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三人の王子
9 契約終了
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ヒースのお父さんって国王陛下だよな。人間達の王様でこの国で一番偉い人。倒れたって、何かあったのかな。それとも具合が悪かったとか。
部屋にくっついて行って、ヒースの持ち物をまとめる。何日くらい王都に行くんだろう。とりあえず数日分の服があればいいのかな。
「ヒース、何を準備したらいいの?」
上着を着た後、革の剣帯に長剣を装備していたヒースは手を止めて俺を見た。じっと見つめられてドキドキする。いつもそばにいるけど、久しぶりに至近距離で顔を見たような気がする。
「何も準備しなくていい。王城には必要な物が用意されているはずだ。この部屋は後で城の者に片付けさせる」
「片付けって……また使うんじゃないの?」
「もうここは使わない」
「えっ、どうして⁉︎」
「多分、ここには戻って来られない。自由で幸せな学園生活は終わりだ」
ヒースは、子供の頃は一度もしなかった大人びた笑みで悲しみを取り繕った。
「カル、お前のおかげで楽しかったよ。子供の頃みたいに、身分も忘れて好きなことだけしていられた」
「今からはできないの?」
「出来なくなると思う」
ヒースは部屋にあった箱の中から硬貨のたくさん入った袋を三つ取り出して俺に手渡した。どれもずっしり重い。
「これ、何?」
「俺は学園を出るから、付き人の契約は終了だ。とりあえず、今用意できる全部をお前にやるよ。半年分の給料だと思ってくれ。これを使って故郷に帰ってもいいし……」
「王城について行っちゃいけないの?」
「王城には来ない方がいい。カルは正式な資格を持っていないし、子供だから危険な目に合わせたくない」
「ヒースを守りたいよ」
「大丈夫だ。ジェイソンがいる」
契約終了? もう一緒にいられない?
ショックで頭の中が真っ白になった。この先もずっと一緒にいようと思ってたのに。
ドアがノックされてハロルドとヴィクターが顔を出す。ヒースが二人と話している間も、頭が真っ白で何も考えられない。
「カル、しっかりしろ」
いつのまにか隣にいたヴィクターに話しかけられてようやく我にかえった。ヒースはハロルドとまだ何か話してる。ヴィクターは声をひそめた。
「どうせ付き人契約を解消されて落ち込んでるんだろ。言っておくが、ヒースはお前のためを思ってそうしたんだと思うぜ。ここだけの話、国王はもう長くない。これから先一番大変なのはヒース王子だ。望まなくてもケネス王太子やエリオット王子との争いが待っている。わがまま言ってヒースを困らせるな。王子が好きなんだろ?」
「うん」
「だったら付き人として、最後までヒースのために働け。付き人なら主人に余計な負担をかけるな」
「分かった……」
泣きそうだったけど、なんとか気分を立て直した。
二人が部屋から出て行って、代わりに王城からお迎えの馬車が来たという連絡が入る。
「ヒース、本当について行ったら駄目なの?」
「ついてくるのは駄目だ。王城には危険な人間が大勢いる。竜のカルも俺が安易に連れて行ったせいで命を落とした。カルを危険に晒したくない。付き人をやめたら故郷に帰ってもいいし、どこか好きなところに行ってもいい。もし俺の暮らしていた田舎の城に来たかったら、いつでも寄ってくれ。歓迎する」
「うん。絶対に行く」
頷くと、ヒースはじっと俺の顔を見つめ、頬に手を添えた。
「ヒース、回復魔法かけてよ」
「どこも怪我をしてないのに?」
「胸が痛い」
「分かった」
ヒースが額を俺のおでこに当てる。明け方の星空みたいな綺麗な瞳がすぐそばにある。それからヒースの手のひらが両頬と耳を覆い、周りの音が耳に入らなくなった。鼻が触れる一瞬の間に、魔法の息を吐くべきか考える。ヒースを眠らせて、記憶を奪ってさらってしまいたい。森の中に連れて行って、俺と二人だけで暮らすんだ。
