ポメラニアン魔王

カム

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三 タケルの話

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 ケルピの背中に乗って上流に向かっているうちに、日が暮れかけて燃えるような夕焼け空になった。だんだん寒くなって来たころ、唐突に川上りは終了した。

「人間の気配がする。ここからは俺は気配を消すからちょっと下りてくれ」

 まだ川は続いていたけどケルピは水から丘に上がった。俺が背中から降りると馬の姿から小さな蛙の姿になる。何億年も前に海から地上に生活スタイルを変えた生物ってこんな感じだったのかな。ケルピはぴょんぴょん飛んで俺の足にしがみついたので、手のひらに乗せてやると肩の上に移動した。

「ケルピさんは水を乾かす魔法とか使えないんですか?」
「水は友達だ。濡れている方が楽しいだろ」
「寒いんですけど」
「贅沢言うなって。そのうち乾く」

 濡れたズボンは諦めてそのまま歩く。川の側にはたくさんの木々が生い茂っていたけど、そこを抜けると遠くに見える険しい山となだらかな斜面が見えた。この風景、なんとなく見覚えがあるような。

「ここからどのくらいの距離なんですか?」
「近いぞ。ここから丘の下に行けば人間達の村がある。丘の上にあるのが魔王城だ。今では崩れた石垣が残るだけだが」

 確かに、近くに石垣がある。
 壊れかけた石垣は迷路みたいになって斜面の上から下まで続いている。破壊の跡がたくさんあって、倒れた石像の欠片も散乱していた。
 間違いない。俺がはじめてこの世界にやってきた時に見た風景と同じだ。古戦場か遺跡みたいだと思ったけど、ここが魔王城の跡地だったのか。ということはこの壊れた石像は人間になった時のポメの姿をしていたのかな。そう思うとせつない。

「おい、戦いはどうだ⁉︎」

 人の声がしたので思わず生垣の陰に隠れた。なまはげみたいな格好の村人が数人、生垣の上へと走っていく。

「今度こそ大丈夫だ! 勇者様の圧勝さ。魔王達が消滅するのも時間の問題だ」

 俺とケルピは顔を見合わせた。

「やったな! 人間達の歴史的勝利だ!」

 歓声を上げながら丘の上へ走っていく村人たちを追いかけて、俺も走った。


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