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ep.2求婚者たち
2神子の仕事
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俺が部屋ではなく外でみんなと食事がしたいと無理を言ったので、昨日夕食を食べた室内の眺めのいい場所に朝食を用意してくれた。
残念ながら神官たちはみんな朝食を食べ終わっていて、さらに外は安全が保証できないと言われたので昨日の場所になった。うすうす感じていたけど、俺って結構な要人に転生したんだな。警備が厳重すぎる。それに八百年も警備されてたってことだよな。博物館にいる生きる国宝みたいな……いや、天然記念物かな。
下の様子を眺めると、飲んだり食べたりしている人はいなくて、神官たちが忙しそうに掃除をしたり、何かの準備で動きまわっている。マントを身につけた警備兵みたいな人たちもちらほら見える。
「朝はもう宴会は終わってるんだね」
「朝はそうですが、昼からは再び祝賀パーティーが行われます」
「え、今日も?」
「はい。明日まで三日間の予定です。それから規模は縮小されますが、結婚祝いの行事は十日ほど続き、その後も何日かごとにお祭りの行事が続きます。今年中、いえ、新年を迎えてもきっとこの国はお祝いムード一色です」
「そんなに?」
「はい。みな神子さまが目覚められたことが嬉しくてたまらないのです。ですが、神殿はもともと朝は祈りの時刻ですから、朝の間は宴会はありません。出席者たちも昨日の夜中にはそれぞれ自分のお屋敷や城に戻っています」
「そ、そう……」
ちょっとびっくりだ。王様たちは一度お城に帰って、また昼から神殿に来るってことか?
「俺は何したらいいの?」
俺も一応このパーティーの主役の一人だと思うから、アルバートに全部任せておくわけにはいかないよな。
「かなめ様も少しお忙しいと思います。王族や貴族の方々から面会希望が殺到していますし、隣国の使者や少数部族の方もいらっしゃっています。もしかなめ様の体調がよろしければ、少し会ってお話をしていただくかもしれません」
「俺、頑張るよ」
俺が力こぶをつくってそう言うと、エリンは少しだけうるっとした。エリンは俺に甘いなあ。でも面会で何を話せばいいんだろう。握手とかすればいいのかな。
「かなめ様、おはようございます」
シリンと料理長さんたちがワゴンに大量の朝食を乗せてやって来た。みんな膝をつき、深々と挨拶をする。この挨拶、なかなか慣れないな。
「おはよう」
メニューは昨日と全然違っていた。やっぱり品数が多くて、昨日俺が食べ残した料理はなくなってる。
「昨日の料理は?」
「あっ、あれは……」
料理長やシリンが露骨に動揺した。もしかして捨てられたのかな。食べ残しを神子に出したらダメな法律でもあるのかも。
「も、申し訳ありません……神子さまの料理と知りながら、私どもが」
「食べたの?」
「申し訳ございません! 誘惑に負けてしまい、神官たちであっという間に」
「食べ残しなのにごめんね」
「とんでもございません!」
土下座して平謝りする料理長と神官たちをなんとか宥めて、もっと品数を少なくしてもらうよう頼んだ。おかげでその日の昼食からは少しだけ品数を減らすことができた。少しだけだけど。
食事が終わったので、さらに無理を言って神殿内を散歩させてもらうことにした。エリンとシリンは仕事に戻ったので、キリアン司祭さまに神殿を案内してもらう。
キリアン司祭さまはお腹が少し出た優しそうなおじさんだ。おじいさんというには早いかな、という年齢。司祭の帽子の下の髪の毛はちょっと薄いんじゃないかな。いつもにこにこしている。アルバートやエリンやシリンはきりっとしているけど、キリアン司祭さまが優しそうなおかげで、転生したばかりの何も知らない俺でもなんとなく安心していられる。
「かなめ様、こちらの魔法陣で下の階に行くことができます。階段もございますが、重要なフロアには魔法陣や魔法の扉からしか行くことはできません」
「そうなんだ」
「そうそう、かなめ様が目覚められた昨日は記念日となり、これから毎年お祝いされることが決まりました」
「そ、そう」
「それに昨日はただの一件も魔物の出現報告がなかったそうです。素晴らしいことです」
魔物の出現報告……?
なんだか不穏な単語を聞いて、思わず司祭さまを見上げた。この世界、ゲームやマンガみたいに魔物がいるのか。そういえば、朝からグリフォンに遭遇したんだった。
「魔物って強いの?」
「王都に暮らしていれば遭遇することはまずありません。かなめ様が目覚められたのでなおさらですよ」
「司祭さま、神子ってどんな仕事してるんですか?」
神子ってもしかして、生贄とかそんなポジションじゃないだろうな。八百年寝ていたっていうのは嘘で、こんなにチヤホヤしてくれるのは、太らせておいていつか魔物に食わせるためとか?
