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ep6.王族と神子
1 新しい護衛
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***
「新しい護衛?」
身支度を整えながら聞き返すと、神官の男はぎこちない笑みを浮かべてそうだと繰り返した。この神官はかなり頼りないけど俺の言うことをよく聞く。従者なら弱くても従順な方がいい。前の神官も、その前の神官も俺に逆らって辺境に飛ばされたからきっとそれを恐れているんだろう。
正式にエルトリアの神子になってから五年の歳月が流れた。新しい魔法を覚えたあの日から、俺は神官たちの言いなりになることをやめた。魔力で俺にかなう者はこの国にはいない。それに今の俺は自分の容姿が人目をひくことも、声が美しいということも理解していた。権力を持つ者に笑顔と魔力を振り撒くのは最初こそ抵抗があったけれど、次第に慣れてきて、そのうち自分のためだと本心を押し殺せるようになった。
「今回の護衛も貴族あがりなの?」
王宮から送られてくる護衛の本当の目的は神殿と俺の監視だ。つまりスパイ。そういえば前回の護衛は、勝手に俺の部屋に侵入したり、書簡を盗み見たり備品を売り捌いたりしてた。彼には回復魔法も防御魔法も使わなかったせいか、気づいたらいつの間にかいなくなってた。護衛の入れ替わりは激しくて顔もあまり覚えられない。
「はあ……トレアム家という下級の貴族の男です」
「そう」
トレアム家って聞いたことないな。どういう手段を使って俺の護衛に成り上がったんだろう。まあ、どんな護衛でも興味はないけど。
そう思っていたのに。
謁見の間で待っていた護衛の姿を見て、封印していたはずの感情が一気に蘇った。
焦茶の髪、日に焼けた肌。
跪いている彼の姿は忘れられない幼馴染にとてもよく似ていた。
「こちらが新しい護衛のアル=トレアム殿です」
「……」
跪いていた彼が顔を上げ、緑色の瞳に俺の姿をうつしだす。
声にならなかった。立っているだけで精一杯だった。
五年前、吊るされていた彼に遠くから回復魔法を送った。二度と会わないことを条件にアルの命を救ってもらった。彼がこの国で生きているから、どんなに辛くても神子を続けることができていた。
「初めまして、神子さま。今日から護衛をさせていただくアル=トレアムです。これから一生、神子さまにお仕えすることを誓います」
涙で視界が滲んでうまくアルの顔が見えない。五年前のような少年らしさはなくなっていたけど、それでもキリリとした目鼻立ちや、少しだけ残るそばかすは幼馴染のアルそのものだった。
「よ、よろしくお願いします……」
なんとか涙を堪えてそういうと、厳しい顔をしていたアルが少しだけ笑った。
五年ぶりに会ったアルにはたくさんの刀傷があった。額から頬にかけて目立つ位置に傷跡があるし、それに耳も少し欠けてる。腕にも刺し傷が残っていて痛々しい。会えなかった五年の間にアルは有名な剣士に弟子入りして修行を積んだのだという。そこで成果を出し、神子の護衛兵の資格をとるために剣士の推薦でトレアム家の養子に入ったのだそうだ。
「ごめんね。俺のために……」
「約束しただろ。俺が半分背負うって」
「ありがとう……」
二度と会えないと思っていたアルにもう一度会えたことが嬉しくてたまらなかった。
護衛と神子だから、大勢の人がいる時は親しく話しかけたりはできないけど、俺が出かける時はどこにでも付いてきてくれたし、眠る時は部屋の前で守っていてくれた。本当は一緒に眠りたかったけど、扉の先にアルがいるだけで良かった。
俺は回復と防御の魔力を銀色の耳飾りに込めてアルに贈った。欠けた耳の一部を補うような形の耳飾りはアルに似合っていて、それから片時も離さず身につけてくれた。