魔法の息は吐けなかった。代わりに唇が塞がれて、ヒースの極上の魔法に包まれる。ぎゅっと抱きしめられて、胸が痛い。
唇を離すと、ヒースは少し照れたように笑った。
部屋にくっついて行って、ヒースの持ち物をまとめる。何日くらい王都に行くんだろう。とりあえず数日分の服があればいいのかな。
「ヒース、何を準備したらいいの?」
上着を着た後、革の剣帯に長剣を装備していたヒースは手を止めて俺を見た。じっと見つめられてドキドキする。いつもそばにいるけど、久しぶりに至近距離で顔を見たような気がする。
「何も準備しなくていい。王城には必要な物が用意されているはずだ。この部屋は後で城の者に片付けさせる」
「片付けって……また使うんじゃないの?」
「もうここは使わない」
「えっ、どうして⁉︎」
「多分、ここには戻って来られない。自由で幸せな学園生活は終わりだ」
ヒースは、子供の頃は一度もしなかった大人びた笑みで悲しみを取り繕った。
「カル、お前のおかげで楽しかったよ。子供の頃みたいに、身分も忘れて好きなことだけしていられた」
「今からはできないの?」
「出来なくなると思う」
ヒースは部屋にあった箱の中から硬貨のたくさん入った袋を三つ取り出して俺に手渡した。どれもずっしり重い。
「これ、何?」
「俺は学園を出るから、付き人の契約は終了だ。とりあえず、今用意できる全部をお前にやるよ。半年分の給料だと思ってくれ。これを使って故郷に帰ってもいいし……」
「王城について行っちゃいけないの?」
「王城には来ない方がいい。カルは正式な資格を持っていないし、子供だから危険な目に合わせたくない」
「ヒースを守りたいよ」
「大丈夫だ。ジェイソンがいる」
契約終了? もう一緒にいられない?
ショックで頭の中が真っ白になった。この先もずっと一緒にいようと思ってたのに。
ドアがノックされてハロルドとヴィクターが顔を出す。ヒースが二人と話している間も、頭が真っ白で何も考えられない。
「カル、しっかりしろ」
いつのまにか隣にいたヴィクターに話しかけられてようやく我にかえった。ヒースはハロルドとまだ何か話してる。ヴィクターは声をひそめた。
「どうせ付き人契約を解消されて落ち込んでるんだろ。言っておくが、ヒースはお前のためを思ってそうしたんだと思うぜ。ここだけの話、国王はもう長くない。これから先一番大変なのはヒース王子だ。望まなくてもケネス王太子やエリオット王子との争いが待っている。わがまま言ってヒースを困らせるな。王子が好きなんだろ?」
「うん」
「だったら付き人として、最後までヒースのために働け。付き人なら主人に余計な負担をかけるな」
「分かった……」
泣きそうだったけど、なんとか気分を立て直した。
二人が部屋から出て行って、代わりに王城からお迎えの馬車が来たという連絡が入る。
「ヒース、本当について行ったら駄目なの?」
「ついてくるのは駄目だ。王城には危険な人間が大勢いる。竜のカルも俺が安易に連れて行ったせいで命を落とした。カルを危険に晒したくない。付き人をやめたら故郷に帰ってもいいし、どこか好きなところに行ってもいい。もし俺の暮らしていた田舎の城に来たかったら、いつでも寄ってくれ。歓迎する」
「うん。絶対に行く」
頷くと、ヒースはじっと俺の顔を見つめ、頬に手を添えた。
「ヒース、回復魔法かけてよ」
「どこも怪我をしてないのに?」
「胸が痛い」
「分かった」
ヒースが額を俺のおでこに当てる。明け方の星空みたいな綺麗な瞳がすぐそばにある。それからヒースの手のひらが両頬と耳を覆い、周りの音が耳に入らなくなった。鼻が触れる一瞬の間に、魔法の息を吐くべきか考える。ヒースを眠らせて、記憶を奪ってさらってしまいたい。森の中に連れて行って、俺と二人だけで暮らすんだ。
魔法の息は吐けなかった。代わりに唇が塞がれて、ヒースの極上の魔法に包まれる。ぎゅっと抱きしめられて、胸が痛い。
唇を離すと、ヒースは少し照れたように笑った。
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