかまいませんよ」
如月は変わらない笑顔でそう言うと、
「どこかでお茶でも飲みませんか?」
と続けた。
***
嘘みたいだ。
如月と喫茶店にいる。ここ、日本だよな。
如月の姿は最初に会った頃と同じ、スーツ姿のサラリーマンに見える。相変わらずネクタイとジャケットは異世界風だけど。
如月は紅茶を注文し、優雅に香りを楽しんでいる。
「私は紅茶が好きなんです。あと、この世界は音楽もいいですね」
「えっと……」
何でいるんだ?という疑問がぐるぐると頭をめぐった。
「あ、岬さんからの電話に出なくてすみません。そういうルールなんです。帰った方とは、個人的に連絡を取らないという。携帯電話の番号は即刻削除なんですよ。まあ、後でいろいろ大変でしたけど」
「あ、あのさ……あの後どうなったんだ?みんな、元気なのか?」
それに、連絡を取らないルールなのに、どうして会いに来たんだろう。
如月は俺の質問には答えず、じっと俺の手を見た。
「実はここ数日、岬さんの様子を見させていただいてました」
「えっ!?」
「正確には、あなたが異世界の事をどの程度吹っ切っていらっしゃるかを」
何だそれ。吹っ切るってなんだよ。
「申し訳ありませんが、留守の間にお部屋にも上がらせていただきました」
「うげっ」
犯罪だろ、それ。
「岬さんが異世界の事をお忘れなら、私は黙って帰るつもりでした。あれから半年近く経ちますし、岬さんにも未来がありますから」
俺はアパートの自分の部屋を思い返した。
ベッドの脇にはラキ王国のガイドブック、オッサンのマントとアニキのシャツがハンガーにかけてある。
「ですが岬さんは期待を裏切らないというか……お似合いですよ、そのTシャツ」
指摘されて恥ずかしくなった。
今日着ていたのはリックとお揃いの異世界Tシャツだ。
支給されたリュックサックはあれからずっと愛用しているし、如月は知らないだろうけど、腕にはラウルの腕輪がはまってる。指にはもちろんルーシェンの指輪が(アニキのイヤリングはもとから外せない)
格好だけ見れば、恥ずかしくなるくらい異世界に未練タラタラだ。単に物が捨てられない奴ってだけかもしれないけど。
その日は休みの前日で、バイトもない日だった。俺は大学を出て、駅まで歩きながら翌日の予定を考えていた。
誘いを断りすぎていて、最近ではあまり誘われなくなっていたから、休みの日は完全にフリーだ。
明日は久々に動物園に行ってラクダでも見て癒されようかな。それともアルパカのたくさん飼われている牧場がいいかな。牧場だと触れあえるし。まあ、ラクダよりアルパカよりケビンの方が可愛いけど。
「岬さん」
あまりに自然に呼ばれて、なんの違和感もなく振り向いた。そして固まる。
「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
そこには、日本にいるはずのない男、眼鏡をかけた営業マンのような男が立っていた。
「き、如月!?」
「はい。如月隼人、またの名をハルバートと申します。ハルちゃんとよんでくださってかまいませんよ」
如月は変わらない笑顔でそう言うと、
「どこかでお茶でも飲みませんか?」
と続けた。
***
嘘みたいだ。
如月と喫茶店にいる。ここ、日本だよな。
如月の姿は最初に会った頃と同じ、スーツ姿のサラリーマンに見える。相変わらずネクタイとジャケットは異世界風だけど。
如月は紅茶を注文し、優雅に香りを楽しんでいる。
「私は紅茶が好きなんです。あと、この世界は音楽もいいですね」
「えっと……」
何でいるんだ?という疑問がぐるぐると頭をめぐった。
「あ、岬さんからの電話に出なくてすみません。そういうルールなんです。帰った方とは、個人的に連絡を取らないという。携帯電話の番号は即刻削除なんですよ。まあ、後でいろいろ大変でしたけど」
「あ、あのさ……あの後どうなったんだ?みんな、元気なのか?」
それに、連絡を取らないルールなのに、どうして会いに来たんだろう。
如月は俺の質問には答えず、じっと俺の手を見た。
「実はここ数日、岬さんの様子を見させていただいてました」
「えっ!?」
「正確には、あなたが異世界の事をどの程度吹っ切っていらっしゃるかを」
何だそれ。吹っ切るってなんだよ。
「申し訳ありませんが、留守の間にお部屋にも上がらせていただきました」
「うげっ」
犯罪だろ、それ。
「岬さんが異世界の事をお忘れなら、私は黙って帰るつもりでした。あれから半年近く経ちますし、岬さんにも未来がありますから」
俺はアパートの自分の部屋を思い返した。
ベッドの脇にはラキ王国のガイドブック、オッサンのマントとアニキのシャツがハンガーにかけてある。
「ですが岬さんは期待を裏切らないというか……お似合いですよ、そのTシャツ」
指摘されて恥ずかしくなった。
今日着ていたのはリックとお揃いの異世界Tシャツだ。
支給されたリュックサックはあれからずっと愛用しているし、如月は知らないだろうけど、腕にはラウルの腕輪がはまってる。指にはもちろんルーシェンの指輪が(アニキのイヤリングはもとから外せない)
格好だけ見れば、恥ずかしくなるくらい異世界に未練タラタラだ。単に物が捨てられない奴ってだけかもしれないけど。
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