アルが護衛になって俺のそばにいてくれる夢のような日々が始まった。それからアルがいなくなるまでの三年間が、俺の人生で一番幸せな日々だった。
「新しい護衛?」
身支度を整えながら聞き返すと、神官の男はぎこちない笑みを浮かべてそうだと繰り返した。この神官はかなり頼りないけど俺の言うことをよく聞く。従者なら弱くても従順な方がいい。前の神官も、その前の神官も俺に逆らって辺境に飛ばされたからきっとそれを恐れているんだろう。
正式にエルトリアの神子になってから五年の歳月が流れた。新しい魔法を覚えたあの日から、俺は神官たちの言いなりになることをやめた。魔力で俺にかなう者はこの国にはいない。それに今の俺は自分の容姿が人目をひくことも、声が美しいということも理解していた。権力を持つ者に笑顔と魔力を振り撒くのは最初こそ抵抗があったけれど、次第に慣れてきて、そのうち自分のためだと本心を押し殺せるようになった。
「今回の護衛も貴族あがりなの?」
王宮から送られてくる護衛の本当の目的は神殿と俺の監視だ。つまりスパイ。そういえば前回の護衛は、勝手に俺の部屋に侵入したり、書簡を盗み見たり備品を売り捌いたりしてた。彼には回復魔法も防御魔法も使わなかったせいか、気づいたらいつの間にかいなくなってた。護衛の入れ替わりは激しくて顔もあまり覚えられない。
「はあ……トレアム家という下級の貴族の男です」
「そう」
トレアム家って聞いたことないな。どういう手段を使って俺の護衛に成り上がったんだろう。まあ、どんな護衛でも興味はないけど。
そう思っていたのに。
謁見の間で待っていた護衛の姿を見て、封印していたはずの感情が一気に蘇った。
焦茶の髪、日に焼けた肌。
跪いている彼の姿は忘れられない幼馴染にとてもよく似ていた。
「こちらが新しい護衛のアル=トレアム殿です」
「……」
跪いていた彼が顔を上げ、緑色の瞳に俺の姿をうつしだす。
声にならなかった。立っているだけで精一杯だった。
五年前、吊るされていた彼に遠くから回復魔法を送った。二度と会わないことを条件にアルの命を救ってもらった。彼がこの国で生きているから、どんなに辛くても神子を続けることができていた。
「初めまして、神子さま。今日から護衛をさせていただくアル=トレアムです。これから一生、神子さまにお仕えすることを誓います」
涙で視界が滲んでうまくアルの顔が見えない。五年前のような少年らしさはなくなっていたけど、それでもキリリとした目鼻立ちや、少しだけ残るそばかすは幼馴染のアルそのものだった。
「よ、よろしくお願いします……」
なんとか涙を堪えてそういうと、厳しい顔をしていたアルが少しだけ笑った。
五年ぶりに会ったアルにはたくさんの刀傷があった。額から頬にかけて目立つ位置に傷跡があるし、それに耳も少し欠けてる。腕にも刺し傷が残っていて痛々しい。会えなかった五年の間にアルは有名な剣士に弟子入りして修行を積んだのだという。そこで成果を出し、神子の護衛兵の資格をとるために剣士の推薦でトレアム家の養子に入ったのだそうだ。
「ごめんね。俺のために……」
「約束しただろ。俺が半分背負うって」
「ありがとう……」
二度と会えないと思っていたアルにもう一度会えたことが嬉しくてたまらなかった。
護衛と神子だから、大勢の人がいる時は親しく話しかけたりはできないけど、俺が出かける時はどこにでも付いてきてくれたし、眠る時は部屋の前で守っていてくれた。本当は一緒に眠りたかったけど、扉の先にアルがいるだけで良かった。
俺は回復と防御の魔力を銀色の耳飾りに込めてアルに贈った。欠けた耳の一部を補うような形の耳飾りはアルに似合っていて、それから片時も離さず身につけてくれた。
アルが護衛になって俺のそばにいてくれる夢のような日々が始まった。それからアルがいなくなるまでの三年間が、俺の人生で一番幸せな日々だった。
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