転生したら神子さまと呼ばれています

カム

文字の大きさ
70 / 112
ep.5 地下の街

5 泣くほど空腹

しおりを挟む
 襲われそうになった食べ物屋から歩いて一キロくらい離れると、もっと明るくて綺麗な場所に出た。洞窟の中なのは同じだけど、道の両側に並ぶ建物がしっかりしていて大きい。石柱の灯りも高くて数が多い。人がたくさんいたからはぐれないようにアルバートにぴったりくっつく。

「ここは治安が少しマシだな」

 石柱の下に小さな看板が出ている。この地下道の現在地の名前が分かるみたいだ。スラム街にも看板があるってなんだか新鮮だ。

「まっすぐ進めば地底湖、その途中にエルトリア出口があるな」
「遠い?」
「神子さまの足なら数日かかるかもしれないな」
「思ったより近くて安心した。ここ、本当にエルトリアに通じてるんだね。良かった……」

 思わずしゃがみ込む。

「カナ、どうした」
「ごめん。実はずっと水しか飲んでなくて……お腹がすいてたんだ」

***

「二名さまですね。こちらへどうぞ」

 フードを深く被って俯いて、できるだけ目立たないようにアルバートの後ろを歩く。
 ここは大きな料亭の三階。こんな地下の場所にもどこからか持ってきた資材で高層の建物が作られているんだから驚きだ。暗い中に魔法の炎で照らされた建物たちは、前世で眺めたビルと夜景みたいだった。もちろん、地下だから十階建てくらいが限度だけど。
 アルバートが少し治安がいいと言った通り、ここにいる人にはみんな余裕が感じられる。着ているものもボロボロじゃないし、髪も纏められてる。俺と同じように顔を隠している人たちも何人かすれ違ったから、もしかしたらサデの国から逃げてきたお金持ちの人達なのかもしれない。さっきのおばさんが懸賞金がどうのこうの言っていたから。
 このお店に入る時にも入り口には武装した兵が立っていて怖かったけど、誰かを捕えようとしている様子はなく、お客さんとお店を警備しているだけだった。

「ここ、高いんじゃないの?」
「地下の街にしては高いが気にするな。思ったより多く換金してもらえたし、ここが想像よりエルトリアに近い場所だと分かったからまだ余裕がある」
「そっか」
「それにいきなり妙なものを食べさせてカナが腹を壊したら困るからな。ただ、寝る場所は野宿よりましだと思える宿になるからな」
「大丈夫だよ」

 アルバートと俺は半個室みたいな眺めのいい部屋に通してもらえた。下のスラム街の大通りが見渡せる。細い道を荷物を背負って歩く人も動物も見えてなんだか面白い。
 料亭では太鼓や弦楽器の音がどこかから聞こえてくる。通りからは時々誰かの大声や何かの騒音も聞こえてきてびっくりするけど、ほとんどが酔っ払いのケンカだったりで、そこまで怖い事件じゃなさそう。

 メニュー表を見ても料理はさっぱりわからないからアルバートに適当に頼んでもらった。最初に出てきたのは何かの串焼きだった。それからスープ、豆と芋の料理。お魚料理も運ばれてきた。そういえば地底湖があるっていってたから、そこでとれたお魚なのかな。
 味は大神殿の料理長が作ってくれる料理には敵わないけど、ここ数日ほとんど食べていなかったから全然気にならなかった。

「美味しい」
「そうか」

 よく考えたら、結婚して数日経つのにアルバートと一緒に食事をとったことって数えるほどしかない。ほとんど俺一人で食べてる。エリンや司祭さまは近くにいてくれるけど、こうやって対面でご飯を食べるのは久しぶりだ。いや、前世まで遡ってもあまり記憶がない。病院でも一人だし、アパートでも一人だった。寂しすぎる、俺の人生。

 でも、もっと昔は違ってた気がする。
 八百年前、俺は幼なじみのアルと、ふかした芋を二人で半分こして食べてた。秘密基地と呼んでいた木のウロの中で。あの頃はいつもアルと一緒だった。アルは魔法を使うとお腹がすくんだろって言って、いつも俺に多めに食べさせてくれていた。そうだった、俺にもすごく優しくしてくれた人がいたんだ。

「おい、泣くほど空腹だったのか?」
「へへへ。そうかも」

 涙を拭ってなんとか笑ってみせる。
 あの時のアルはもういないんだ。この世のどこを探しても。八百年もたっているんだから。

「ほら、泣いてないでもっと食べろ。呪いをたくさん払ったからお腹がすいただろ」
「うん」
 
 八百年前のアルはもういないけど、目の前には騎士のアルバートがいる。無愛想だけど本当は優しくて、聖騎士としての義務感からだとしても俺を守ってくれるもう一人のアル。このアルバートが昔のアルの生まれ変わりだったらいいのにな。


しおりを挟む
感想 244

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...