One week 番外編

カム

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学芸会

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小学校時代の修平と康哉の話
康哉目線です。

***

「松田君、準備出来た?」
 とクラスの女子が声をかけてくる。
「もう少し。でも間に合いそうだね」
 微笑んでそう答えれば、僕に話しかけてきた女の子は少し赤くなった。

 今日はクラスの学芸会の日だ。
 体育館ではいろいろな出し物が催されていて、今は僕のクラスの劇が披露されている。
 僕はクラス委員をしていることもあり、朝から忙しくてさっきまで職員室に行っていたのだけれど、僕の出番は最後なのでどうにか劇に間に合ったみたいだ。
 紙で作った王冠をかぶり、段ボールで作った剣を身につけ、青い布をマント代わりに首に巻きつける。

「わあ、似合う! 本物みたい」
「ほんと!」
「さすが松田君ねー」

 女子達の歓声が耳に入る。
 僕にはただのガラクタに見えるけど、そこは小学生の言う事だからと軽くお礼を言って微笑む。全然興味ない女の子にも優しくしてしまうのは僕の悪い癖だ。

「今、どこまで進んだの?」
「まだ敵の国と戦ってる所よ」

 体育館のステージの袖に行くと、少しだけ舞台の様子が見えた。舞台上ではバタバタと走りまわるクラスメイトが、段ボールの剣を振り回している。
 白雪姫ってこんな話だったかな。
 小学生の棒読みのセリフとめちゃくちゃなストーリーにしては、観客席も湧いていた。笑い声がひっきりなしに上がる。それはおそらく主役の力によるものだろう、と僕はステージ上の白雪姫を見た。
 ステージ上で兵士の扮装をしたクラスメイトに、偽物のリンゴを投げているのが主役の白雪姫。
 岬修平という男子だ。
 ふつう白雪姫といったら女子がやるものじゃないのだろうか。
 でも、クラスの秀才山田さんが
「主役は岬君しかいないわっ!」
 と眼鏡を光らせて言ったらしい。この白雪姫の台本を書いたのも彼女だから、誰も逆らえる人はいなかった。

 確かに岬は良く見れば目も大きくて、男にしてはかわいい顔をしている。でも女の子らしい可愛らしさは皆無だ。
 現に白雪姫の扮装でウイッグを被ってワンピースを着ている岬をお世辞にも可愛いとは思えない。むしろ気持ち悪いというか笑える。観客も大半はそれで笑っているんじゃないだろうか。
 でも岬はそんな事気にする事もなく、満面の笑みでリンゴを投げている。
 そして僕は、そんな岬修平というクラスメイトがとても苦手だった。

 あいつは頭もそれほど良くはないし、運動神経がずば抜けていいという訳でもない。何か特技があるわけでも、家柄がいいわけでも金持ちな訳でもない。
 でも岬はいつもクラスの中心にいて、男女問わず好かれていた。クラス委員としていつも仕事をしている僕よりも、教師は岬を可愛がっていた。
 僕の方が頭もいいし運動神経もいい。性格だって特に悪いわけじゃないのに……。この差はなんなのだろう。
 僕は岬修平という男に苦手意識をもちながら、特に仲良くするわけでもなく注目していた。ずっと見ていたら、岬がみんなに好かれるわけが分かるような気がしたから。


「松田君、そろそろ出番よ!」
 そう言われて我に返った。ステージ上では岬がリンゴを喉に詰まらせ、オーバーアクションで苦しんでいる。そしてバタンと倒れた。
 小人役の生徒達がいそいそと紙の花を岬のまわりに飾る。
「白雪姫ー、どうか目を覚ましてくださいー」
 すごい棒読み。
 気乗りしないけど、出番みたいだ。
 
 スポットライトの中に歩いていくと、観客席から歓声が起こった。
 僕はこのスポットライトとかいう物が好きだ。光に包まれていると何故か興奮する。もちろん表面上は冷静に振る舞うけれど。

 倒れている岬に視線を移す。観客席から見えないと思ってニヤニヤ笑いを浮かべている。おまけに半分薄目を開けてこっちを見ている。

「何て美しい人なんだ……」
 
 僕がそう言うと、岬はちょっとぎょっとした目で僕を見た。内心ほくそ笑みながら、ゆっくりと岬のそばに座り、手を握る。もちろん台本にはない。髪を撫で、少しずつ顔を近づけていくと観客席からきゃーっという歓声……悲鳴? が上がった。

「お、おい……松田」

 あせった岬が小声で僕を制止しようとする。まるで蛇の前のカエルみたいだ。その様子を微笑みながら鑑賞し、僕はゴツンと岬に頭突きした。

「痛ーっ……はっ、ここはどこ!? あなたは誰⁉︎」

 岬が飛び起きて棒読みの演技を続けた。台本通りの展開に、あからさまに安心しているのが面白い。

「私は隣の国の王子です。あなたを是非私の妃に迎えたい」
 僕は微笑みながら岬の前に跪いた。

 劇が終わった後、台本を書いた山田さんに
「さすがね! 松田君、王子にはあなたしかいないと思ったわよ!」
と称賛の言葉をもらった。
 
 
 片付けも終わり、帰ろうかと教室を出ようとした時、岬に話しかけられた。

「松田!」
「何?」

 岬は興奮した面持ちで俺の肩に手をかけた。

「お前、すごい演技力だな! 本当に小学生か⁉︎ カリスマ俳優かと思ったぜ」
「そうかな。別に普通だけど?」
「普通じゃない。お前ってすごいな! 頭もいいし、顔もいいし、将来は俳優になったらいいんじゃないか?」

 岬は僕の将来について熱く語り、何故か下校中も家の近くまでずっと僕についてきた。

 
 何となくわかった事がある。岬が好かれる理由だ。
 うまく言えないけど、岬はきっと世界を愛してるんだ。生きている事がとても楽しそうに見える。
 僕は恵まれた環境に育ったけど、きっと岬よりは世界に期待していない。つまらない毎日だってずっと思ってた。
 でも、岬の目が僕を見て、僕の事を話しているその声を聞いていると、あのスポットライトにあたった時のように気分が高揚する。
 
 岬の愛している世界の中に、僕を入れてほしい。そうすればきっと僕も、今より生きていく事が楽しくなるんじゃないだろうか。

「岬」
「何だ?」
「今度から下の名前で呼んでいい?」

 そう言うと、岬はにっこりと笑った。

「いいぞ! 俺も今から松田の事、康哉って呼ぶからな」

 こうして僕たちは友達になった。頭突きじゃなくて、本当にキスしたかったんだと気づいたのは、もう少し後になってから。


おわり
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