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ep.0 目覚め前(アルバート視点)
11 次の候補者
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「お久しぶりです、司祭様。私のことはお気遣いなく。任務に怪我はつきものなので。ただ、今回は呪術師と遭遇しました」
アルバートがそう返事をするとキリアン司祭は驚いた顔をした。
「それは不運でしたね。確かに、あなたの身体に陰のような黒い部分が見えます」
アルバートは無意識に片腕に触れた。司祭にそんな事まで分かるとは思わなかった。兄が大した事ないと言っていたアルバートの傷は、腕の一箇所を残して全快していた。ただ、腕には黒い模様が残っている。治癒魔法を施せば薄くはなるが、時間が経てば再び濃くなり消えることがない。神殿に来たのは、神子との結婚の話をしたかったこともあるが、呪いを診てもらうためでもあった。
「呪術師に毒を受け、意識を失う前に何か呪布を撒かれました。それを腕で払ったのだと思います」
「なるほど。よくわかりました。私が治療できるか診てみましょう」
「ありがとうございます。それからもう一つお話が」
キリアン司祭は目を細めた。
「わかっていますよ。神子さまのことですね」
腕を診てもらい、何度か回復魔法をかけてもらうと黒い模様はアルバートが回復するより薄くなった。
「呪術はしつこいのです。完全に消えるまで定期的に回復魔法をかけて様子を見ましょう。呪術自体はそれほど強力なものではないですが、放置すると腕が使えなくなるので気をつけてください」
アルバートは手を握ったり開いたりして感覚を確かめた。神殿に来る前よりずっと良くなっている。そこまでしてもらったので、結婚の話をするのは躊躇われた。だが、すんなりと受けるわけにもいかない。
「ありがとうございます。司祭さまや神官の皆さまには感謝しています」
「傷ついた人々を救うのは我ら神官の役目ですから」
「ですが、今日私がこちらに参りましたのは神子さまとの結婚の話を完全にお断りしたかったからです。この度の帰省で実家に聖水や万能薬が届けられていました。実家が受け取ったものは私が働いてお返しするつもりです。父が何を言ったか分かりませんが……」
「もちろんヘニング家のお父上からお話はありました。あなたの推薦状とともに教会に多額の寄付もいただいております。ですから聖水は寄付のお返しということですのでお気になさらず。寄付をいただいた方へはいつもお返しをしているのですよ」
それを聞いてアルバートはほっとした。
「それは良かった。では私はこれで」
「お待ちください。アルバート殿」
「何か」
「本当にお断りするつもりですか?」
「はい。私には荷が重すぎる。呪術師との戦いにはもちろん参戦します。しかし結婚という形はとりたくない」
はっきりとそう告げたのに、司祭は相変わらずにこやかな笑顔で話題を変えた。
「そうですか。それは残念ですな。ところでアルバート殿は占術師という職業をご存知ですかな」
「……もちろんです。でもそれが何か」
占術師というのは、魔力を先読みに使うことができる魔法使いの一派だ。魔法使いや神官よりずっと少なく、一国に数人程度しか存在しない。国王が国を治めるために助言をもらっているとも聞く。
「今回の神子さまと聖騎士の結婚は、占術師の予見によって決められたのです。そして我々がアルバート殿を神子さまの結婚相手に推薦していたのは、お父上の推薦状があったからだけではありません。今回のお相手を決めるにあたり、他に推薦のあった聖騎士たち、それ以外の者も含め全て占術師の長に視ていただきました」
嫌な予感にアルバートの背中に冷や汗が伝った。
「その結果、占術師殿はあなたが良いと」
「……な、なぜ、私など」
アルバートは必死に反論をしようとしたが、それ以上言葉がでなかった。占術師の予見は絶対だと言われているからだ。
「あなた以上にふさわしい方はいないとおっしゃいました。神子さまにとっても、この国の未来にとっても」
絶句するアルバートの肩を慰めるようにキリアン司祭がポンポンと叩いた。
「驚かれるのも無理はありません」
「私が……結婚相手にふさわしい……? それは本当なのですか? 他の選択肢はないのですか?」
「もちろんあなたがお断りされた時の次の候補者も占術で決まっています」
「えっ?」
「聖騎士第三部隊のヨルグ殿です」
聖騎士第三部隊のヨルグ……その名前に聞き覚えがあった。アルバートの同期で、ヘニング家と同じくらい有名な貴族の出身だ。顔は悪くないが、臆病で戦闘でもそれほど強くない。聖騎士団には親に無理矢理入れられたという話を聞いていた。一番安全で補給や伝達がメインの第三部隊に入れてもらったのに、弱音を吐いているのを聞いたことがある。
あいつに神子さまの相手が務まるのか?
