私の可愛い妖精

ゆか

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5(フランツ)

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あれから私はアルレイシアとヘンリクについて調べた。

アルレイシアは昨年社交界に出たばかりの十七歳、社交シーズン以外は領地で過ごし令嬢としては珍しく伯爵の補佐をし、茶会やパーティヘはあまり出ない。道理で見かけた事が無いのだと妙に納得した。

対する婚約者のヘンリクは二年ほど前にラットン家に養子としてに入た伯爵家の三男。

アカデミーでの成績はまあ良く、明るく社交的だが伯爵家と言っても特に資産が多いわけでも功績を上げている訳でもないパッとしない家。ラットン家は代々養子をとって居るが皆国政に携わるほど優秀なもの達ばかりだ。特に飛び抜けたものがない彼が何故ラットン家に迎えられたのか理解に苦しむが、恐らくクラウム家との政略を踏まえ年回りの良い男を迎えたのだろう。


今まであまりパーティや夜会には出なかったが、アルレイシアを一目でも見たい一心で出来る限り出ている。相変わらずあの男は懇意にしている女の元か、居なければ友人の元へ行きアルレイシアを一人にする。

短い時間だがアルレイシアがバルコニーや廊下に出れば少しばかり話すようになった。勿論、周囲の目には最大限注意を払っている。

あの日のように令嬢に囲まれるばかりではないが全くない訳では無い。男の身では愛しいアルレイシアを守る盾にはなれず、歯痒い思いをした。



「お待たせ致しました。エリストロ様」


目の前の席に着いたヤンは、給仕係に茶の支度をさせると完全に人払いをした。


「情報が欲しい」

「情報、でございますか」

「ヤン、あなたは知っているのだろう?クラウムとラットンの婚姻の意味を、見えない部分を。両家の婚約が正式に結ばれてからあなたは度々伯爵に会っているあなたなら

知っているのだろう」

「それを知ってどうします。間に割って入りますか?無理でしょう、

クラウム伯爵は娘を愛していても利にならないことはしません。フランツ様がアルレイシア様と上手くいったとしてもご結婚を許可するとは思えませんから。アルレイシア様に拘らなくとも、フランツ様でしたら美しい花はいくらでも手に入りましょう」

「確かに、私は彼女と友人でも、ましてや恋人でもない。私は彼女に惹かれてしまった。涙など二度と流させたくはない。放っておく事など出来ないんだ」


アルレイシアに会えば会うほどに惹かれてゆく。気持ちにブレーキがかかることは無く、日を追う事に募ってゆくのだ。



「・・・・あのクソガキよりは幾分ましか」


極小さな声でそう呟くと、ヤンは目を細めじっくりと私の姿を見た。


「よろしい、手をお貸ししましょう。但し、私はタダで動くつもりはありませんよ。金ではなく、私は私の欲しい見返りを要求します」

「私に出来ることなら可能な限り叶えるつもりだが、何を求めている?」

「私が欲しいのは―――――」














パーティの会場の片隅、バルコニーの影に彼女を見つけた。


「見つけた。ここにいたんだね」


「・・・・・・・・フランツ様」



あれからアルレイシアとは少しづつ距離を縮めていったが、その手を取り踊る事も、抱きしめることも無い。残念だが女であるアルレイシアに醜聞など立てさせたりしたくなかった。


私の愛しいアルレイシアとヘンリクの婚姻式はもう2週間後と迫っている。彼女もこれが結婚前の最後の夜会だろう。


相変わらずあの男は恋人にベッタリと張り付いている。周りからの失笑など気にも止めないかのようだった。

まだ婚姻前なのにも関わらずあの男に誰も何も言わないのは、式が済めば恋人との逢瀬を控えると本人が周囲に言っていたからだ。


だが彼女はそんな話は知らない。日に日にアルレイシアの表情が抜け落ちてくるのを見ているのはとても辛い。


「君の姿が会場に見えなかったから」


「フランツ様には、お恥ずかしい所ばかりお見せしてしまいますのね」


「君のような素晴らしい女性をこんなに悲しませるなんて許せない」


「・・・・婚姻式が済めば変わるものなのでしょう?男性はそういうものと伺いました」


「私には当てはまらないからね、なんとも言えないな」


「・・・・・・・・」


アルレイシアは悲しそうに瞳を潤ませ下を向いてしまった。




「アルレイシア嬢、こちらを向いて」


パカンとケースを開ければ、その音に反応してふと顔を上げる。



「・・・・お砂糖?」


「これはただの角砂糖じゃなく砂糖菓子。グラブス商会と共同で開発中なんだよ。これはその試作品」


小さな箱にはシンプルな六つの砂糖菓子、アルレイシアは困惑気味に私と箱を交互に見た。


「東国の砂糖菓子を真似ているんだ。お一つどうぞ?」

「・・・・・・」



婚姻を控えた女性が、異性と二人きりの時に差し出された食べ物を口にするなんて不用意な事は褒められた事じゃない。

知っていて、差し出した。

彼女の心の距離を図るために。


「・・・・貴重なものではありませんの?」

「まだ製品ではないから気にしないで」

「食べたわたくしが情報を漏らすとはお考えになりませんの?」

「君はそんな事しないし、仮にしたとしても作れないよ。東国からの特別な砂糖を使ってるからね?この国に入るほぼ全てをエリストロ家が独占してる」

「・・・・!?」

「ほら、口を開けて?」


私はひとつを手に取りアルレイシアの口元に差し出した。するとアルレイシアは慌て手で受けようとする。


「じ、自分でっ!」


「ほら、人が来てしまう。早く」


渡さない私の言葉に周囲に視線を回し、真っ赤になりながら小さく口を開けた。そっと口に入れると、柔らかな唇が指にあたりアルレイシアの体がビクリと跳ねた。


「~~~~~っ、!!」

「どう?美味しいかな?」

「・・・・・・・凄い、、、滑らかで、解けるように広がって、とても甘いのに、口の中に残らない。お砂糖とは全く違います」



驚き目を見開くアルレイシアが大変可愛らしい。



「もうひとつどうぞ?」


もうひとつ差し出すと、今度は躊躇いなく口を開けた。



頬に手を添えて幸せそうに目を細めてからすぐに顔を伏せてしまった。



「は、はしたない所をお見せしました」


「嬉しいよ、それだけ美味しいと言うことだね。もし良かったら後日アルレイシア嬢に贈らせてくれないかな」


「そ、れは・・・・婚姻のお祝いとしてでしたら喜んで」


「それは残念だな。アルレイシア嬢、またね」



アルレイシアは何かを言おうとしたが私は背中を向けた。私とはもうこうして会う気は無いのだろう。


でも言わせない。言わせないよアルレイシア。





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