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誓約
22 俺は火竜だから
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ベッドの中でもぞもぞして、最適な場所を探す。やっぱり足元かな。子竜の時に足のそばに丸まって寝てたし。それか脇の下とか胸の上? 心臓の音が聞こえると安心するから。
「どうしてそんなに潜るんだ」
「竜の時はこうしてたから」
「そういえばそうだな」
ヒースが笑って腕を伸ばし、枕の方に引っ張り上げてくれた。それで最終的にはヒースの腕にくっついて眠ることにした。
「ヒースがお墓に入れてくれたマントで枕を作ってもらったんだ。ここには持ってきてないけど」
「そういえばお前の持ってた枕を見た時、なんとなく違和感があったんだ。生地は高そうだけど古くて汚れていて、なぜか見覚えがあった。だから、古着を仕立て屋に売るくらい俺の城にはお金がないのかと思ってた」
「汚れてるのは、あまり洗ってないからだよ。洗うとヒースの匂いがなくなっちゃうから」
「俺の匂いなんてあるのか?」
「あるよ。竜は鼻が効くんだ」
ヒースの首元の匂いをすんすん嗅ぐと、ヒースも俺の髪の毛に顔を埋めた。
「カルはいつも暖かいし、晴れの日の干草や大地みたいな匂いがするな」
「そう? 俺は火竜だしヒースより体温は高いけど。自分じゃ分からないね」
「魔法を使うと手足が冷えるから、いつもカルに暖めてもらってた」
「うん、覚えてるよ。卵の時と逆だった」
卵でも竜でもないけど、ヒースが優しく抱きしめてくれるのも、心臓の鼓動が安心するのも同じだ。子供の頃と違って心拍数はゆっくりになったけど……いや、今日はちょっと速いな。
「物心ついてから、こうして誰かと一緒のベッドで眠るのは初めてだな。竜のカルを除けば、だけど」
「お母さんは?」
「母上はずっと病気がちで、寝室もベッドも別だった。いつか元気になってくれると信じていたけど、それからすぐに亡くなってしまった。俺も悲しかったけど、ジェイソンがすごく泣いていたよ。大人の男の人でもあんなに泣くんだって衝撃的だったな」
「好きだったんだね」
「ああ。母上とジェイソンはお似合いだったよ。父上がいなければ、きっと幸せな夫婦になれたと思う。父上に気に入られたせいで、母上には自由がなくなった。俺は王族の一員だけど、そんなことに権力を行使したくないし、不本意な命令にも従いたくない。でも、無理だな。俺にも自由がない」
何も答えられなくて、かわりにヒースの腕をぎゅっと握った。俺が自由にしてあげたい。
「ケネス兄上が王位を継承すれば、この軟禁状態も終わり城に帰れると思う。誓約書には署名したくないけど、ほかに皆が助かる手段がなければ仕方がない。だから」
「だから?」
「もしも俺が兄上に逆らえなくて、カルに何か酷いことをしようとしたら、育ての親のところに逃げろ。いいな?」
「ヒースはそんなことしないよ」
「魔法の誓約はかけた術士が死ぬか解除するまで効果があるんだ。だから絶対に逆らえない。もしもカルが竜だとバレたら、きっと昔みたいに囚われてそのまま飼い殺しにされる。それだけはやりたくない。だから、逃げてくれ」
「俺、ヒースのそばから離れないよ。だって大好きなんだ」
「知ってる。俺も好きだよ。竜のカルも、人間だと思っていたカルも、両方好きになってた。だから言うことを聞いてくれ」
「分かったよ」
そういうと、ヒースは安心したように俺の髪にキスをした。
ゆつくり魔法の息を吐いて、ヒースを眠らせる。ヒースにはまだ言ってない。俺が詠唱なしで魔法を使えること。
