【本編完結、番外編更新】オークの島〜外れスキルで追放された侯爵令息と白銀の少女〜

丸井もち

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・オークの島

エピローグ

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 この日も、小雨が降っていた。

 今日は、10日おきにアルフォンスが漕いでくるボートがやってくる日だ。
 ボートが到着すると、セリムはアダリヤとふたりで、傘をさして乗り込んだ。

 この半年で、アルフォンスが漕いでくるボートにも変化があった。
 セリムが本土へ行くことが増えたので、最初は島へ昼前に来ていたのだが、最近では、朝早くに島に来て、日暮れ前に島へ送ってくれるようになったのである。

「おじさん、よろしくお願いします」
「おじさんじゃなくて、アルフォンスさんね」

 アダリヤは結局、本土に行けるようになるまで、半年を要した。
 うさぎは一般常識はバッチリ教えたと言っていたが、やはり、そこはうさぎだった。
 セリムが一般教養を納得いくまで教え込み、合格点が出せたのが一週間前。

「今日もリヤさんはかわいいですね」

 今日のアダリヤは、あの日、セリムがアルフォンスに頼んだワンピースのうち『いいやつ』の方を着ている。
 膝下丈で、茶色の地味なデザインだが、生地は高級で、お上品というのがぴったりなものである。

「フフフ。セリさんもかわいいですよ」
「……そこはかっこいいって言ってほしいな」

 ちなみに、セリムは、アルフォンスがうっかり購入してきてしまったという、商家の息子風のシャツにトラウザーズ姿である。

 二人が並ぶと、異国のお嬢様と商家のご子息という微笑ましい感じであった。

「うわー、リヤ、本土初めて!」
「リヤ、ボート降りるまで跳ねないで!」

 ただし、黙って座っていれば、という条件付きである。

 いつもの船着き場でボートを降りると、アルフォンスは、このあと本業に戻るという。
 日暮れ前にまた同じ場所で待ち合わせをして別れた。

「おいで。馬車に乗るよ」
 セリムはアダリヤに手を差し出した。
 ヤオ族にはエスコートという文化はないらしい。
 なので、最初の頃は手を差し出すとキョトンとしていたが、練習して最近は慣れたのか、すぐに手を預けてくれた。

 馬車に乗り込み、発車すると、アダリヤは車窓の景色に夢中になった。叫び出さないのは、セリムの教育の賜物である。

 窓の外は、今も小雨が降っている。

 あの日ーー祖父が亡くなったと知った日、セリムは馬車を乗り継いで、領地まで帰ってきた。

 もう誰にも頼れない、という寄る辺ない不安を抱えて揺られていたことは、今でも鮮明に思い出せる。

 あの日と同じ馬車止めで、ふたりはコルマールの領地に降り立った。

「リヤ、セリのお祖父様にご挨拶するの初めて」
「まぁ、もう墓石になってるんだけどね」

 祖父の墓参りをするつもりは当初なかった。
 しかし、アダリヤが行きたいというので、行くことにしたのだ。
 実は、まだ血の繋がった家族に対する気持ちに整理はついていない。
 会いたくない、という気持ちが、強いのだ。
 だが、春の今ならコルマール家の者は、王都のタウンハウスにいる。
 あの人たちに会わずに、本邸近くの墓には辿り着けるはずである。

 途中、あの日と同じ花屋で花束を買った。

 奇しくも、天候も花束もあの日と同じだが、あの日と違うのはアダリヤが隣りにいることだ。

 ふと、隣を見ると、同時にアダリヤもセリムの方を向いた。
 目が合うと、ニコッと笑ってくれた。
 
 今でも不安な日はある。頼れると思う人もいない。
 それでも、自分が好きで、相手も自分のことを好いていてくれる人が増えたことは、セリムの気持ちに安定をもたらした。

 祖父の墓に着くと、買ってきた花を手向け、ふたりは黙祷を捧げた。

ーーお祖父様。僕はあなたの期待通りには生きていけないかもしれない。

 祖父があの島をどうしたかったのか、未だにわからないでいる。

 自分の汚点を隠し通して欲しかったのか、合成獣を完成させて欲しかったのか。
 しかし、今では、もしかしたら……と思うこともある。

 横目でチラリとアダリヤを見ると、まだ黙祷をしていた。

ーー僕はこの人たちを守ると決めたので、このスキル、力を持って守っていきたいと思います。

「行こうか」
「うん!」
 アダリヤに声をかけ、手を差し出した。
 その手に、アダリヤの小さな手が重ねられる。
 
 これから、また馬車に乗り、港町で買い物をする予定だ。
 アダリヤはどう思っているかわからないが、セリムはデートだと思っている。

 セリムは、馬車止めまでの道を歩きながら、気になったことを聞いてみた。

「長いこと目をつぶってたよね」
「うん。セリのお祖父様に、ありがとうってお礼を言ってたの」
「お礼?」
「だって、お祖父様からの手紙がなかったら、セリは島に来なかったでしょ」
「でも、お祖父様のせいで、リヤとアルトゥロさんは、長い間離れてたんだよ」
「それはそうだけど、その間にうさぎにも、セリにも会えたから、もういいかなって」
「え、いいの……」

 これから、いくつもの不安や迷いが出てきても、アダリヤは、この光でもって、あのときのように雲を晴らしてくれるのだろう。

「ねぇ、セリ!見て!」
 アダリヤが指さしたのは、あの日、父である男と、弟であろう少年が去っていった方向。

 そこには、あの日見た絶望はなく、雲の晴れ間から薄い虹が出ていたのだった。
 

*****
これにて、完結です。
約3週間の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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