ちびドラゴンは王子様に恋をする

カム

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山小屋の主

8 ペシルの町

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 石の門には『ペシルの町』と書いてあった。町は低い石垣みたいな壁でぐるりと囲まれていたけど、別に検問みたいなものもなく、見張りの兵士もおらず、旅人は素通りで入れる自由な町みたいだ。
 検問の兵士みたいな人がいて、呼び止められて竜だとバレたらどうしようとドキドキしていたのに。山から魔物が襲って来たりしないのかな。

 ギクシャクした動きで道を歩く。気を抜くとドラゴンの姿に戻りそうだ。
 ペシルの町は坂道が多く、大通りに出るまでは道はでこぼこで階段や石段もたくさんあった。大通りは石畳の道になってる。
 昼過ぎに到着したから町にはたくさんの人がいた。大きな荷車を引く動物たちや、荷物を抱えて歩く人々。大通りの左右はお店が並んでいて看板が出ている。
 誰にも変な目で見られなかったけど、動物たちはジークおじさんを見てびくりと震えていた。動物にはおじさんの強さが分かるんだな。でも俺を見てもそんなに驚かないのはなぜだろう。

「ジーク、最初はどこに行くの?」
「まずは鉱石や植物を換金してもらえる場所だな。それが終わったら買い出しだ。あとは、久々に美味いものでも食うか」
「ジークのご飯も美味しいよ」
「そうか」

 ジークは小物袋から糸でまとめられた紙の束を取り出した。買い物リストが作られてる。ジークはけっこうマメな性格だ。見せてもらうと、買うものはたくさんあった。

 俺の下着、上着、それにズボンがそれぞれ二枚ずつ。帽子やマントに靴。紙の束やインクなどの日用雑貨。調味料や魔法薬なんかもずらすらとリストに並んでる。それに本。ジークは本が好きで、山小屋にも小さな本棚がある。分厚い一冊を買ってボロボロになるまで読みこんでる姿をよく見かけていた。
 これはけっこうお金かかりそうだな。

「ジーク、俺の服は少しでいいよ」
「どうした、急に」
「お金足りないんじゃないの?」
「そうだなぁ。足りなければ冒険者ギルドにでも寄って、短期間の仕事の依頼があれば受けてもいいかもな」
「俺も仕事する」
「弟子が金の心配なんかするな」

 ジークはそう言って俺の頭を撫でたけど、俺も何か働けそうな仕事があればやってみよう。お金も稼げるし変身の練習にもなる。

 大通りに面してるけどこじんまりしたお店に入る。ジークは山で集めた鉱石や植物を、いつも同じ店で換金しているらしく、店主とは顔馴染みみたいだった。

「よお、ジーク。久しぶりじゃないか」
「また換金頼むよ」

 店主はぽっちゃりした笑顔のおじさんだった。まさかと思うけどジークの竜仲間かな。

(ジーク、この人は竜の仲間?)

 気をつかって念話で聞いてみる。

(いや、普通の人間だ)

 そうなのか。ジークが笑ってるのを店主は不思議そうに見てる。

「ジーク、珍しく連れがいるんだな。まさかお前の子供か?」
「いや。こいつはカル。遠い親戚だ」
「そうかい。お前さんにも親戚がいたんだな」
「しばらく預かることになってな」
「そりゃいい。ジークは気のいい奴なのに、山奥に一人で住んでるからな。子供でも預かれば家族のありがたみが分かって結婚する気にもなるだろうよ。お前、名前は?」

「はじめまして。人間のカルです」

 俺の自己紹介を店主はぽかんとした顔で聞いていた。







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