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昼休み
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高校時代の修平と康哉の話
康哉目線です。
***
「松田くん、これ」
午前の授業が終わったので荷物を持って席を立つと、同じクラスの水瀬が手提げ袋を俺に差し出した。
「良かったら食べて」
微笑みながら告げる水瀬の後ろで、女子達がこちらを見て騒いでいる。
「奈々が、松田くんがお弁当食べてくれたって言ってたから、あたしのも」
奈々? ああ、昨日俺に弁当を差し入れしてきた子か。どういう心理なのか分からないが、取り合えず笑顔で受け取る。
「ありがとう」
女子達のきゃあきゃあ言う声が余計大きくなった。昨日の子は真っ赤になってたけど、水瀬は余裕で友人の元に戻っていく。よく手入れされた髪に整った顔立ち。修平が可愛い可愛いと騒いでいた子だ。修平の方が俺には何倍も可愛いが。
「あいつ相変わらずモテるな」
「水瀬まで松田かよ」
男子達の会話が耳に届いたが、そんなものは無視して教室を出る。昼休みは一分でも時間が惜しい。俺は第二校舎の屋上に向かった。
「隠れ家的癒しスポットがある」
修平にそう誘われて溜まり場にするようになったのが第二校舎の屋上だ。第一校舎ほど広くもないが、何故か一区画だけ緑化されている。いや、緑化は大袈裟だな。誰が育てているのか分からない植物の鉢植えがあるだけだ。
「康哉、遅かったな!」
屋上には修平と修平のクラスの佐々木。あと同じ中学出身の藤村がいた。佐々木が修平とプロレスごっこをしているのに内心イラッとしながらも、そんな俺の心が顔に出る事はない。子供の頃から常に冷静沈着で可愛いげのない性格だと言われていた。
「松田、何その可愛い袋」
藤村が身を乗り出して聞いてくる。
「さっき貰ったんだよ」
げーっ、という一同の声を聞きながら輪の中に入る。
佐々木が誰から? 誰から? としつこく聞いてくるので水瀬だと教えた。げーっ、という叫びが再び上がる。修平が床に倒れて死んだふりをはじめ、横で佐々木がカウントをとっている。
「水瀬さん、俺好きだったのに。何でみんな康哉ばっかり……」
「岬! 死ぬな~!」
「もうダメ、俺死ぬ……」
「ただ弁当貰っただけだって」
「そりゃお前、あなたが好きだから私の作ったお弁当食べてねって事だよ」
藤村が気持ち悪いオカマ声で冷静な意見を述べる。修平がゾンビのようにズリズリと這ってきて
「一口、一口食わせて……」
と訴える。
ああ、別の物食わせてやりたいと思う俺は内心けっこうな変態だが、外面では来るもの拒まずの女好きで通っていた。
「水瀬に悪いから嫌だ。お前には一口もやらねー」
「康哉のオニ! 鬼畜……!」
修平に鬼畜と言われるとテンションがあがる。俺は機嫌よく定位置に座り、もらった弁当を開けた。可愛い袋に入ったお弁当は、形のいいおにぎりと定番のおかずが並んでいて彩りも綺麗だった。
「うわー。うまそー」
佐々木と藤村が騒ぐ中、ふてくされた修平は購買で買ったパンを取り出した。修平の母親は中学の時に亡くなっている。俺達の高校には食堂はあるけど、修平はたまにしか利用しない。多分購買のパンの方が安いからだ。姉が時々お弁当を作ってくれるらしいが、毎日とはいかないらしい。
「修平、お前にはこれやるよ」
俺は自分の弁当を修平に手渡した。
「お前はいいよなー。美味しい弁当作ってもらえて、さらに女の子にももらえてさ」
修平は俺の手から弁当を奪うと文句を言いながらも開き始めた。
「康哉んちの弁当あいかわらずすげーな!」
「うわ、プロみてぇ」
俺の弁当は二段の小さな重箱で修平からは食べやすいおせち料理と呼ばれている。ついでに誤解を解いたことは一度もないが、弁当を作っているのは親ではなく俺だ。
佐々木や藤村は一緒にいるから仕方ないとして、修平が俺の手料理を食べてくれると思うと顔がほころぶ。特に好きでもない女子から弁当をもらうのも、修平に俺の手作り弁当を食べてもらいたいだけかもしれない。
「康哉、水瀬さんの弁当旨い?」
「ああ」
俺の腕には敵わないが。
「一口くれ」
修平が口をあけて催促する。可愛すぎる。キスして欲しいのか?
