Rain

ゆか

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カールへの連絡を終えた後は街にある唯一の市場で買い物をする。予めブルック夫人から預かったメモを確認しながらハンスと回る。
小さな市場だが生活に必要なものは一通り揃えることができた。
奥さんとどうぞと、菓子をくれる者もいた。ここでの生活でレイは、確かに居場所を築いている。それが嬉しくもあり、少しだけ寂しくもある。
屋敷に戻った時、同じように、それ以上に周囲と良い関係が築けるだろうか。物や設備は揃っているが、ここほど人との交流が多くはないかもしれない。レイにとってはこの町で暮らすことの方が幸せなのではないだろうか。そう思ってしまうが、それでも彼女が帰ると言ってくれて嬉しかった。私のそばにいることを選んでくれたことが。


ここを発つのは十日後に決まった。体一つで戻るのではない、数か月の生活で沢山の物が増えた。仕事で必要な物も多く、最近レイが始めた裁縫、その成果はそこら中に使われている。また訪れるつもりであっても、置いていくには忍びない。揃いで使っていたカップも、レイが夫人と一緒に作ったジャム達も。一緒に持って帰りたいし、世話になった者たちへの挨拶の時間も必要だ。
カールには申し訳ないが帰りは迎えが必要だった。



肉屋に寄ると、そこの店主に引き止められた。

「へえ、また都会から若いのが来たのか」
「昨晩拾っちまっんだ。真っ暗の中町へ行く途中の農道で座り込んでてな、宿を探していたんだ」
「ここらにゃ宿なんてないからなぁ」
会話の内容は昨晩店主が人を拾ったというものだった。この辺りでは数年に一度、都会から人が流れて来るという。必要であれば保護し、仕事を与えることもあるとか。そういった人の中には永続的にこの町で暮らすことを決めるものもいるらしい。
2人が話しているのはそういった流れ者を拾ったという話であると思う。

「でな、知り合いを訪ねに来たと言ってたんだが、どうもアンダーソンさんのことでな」
2人の話を聞いたところに出た自分の名前に、嫌なものを感じた。
「私、ですか」
「ああ、家知ってたら教えてくれ言われて、ブルックさんとこの借家に住んでるって教えてやったんだ。送ってくれって頼まれたが、あいにく仕事があるったら、歩いてくってんで砂利だけんども近い道を教えてちまったんだ。言っちまったあとで許可取らんとならんかったと思って、悪いことしたなぁ」
「……その人の名前は聞いていますか」
「ああ、たしかボルドーって言った」
「! レニアス・ボルドー」
「そう、そうだそうだ。やっぱり知り合いだったか、もし帰りに見かけたら拾ってやってくれ」

昨日戻ったのはティンバーに戻ったのは夕刻だった。後をつけられていたのか? 私みようがあるなら呼び止める機会はいくらでもあったはずだ。

屋敷を離れているからと油断していた。少し考えればわかることだ。あの義弟は私の妻がレイだと知っているはずだ。向こうからの接触は最近までなかったが、父からの援助を失った義弟が私に怒りをぶつけると思っていた。でもそうじゃないその相手はもう1人いる。レイだ。あの男なら自分がそうなった原因を彼女に結びつける。

「ハンス殿、すまないが、すぐに戻りたい」
「あ、ああ、わかった。急いで戻ろう」

私の焦りが伝わってしまったのか、ハンスは急いで馬車に戻り購入した物を急ぎ荷台に積み帰路に着く。

「困った事になりそうかい?」

「……そうならない事を願っています」





行きとは違い言葉は少なかった。あの義弟がなにか事を起こすとほ考えたくないが、レイ相手に冷静に話し合うとも思えない。
ただレイの無事を願った。



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