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第八章 動転する物語とハッピーエンド
馬鹿と馬方蕎麦(その1) ※全8部
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僕たち”あやかし”につきものなのが性。
運命とも言う。
それは、天邪鬼が天邪鬼な行動を取ったり、覚が物語の最期に”うひゃー、人間の世界はおそろしい”って迎える結末。
運命を変えようとする”あやかし”は多いけど、それを変えるのは難しい、ううん、かなり無理。
夏休みが終わり、休み明けのテストも越えて、僕たちが迎えるのは学園祭。
僕の通う”あやをかし学園”の学園祭には伝統がある。
それは学園祭の人気投票で一位になった展示の生徒は、全校生徒と学園関係者から熱烈な称賛を受けるという伝統。
要するに先生と生徒から褒めちぎられるわけ。
……適当にやろう。
今回の話は、その学園祭の時期に起きた出来事。
隣のA組に3体の転校生がやって来たのが発端。
東北地方からの転校生でその正体は”あやかし”。
鎌鼬の三姉妹。
苗字は鎌井。
いつも三体で行動しているので、生徒からは”鎌井さんたち”って呼ばれている。
安直。
東北は美人が多いって噂の通り、この鎌井さんたちの人間の姿も美女……らしい。
”あやかし”の間でも、その正体のイタチ姿は色白で綺麗……らしい。
僕にはよくわからないけど。
そもそも、外見で区別するのは良くない。
誰かを好きになるなら重要なのは外見ではなく心。
そう思うよね、珠子姉さん。
あれ? なんか機嫌悪い?
僕の名は橙依。
八岐大蛇と祝詞の女神の子。
”あやかし”の恋物語はハッピーエンドを迎えないという運命への反逆者。
◇◇◇◇
「拙者、恋をしてしまったでござる」
まだ残暑が続く10月上旬、僕たちが屋上で昼食を取っている時にそれは発生。
発言の主は僕の友達、雷獣の渡雷 十兵衛。
「予定調和だな。そういうのは心に秘めるべきじゃないか」
購買の弁当を食べながら天邪鬼の天野 孔雀が発言。
彼のお昼は購買弁当と彼女の手作り弁当の交互メニュー。
天邪鬼だから『購買弁当おいしかった? 明日も食べたい?』って聞かれると、『明日はお前の手作り弁当がいい』と応え、『あたしのお弁当おいしかった? 明日も作ってきていい?』って聞かれると『いやだ、明日は購買で食べる』という展開の結果がそれ。
「そうでござるが、ここに覚の佐藤殿がいれば、拙者の恋心なんてバレバレでござるからな。なれば心を開くのも当然の流れでござろう」
矛先の向いた覚こと佐藤 李の昼食はいかめし弁当、駅弁。
佐藤は”俺だけ普通とは違う弁当を食べるのがカッコいい”って思ってる中二病発症者。
そうなった原因は珠子姉さんと僕。
ま、佐藤が楽しそうだからいいけど。
「……相手は誰?」
「またまた~、佐藤殿と橙依殿はわかっているでござろう。心を読む能力があるのでござるから」
渡雷はそう言うけど、僕の相手の許可があった時に限りその心が読める真心参拝は非・常時発動型。
常時発動型なのは佐藤の方。
だから渡雷の恋の相手はわからない。
それにいつも読んでいいって許可もないし。
その許可を得ているのは珠子姉さんと天野と佐藤。
佐藤の心を読めばわかるけど、神力の消費がもったいないので節約中。
「知ってるぜ、転入生の鎌鼬、スラッシュ三太夫だろ」
佐藤の台詞の意味は切り裂くと、芸女を意味する太夫、それが3体で”SLASH三太夫”。
その言い方はどうかと思う。
頭がバケツの柔道ロボがネタだなんて、きっと誰もわからない。
「お前だけにわかればいいのさ。それとも風切三姉妹って方がいいか?」
その三代目ヨーヨー使いの姉妹も誰もわからないと思う、僕以外には。
「佐藤殿、鎌井さんたちに変なあだ名を付けないで欲しいでござるよ。それに彼女たちは東北出身でござるから、九州出身のスケバンとは違うでござるよ」
渡雷が微妙にわかってそうなのが困る。
「……それで、鎌井さんたちの誰が好きなの?」
「話上手な長女さんも、切れ者の次女さんも、癒し系の三女さんも、どれも魅力的でござるが、やっぱり一番の美女の長女の白美人さんでござる。その白い毛をスリスリしたいでござる!」
「……だめだこりゃ」
「ひどいでござる! 拙者は正直に言っただけでござるよ。あの美しい毛並みを見たら、誰だってスリスリしたくなるでござる!」
