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「アルレイシア、お久しぶりです。なかなか会えないんですもの、少し寂しかったわ」
「ルーマリア様、お招きありがとうございます」
「もうっ!そんな他人行儀なのは止めていつものようにマリアと呼んでちょうだい」
「ぷッ、ふふふふふっ。ええマリア、お久しぶりね」
「ホントよ!ひと月ぶりよ?お元気だった?」
「ええとても!」
アルレイシアはこの日エリストロ家を訪れていた。満開に咲き誇る薔薇の庭園で、色とりどりと菓子が並ぶテーブルに向かい合って座り、久しぶりに会う友人とのお茶を楽しんだ。
ルーマリア・エリストロ侯爵夫人はアルレイシアがラットン家に入ってから知り合った友人だ。アルレイシアより年上の二十三歳、アルレイシアの様に十七でエリストロ家に嫁ぎ、今では立派な侯爵夫人として生活をしている。
ヘンリクのエスコートで訪れた夜会、会場入りするとヘンリクは当たり前の様にアルレイシアから離れた。本来ならば妻を紹介して回らなければならない筈であったが、ヘンリクはそれをせずに姿を消したのだ。
戸惑うアルレイシアに最初に声をかけたのがルーマリアだった。
ルーマリアは夫に見向きもされないアルレイシアを嘲笑う事もなく、その苦しい立場を理解してくれアルレイシアの心に寄り添うように優しい言葉をかけた。
アルレイシアは最初こそ警戒したものの、夜会で会う度に話しかけ、アルレイシアの悪い噂が立とうものならば周囲を窘め、いくら政略とは言え愛人にばかりかまけて妻を蔑ろにする男も悪いとアルレイシアを庇う。そんなルーマリアに対して次第に心を開いて行った。
何故ルーマリアはアルレイシアに心を砕いてくれるのか、不思議に思い聞いた事があった。
ルーマリアはアルレイシアに言った。「わたくしも同じ歳にエリストロ家に嫁いだの」と。
エリストロ侯爵とルーマリアもアルレイシアと同じ政略結婚、打ち解けるまでに苦労があったのだと言う。
ヘンリクとの不仲は社交界で知られていたが、ルーマリアがアルレイシアと共にいる事でアルレイシアはラットン家にとって必要な社交をこなし少しづつ、着実に交友関係を広げていった。
ラットン家もエリストロ家も力のある高位貴族、まだ婚姻を結んだばかりであるのに顧みられない事はあまりあることでは無いが、夫が愛人を持つことは珍しいことでは無いためアルレイシアを憐れみ蔑む言葉は次第に消えていき、三年経った今では殆ど話に上がらなくなっていた。
「マリアのおかげね」
「あら、何の事?」
「たくさん助けて貰ってここまで来たわ。どう返したらいいのかしら」
「なんの事だか分からないけれど、何かしてくれるならずっとお友達でいて欲しいわね」
「ありがとうマリア。ずっと仲良くしてくださいね?」
二人はクスクスと笑い合った。
「ところでアレは?もう申請をしたのかしら?」
「ええ。今朝ヘンリク様に渡してきたわ。見てるか分からないけど」
「まあ、重要書類よ?流石に見ていのではないかしら?」
「どうかしら。私からのものは大抵後回だもの」
「それでよく侯爵家を継ごうと思うわね。ラットン侯爵様へは?」
「ヘンリク様に渡した後すぐにご報告したわ」
「では来月の夜会は?」
「勿論参加するわ」
「ふふっ楽しみだわ。そうだ、隣国に行っていた従兄弟が戻ってきたの。病気に強い麦を開発したのよ」
「まあ!是非紹介していただきたいわ」
「勿論よ。その代わりにクラウム家の外戚に確か綿花畑を持っている方がいたわね?」
「ええ。確かにオーリオ叔父様のところは綿花を栽培してるわ。でもエリストロ家は確かマリッシ領と取引があるのではなかった?」
「ここ三年ほど少しづつだけど値が上がっているのよ」
「・・・叔父様のところは特に不作はなかったと思ったけど、何か原因が?」
「他にも流しているのよねぇ」
はあっと大きく溜息をつくとルーマリアは侍女わわ呼びヒソリと何かを話す。侍女はルーマリアの言葉に頷きスっと外した。
「確かに綿花を独占している訳では無いわ。他に売っても構わない。毎年の契約で決まった量を卸すのならね」
「随分なやり方ね」