なぜかそんな気持ちが少しだけ芽生え、アルバートは慌ててその考えを振り払った。
「ヨルグ殿がお相手でも神子さまや国の平穏はしばらくは続くとのことです。それにあなたと違いヨルグ殿はこの結婚に乗り気です。
ですから神殿や神子さまのことはお気になさらず、これからも聖騎士として任務をまっとうしてください。あなたの一生がかかっていますからこちらも強制はできません」
キリアン司祭はそこで少し間を開けた。
「ですが、アルバート殿。神殿を出られる前に、神子さまに一目会っていかれませんか?」
アルバートがそう返事をするとキリアン司祭は驚いた顔をした。
「それは不運でしたね。確かに、あなたの身体に陰のような黒い部分が見えます」
アルバートは無意識に片腕に触れた。司祭にそんな事まで分かるとは思わなかった。兄が大した事ないと言っていたアルバートの傷は、腕の一箇所を残して全快していた。ただ、腕には黒い模様が残っている。治癒魔法を施せば薄くはなるが、時間が経てば再び濃くなり消えることがない。神殿に来たのは、神子との結婚の話をしたかったこともあるが、呪いを診てもらうためでもあった。
「呪術師に毒を受け、意識を失う前に何か呪布を撒かれました。それを腕で払ったのだと思います」
「なるほど。よくわかりました。私が治療できるか診てみましょう」
「ありがとうございます。それからもう一つお話が」
キリアン司祭は目を細めた。
「わかっていますよ。神子さまのことですね」
腕を診てもらい、何度か回復魔法をかけてもらうと黒い模様はアルバートが回復するより薄くなった。
「呪術はしつこいのです。完全に消えるまで定期的に回復魔法をかけて様子を見ましょう。呪術自体はそれほど強力なものではないですが、放置すると腕が使えなくなるので気をつけてください」
アルバートは手を握ったり開いたりして感覚を確かめた。神殿に来る前よりずっと良くなっている。そこまでしてもらったので、結婚の話をするのは躊躇われた。だが、すんなりと受けるわけにもいかない。
「ありがとうございます。司祭さまや神官の皆さまには感謝しています」
「傷ついた人々を救うのは我ら神官の役目ですから」
「ですが、今日私がこちらに参りましたのは神子さまとの結婚の話を完全にお断りしたかったからです。この度の帰省で実家に聖水や万能薬が届けられていました。実家が受け取ったものは私が働いてお返しするつもりです。父が何を言ったか分かりませんが……」
「もちろんヘニング家のお父上からお話はありました。あなたの推薦状とともに教会に多額の寄付もいただいております。ですから聖水は寄付のお返しということですのでお気になさらず。寄付をいただいた方へはいつもお返しをしているのですよ」
それを聞いてアルバートはほっとした。
「それは良かった。では私はこれで」
「お待ちください。アルバート殿」
「何か」
「本当にお断りするつもりですか?」
「はい。私には荷が重すぎる。呪術師との戦いにはもちろん参戦します。しかし結婚という形はとりたくない」
はっきりとそう告げたのに、司祭は相変わらずにこやかな笑顔で話題を変えた。
「そうですか。それは残念ですな。ところでアルバート殿は占術師という職業をご存知ですかな」
「……もちろんです。でもそれが何か」
占術師というのは、魔力を先読みに使うことができる魔法使いの一派だ。魔法使いや神官よりずっと少なく、一国に数人程度しか存在しない。国王が国を治めるために助言をもらっているとも聞く。
「今回の神子さまと聖騎士の結婚は、占術師の予見によって決められたのです。そして我々がアルバート殿を神子さまの結婚相手に推薦していたのは、お父上の推薦状があったからだけではありません。今回のお相手を決めるにあたり、他に推薦のあった聖騎士たち、それ以外の者も含め全て占術師の長に視ていただきました」
嫌な予感にアルバートの背中に冷や汗が伝った。
「その結果、占術師殿はあなたが良いと」
「……な、なぜ、私など」
アルバートは必死に反論をしようとしたが、それ以上言葉がでなかった。占術師の予見は絶対だと言われているからだ。
「あなた以上にふさわしい方はいないとおっしゃいました。神子さまにとっても、この国の未来にとっても」
絶句するアルバートの肩を慰めるようにキリアン司祭がポンポンと叩いた。
「驚かれるのも無理はありません」
「私が……結婚相手にふさわしい……? それは本当なのですか? 他の選択肢はないのですか?」
「もちろんあなたがお断りされた時の次の候補者も占術で決まっています」
「えっ?」
「聖騎士第三部隊のヨルグ殿です」
聖騎士第三部隊のヨルグ……その名前に聞き覚えがあった。アルバートの同期で、ヘニング家と同じくらい有名な貴族の出身だ。顔は悪くないが、臆病で戦闘でもそれほど強くない。聖騎士団には親に無理矢理入れられたという話を聞いていた。一番安全で補給や伝達がメインの第三部隊に入れてもらったのに、弱音を吐いているのを聞いたことがある。
あいつに神子さまの相手が務まるのか?
なぜかそんな気持ちが少しだけ芽生え、アルバートは慌ててその考えを振り払った。
「ヨルグ殿がお相手でも神子さまや国の平穏はしばらくは続くとのことです。それにあなたと違いヨルグ殿はこの結婚に乗り気です。
ですから神殿や神子さまのことはお気になさらず、これからも聖騎士として任務をまっとうしてください。あなたの一生がかかっていますからこちらも強制はできません」
キリアン司祭はそこで少し間を開けた。
「ですが、アルバート殿。神殿を出られる前に、神子さまに一目会っていかれませんか?」
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