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誓約
21 ウロコあげるよ
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ドラゴン姿で浴槽を駆け回って水浴びしていると、勢い余って壁に激突してしまった。そして何か赤いものがぽろっと取れた。
なんだこれ、まさかツノ? それでなくても短いツノなのに、なくなったら子供に間違われちゃうよ。
でもよく見たらツノよりもっと薄くて半透明な丸いものだった。これは鱗かな。俺にも頭と背中と尻尾には少しだけ鱗がついてるし。
「カル、すごい音がしたけど大丈夫か?」
振り向くとヒースが心配そうに戸口から顔を覗かせていた。
「キュー」
大丈夫だと告げたけど、ヒースは布をもって入ってきた。両手で抱き上げられて頭とか尻尾とか背中をチェックされる。こんなに見られると竜の姿でも少し恥ずかしい。
「カル、少し大きくなったな。翼も前より大きくなってる。それに本当にツノが生えてる。小さいけど二つ。深い赤色で宝石みたいだな」
「キュッ」
「これは……? ぶつけてここの鱗が落ちちゃったのか」
「クェーアアウー(ヒースにあげるよ)」
「そうかそうか、痛かったな」
やっぱり竜だと言葉は通じないな。でもヒースは自分の服が濡れるのもかまわずに浴槽に腰掛けると、そのまま俺を洗ってくれた。普段気にしたことのない爪の間や尻尾の先まで丁寧に。
「前から思ってたけど、カルは綺麗だな」
「キュッ⁉︎」
「こんなに綺麗な生き物がいるとは思わなかった」
俺はヒースの方が何倍も美人だと思うんだけど。
「ほら、できたぞ」
泡を洗い流すと、乾いた布で包まれてごしごし拭かれる。終わるとそのまま寝室まで運んでもらえた。ベッドに寝かされたタイミングで人間に戻ると、ヒースが慌てて目をそらした。
「洗ってくれてありがとう。お風呂の掃除しとくよ。どうしたの? ヒース」
「いや、急に人間に戻るとびっくりするな」
「そう?」
「それに裸だし……」
「竜の時も裸だけど」
でも俺も人間姿の裸のほうが恥ずかしい。ウロコも無いし、まえに学園のお風呂場で確認したけど、俺って職場の従業員たちと比べても、もちろんジークさんと比べた時も、つるんとしていて貧相なんだよなぁ。一応オスなんだけど、オスを象徴するものもそんなに大きくないし。
考えると恥ずかしくなってきたので大急ぎで下着を身につけた。
「ヒース、落ちたウロコあげる。お風呂の掃除してくるね」
***
少し思い出した前世の記憶では、人間は男同士でも交尾していたような気がする。子供ができるかは分からないけど、同性の恋人同士は間違いなくいたはずだ。異種族の恋人は分からないけど、この世界なら竜と人が付き合うこともあるってクラウスが言ってた。だから、俺とヒースも付き合えるってことだよな。ヒースが俺で良ければ、だけど。
ごしごしと雑念を振り払うようにお風呂場を掃除して、それから寝室に戻ると、部屋は蝋燭の灯りだけがついていて、ヒースがベッドに座り、巻物を片手に考え事をしていた。あれはケネスに渡された誓約書だ。
「ヒース、誓約書に名前を書くの?」
「まだ悩んでる。他にいい方法が思い浮かばない。署名したらケネス兄上は俺に何をさせるつもりだろうか」
「わからない」
きっとろくでもないことだと思うけど、それはヒースには言えなかった。
「そうだな。カル、そろそろ寝ようか」
「うん。竜の姿と人の姿、どっちがいい?」
「バレると危険だから、人の姿……それはそれで危険かな……」
「危険?」
「ああ、いや。なんでもない。カルの楽な方で」
「じゃあ人の姿で。ヒースと手を繋いで眠りたい」
竜も捨てがたいけど、話ができる方がいいかな。そう思ってヒースの隣に潜り込んだ。
なんだこれ、まさかツノ? それでなくても短いツノなのに、なくなったら子供に間違われちゃうよ。
でもよく見たらツノよりもっと薄くて半透明な丸いものだった。これは鱗かな。俺にも頭と背中と尻尾には少しだけ鱗がついてるし。
「カル、すごい音がしたけど大丈夫か?」
振り向くとヒースが心配そうに戸口から顔を覗かせていた。
「キュー」
大丈夫だと告げたけど、ヒースは布をもって入ってきた。両手で抱き上げられて頭とか尻尾とか背中をチェックされる。こんなに見られると竜の姿でも少し恥ずかしい。
「カル、少し大きくなったな。翼も前より大きくなってる。それに本当にツノが生えてる。小さいけど二つ。深い赤色で宝石みたいだな」
「キュッ」
「これは……? ぶつけてここの鱗が落ちちゃったのか」
「クェーアアウー(ヒースにあげるよ)」
「そうかそうか、痛かったな」
やっぱり竜だと言葉は通じないな。でもヒースは自分の服が濡れるのもかまわずに浴槽に腰掛けると、そのまま俺を洗ってくれた。普段気にしたことのない爪の間や尻尾の先まで丁寧に。
「前から思ってたけど、カルは綺麗だな」
「キュッ⁉︎」
「こんなに綺麗な生き物がいるとは思わなかった」
俺はヒースの方が何倍も美人だと思うんだけど。
「ほら、できたぞ」
泡を洗い流すと、乾いた布で包まれてごしごし拭かれる。終わるとそのまま寝室まで運んでもらえた。ベッドに寝かされたタイミングで人間に戻ると、ヒースが慌てて目をそらした。
「洗ってくれてありがとう。お風呂の掃除しとくよ。どうしたの? ヒース」
「いや、急に人間に戻るとびっくりするな」
「そう?」
「それに裸だし……」
「竜の時も裸だけど」
でも俺も人間姿の裸のほうが恥ずかしい。ウロコも無いし、まえに学園のお風呂場で確認したけど、俺って職場の従業員たちと比べても、もちろんジークさんと比べた時も、つるんとしていて貧相なんだよなぁ。一応オスなんだけど、オスを象徴するものもそんなに大きくないし。
考えると恥ずかしくなってきたので大急ぎで下着を身につけた。
「ヒース、落ちたウロコあげる。お風呂の掃除してくるね」
***
少し思い出した前世の記憶では、人間は男同士でも交尾していたような気がする。子供ができるかは分からないけど、同性の恋人同士は間違いなくいたはずだ。異種族の恋人は分からないけど、この世界なら竜と人が付き合うこともあるってクラウスが言ってた。だから、俺とヒースも付き合えるってことだよな。ヒースが俺で良ければ、だけど。
ごしごしと雑念を振り払うようにお風呂場を掃除して、それから寝室に戻ると、部屋は蝋燭の灯りだけがついていて、ヒースがベッドに座り、巻物を片手に考え事をしていた。あれはケネスに渡された誓約書だ。
「ヒース、誓約書に名前を書くの?」
「まだ悩んでる。他にいい方法が思い浮かばない。署名したらケネス兄上は俺に何をさせるつもりだろうか」
「わからない」
きっとろくでもないことだと思うけど、それはヒースには言えなかった。
「そうだな。カル、そろそろ寝ようか」
「うん。竜の姿と人の姿、どっちがいい?」
「バレると危険だから、人の姿……それはそれで危険かな……」
「危険?」
「ああ、いや。なんでもない。カルの楽な方で」
「じゃあ人の姿で。ヒースと手を繋いで眠りたい」
竜も捨てがたいけど、話ができる方がいいかな。そう思ってヒースの隣に潜り込んだ。
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