151 / 411
第六章 対決する物語とハッピーエンド
絡新婦(じょろうぐも)とブラッドソーセージ(その0) ※全5部
しおりを挟むフェリーの旅は快適。
島原から熊本まで一時間もかからない。
「橙依おにいちゃん、きもちいーね」
「……うん」
僕たち大蛇の化身はある程度の寒さは平気だけど、蛇だけにやっぱり夏がいい。
真夏の潮風が身体を温めてくれる。
『まもなく、長洲港ターミナルです。市街地へのアクセスはバスまたはタクシーで長洲駅……』
長崎で緑乱兄さんと別れて、僕たちは熊本城観光へ進行中。
紫君が『おしろみたーい』って言ったから。
ふぅ
「おにいちゃん、どうしたの? おふねによった?」
「……なんでもない、平気」
僕が溜息をついたのは、フェリーで酔ったからじゃない。
隣に珠子姉さんがいないから。
京都の滞在が早めに終わるようだったら、僕たちの九州旅行に合流しないかと誘うつもりだったけど、そう上手くはいかないみたい。
『あははー、なりゆきで8月末までここに居ることになっちゃった』
なんて楽しそうに言ってたけど、そんなに酒呑童子とやらの家は居心地がいいのかな。
ううん、珠子姉さんが居るだけで、そこはきっと居心地が良い所になると思う。
だけど、その中に『僕も仲間にいーれて』なんて言えない。
仕方ない、熊本名産でも買って、新学期になったら珠子姉さんを誘おう。
「とーちゃくー」
そんな僕の心なんて知らずに、紫君はフェリーのタラップを降りる。
ここは熊本市から少し離れた玉名市の長洲港。
「……さて、どーする?」
「ボク、なにかたべたーい」
太陽は天中、今はお昼時。
そう言えば、お腹が空いた。
『いいですか! 九州は美味しいものが沢山ありますが、その中でもラーメンは外せません。九州ラーメンとひとくくりにしがちですが、北九、博多、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島とどれも特徴があります。中でも熊本ラーメンの起源とも言える玉名ラーメンは訪れるならば外さないで下さい。お土産は火の国ラーメンがいいです!』
僕は珠子姉さんの言葉を思い出す。
「……わかった。玉名ラーメンを食べよう」
「はーい」
『美味いラーメンの店が知りたきゃ、タクシー乗り場で聞きな。そのままタクシーに乗って案内してもらうといい』
昔聞いた緑乱兄さんのアドバイスに従い、僕たちはタクシー乗り場で聞く。
やれ、あっちの龍がいいだの、こっちの龍の方が旨いだの。
何だか龍にちなんだ店名が多かった。
ズッズッズズゥー
プハァ
僕たちは最後のスープを飲み干し、大きく息を吐き出す。
「おいしーい!」
「……いける」
この玉名ラーメンはトンコツスープをベースに焦がしニンニクがたっぷり、ジャンクな味。
身体がほんのりと火照るのはきっとニンニクのせい。
「ごちそーさま」
「……ごちそうさま。ちょっと道を教えてもらってもいい?」
「まいどありっ! よかよ、どこいきっしゃる」
「……熊本城へのバスか電車」
「ああ、それならバスの方がよか。駅前から熊本バスターミナルへのバスが出とるっしゃよ。降りたらすぐ城たい」
「……ありがと」
ラーメン屋のおじさんのアドバイスの通り、僕たちはバスに乗って熊本城へ。
快適な旅……のはずだった。
「……ねぇ、紫君も感じる?」
「うん、わかるよー」
バスの進行方向から、妖力を感じる。
しかもかなり強くて知り合いの妖力。
「……これ、藍蘭兄さんだよね?」
「そーだね」
『酒処 七王子』の荒事担当といえば、藍蘭兄さんと蒼明兄さん。
大抵は藍蘭兄さんだけで対処できるけど、手に負えなくなったら蒼明兄さん。
だけど、僕は藍蘭兄さんがピンチになった時を見たことがない。
めんどくさいから蒼明兄さんに押し付けている感じ。
その藍蘭兄さんが戦ってる!?
ピンポーン
『次、停まります』
僕が降車ボタンを押すとアナウンスが流れる。
「……降りるよ」
「あー、ボクがおしたかった~」
そんなことを言ってる場合じゃないって僕は言いたかったけど、そんな場合じゃない。
僕はバイパスから外れ、田んぼの用水路に駆け込む。
「……ここから跳ぶ」
「はーい」
僕の瞬間移動は僕と特定の場所か、僕と特定の誰かをつなげる亜空間回廊を創る妖力。
ここから今は誰も居ない『酒処 七王子』をつなげることも出来るし、珠子姉さんの所へつなげることも出来る。
ただし、特定の誰かは僕と過去に心を通わせた相手に限るけど。
以前、僕は藍蘭兄さんの心を読んだことがあるから、そこまで瞬間移動可能。
用水路に黒い大きな穴が開き、そこに僕らは突入。
パン!
空間を引き裂く音がして、僕は潮の香りのする崖に躍り出る。
「師匠のかたきぃー! かくごぉー!」
そこで僕が見たのは刀を振りかぶった侍。
「あら、橙依ちゃん。そこ、危ないわよ」
へ?