急に思いついたけど、この考え怖すぎる。あながち間違ってなさそうな気もするし。
「神子さまは存在するだけで国を魔法の闇から守っています」
本当かな。次にあった時アルバートに聞いてみよう。アルバートなら正直に俺に教えてくれるような気がする。もしも生贄だったら、みんなには悪いけど早いうちに逃げだそう。
残念ながら神官たちはみんな朝食を食べ終わっていて、さらに外は安全が保証できないと言われたので昨日の場所になった。うすうす感じていたけど、俺って結構な要人に転生したんだな。警備が厳重すぎる。それに八百年も警備されてたってことだよな。博物館にいる生きる国宝みたいな……いや、天然記念物かな。
下の様子を眺めると、飲んだり食べたりしている人はいなくて、神官たちが忙しそうに掃除をしたり、何かの準備で動きまわっている。マントを身につけた警備兵みたいな人たちもちらほら見える。
「朝はもう宴会は終わってるんだね」
「朝はそうですが、昼からは再び祝賀パーティーが行われます」
「え、今日も?」
「はい。明日まで三日間の予定です。それから規模は縮小されますが、結婚祝いの行事は十日ほど続き、その後も何日かごとにお祭りの行事が続きます。今年中、いえ、新年を迎えてもきっとこの国はお祝いムード一色です」
「そんなに?」
「はい。みな神子さまが目覚められたことが嬉しくてたまらないのです。ですが、神殿はもともと朝は祈りの時刻ですから、朝の間は宴会はありません。出席者たちも昨日の夜中にはそれぞれ自分のお屋敷や城に戻っています」
「そ、そう……」
ちょっとびっくりだ。王様たちは一度お城に帰って、また昼から神殿に来るってことか?
「俺は何したらいいの?」
俺も一応このパーティーの主役の一人だと思うから、アルバートに全部任せておくわけにはいかないよな。
「かなめ様も少しお忙しいと思います。王族や貴族の方々から面会希望が殺到していますし、隣国の使者や少数部族の方もいらっしゃっています。もしかなめ様の体調がよろしければ、少し会ってお話をしていただくかもしれません」
「俺、頑張るよ」
俺が力こぶをつくってそう言うと、エリンは少しだけうるっとした。エリンは俺に甘いなあ。でも面会で何を話せばいいんだろう。握手とかすればいいのかな。
「かなめ様、おはようございます」
シリンと料理長さんたちがワゴンに大量の朝食を乗せてやって来た。みんな膝をつき、深々と挨拶をする。この挨拶、なかなか慣れないな。
「おはよう」
メニューは昨日と全然違っていた。やっぱり品数が多くて、昨日俺が食べ残した料理はなくなってる。
「昨日の料理は?」
「あっ、あれは……」
料理長やシリンが露骨に動揺した。もしかして捨てられたのかな。食べ残しを神子に出したらダメな法律でもあるのかも。
「も、申し訳ありません……神子さまの料理と知りながら、私どもが」
「食べたの?」
「申し訳ございません! 誘惑に負けてしまい、神官たちであっという間に」
「食べ残しなのにごめんね」
「とんでもございません!」
土下座して平謝りする料理長と神官たちをなんとか宥めて、もっと品数を少なくしてもらうよう頼んだ。おかげでその日の昼食からは少しだけ品数を減らすことができた。少しだけだけど。
食事が終わったので、さらに無理を言って神殿内を散歩させてもらうことにした。エリンとシリンは仕事に戻ったので、キリアン司祭さまに神殿を案内してもらう。
キリアン司祭さまはお腹が少し出た優しそうなおじさんだ。おじいさんというには早いかな、という年齢。司祭の帽子の下の髪の毛はちょっと薄いんじゃないかな。いつもにこにこしている。アルバートやエリンやシリンはきりっとしているけど、キリアン司祭さまが優しそうなおかげで、転生したばかりの何も知らない俺でもなんとなく安心していられる。
「かなめ様、こちらの魔法陣で下の階に行くことができます。階段もございますが、重要なフロアには魔法陣や魔法の扉からしか行くことはできません」
「そうなんだ」
「そうそう、かなめ様が目覚められた昨日は記念日となり、これから毎年お祝いされることが決まりました」
「そ、そう」
「それに昨日はただの一件も魔物の出現報告がなかったそうです。素晴らしいことです」
魔物の出現報告……?
なんだか不穏な単語を聞いて、思わず司祭さまを見上げた。この世界、ゲームやマンガみたいに魔物がいるのか。そういえば、朝からグリフォンに遭遇したんだった。
「魔物って強いの?」
「王都に暮らしていれば遭遇することはまずありません。かなめ様が目覚められたのでなおさらですよ」
「司祭さま、神子ってどんな仕事してるんですか?」
神子ってもしかして、生贄とかそんなポジションじゃないだろうな。八百年寝ていたっていうのは嘘で、こんなにチヤホヤしてくれるのは、太らせておいていつか魔物に食わせるためとか?
急に思いついたけど、この考え怖すぎる。あながち間違ってなさそうな気もするし。
「神子さまは存在するだけで国を魔法の闇から守っています」
本当かな。次にあった時アルバートに聞いてみよう。アルバートなら正直に俺に教えてくれるような気がする。もしも生贄だったら、みんなには悪いけど早いうちに逃げだそう。
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