うん、正直過ぎてきっと相手は引く。
「気に入った! 渡雷、俺がお前の恋の応援をしてやるぜ!」
話を適当そうに聞いていた天野が急に目を輝かせながら言う。
「本当でござるか、天野殿!? いやぁ、拙者は良き友を持ったでござる」
「ああ、俺が鎌井さんたちを放課後裏庭に呼び出すから、そこで告白といこうぜ!」
天邪鬼の天野がこう言うからには、きっとその真意は逆。
嫌な予感。
◇◇◇◇
この”あやをかし学園”の裏庭にはちょっとした術が掛けられていて、普通の人間は近づかない。
だから、ここでは”あやかし”たちは開放的になるんだけど、今日の僕たちは草むらに潜伏中。
渡雷を除いて。
天野が言うには、鎌井さんたちは放課後いつもここに来るという話。
その話の通り、彼女たちが来訪。
確か、右の切れ長の目をしたスレンダーな女の子が次女の鎌井 恋太刀。
左の少しほんわかした癒し系の子が三女の鎌井 伊豆奈。
そして、中央の色白の美女という噂の子が長女の鎌井 白美人だったはず。
「あら? 今日はいつもの馬鹿とは違いますわね」
「姉貴の腐れ縁も切れたんじゃねえか」
「そ、そんなことないです。今日はたまたまです」
噂では鎌井さんたち三姉妹はいつも一緒。
今日も例外じゃない。
「拙者の名は渡雷 十兵衛。単刀直入に申す。白美人殿、拙者とねんごろになって欲しいでござる!」
鎌井さんたちの前で渡雷の口から古風で直線的な告白が発射。
「お断りですわ」
「流石は姉貴、バッサリと切るねぇ」
「ご、ごめんなさい。姉様はある方以外とはお付き合いしないんです」」
そして撃沈。
「その方とはどなたでござるか? 拙者も認めるほどの男であれば諦めも着くでござるが、そうでなければ拙者と付き合って欲しいでござる」
「それは……昨今の妖怪王争いで危機に陥った東北地方解放の立役者とだけ言っておきましょうか」
「東西きっての盾役者さ」
「ひ、ヒントはここまでです~。あとはご想像にお任せします」
それはきっと蒼明兄さん。
妖怪王候補、東北地方の”あやかし”たちを囚えていた迷い家を操っていた串刺し入道は、蒼明兄さんに倒されたって珠子姉さんから聞いた。
鎌鼬は東北の”あやかし”。
鎌井さんたちが9月に転入してきたのは、きっと迷い家の虜囚だったから。
「ところで、あの馬鹿はまだですの?」
「心配無用だぜ姉貴、あいつは切っても切れないやつだからよ」
「き、きますよ。ほら!」
伊豆奈さんの指の先には土煙。
「いとしの白美人さーん! オラがきょうもきたズラよ~!!」
そして大声。
肘を直角に上下に、首を左右にバタバタ動かしながら来る姿は滑稽。
例えるなら……
「80年代ギャグ漫画走り」
「……そうそれ」
僕の心を読んだ佐藤が代弁。
「一日ぶりですわね、馬鹿」
「白美人さんはきょうもうつくしいズラ。それにオラをあいくるしいでしょうでよんでくれるなんてうれしいズラ」
「愛称」
「……そうそれ」
佐藤と僕の心が以心伝心。
「それではうけとってほしいズラ! きょうのオラのこくはくを!」
「おあいにくさま。今日は別の方から告白をいただきましたの」
「ジュテーム、ジュテーム、ゴーゴーのすきだべ!」
「あたくしの話を聞いてまして!? このお馬鹿!!」
フランス語とも英語とも日本語ともつかない愛の告白に白美人さんは罵倒。
ここまで特徴があれば彼の正体は明白。
彼の正体は”馬鹿”、愉快でおバカな”あやかし”、出典『百鬼夜行絵巻』。
どんな妖力を持っているかは不明。
「待つでござるよ! 今は拙者の告白の時でござるよ!」
「おおっ!? それはこれはしらなんだ! つまりオラとアンタはラ、ラ、ラではじまってルでおわるかんけいズラね!」
「そうでござる! つまり、拙者と汝は!」
「ら、ランドセル!」
「「ピッカピカの、ヘイ! いっちねんせい!」でござる!」
伊豆奈さんのボケにノリノリのふたり。
「違う違う! ほら! ラで始まってルで終わる!」
「ら、ら、ラッセル!」
「なんだか無性に!」
「地面を掘りたくなるでござる!」
そう言ってふたりはガガガガと地面と採掘。
前言撤回、ひょっとしたら相手を馬鹿にする妖力があるのかも。
「違う違う違う! あれでござる! ラではじまってルで終わるといえば!」
「ら、ら、ら、ラスカル!」
「「キュ、キュキュー」」
「森へお帰りあそばせ」
野生に戻った渡雷と馬鹿が草むらの僕達へ吶喊。
やばっ!?