ポコン
「あたっ!?」
僕の頭に侍の刀が命中。
ちょっと痛い。
「ほら、いきなり出てくるからそうなっちゃうんじゃない。んもう、アタシが刃と勢いを殺さなかったら大ケガするとこだったわよ」
「……ごめん」
どうやったかはわからない。
だけど、藍蘭兄さんが僕を助けてくれたみたい。
「おのれぇー! 何度も何度も面妖な術を」
「んもう、もう諦めなさいよ。あなたじゃアタシの相手にならないわ。あなたの師匠の絡新婦と同じようにね」
「うるさい! 師匠を侮辱するなぁ!」
侍の手から白い糸が飛散。
だけど、それはすぐに落下。
「あー、かみふぶきー」
紫君はそれを拾い上げ、ビローンビローンと遊ぶ。
紙吹雪って言ってるけど、クラッカーから飛び出る紙リボンみたい。
「ねえ兄さん。どうしてこの侍に襲われてるの?」
「きっとアタシが魅力的だからよ。いやーん、このまま襲われちゃって、どんな風にされちゃうのかしら」
「ふざけるな! 俺は許さないぞ! 師匠を殺し尽くしたお前のことを!」
殺し尽くした!?
「お前のせいで、師匠は現世からも幽世からも消えた! 魂すら残さず消滅させたお前を俺は絶対に許さない!!」
血走った目で侍は兄さんを見る。
その怒りは本物。
僕はまだ嘘発見の術を身に着けてないけど、それが演技ではないことくらいわかる。
「別に許されなくてもいいわ。何度でも襲ってきなさい。そして、そのたびに返り討ちにしてア・ゲ・ル」
藍蘭兄さんが僕たちの前に一歩進み、その掌を侍に向かって伸ばす。
ゴウッ
「うわっ!?」
「かぜつよーい」
僕たちの隣を突風が疾る。
その風は風圧の塊となり、侍を吹き飛ばす。
ううん、ぶっ飛ばす。
ゴッ
硬いものがぶつかる音が聞こえる。
侍の身体が防風林にぶつかる音。
「くっ!? くそっ、おぼえておれ! いつか必ず、お前の首をここに! 師匠の墓前に供えてやる!」
木の根元から土煙が飛び、それが潮風に払われた時には、侍の姿は消えていた。
「あー、にげたー」
「いいのよ別に。それよりあなたたちも旅行?」
「そーだよ。これからおしろに行くの」
「あら、アタシと一緒ね。じゃ、一緒に熊本城に行きましょ」
藍蘭兄さんはいつもの調子で話すけど、僕の心には疑念。
”殺し尽くした”
あの侍の言ったこの言葉の意味、それは死なないはずの”あやかし”を滅したということだろうか。
「……待って藍蘭兄さん。聞きたいことがある」
「ああ、さっきの術? あれはね、地の利と浜の潮風を活かしただけよ」
「……違う。あの侍が言ってた通り、兄さんがあの侍の師匠を殺したの?」
兄さんの言ってた通り、その師匠が絡新婦なら、”あやかし”であることは間違いないはず。
「そうよ殺したわ」
それが何か? とばかりに兄さんは言う。
…
……
僕の視線と兄さんの視線が見つめ合い、そして数秒が経過。
ふぅ
兄さんが視線を逸らし、溜息をひとつ。
「わかったわよ。ちゃんと説明……、ううん、この場合、真実を伝えた方がいいわね。誤解がないように。いいわよ、アタシの心を読みなさい」
「……いいの?」
「だから、いいってば」
僕の”心を読む能力”は覚とは違い、相手の同意が必要。
実はこの制限は秘密。
珠子姉さんと緑乱兄さんは『『いつでも読んでいい』』って言ってくれたから、好きな時に読めるけど、藍蘭兄さんは違う。
僕が昔、藍蘭兄さんの心を読んだ時、兄さんが言ったのがこの台詞。
『アタシの心を読んでいいわ。でも今だけよ。次に聞きたくなったら、ちゃんと許可を取りなさい』
だから僕は藍蘭兄さんの心を自由に読めない。
その時の僕の質問は『僕のこと好き?』。
返事は『あたり前でしょ。家族ですもの』。
嬉しかった。
だから僕は藍蘭兄さんのことを信頼している。
そして今も、藍蘭兄さんは僕に真実を伝えようとしている。
やっぱり藍蘭兄さんは、僕のことを大切に思ってくれてるんだ。
「……ありがと、じゃあ読むよ」
「ええ、アタシは数日前に熊本に着いて、その時に考えていた過去の出来事を思い出すわ。アタシが彼女を殺した時のことよ」
やっぱり殺しているんだ。
でも、きっと理由があるんだよね。
家族や珠子姉さんのような気に入った相手以外の命をどうでもいいなんて思ってないよね。
妖力を集中させ、僕は藍蘭兄さんの心の旅に出る。
……そして、僕は後悔した。
この数分後、
「オッオェェェェェェェェー」
僕は吐いた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる