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魔物の島
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***
生暖かく湿った風が吹く丘の上に立っていた。
空はどんよりと曇っていて、地面は枯れた草の色。鳥の声も聞こえない。以前夢で見た景色と同じ場所だ。そこは不思議なほど死の島と似通っていた。
丘をひたすら歩いていくと、遠くに林が見えた。
林の少し手前に子供が座りこんでいる。少し癖のある髪の色と、気の強そうな目、どこか諦めをたたえた表情で遠くを見ている。子供の頃のアニキだ。
「レヴィン!」
近づいて名前を呼ぶと、驚いた顔でこっちを見た。
「迎えに来たぞ」
そう言って手を差し出す。アニキは首を振った。
「俺、ここから動けないんだ」
「大丈夫だ。ほら」
アニキの手を取って力を入れると、以前は石のように重かったはずの体がすっと軽くなった。アニキは立ち上がって不思議そうに自分の足を見つめた。
そして答えを求め俺の顔に視線を移す。
「俺は岬修平。レヴィン、一緒に行こう」
アニキに自己紹介するのは変な気分だ。でも、アニキが
「……ミサキ」
と俺の名前を呼ぶと、胸がほわりと暖かくなった。
「どこに行くんだよ」
「川だろ?」
「……川」
「そうだ。あいつも連れて行こう」
「あいつも?」
俺が指差したのは、すぐそばの茂みに座っていた黒い獣だ。大きい。でも、もう怖くない。
「……嫌だ。あいつ、俺を喰うんだ」
「大丈夫。俺が守ってみせるから」
そう言って笑うと、レヴィンは疑り深い目で俺を見た。
「……ミサキ、弱そう」
そこは否定できないけど。
「弱くても守る。だから一緒に行こう!」
「分かったよ」
言われたから仕方なく、という素振りでレヴィンは俺の手を握った。
2人で手をつないで川を目指して歩いていく。後ろから黒い獣がついてくる。緩やかな丘を降りていくと、大きな川が目の前に広がり、レヴィンが声を上げた。
「……光ってる!」
川は銀色の眩しい光で満たされていた。
どんよりとした空や、色褪せた風景の中に突然現れた鮮やかな光。その光を見て、レヴィンが初めて子供らしい屈託のない笑顔を見せた。
「ミサキ! 見ろよ! 川が光ってる!」
***
目を覚ました時、俺は大人になったアニキの腕の中にいた。
相変わらず裸で、俺を抱くアニキも裸だ。2人の胸には似たような黒い入れ墨がある。アニキの模様は黒い獣によく似ている。
「目が覚めたのか」
『……眩しいです』
廃船の中は、夜中とは思えないほど明るかった。
夢で見たのと同じ、銀色の光が部屋を満たしている。あれは俺がチョークで床に描いた魔方陣の光だ。
『魔方陣に、魔力がたまったみたいです。ここから脱出できます』
「脱出してどこに行く? 王都か?」
『転移先は緑水湖近くの森の中です。そこに着替えとお金と食料が少しあります。そこから後は……自由です』
「自由か」
アニキの表情は穏やかだった。
『田舎に行ってのんびり暮らしますか? きっと楽しいです』
「そうだな」
アニキが指で俺の頬を撫でる。
「賭けはお前の勝ちだ。だからお前が死ぬまでずっと可愛がってやるよ」
『私もずっとアニキを守ってあげます』
そう言うと、アニキは笑って俺の耳飾りに唇を寄せた。
もう少しだけ脱出まで時間がかかりそうだな。そう思いながら、俺もアニキの首に腕を回した。
生暖かく湿った風が吹く丘の上に立っていた。
空はどんよりと曇っていて、地面は枯れた草の色。鳥の声も聞こえない。以前夢で見た景色と同じ場所だ。そこは不思議なほど死の島と似通っていた。
丘をひたすら歩いていくと、遠くに林が見えた。
林の少し手前に子供が座りこんでいる。少し癖のある髪の色と、気の強そうな目、どこか諦めをたたえた表情で遠くを見ている。子供の頃のアニキだ。
「レヴィン!」
近づいて名前を呼ぶと、驚いた顔でこっちを見た。
「迎えに来たぞ」
そう言って手を差し出す。アニキは首を振った。
「俺、ここから動けないんだ」
「大丈夫だ。ほら」
アニキの手を取って力を入れると、以前は石のように重かったはずの体がすっと軽くなった。アニキは立ち上がって不思議そうに自分の足を見つめた。
そして答えを求め俺の顔に視線を移す。
「俺は岬修平。レヴィン、一緒に行こう」
アニキに自己紹介するのは変な気分だ。でも、アニキが
「……ミサキ」
と俺の名前を呼ぶと、胸がほわりと暖かくなった。
「どこに行くんだよ」
「川だろ?」
「……川」
「そうだ。あいつも連れて行こう」
「あいつも?」
俺が指差したのは、すぐそばの茂みに座っていた黒い獣だ。大きい。でも、もう怖くない。
「……嫌だ。あいつ、俺を喰うんだ」
「大丈夫。俺が守ってみせるから」
そう言って笑うと、レヴィンは疑り深い目で俺を見た。
「……ミサキ、弱そう」
そこは否定できないけど。
「弱くても守る。だから一緒に行こう!」
「分かったよ」
言われたから仕方なく、という素振りでレヴィンは俺の手を握った。
2人で手をつないで川を目指して歩いていく。後ろから黒い獣がついてくる。緩やかな丘を降りていくと、大きな川が目の前に広がり、レヴィンが声を上げた。
「……光ってる!」
川は銀色の眩しい光で満たされていた。
どんよりとした空や、色褪せた風景の中に突然現れた鮮やかな光。その光を見て、レヴィンが初めて子供らしい屈託のない笑顔を見せた。
「ミサキ! 見ろよ! 川が光ってる!」
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目を覚ました時、俺は大人になったアニキの腕の中にいた。
相変わらず裸で、俺を抱くアニキも裸だ。2人の胸には似たような黒い入れ墨がある。アニキの模様は黒い獣によく似ている。
「目が覚めたのか」
『……眩しいです』
廃船の中は、夜中とは思えないほど明るかった。
夢で見たのと同じ、銀色の光が部屋を満たしている。あれは俺がチョークで床に描いた魔方陣の光だ。
『魔方陣に、魔力がたまったみたいです。ここから脱出できます』
「脱出してどこに行く? 王都か?」
『転移先は緑水湖近くの森の中です。そこに着替えとお金と食料が少しあります。そこから後は……自由です』
「自由か」
アニキの表情は穏やかだった。
『田舎に行ってのんびり暮らしますか? きっと楽しいです』
「そうだな」
アニキが指で俺の頬を撫でる。
「賭けはお前の勝ちだ。だからお前が死ぬまでずっと可愛がってやるよ」
『私もずっとアニキを守ってあげます』
そう言うと、アニキは笑って俺の耳飾りに唇を寄せた。
もう少しだけ脱出まで時間がかかりそうだな。そう思いながら、俺もアニキの首に腕を回した。
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