眠れる森のホムンクルス

鼻眼鏡26号

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序章

歴史と目的

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 グルメの国グルス王国。
 そこは数多の食材が集まり食料が豊かな国。どんな料理も揃いあなたの舌を必ず満足させます。ただし食べ過ぎにはご注意を体重増加者が続出中。
 [グルス王国観光ガイドより一部抜粋]

「…お…美味しそ~」

「想像だけで涎垂らして実物見たら倒れんじゃねえか?」

「料理を前にした私は無敵だ。」

 グルス王国のガイド本を渡してからホムはずっとあの調子で涎を垂らしながら本を読んでいた。

「そういえばどこまで話しましたっけ?ユイトの目的と歴史を揺るがす新事実。」

「いや話してないけど。てか、本読んで涎垂らして何も聞いてなかっただろ。」

「だって美味しそうじゃないですか!!この料理に写真は!!」

「開き直るな素直に自分の非を認めなさい。自分の非も認めない器の小さい人にはなんの進歩もついてくる人もいないんだよ。」

「はーい…ごめんなさい。」

 ホムは自分の非を認めて謝ることができた。
 ホムはそっと本を閉じて水の入ったコップで喉を潤すと運転中のユイトに話しかける。

「それで、ユイトの目的は何?」

「それを話すにはまず俺の見てきた歴史を話す必要がある。」

 この国の歴史では、8人の異世界人が魔王を封印し平和を作った。しかし、錬金術師が裏切り他の異世界人に殺された。そして、その弟子である俺は逃げ出した……ってのが語られている歴史。

 俺の覚えてる限りあの状況では、1人の異世界人が残りの7人を圧倒している状況だった。
 その1人は現在アース王国国王、ケンジ。
 異世界人達をまとめあげるリーダーだった男だ。
 師匠が裏切り者と呼ばれるのは魔王の持ちかけた話に応じようとして他の異世界人達を仲間に引き入れた男としてケンジが師匠を自分に従わない男として認識されたからだと思う。
 師匠に持ちかけた話ってのは魔王は実はこの俺らの居る世界を統べる神であって世界を正して元の平和な世界にするというらしい。最初は流石に師匠も疑っていたがその魔王の力を見て確信を持った。そして他の異世界人達に呼びかけたんだけどケンジだけが賛同せず。対立する事になったんだ。

 他の異世界人達は多分力で押さえつけて服従させたが師匠は最後まで抵抗した事により殺されたんだ。
 俺は師匠が斬られる現場を見て逃げた事により逃亡者扱い。

 ここで俺の目的として最終的にはこのケンジを倒し師匠の名誉回復と魔王の復活だ。
 魔王の復活に必要なのは、7人の異世界人を殺して手に入る宝玉を集めてアース王国が管理する魔王が封印されている魔力の泉に宝玉を投げ入れる事。
 復活した魔王に元の平和な世界に戻してもらう事だな。

「ってのが俺の知ってる歴史と目的だな。」

「短い!…前回のあの言い方でめっちゃ語って1話使うかと思ったのにたったすぐに終わっちゃった!ここで話長すぎて私が寝るっていうオチまで用意してたのに!!」

「長々説明してたら時間の無駄だろ。」

「確かに無駄だけどさ~」

「まぁいいや、とりあえず7人の異世界人達を倒して宝玉集めるわけだけど、まずどこ向かうの?」

「ガイドブック渡したろ。グルメの国グルス王国。そこに居る王をぶっ殺すそれだけだ。」

「作戦とかは?」

「それはこれから。」

 どうやら無計画で突っ込むみたいだ。まぁ、いきなり敵陣に入るわけだしその国を見てから決めるのもアリだろう。まだ顔は割れていないのがこちらのアドバンテージなのだ。

「観光がてら国をよく見てみようぜ。」

「それにしてもありますかね?私の記憶。」

「あの棺に入っていたってことは俺と同じ千年前に生きてたって証拠だ。さっき棺の成分調べてわかったから確かだ。」

 ユイトは手に付着してた棺の成分から割り出したのだ。

「ふーん……って!千年!?ユイトいくつなの!?てかなんで生きてんの!?」

 あまりにしれっとユイトの口からとんでもないことが発せられ流石に驚いたホム。机を揺らしその上に置いていたコップの水が揺れる。

「ん?今年で1023歳だった気がする。」

「反応軽っ!何でそんな長生きなの?ユイトも転生して女神の祝福受けたの?」

 女神の祝福とは、異世界人に与えられるいわゆるチート能力で魔力とは違い神聖力というのを宿しており魔力の上位互換なのだ。その神聖力の力は対魔力特化型であり、神聖力は魔力を吸収して自身の神聖力に変換できるのだ。
 異世界人達が千年という長い間生き続けているのはこの神聖力のおかげである。彼らは魔力を持つ存在を殺めた時その存在の持つ魔力を吸収・変換として体の若さを維持しているのだ。

 だが、ユイトについてはそれに当てはまらなかった。

「女神の祝福は受けてない。それについて話すとなると俺の逃亡劇も話す事になるな。……あれは俺が逃亡者として逃げ回ってる時の話だ。」

 ユイトはしみじみ思い出すかのように上を向いた。
 運転中なのに。(運転中のよそ見は絶対にしないように。)
 ユイトは殺された師匠がよく言っていた事を思い出していた。
 当時、ユイトに師匠は自分が死んだ時にこの場所に墓を建ててほしいとよく言っていた場所があったのだ。逃亡者として当てがなかった当時としては最後の場所だった。
 向かった先は魔王との決戦の地である魔力の泉であった。