ヒースが眠ったのを確認してから起き上がると、窓を開け、ネズミほどの大きさの竜になって外に出る。俺はヒースみたいに優しくない。ヒースの自由を誰かが奪うなら戦って奪い返す。だって俺は火竜だから。
「どうしてそんなに潜るんだ」
「竜の時はこうしてたから」
「そういえばそうだな」
ヒースが笑って腕を伸ばし、枕の方に引っ張り上げてくれた。それで最終的にはヒースの腕にくっついて眠ることにした。
「ヒースがお墓に入れてくれたマントで枕を作ってもらったんだ。ここには持ってきてないけど」
「そういえばお前の持ってた枕を見た時、なんとなく違和感があったんだ。生地は高そうだけど古くて汚れていて、なぜか見覚えがあった。だから、古着を仕立て屋に売るくらい俺の城にはお金がないのかと思ってた」
「汚れてるのは、あまり洗ってないからだよ。洗うとヒースの匂いがなくなっちゃうから」
「俺の匂いなんてあるのか?」
「あるよ。竜は鼻が効くんだ」
ヒースの首元の匂いをすんすん嗅ぐと、ヒースも俺の髪の毛に顔を埋めた。
「カルはいつも暖かいし、晴れの日の干草や大地みたいな匂いがするな」
「そう? 俺は火竜だしヒースより体温は高いけど。自分じゃ分からないね」
「魔法を使うと手足が冷えるから、いつもカルに暖めてもらってた」
「うん、覚えてるよ。卵の時と逆だった」
卵でも竜でもないけど、ヒースが優しく抱きしめてくれるのも、心臓の鼓動が安心するのも同じだ。子供の頃と違って心拍数はゆっくりになったけど……いや、今日はちょっと速いな。
「物心ついてから、こうして誰かと一緒のベッドで眠るのは初めてだな。竜のカルを除けば、だけど」
「お母さんは?」
「母上はずっと病気がちで、寝室もベッドも別だった。いつか元気になってくれると信じていたけど、それからすぐに亡くなってしまった。俺も悲しかったけど、ジェイソンがすごく泣いていたよ。大人の男の人でもあんなに泣くんだって衝撃的だったな」
「好きだったんだね」
「ああ。母上とジェイソンはお似合いだったよ。父上がいなければ、きっと幸せな夫婦になれたと思う。父上に気に入られたせいで、母上には自由がなくなった。俺は王族の一員だけど、そんなことに権力を行使したくないし、不本意な命令にも従いたくない。でも、無理だな。俺にも自由がない」
何も答えられなくて、かわりにヒースの腕をぎゅっと握った。俺が自由にしてあげたい。
「ケネス兄上が王位を継承すれば、この軟禁状態も終わり城に帰れると思う。誓約書には署名したくないけど、ほかに皆が助かる手段がなければ仕方がない。だから」
「だから?」
「もしも俺が兄上に逆らえなくて、カルに何か酷いことをしようとしたら、育ての親のところに逃げろ。いいな?」
「ヒースはそんなことしないよ」
「魔法の誓約はかけた術士が死ぬか解除するまで効果があるんだ。だから絶対に逆らえない。もしもカルが竜だとバレたら、きっと昔みたいに囚われてそのまま飼い殺しにされる。それだけはやりたくない。だから、逃げてくれ」
「俺、ヒースのそばから離れないよ。だって大好きなんだ」
「知ってる。俺も好きだよ。竜のカルも、人間だと思っていたカルも、両方好きになってた。だから言うことを聞いてくれ」
「分かったよ」
そういうと、ヒースは安心したように俺の髪にキスをした。
ゆつくり魔法の息を吐いて、ヒースを眠らせる。ヒースにはまだ言ってない。俺が詠唱なしで魔法を使えること。
ヒースが眠ったのを確認してから起き上がると、窓を開け、ネズミほどの大きさの竜になって外に出る。俺はヒースみたいに優しくない。ヒースの自由を誰かが奪うなら戦って奪い返す。だって俺は火竜だから。
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