ガサガサッドーン
急なふたりの衝突に僕らの姿が露呈。
「あらやだ、趣味の悪い方が3名も増えましたわ」
「出刃亀とは、いい趣味してんな」
「に、二姉さま。きっと誤字ってると思います。出歯亀だと思います」
もつれて転ぶ僕達の姿を鎌井さんたちが見下ろす。
赤好兄さんが持っていたグラビアで見たような構図。
「あら? あなたは確か……『酒処 七王子』の赤好さんと蒼明様の弟でしたっけ?」
「そうだよ、名は橙依」
「切れ者の兄貴とは違ってどんくさそうだな」
「そ、そんな言い方悪いですよ。あれでも妖怪王候補のひとりなんですから」
へ? なにそれ?
僕は妖怪王候補になんてなった覚えないんだけど?
「そうだぜ! この橙依こそがあの酒呑童子に一泡吹かせた妖怪王候補のひとりさ!」
「吹かせたのはビールの泡でござるがな」
ああそう、君たちね。
というか主に天野の仕業。
この前、僕は酒呑童子との飲み比べ勝負に勝利。
その後、僕を妖怪王候補になんて話があって、僕は『お断りします』としたんだけど、そんな状況を天邪鬼の天野がほっとくはずがない。
いつのまにか僕は妖怪王候補のひとりになってたってわけね。
「そうですの……、そして無謀にもあたくしに告白してきた渡雷さんは蒼明様の弟さんの友人ってところかしら」
「その通りでござる! 拙者と橙依殿は親友でござるよ」
渡雷の返事を聞いて白美人さんは思案。
「わたくしと付き合いたいという話ですけど、わたくしこれでもお高くってよ。それなりの男でないと釣り合いませんわ」
「……何が言いたいの?」
「わたくしと付き合いたいなら、それなりの実績を見せてくださらないと。そうですわね。次の学園祭で最優秀を取ったら、その方と付き合ってあげてもよろしくってよ」
学園祭はクラスの他にクラブや有志での展示申請が可能。
もちろん、その展示への投票が最多であったら、みんなに褒めちぎられる特典を獲得。
どうやら、白美人さんは言ってるらしい、僕達に何か出展して最優秀を取れと。
「本当でござるか!?」
「本当ズラか!?」
白美人さんと付き合えるという特典にふたりの目が輝く。
「……だが断る」
「あら、東北地方在住の架空漫画家みたいなことをおっしゃいますのね。どうしてかしら?」
「……付き合うってのは対等、もしくは互いを尊重する形でするもの。付き合ってあげるだなんて失礼」
「橙依殿! 拙者のことをそこまで考えて! 拙者は感動でござる! しかし! その心遣いだけで結構でござる! どんな形でも美女の白美人さんと付き合えれば万事オッケーでござるよ!」
渡雷……ちょっと節操が無くない?
「いいですわ。蒼明様の弟さんの言う事にも一理あります。『最優秀を取ったら付き合って』これでどうかしら?」
「姉貴ってば後半部分をバッサリと切ったねぇ」
「ね、姉様ってはだいたーん」
「……それならいい」
それだけだったら、なおいい。
「ですが」
ほらきた。
「わたくしだけ条件があるのも不公平じゃありません?」
「……何か僕達にも条件があるの?」
「ええ、もし最優秀を取れなかったら、蒼明様にわたくしたちを紹介して下さらない? わたくしたち、蒼明様の親衛隊になりたいんですの」
「……紹介だけならいい。親衛隊になれるかは鎌井さんたち次第」
無理だと思う。
蒼明兄さんは単独行動を好む、親衛隊なんて持たない。
というか、誰もついてけない。
「よろしくってよ。それでは約束致しましたからね。恋太刀、伊豆奈、さ、いきましょう」
「申請は明日までだぜ。締め切りに遅れるなよ」
「で、では失礼いたちます」
ビュっと一陣の風が流れ、風のような速さで鎌井さんたちは消えていった。
「橙依殿! 拙者のためにありがとうでござる!」
「で、どうやって最優秀を取るつもりだ? ま、お前ひとりで大丈夫だろうがな」
天野がそう言うってことは、協力してくれるってこと、持つべきものは友達。
「どうせまた珠子さんを頼るんだろ。ま、それが目標達成への近道だけどな」
「……うん、部外者の力を借りちゃいけないってルールはない」
学園祭の来場者の半分くらいは”あやかし”。
その中には珠子姉さんの料理のファンも多数。
珠子姉さんプロデュースの料理を出店すれば勝利の目は高い。
馬鹿はどうするつもりかな。
「おもいだしたズラ! ライバルずら! これからはきみたちとは、がくえんさいさいゆうしゅうをあらそうライバル! たいけつをたのしみにしているズラよ! まけないズラ~!」
どうするつもりなんて考えていない、そんな愉快な語尾を残して馬鹿は去っていった。
まあいいや、”馬鹿はほっとけ”という格言もあるから、ほっとこう。
運命とも言う。
それは、天邪鬼が天邪鬼な行動を取ったり、覚が物語の最期に”うひゃー、人間の世界はおそろしい”って迎える結末。
運命を変えようとする”あやかし”は多いけど、それを変えるのは難しい、ううん、かなり無理。
夏休みが終わり、休み明けのテストも越えて、僕たちが迎えるのは学園祭。
僕の通う”あやをかし学園”の学園祭には伝統がある。
それは学園祭の人気投票で一位になった展示の生徒は、全校生徒と学園関係者から熱烈な称賛を受けるという伝統。
要するに先生と生徒から褒めちぎられるわけ。
……適当にやろう。
今回の話は、その学園祭の時期に起きた出来事。
隣のA組に3体の転校生がやって来たのが発端。
東北地方からの転校生でその正体は”あやかし”。
鎌鼬の三姉妹。
苗字は鎌井。
いつも三体で行動しているので、生徒からは”鎌井さんたち”って呼ばれている。
安直。
東北は美人が多いって噂の通り、この鎌井さんたちの人間の姿も美女……らしい。
”あやかし”の間でも、その正体のイタチ姿は色白で綺麗……らしい。
僕にはよくわからないけど。
そもそも、外見で区別するのは良くない。
誰かを好きになるなら重要なのは外見ではなく心。
そう思うよね、珠子姉さん。
あれ? なんか機嫌悪い?
僕の名は橙依。
八岐大蛇と祝詞の女神の子。
”あやかし”の恋物語はハッピーエンドを迎えないという運命への反逆者。
◇◇◇◇
「拙者、恋をしてしまったでござる」
まだ残暑が続く10月上旬、僕たちが屋上で昼食を取っている時にそれは発生。
発言の主は僕の友達、雷獣の渡雷 十兵衛。
「予定調和だな。そういうのは心に秘めるべきじゃないか」
購買の弁当を食べながら天邪鬼の天野 孔雀が発言。
彼のお昼は購買弁当と彼女の手作り弁当の交互メニュー。
天邪鬼だから『購買弁当おいしかった? 明日も食べたい?』って聞かれると、『明日はお前の手作り弁当がいい』と応え、『あたしのお弁当おいしかった? 明日も作ってきていい?』って聞かれると『いやだ、明日は購買で食べる』という展開の結果がそれ。
「そうでござるが、ここに覚の佐藤殿がいれば、拙者の恋心なんてバレバレでござるからな。なれば心を開くのも当然の流れでござろう」
矛先の向いた覚こと佐藤 李の昼食はいかめし弁当、駅弁。
佐藤は”俺だけ普通とは違う弁当を食べるのがカッコいい”って思ってる中二病発症者。
そうなった原因は珠子姉さんと僕。
ま、佐藤が楽しそうだからいいけど。
「……相手は誰?」
「またまた~、佐藤殿と橙依殿はわかっているでござろう。心を読む能力があるのでござるから」
渡雷はそう言うけど、僕の相手の許可があった時に限りその心が読める真心参拝は非・常時発動型。