 魔王とはいえ墓が建てられておりその場に着いたその時。師匠に渡されていたこの腕輪が反応して異世界に行ける門が開いて俺はここではない別の世界に行っていた。
 んで、長生きなのはたくさんの世界の知識を得た結果身体の細胞を復活させる術を学んだ。
 これのおかげで俺限定であるが再生可能となった。

「…?…私治したじゃん。」

「正確にはリスク無しでの再生な。記憶なくなってるだろ?」

「確かに。」

 そんで、沢山の世界に渡って力をつけて勝てるようにずっと鍛錬し戻ったら千年経ってた。

「沢山の世界に渡ったのによく帰ってこれたね。」

「異世界の移動って打たれた釘に輪ゴムを通した状態と似てるんだ。異世界移動を引っ張った輪ゴムとして伸びきって我慢が限界だとはじかれてまた違う異世界。それを繰り返して最後は勢いがなくなり元の世界に戻って来る。いつどのタイミングで異世界移動が起きるのか全く分からなかった。だから戻ったら千年経ってた。」

「ふーん、じゃあこの見慣れない乗り物も他の世界に移動した事による知識なの?」

「そゆこと。というわけでこの車はこの世界で唯一であり最強の鉄の馬ってわけだ。この車だけで国の城壁は余裕で破壊できる。」

「他にも持ってきた知識はあるの?」

「あるけど、どれもこれも良いものばかりって訳じゃないから使うタイミングとか考えないといけない。…っと、今日はここで移動は終了だな。運転疲れた。」

 ユイトはゆっくりとキャンピングカーを停車してすぐさま夜営準備に取り掛かる。キャンピングカーの側面に付いている机や椅子を取り出し広げる。他にも側面に付いているガスコンロや調理器具もあるが今回はガスコンロだけである。

「”元素 青”」

 ユイトは指先に魔法陣を出しペットボトルから一滴水を出す。するとその水が少しずつ増幅し大きな水の塊になった。
 その水をヤカンに入れてガスコンロに火をつけて温める。

「さて、お湯があったまるまで休もうか。」

 屋外用の椅子に体を預けてゆっくりと上を向く。
 ホムも対面に座り机を挟んで座る。

「ユイトのその錬金術は異世界人のものとは違うの?」

「まぁ、そうだな。錬金術ってのは本来卑金属を金に変えるってところから来てるんだが、詳しくはよく知らないからそこら辺は調べて。んで、師匠が使ってた錬金術は女神の祝福から来てるんだけど神聖力を媒体として様々な物質に変換する。」

 ユイトは水の入ったカップで喉を潤す。

「師匠と違って女神の周囲である神聖力を持たないが俺の身体は特異体質らしいんだ。師匠の錬金術と比較してレベルは低いが俺もノーリスクで扱えるらしい。」

「生活する面ではかなり重宝するね。」

「生活する分にはね。…戦闘面としては大変だよ。師匠の錬金術はこの国の最高戦力100人分に匹敵するほどすごかった。まぁ仮にも魔王を封印したパーティに居たんだからな。それに対して俺は師匠の100分の1程度。先が思いやられる。」

「それでもこの国の最高戦力と肩並べるんだ。」

「そりゃあ千年生きてますから。」

 ピーーー!

 ヤカンのお湯が沸騰を告げる音を鳴らしてユイトは歩き出す。ユイトは手袋をしてゆっくりと持ち上げてカップに入った麺をお湯でほぐして3分待つ即席麺を作る。

「よし後3分。」

「これも美味しいけど他にないの?そろそろ飽きた毎食これだと特に。」

「初日で買い置いておいた食材全部食ったやつが何文句言ってやがる。後数日でお目当ての王国に着くんだ我慢しろ。」

 黒荊の森を出発後初日にして1ヶ月分の食料を食い尽くしたホムの胃袋をユイトは侮っていた。
 おかげさまで現在カップ麺で繋いでいた。

「ユイトは神聖力や魔力を持たないって言ってたけど生身に対してこの魔力が溢れてる世界は大丈夫なの?例えば魔力が魔力貯蔵器官を持たない人には有毒みたいなやつ。」

「いや、魔力に関しては人体に影響は無い、基本的無害だ。ただ、俺は生身だとそこら辺の子供と力が変わらなかったりする。」

「めちゃくちゃ弱いじゃん。」

「シンプルな言葉ほど鋭いものは無いな。魔力や神聖力ってのは基本は見えない鎧みたいなのを想像すればわかりやすいだろう、魔力が多ければより強固でより強力な力を使える。俺はそれに対抗するべくこの強化スーツ着てるわけです。」

 ユイトは上の服を脱いで中に来ていた黒色で青のラインが入ったスーツを着ていた。

「俺の弱点としては単純な力勝負の時と魔力に覆われた物質には錬金術が効かないって事かな。錬金術の基礎は理解だから理解したものにしか作用しないんだ。人の魔力ってのは一人一人性質が違うから魔力の構造は理解できないんだ。」

「結構欠陥がすごいや。大抵主役は他とは違う力持って俺強えぇぇみたいなのが主流なのにこの人弱体化してるし。」

「いやいや、俺強えぇぇ出来るし千年修行してるし、お?異世界人なんて一捻りだぞ。ああん?」

「そこは張り合わなくて大丈夫だから。認めなよ、ダサいな。」

 ホムとユイトはカップ麺を手に取り箸を持ち蓋を外し香ばしい香りを顔面に受けながら箸を進める。

「ついでにホム、お前も今の状態だと魔力ないぞ。身体構築してた時に調べたけど。一応それっぽい器官はあったからどっかで使えるようになるんじゃね?」

「ヘェ~そうなんだ。明日は味噌ラーメンかな。」

 ホムは特に驚くわけでもなくただ麺を啜る。
 という訳でグルス王国へ残り数日で到着する前のお話し。彼らの冒険の旅が今始まる。長い長い本当に長い旅が始まる。
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