俺は仕方なく食べかけのウィンナーを修平の口に放り込んだ。
「うまーっ……」
幸せそうな顔しやがって。水瀬の差し入れは次から断るか。
「俺にも!」
雛鳥に餌をやる親の気分で佐々木と藤村にも適当におかずを分けてやった。
優雅なランチタイムが終了し、水瀬の差し入れも二段の重箱も修平のパンも綺麗になくなった。
「俺、次の授業当てられるんだった。松田、ノート貸してくれ」
「ああ。机に入ってるから勝手に持っていっていい」
「さすが! 頭のいいやつがツレにいると楽だな」
佐々木が立ち上がり、藤村がそれにくっついて行った。無意識とはいえ気が利くやつらだ。
「康哉、お前水瀬さんと付き合うのか?」
「いや」
「何でだよ? もしかして俺が原因?」
「そうかもな」
「だったら気にせずに付き合えよ。可愛いと思ったけど、お前は親友だし応援するからさ」
「別に好きじゃない」
しれっと答えると、修平があきれ顔で俺を見た。そのまま無言で床に寝そべる。
「修平?」
「お前にはモテない俺の気持ちなんてわかんねー。片想いはすげー切ないんだぞ」
「それは分かる」
「え? 康哉、好きなやついるのか?」
お前だよお前。
「コーギーが飼えなかった時は切なかったな」
茶化して答えると、修平は真面目に聞いて損しただのブツブツ言いながら寝てしまった。
片想いの切なさならお前よりずっと分かっていると思う。この想いが風化する時がいつか来るんだろうか。それとも一生抱えて生きていくのか? こいつは鈍いから、俺が伝えなければ一生気づかれる事はないだろうな。
俺は無邪気に熟睡している修平の唇に「おやすみ」とそっとキスを落とした。
おわり
康哉目線です。
***
「松田くん、これ」
午前の授業が終わったので荷物を持って席を立つと、同じクラスの水瀬が手提げ袋を俺に差し出した。
「良かったら食べて」
微笑みながら告げる水瀬の後ろで、女子達がこちらを見て騒いでいる。
「奈々が、松田くんがお弁当食べてくれたって言ってたから、あたしのも」
奈々? ああ、昨日俺に弁当を差し入れしてきた子か。どういう心理なのか分からないが、取り合えず笑顔で受け取る。
「ありがとう」
女子達のきゃあきゃあ言う声が余計大きくなった。昨日の子は真っ赤になってたけど、水瀬は余裕で友人の元に戻っていく。よく手入れされた髪に整った顔立ち。修平が可愛い可愛いと騒いでいた子だ。修平の方が俺には何倍も可愛いが。
「あいつ相変わらずモテるな」
「水瀬まで松田かよ」
男子達の会話が耳に届いたが、そんなものは無視して教室を出る。昼休みは一分でも時間が惜しい。俺は第二校舎の屋上に向かった。
「隠れ家的癒しスポットがある」
修平にそう誘われて溜まり場にするようになったのが第二校舎の屋上だ。第一校舎ほど広くもないが、何故か一区画だけ緑化されている。いや、緑化は大袈裟だな。誰が育てているのか分からない植物の鉢植えがあるだけだ。
「康哉、遅かったな!」
屋上には修平と修平のクラスの佐々木。あと同じ中学出身の藤村がいた。佐々木が修平とプロレスごっこをしているのに内心イラッとしながらも、そんな俺の心が顔に出る事はない。子供の頃から常に冷静沈着で可愛いげのない性格だと言われていた。
「松田、何その可愛い袋」
藤村が身を乗り出して聞いてくる。
「さっき貰ったんだよ」
げーっ、という一同の声を聞きながら輪の中に入る。
佐々木が誰から? 誰から? としつこく聞いてくるので水瀬だと教えた。げーっ、という叫びが再び上がる。修平が床に倒れて死んだふりをはじめ、横で佐々木がカウントをとっている。
「水瀬さん、俺好きだったのに。何でみんな康哉ばっかり……」
「岬! 死ぬな~!」
「もうダメ、俺死ぬ……」
「ただ弁当貰っただけだって」
「そりゃお前、あなたが好きだから私の作ったお弁当食べてねって事だよ」
藤村が気持ち悪いオカマ声で冷静な意見を述べる。修平がゾンビのようにズリズリと這ってきて
「一口、一口食わせて……」
と訴える。
ああ、別の物食わせてやりたいと思う俺は内心けっこうな変態だが、外面では来るもの拒まずの女好きで通っていた。
「水瀬に悪いから嫌だ。お前には一口もやらねー」
「康哉のオニ! 鬼畜……!」
修平に鬼畜と言われるとテンションがあがる。俺は機嫌よく定位置に座り、もらった弁当を開けた。可愛い袋に入ったお弁当は、形のいいおにぎりと定番のおかずが並んでいて彩りも綺麗だった。
「うわー。うまそー」
佐々木と藤村が騒ぐ中、ふてくされた修平は購買で買ったパンを取り出した。修平の母親は中学の時に亡くなっている。俺達の高校には食堂はあるけど、修平はたまにしか利用しない。多分購買のパンの方が安いからだ。姉が時々お弁当を作ってくれるらしいが、毎日とはいかないらしい。
「修平、お前にはこれやるよ」
俺は自分の弁当を修平に手渡した。
「お前はいいよなー。美味しい弁当作ってもらえて、さらに女の子にももらえてさ」
修平は俺の手から弁当を奪うと文句を言いながらも開き始めた。
「康哉んちの弁当あいかわらずすげーな!」
「うわ、プロみてぇ」
俺の弁当は二段の小さな重箱で修平からは食べやすいおせち料理と呼ばれている。ついでに誤解を解いたことは一度もないが、弁当を作っているのは親ではなく俺だ。
佐々木や藤村は一緒にいるから仕方ないとして、修平が俺の手料理を食べてくれると思うと顔がほころぶ。特に好きでもない女子から弁当をもらうのも、修平に俺の手作り弁当を食べてもらいたいだけかもしれない。
「康哉、水瀬さんの弁当旨い?」
「ああ」
俺の腕には敵わないが。
「一口くれ」
修平が口をあけて催促する。可愛すぎる。キスして欲しいのか?
俺は仕方なく食べかけのウィンナーを修平の口に放り込んだ。
「うまーっ……」
幸せそうな顔しやがって。水瀬の差し入れは次から断るか。
「俺にも!」
雛鳥に餌をやる親の気分で佐々木と藤村にも適当におかずを分けてやった。
優雅なランチタイムが終了し、水瀬の差し入れも二段の重箱も修平のパンも綺麗になくなった。
「俺、次の授業当てられるんだった。松田、ノート貸してくれ」
「ああ。机に入ってるから勝手に持っていっていい」
「さすが! 頭のいいやつがツレにいると楽だな」
佐々木が立ち上がり、藤村がそれにくっついて行った。無意識とはいえ気が利くやつらだ。
「康哉、お前水瀬さんと付き合うのか?」
「いや」
「何でだよ? もしかして俺が原因?」
「そうかもな」
「だったら気にせずに付き合えよ。可愛いと思ったけど、お前は親友だし応援するからさ」
「別に好きじゃない」
しれっと答えると、修平があきれ顔で俺を見た。そのまま無言で床に寝そべる。
「修平?」
「お前にはモテない俺の気持ちなんてわかんねー。片想いはすげー切ないんだぞ」
「それは分かる」
「え? 康哉、好きなやついるのか?」
お前だよお前。
「コーギーが飼えなかった時は切なかったな」
茶化して答えると、修平は真面目に聞いて損しただのブツブツ言いながら寝てしまった。
片想いの切なさならお前よりずっと分かっていると思う。この想いが風化する時がいつか来るんだろうか。それとも一生抱えて生きていくのか? こいつは鈍いから、俺が伝えなければ一生気づかれる事はないだろうな。
俺は無邪気に熟睡している修平の唇に「おやすみ」とそっとキスを落とした。
おわり
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