アルレイシアはルーマリアが言わんとしていることが分かった。マリッシ領の綿花は質がよく値段もいい。エリストロ家が手を引いても買い手はつく。暗に値上げした金額で買わなければ他に売ると言っているのだ。
「ええ、馬鹿にしてるでしょ?コルベス領の綿花も上質、これはお金ではなく矜恃の問題ね。その叔父様は当日いらっしゃるかしら?」
「ええ、恐らく。でもオーリオ叔父様の所はマリッシ領よりも生産量が少ないわ。エリストロ家の望む量を納めることは難しいのではないかと思うの」
「夫とも話して考えているわ。完全無農薬綿花。それだけで十分の価値があるもの」
「ふふふっ、分かったわ当日エリストロ侯爵様とマリアに叔父様を紹介するわ」
「ありがとう。楽しみにしているわ」
ルーマリアはそう言うとお花摘みに行くと言って席を離れ、アルレイシアは新しく注がれた暖かい紅茶を含みながら目の前に広がる薔薇を眺めゆっくりとした時間に浸った。
「こんにちは。レディ・・・」
「・・・まあフランツ様、ごきげんよう」
後方から来た人物に気が付かずにいたアルレイシアは、不意に声をかけられて驚いた。
慌てて席を立ちスカートの裾を摘んで挨拶をした。
アルレイシアに声をかけて来たのはルーマリアの義理の弟、エリストロ侯爵の弟であるフランツ・エリストロ。
兄である侯爵の補佐として働きながら、国の中枢にいる宰相閣下の補佐を務めている社交界のエリートだ。
流れるような波打つ金の髪と優しいアクアマリンの瞳、優しげな笑顔を浮かべる青年は、アルレイシアもよく知る人物だ。
「今義姉上に会ってね。君が来てると聞いたから」
フランツはアルレイシアの前に手を差し出し、アルレイシアは躊躇いながらもその手にそっと載せた。
フランツは載せられたアルレイシアの手をぎゅっと握るとその手を引いて歩き出す。
「あ、フランツ様?」
「義姉上には少しの間時間を貰ったんだ。行こうか」
「ですが」
「ほら、早く。時間が無くなってしまう」
フランツに引かれて庭の奥へ。
少し強引なフランツの温かい手を気がつけば握り返していた。
「さあレディ、座って」
薄紅色の薔薇に囲まれた小さな東屋、フランツはベンチにサッとハンカチを広げてアルレイシアを座らせた。僅かに間隔をあけて腰を下ろすとアルレイシアの手を握る。
「フランツ、様」
異性に慣れていないアルレイシアは、まるで恋人のような距離に顔を赤くし、そんなアルレイシアをフランツは楽しそうに眺めた。
「区切りが着いたと聞いたんだ。本当に?」
「はい、条件は全て整っていましたので。侯爵様にも御報告、致しました」
「そう。嫌な思いも、したでしょ?」
「・・・・必要、でしたから」
フランツの問にアルレイシアは視線を逸らし答えた。
「頑張ったね」
フランツはアルレイシアの肩をそっと抱き寄せると、額にキスを落とした。
アルレイシアは顔を赤く染めながらも、拒絶する事はしなかった。
フランツはアルレイシアを抱いたままポケットから小さな箱を取り出しアルレイシアの前で開いて見せ、アルレイシアはそれを見て瞳を輝かせた。
「凄く可愛らしいですわ」
「気に入ってくれた?」
「はい、とても」
箱の中には小さな角砂糖。色とりどりの花や動物の柄がさらにデコレートされた可愛らしいものだった。
フランツはその中の一つを取りアルレイシアの口元へ。アルレイシアは当たり前の様にフランツからのものを口に入れた。
王にも献上された東国の砂糖を使った細工菓子。
口の中に入れると解ほどけるように溶け、口の中一杯に甘さと花の香りが広がり、アルレイシアは顔をほころばせた。
「美味しい?」
「はい。とても甘くていい香りがします」
「じゃあ私にも味見させて」
「え?……ん」
フランツはアルレイシアの唇に唇を重ねゆっくりと味わう様に舐り
舌を絡めた。
「ん、んん、、、、あ」
アルレイシアの初めての口付けは、とても甘く官能の味がした。
「ああ、アルレイシア、私の可愛いレディ。やっと言える」
「は、ぁ、、。フランツ、様」
「愛してる。私の可愛いアルレイシア、私の妻になってくれ」
「本当にわたくしでいいのですか?フランツ様でしたら幾らでも素敵な女性が」
「止めてくれ、私はあなた以外要らない。愛しているんだ」
