悪役神子は徹底抗戦の構え

MiiKo

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恋人は決意する

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次の週末、行きつけのバーにはやつれてカウンターに突っ伏す勲美の姿があった。時刻は深夜2時。もうそろそろ閉店の時間なのだが、友人でもあるバーのマスターの好意で酒が提供されている。

「あんた、これは流石に飲み過ぎだわ。悪いこと言わないからもう水だけにしときな。」

ウイスキーのロックをダブルで頼もうとする勲美に、マスターは困ったように笑いながら告げる。彼女は勲美の高校時代からの親友で、勲美と涼貴の関係を知っている数少ない友人の一人でもあった。

「涼貴くん、まだ見つかってないんでしょ?警察がうちにも来て色々聞いてったよ。」
「ああ、一切足跡が辿れないんだ。警察では俺が涼貴をどっかにやって隠していると考えているらしい。」
「あーだから執拗にあんたちの関係を聞かれたのね。失礼だなとは思ったけど。」
「会社でも警察に呼ばれた人だってことで噂になってちょっと遠巻きにされてんだよ。」
「人の口に戸は立てられないからね。あんたも大変だね…。」

言いながらスッとグラスを差し出す。柑橘系の香りが爽やかなノンアルコールカクテルだ。

「ありがとう。」
「早く見つからなきゃ、あんたが死にそうだね。」
「この際俺が嫌で出て行っただけなら別にいいんだ。無事な姿が見られれば。今のままだと涼貴がどこかで危険な目に合っているんじゃないかって気が気じゃない。」
「そうね、私だって涼貴くんの笑顔を早く見たいわ。」

あ゛ーと頭を掻きむしってまた机に突っ伏し、今度は泣き出してしまった勲美をマスターは何とも言えない表情で見つめる。いい歳した大人なんだからしっかりしなさいと言ってしまうのは簡単だ。が、気持ちは痛いほどわかるのでそっと新たなグラスを差し出すだけに止めておく。高校時代から知っているこの大男が年下の男に一目ぼれし、あの手この手を使ってデートに誘い出しては距離を縮めていく過程を一番近くで見てきたのだ。一目惚れしてからというもの、ここに飲みに来るたびにその子の話をし、デートに行った次の日にはどれほど可愛くてカッコよかったかをひたすらに聞かせられた。こいつ男もいけたのかという驚きはあったものの、そんなことより長い付き合いで初めて見るような友人のデレデレとした顔が面白かったのでからかいついでに話を聞いてやっていたのだ。話を聞きすぎて、こっちまで会ったことのない涼貴にキュンキュンさせられてしまうくらいに。挙句、奥手な男に頼み込まれて誕生日やクリスマスのプレゼントを一緒に考えさせられ、告白のデートプランの予行演習に連れて行かれもした。ようやく二人が付き合い初めてこのバーに連れ立って来た時、喜びよりも先にようやく解放されるという安堵が来たのを今でも覚えている。

「涼貴くんが行きそうなところは全部当たってみたんだっけ?」
「うん、俺が会ったことのある知り合いには一通り聞いてみたし、何かあれば連絡してもらうように頼んだ。」
「実家とかは?」
「一人っ子で、親は日本にはいないはず。」
「え、そうだったの!」
「あいつに外国の血も流れてるのには何となく気付いていただろ?両親は国際結婚らしいんだけど離婚して母親が涼貴を連れて日本に帰ってきたらしい。その母親も一昨年亡くなっている。海外にいる父親はもう顔も覚えていないと言ってたから会いに行くとは思えない。」
「なるほどね…。ほんと、どこに行っちゃったのかな。」
「なんでいなくなったんだよ…俺のどこが悪かったのかなあ…」

勲美は酔っぱらって自信を無くしているようだが、マスターに言わせてみれば涼貴が勲美を嫌いになるなんてなるはずがない。確かに始まりは勲美からだったかもしれないが、涼貴が何度バーまでのろけに来たと思っているんだ。付き合いたての頃には、この男の預かり知らぬところで二人の関係性に嫉妬をした涼貴に詰め寄られたことだってある。涼貴だって勲美にベタ惚れだ。それを知っているからこそ、なおさら涼貴の身に何が起こったのか心配なのだ。

「涼貴くんはあんたのこと嫌になったりしないよ。そこだけは保証できる。だからあんたはシャキッとして涼貴くんを見つけることだけを考えなさい。」
「あぁ、すまん。ありがとう。」
「私も常連さんに聞いておいてあげるから。」

タクシーに乗って帰る友人の後姿は10年以上の付き合いで初めて見るくらいにしょぼくれていた。あんなになるまで自分を追い詰めていると、涼貴を見つける前に彼自身がダメになってしまうだろう。愛し合っている2人がこんな形で苦しむのは見ていられない。どうか、早く涼貴くんが見つかって、幸せそうな二人がまた見られますように。そう願いながら、マスターは店じまいを始めた。
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