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ep.0 目覚め前(アルバート視点)
7 司祭との面会
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ゼフィーを連れてやって来た村の教会には珍しく大勢の村人が押し寄せていた。人々はアルバートと傍のグリフォンを見て道を譲る。聖騎士は神官に次いで名誉ある職業だからだ。この村に住むアルバートの存在は知れ渡っていた。子供たちはアルバートを見ると手を振り、大人は両手を胸の前で交差して祈る仕草をとった。
教会ではルーリーの話していた王都の司祭が、村人に祝福を授けていた。司祭の白い帽子を被った中年の男は少し恰幅がよく、身なりも地位も高そうだが、汗をかきながら村人の相手をしているところを見ると、アルバートの嫌いな権威主義の司祭ではなさそうだ。
「聖騎士第七部隊のアルバートが参りました」
聖騎士の剣を胸の前で持ち、正式な挨拶をすると司祭はニコニコとアルバートに向き直った。
「これはこれは聖騎士殿、ようこそお越しくださいました。申し訳ありませんが、あと少し村人たちの祝福が終わるまでお部屋でお待ちいただけますかな」
司祭の弟子だという色白の神官候補生につれられて教会にある客間に通される。神官候補生は十代半ばほどの年齢だが、アルバートを上から下までじろじろ眺めている。居心地が悪いが、アルバートも望んでここにいるわけではない。
「お待たせいたしました。この村はいい村ですね。村人たちも守られている」
しばらくして、司祭が汗を拭きながら客間に戻って来た。神官候補生が呆れたように口を開く。
「司祭さま、全員に祝福を授けたのですか?」
「いや、まだ半分も終わっていないが、残りの方々は聖騎士様のお話のあとでも待ってくださるだろう」
「相変わらずですね、司祭さまは」
「シリン、聖騎士さまにお茶を入れて差し上げなさい」
「分かりました」
候補生はアルバートに頭を下げて部屋を出ていった。師匠にあの態度で大丈夫なのだろうか。聖騎士なら上司に不敬な態度をとると降格か除名処分になる。
「忙しいところお呼びして申し訳ない。私は王都の大神殿の司祭キリアンと申します。あなたはヘニング家のご子息、アルバート殿でよろしいですかな?」
「はい」
「実は聖騎士殿に重要なお願いがあり、こうして時間を作っていただいております」
キリアン司祭は客間のテーブルに置かれていた小箱から手紙を数枚取り出した。二つは署名のある立派なもの。あとは折り畳まれた紙だ。
「私は国王の命令でここ数ヶ月、国をまわり、聖騎士のお若い方に何人もお会いしておるのです」
何人も、と聞いて少しアルバートの心が楽になった。もしも神子さまの結婚の話なら、他にも候補者がいるということだろう。
「国境の状況が悪化していることは、聖騎士殿ならもちろんお分かりかと思いますが、実は王都でも、深刻な事態が起きておりまして」
司祭は手紙の一つを開いた。紙の中央に黒い文字が見える。それを見てアルバートの背筋に寒気が走った。手紙ではなく、魔法の呪文。それも強力な呪いだ。
「これは、呪いですか?」
「ご安心を。こちらの呪符は神官たちの浄化の魔法で完全に効果を失っております」
「初めて目にしました」
「アルバート殿は、隣国サデの話は聞き及んでおりますかな?」
「神子さまが……お隠れになったと」
「そうです。隣国の神子さまは呪われた。闇の魔法で死に追いやられたのです」
「そんな……」
「同じ呪いがこの国の大神殿にも複数届いています。隣国の神子さまを死に追いやった呪術師の集団が、この国の神子さまも狙っています。ですが、神官だけでは神子さまを守りきれない。そこで我々は神子さまの護衛が出来る方を探しているのです」
「第一部隊では駄目なのですか?」
エルトリアには神子を守る聖騎士の部隊が複数存在している。第一部隊は常に神殿を守っているはずだ。
「もちろん神殿の警備はしてくださいますが、常に神子さまの傍にいて四六時中警護する者が必要です。そこで我々は、神子さまに結婚していただくことにしたのです」
なるほど、結婚はあくまでも表向きの話なのだとアルバートは納得した。まだ腑に落ちない部分はあるが、その辺りはどうせ権力争いが絡んでくるのだろう。
「もちろん、若く将来のある聖騎士様に負担を強いることは重々承知した上でのお話です。神子さまと一度結婚すれば、命ある限り決して別れることは出来ません。他の方との家庭は諦めていただくしかない。行動も制限されることでしょう。神子さまは眠り続けておられますから、実際の結婚とも程遠いものとなります。しかし、国のために誰かがやらなければならない仕事です。これほど立派な使命はないと思っております。私が神官でなく聖騎士で、もっと強くて若ければ立候補したことでしょう。恐れ多いことですが」
戻って来たシリンが、アルバートの前にお茶を置く。
「僕を聖騎士に入隊させてくれれば、すぐに神子さまと結婚するのに」
「お前は白魔法には優れているが、武術を会得していない。聖騎士にはなれんだろう」
神殿に入るのに高い魔力が要求されるように、聖騎士になるにはさらに強さも求められる。だからほとんどの人間は聖騎士にはなれない。
「アルバート殿、ご実家からあなたを結婚相手に推挙したいと手紙が来ています。あなたは若く強くて顔立ちも良い。あなたの条件なら神子さまの結婚相手として申し分ない。国のために神子さまと結婚していただけませんかな」
うすうす分かってはいたが、面と向かって言われた内容の重さにアルバートは絶句するしかなかった。
教会ではルーリーの話していた王都の司祭が、村人に祝福を授けていた。司祭の白い帽子を被った中年の男は少し恰幅がよく、身なりも地位も高そうだが、汗をかきながら村人の相手をしているところを見ると、アルバートの嫌いな権威主義の司祭ではなさそうだ。
「聖騎士第七部隊のアルバートが参りました」
聖騎士の剣を胸の前で持ち、正式な挨拶をすると司祭はニコニコとアルバートに向き直った。
「これはこれは聖騎士殿、ようこそお越しくださいました。申し訳ありませんが、あと少し村人たちの祝福が終わるまでお部屋でお待ちいただけますかな」
司祭の弟子だという色白の神官候補生につれられて教会にある客間に通される。神官候補生は十代半ばほどの年齢だが、アルバートを上から下までじろじろ眺めている。居心地が悪いが、アルバートも望んでここにいるわけではない。
「お待たせいたしました。この村はいい村ですね。村人たちも守られている」
しばらくして、司祭が汗を拭きながら客間に戻って来た。神官候補生が呆れたように口を開く。
「司祭さま、全員に祝福を授けたのですか?」
「いや、まだ半分も終わっていないが、残りの方々は聖騎士様のお話のあとでも待ってくださるだろう」
「相変わらずですね、司祭さまは」
「シリン、聖騎士さまにお茶を入れて差し上げなさい」
「分かりました」
候補生はアルバートに頭を下げて部屋を出ていった。師匠にあの態度で大丈夫なのだろうか。聖騎士なら上司に不敬な態度をとると降格か除名処分になる。
「忙しいところお呼びして申し訳ない。私は王都の大神殿の司祭キリアンと申します。あなたはヘニング家のご子息、アルバート殿でよろしいですかな?」
「はい」
「実は聖騎士殿に重要なお願いがあり、こうして時間を作っていただいております」
キリアン司祭は客間のテーブルに置かれていた小箱から手紙を数枚取り出した。二つは署名のある立派なもの。あとは折り畳まれた紙だ。
「私は国王の命令でここ数ヶ月、国をまわり、聖騎士のお若い方に何人もお会いしておるのです」
何人も、と聞いて少しアルバートの心が楽になった。もしも神子さまの結婚の話なら、他にも候補者がいるということだろう。
「国境の状況が悪化していることは、聖騎士殿ならもちろんお分かりかと思いますが、実は王都でも、深刻な事態が起きておりまして」
司祭は手紙の一つを開いた。紙の中央に黒い文字が見える。それを見てアルバートの背筋に寒気が走った。手紙ではなく、魔法の呪文。それも強力な呪いだ。
「これは、呪いですか?」
「ご安心を。こちらの呪符は神官たちの浄化の魔法で完全に効果を失っております」
「初めて目にしました」
「アルバート殿は、隣国サデの話は聞き及んでおりますかな?」
「神子さまが……お隠れになったと」
「そうです。隣国の神子さまは呪われた。闇の魔法で死に追いやられたのです」
「そんな……」
「同じ呪いがこの国の大神殿にも複数届いています。隣国の神子さまを死に追いやった呪術師の集団が、この国の神子さまも狙っています。ですが、神官だけでは神子さまを守りきれない。そこで我々は神子さまの護衛が出来る方を探しているのです」
「第一部隊では駄目なのですか?」
エルトリアには神子を守る聖騎士の部隊が複数存在している。第一部隊は常に神殿を守っているはずだ。
「もちろん神殿の警備はしてくださいますが、常に神子さまの傍にいて四六時中警護する者が必要です。そこで我々は、神子さまに結婚していただくことにしたのです」
なるほど、結婚はあくまでも表向きの話なのだとアルバートは納得した。まだ腑に落ちない部分はあるが、その辺りはどうせ権力争いが絡んでくるのだろう。
「もちろん、若く将来のある聖騎士様に負担を強いることは重々承知した上でのお話です。神子さまと一度結婚すれば、命ある限り決して別れることは出来ません。他の方との家庭は諦めていただくしかない。行動も制限されることでしょう。神子さまは眠り続けておられますから、実際の結婚とも程遠いものとなります。しかし、国のために誰かがやらなければならない仕事です。これほど立派な使命はないと思っております。私が神官でなく聖騎士で、もっと強くて若ければ立候補したことでしょう。恐れ多いことですが」
戻って来たシリンが、アルバートの前にお茶を置く。
「僕を聖騎士に入隊させてくれれば、すぐに神子さまと結婚するのに」
「お前は白魔法には優れているが、武術を会得していない。聖騎士にはなれんだろう」
神殿に入るのに高い魔力が要求されるように、聖騎士になるにはさらに強さも求められる。だからほとんどの人間は聖騎士にはなれない。
「アルバート殿、ご実家からあなたを結婚相手に推挙したいと手紙が来ています。あなたは若く強くて顔立ちも良い。あなたの条件なら神子さまの結婚相手として申し分ない。国のために神子さまと結婚していただけませんかな」
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