耳元で囁かれるフランツの愛の言葉に、アルレイシアの心は歓喜に震えた。
「はい、お受け致します」
「ルーマリア様、お招きありがとうございます」
「もうっ!そんな他人行儀なのは止めていつものようにマリアと呼んでちょうだい」
「ぷッ、ふふふふふっ。ええマリア、お久しぶりね」
「ホントよ!ひと月ぶりよ?お元気だった?」
「ええとても!」
アルレイシアはこの日エリストロ家を訪れていた。満開に咲き誇る薔薇の庭園で、色とりどりと菓子が並ぶテーブルに向かい合って座り、久しぶりに会う友人とのお茶を楽しんだ。
ルーマリア・エリストロ侯爵夫人はアルレイシアがラットン家に入ってから知り合った友人だ。アルレイシアより年上の二十三歳、アルレイシアの様に十七でエリストロ家に嫁ぎ、今では立派な侯爵夫人として生活をしている。
ヘンリクのエスコートで訪れた夜会、会場入りするとヘンリクは当たり前の様にアルレイシアから離れた。本来ならば妻を紹介して回らなければならない筈であったが、ヘンリクはそれをせずに姿を消したのだ。
戸惑うアルレイシアに最初に声をかけたのがルーマリアだった。
ルーマリアは夫に見向きもされないアルレイシアを嘲笑う事もなく、その苦しい立場を理解してくれアルレイシアの心に寄り添うように優しい言葉をかけた。
アルレイシアは最初こそ警戒したものの、夜会で会う度に話しかけ、アルレイシアの悪い噂が立とうものならば周囲を窘め、いくら政略とは言え愛人にばかりかまけて妻を蔑ろにする男も悪いとアルレイシアを庇う。そんなルーマリアに対して次第に心を開いて行った。
何故ルーマリアはアルレイシアに心を砕いてくれるのか、不思議に思い聞いた事があった。
ルーマリアはアルレイシアに言った。「わたくしも同じ歳にエリストロ家に嫁いだの」と。
エリストロ侯爵とルーマリアもアルレイシアと同じ政略結婚、打ち解けるまでに苦労があったのだと言う。
ヘンリクとの不仲は社交界で知られていたが、ルーマリアがアルレイシアと共にいる事でアルレイシアはラットン家にとって必要な社交をこなし少しづつ、着実に交友関係を広げていった。
ラットン家もエリストロ家も力のある高位貴族、まだ婚姻を結んだばかりであるのに顧みられない事はあまりあることでは無いが、夫が愛人を持つことは珍しいことでは無いためアルレイシアを憐れみ蔑む言葉は次第に消えていき、三年経った今では殆ど話に上がらなくなっていた。
「マリアのおかげね」
「あら、何の事?」
「たくさん助けて貰ってここまで来たわ。どう返したらいいのかしら」
「なんの事だか分からないけれど、何かしてくれるならずっとお友達でいて欲しいわね」
「ありがとうマリア。ずっと仲良くしてくださいね?」
二人はクスクスと笑い合った。
「ところでアレは?もう申請をしたのかしら?」
「ええ。今朝ヘンリク様に渡してきたわ。見てるか分からないけど」
「まあ、重要書類よ?流石に見ていのではないかしら?」
「どうかしら。私からのものは大抵後回だもの」
「それでよく侯爵家を継ごうと思うわね。ラットン侯爵様へは?」
「ヘンリク様に渡した後すぐにご報告したわ」
「では来月の夜会は?」
「勿論参加するわ」
「ふふっ楽しみだわ。そうだ、隣国に行っていた従兄弟が戻ってきたの。病気に強い麦を開発したのよ」
「まあ!是非紹介していただきたいわ」
「勿論よ。その代わりにクラウム家の外戚に確か綿花畑を持っている方がいたわね?」
「ええ。確かにオーリオ叔父様のところは綿花を栽培してるわ。でもエリストロ家は確かマリッシ領と取引があるのではなかった?」
「ここ三年ほど少しづつだけど値が上がっているのよ」
「・・・叔父様のところは特に不作はなかったと思ったけど、何か原因が?」
「他にも流しているのよねぇ」
はあっと大きく溜息をつくとルーマリアは侍女わわ呼びヒソリと何かを話す。侍女はルーマリアの言葉に頷きスっと外した。
「確かに綿花を独占している訳では無いわ。他に売っても構わない。毎年の契約で決まった量を卸すのならね」
「随分なやり方ね」
アルレイシアはルーマリアが言わんとしていることが分かった。マリッシ領の綿花は質がよく値段もいい。エリストロ家が手を引いても買い手はつく。暗に値上げした金額で買わなければ他に売ると言っているのだ。
