ちびドラゴンは王子様に恋をする

カム

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三人の王子

8 平穏な日々

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 それからしばらくの間、平和な日々が続いた。俺は朝早く起きてヒースの学校の準備と朝食の準備を終わらせる。ヒースが授業を受けている間は頼まれた用事や雑用も前より上手にこなせるようになった。
 
 エリオットはあれ以来、俺の邪魔をしなくなった。攻撃もしてこないし、嫌がらせをされることもない。それどころか差し入れという名目でおやつや服をもらったりする。ほとんど突っ返してるけど、おやつは美味しそうだし毒もはいってないからつい食べてしまった。エリオットの付き人になる気はないけど、態度が変わりすぎて困ってる。

 同じようにシエラ姫にもよく話しかけられる。お茶に誘われたり、文字が読めないと思っているらしい俺のために本を読み聞かせてくれたり、挿絵のたくさんある本を貸してくれる。
 ジークさんのために本を買いたいから参考にしようと借りているけど、シエラ姫の読んでいるお話は、恋のライバルと戦ったり好きな相手とすれ違ったり誤解されたりするようなお話ばかりだ。シエラ姫は切ないどろどろした話が好きらしい。ジークさんとは趣味が合わないような気がする。
 
 文字も少しずつ習って、今では前より沢山の文字が書けるようになった。今度ジークさんに手紙を書こう。

 「悩んでいることがあれば何でも言ってね」

 シエラ姫はそう言ってくれたから、ヒースの顔がまともに見られないことを伝えようかと思ったけどやめておいた。きっかけがキスみたいな回復魔法だと伝えるのは恥ずかしいし、子供っぽいと思われそうだ。

 昼からはゲイルに乗る練習。文句ばかり言われるけど、ゲイルとも少し仲良くなれた。
 ゲイルは森の中で生まれた魔物で、生まれてすぐに見たものに変身したと言っていた。それは小型の四つ足動物で、そこから二度ほど変身し、今の馬のような姿に落ち着いたらしい。

(何で四つ足がいいの?)
(姿がカンペキに美しい。走るのも速い。地面にも近い。これはとても大切)
(ふうーん)

 ゲイルにとって速く走れる事と、地面から近いということは切り離せない条件なのだそうだ。俺にはよくわからないけど。地面からはゲイルの魔力の源となる何かが放出されていて、それは低い位置で風のように流れているらしい。それを追いかけて走るのが好きなのだそうだ。

(そういえば王都でカルみたいな竜に会った)
(えっ?)
(ニンゲンのフリをしていた。着飾ってた。ドラゴンは頭が良すぎて、考えていることがよくわからない)
(そうなのか)

 着飾ってるってことは、ジークさんじゃないな。王都に俺の仲間の竜が少なくとも一頭はいるってことだ。今度会ってみたい。

 そんなふうに平穏で楽しい毎日が過ぎていった。だけどそんな平和な楽しい日々も、唐突に終わりが訪れた。

 ある日、ヒースの授業が終わるのを廊下で待っていたら、教師の一人が慌てて教室に入って行った。そのままヒースに何事か囁く。ヒースは険しい顔をして立ち上がり、授業は中止になった。

「どうしたの?」

 教室から出てきたヒースに近づいて声をかけると、ヒースは俺を見て少し苦しそうな顔をした。

「父上が倒れられた。これから王都に向かう」


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