「ええ、馬鹿にしてるでしょ?コルベス領の綿花も上質、これはお金ではなく矜恃の問題ね。その叔父様は当日いらっしゃるかしら?」
「ええ、恐らく。でもオーリオ叔父様の所はマリッシ領よりも生産量が少ないわ。エリストロ家の望む量を納めることは難しいのではないかと思うの」
「夫とも話して考えているわ。完全無農薬綿花。それだけで十分の価値があるもの」
「ふふふっ、分かったわ当日エリストロ侯爵様とマリアに叔父様を紹介するわ」
「ありがとう。楽しみにしているわ」
ルーマリアはそう言うとお花摘みに行くと言って席を離れ、アルレイシアは新しく注がれた暖かい紅茶を含みながら目の前に広がる薔薇を眺めゆっくりとした時間に浸った。
「こんにちは。レディ・・・」
「・・・まあフランツ様、ごきげんよう」
後方から来た人物に気が付かずにいたアルレイシアは、不意に声をかけられて驚いた。
慌てて席を立ちスカートの裾を摘んで挨拶をした。
アルレイシアに声をかけて来たのはルーマリアの義理の弟、エリストロ侯爵の弟であるフランツ・エリストロ。
兄である侯爵の補佐として働きながら、国の中枢にいる宰相閣下の補佐を務めている社交界のエリートだ。
流れるような波打つ金の髪と優しいアクアマリンの瞳、優しげな笑顔を浮かべる青年は、アルレイシアもよく知る人物だ。
「今義姉上に会ってね。君が来てると聞いたから」
フランツはアルレイシアの前に手を差し出し、アルレイシアは躊躇いながらもその手にそっと載せた。
フランツは載せられたアルレイシアの手をぎゅっと握るとその手を引いて歩き出す。
「あ、フランツ様?」
「義姉上には少しの間時間を貰ったんだ。行こうか」
「ですが」
「ほら、早く。時間が無くなってしまう」
フランツに引かれて庭の奥へ。
少し強引なフランツの温かい手を気がつけば握り返していた。
「さあレディ、座って」
薄紅色の薔薇に囲まれた小さな東屋、フランツはベンチにサッとハンカチを広げてアルレイシアを座らせた。僅かに間隔をあけて腰を下ろすとアルレイシアの手を握る。
「フランツ、様」
異性に慣れていないアルレイシアは、まるで恋人のような距離に顔を赤くし、そんなアルレイシアをフランツは楽しそうに眺めた。
「区切りが着いたと聞いたんだ。本当に?」
「はい、条件は全て整っていましたので。侯爵様にも御報告、致しました」
「そう。嫌な思いも、したでしょ?」
「・・・・必要、でしたから」
フランツの問にアルレイシアは視線を逸らし答えた。
「頑張ったね」
フランツはアルレイシアの肩をそっと抱き寄せると、額にキスを落とした。
アルレイシアは顔を赤く染めながらも、拒絶する事はしなかった。
フランツはアルレイシアを抱いたままポケットから小さな箱を取り出しアルレイシアの前で開いて見せ、アルレイシアはそれを見て瞳を輝かせた。
「凄く可愛らしいですわ」
「気に入ってくれた?」
「はい、とても」
箱の中には小さな角砂糖。色とりどりの花や動物の柄がさらにデコレートされた可愛らしいものだった。
フランツはその中の一つを取りアルレイシアの口元へ。アルレイシアは当たり前の様にフランツからのものを口に入れた。
王にも献上された東国の砂糖を使った細工菓子。
口の中に入れると解ほどけるように溶け、口の中一杯に甘さと花の香りが広がり、アルレイシアは顔をほころばせた。
「美味しい?」
「はい。とても甘くていい香りがします」
「じゃあ私にも味見させて」
「え?……ん」
フランツはアルレイシアの唇に唇を重ねゆっくりと味わう様に舐り
舌を絡めた。
「ん、んん、、、、あ」
アルレイシアの初めての口付けは、とても甘く官能の味がした。
「ああ、アルレイシア、私の可愛いレディ。やっと言える」
「は、ぁ、、。フランツ、様」
「愛してる。私の可愛いアルレイシア、私の妻になってくれ」
「本当にわたくしでいいのですか?フランツ様でしたら幾らでも素敵な女性が」
「止めてくれ、私はあなた以外要らない。愛しているんだ」
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