常時発動型なのは佐藤の方。
だから渡雷の恋の相手はわからない。
それにいつも読んでいいって許可もないし。
その許可を得ているのは珠子姉さんと天野と佐藤。
佐藤の心を読めばわかるけど、神力の消費がもったいないので節約中。
「知ってるぜ、転入生の鎌鼬、スラッシュ三太夫だろ」
佐藤の台詞の意味は切り裂くと、芸女を意味する太夫、それが3体で”SLASH三太夫”。
その言い方はどうかと思う。
頭がバケツの柔道ロボがネタだなんて、きっと誰もわからない。
「お前だけにわかればいいのさ。それとも風切三姉妹って方がいいか?」
その三代目ヨーヨー使いの姉妹も誰もわからないと思う、僕以外には。
「佐藤殿、鎌井さんたちに変なあだ名を付けないで欲しいでござるよ。それに彼女たちは東北出身でござるから、九州出身のスケバンとは違うでござるよ」
渡雷が微妙にわかってそうなのが困る。
「……それで、鎌井さんたちの誰が好きなの?」
「話上手な長女さんも、切れ者の次女さんも、癒し系の三女さんも、どれも魅力的でござるが、やっぱり一番の美女の長女の白美人さんでござる。その白い毛をスリスリしたいでござる!」
「……だめだこりゃ」
「ひどいでござる! 拙者は正直に言っただけでござるよ。あの美しい毛並みを見たら、誰だってスリスリしたくなるでござる!」
うん、正直過ぎてきっと相手は引く。
「気に入った! 渡雷、俺がお前の恋の応援をしてやるぜ!」
話を適当そうに聞いていた天野が急に目を輝かせながら言う。
「本当でござるか、天野殿!? いやぁ、拙者は良き友を持ったでござる」
「ああ、俺が鎌井さんたちを放課後裏庭に呼び出すから、そこで告白といこうぜ!」
天邪鬼の天野がこう言うからには、きっとその真意は逆。
嫌な予感。
◇◇◇◇
この”あやをかし学園”の裏庭にはちょっとした術が掛けられていて、普通の人間は近づかない。
だから、ここでは”あやかし”たちは開放的になるんだけど、今日の僕たちは草むらに潜伏中。
渡雷を除いて。
天野が言うには、鎌井さんたちは放課後いつもここに来るという話。
その話の通り、彼女たちが来訪。
確か、右の切れ長の目をしたスレンダーな女の子が次女の鎌井 恋太刀。
左の少しほんわかした癒し系の子が三女の鎌井 伊豆奈。
そして、中央の色白の美女という噂の子が長女の鎌井 白美人だったはず。
「あら? 今日はいつもの馬鹿とは違いますわね」
「姉貴の腐れ縁も切れたんじゃねえか」
「そ、そんなことないです。今日はたまたまです」
噂では鎌井さんたち三姉妹はいつも一緒。
今日も例外じゃない。
「拙者の名は渡雷 十兵衛。単刀直入に申す。白美人殿、拙者とねんごろになって欲しいでござる!」
鎌井さんたちの前で渡雷の口から古風で直線的な告白が発射。
「お断りですわ」
「流石は姉貴、バッサリと切るねぇ」
「ご、ごめんなさい。姉様はある方以外とはお付き合いしないんです」」
そして撃沈。
「その方とはどなたでござるか? 拙者も認めるほどの男であれば諦めも着くでござるが、そうでなければ拙者と付き合って欲しいでござる」
「それは……昨今の妖怪王争いで危機に陥った東北地方解放の立役者とだけ言っておきましょうか」
「東西きっての盾役者さ」
「ひ、ヒントはここまでです~。あとはご想像にお任せします」
それはきっと蒼明兄さん。
妖怪王候補、東北地方の”あやかし”たちを囚えていた迷い家を操っていた串刺し入道は、蒼明兄さんに倒されたって珠子姉さんから聞いた。
鎌鼬は東北の”あやかし”。
鎌井さんたちが9月に転入してきたのは、きっと迷い家の虜囚だったから。
「ところで、あの馬鹿はまだですの?」
「心配無用だぜ姉貴、あいつは切っても切れないやつだからよ」
「き、きますよ。ほら!」
伊豆奈さんの指の先には土煙。
「いとしの白美人さーん! オラがきょうもきたズラよ~!!」
そして大声。
肘を直角に上下に、首を左右にバタバタ動かしながら来る姿は滑稽。
例えるなら……
「80年代ギャグ漫画走り」
「……そうそれ」
僕の心を読んだ佐藤が代弁。
「一日ぶりですわね、馬鹿」
「白美人さんはきょうもうつくしいズラ。それにオラをあいくるしいでしょうでよんでくれるなんてうれしいズラ」
「愛称」
「……そうそれ」
佐藤と僕の心が以心伝心。
「それではうけとってほしいズラ! きょうのオラのこくはくを!」
「おあいにくさま。今日は別の方から告白をいただきましたの」
「ジュテーム、ジュテーム、ゴーゴーのすきだべ!」
「あたくしの話を聞いてまして!? このお馬鹿!!」
フランス語とも英語とも日本語ともつかない愛の告白に白美人さんは罵倒。
ここまで特徴があれば彼の正体は明白。
彼の正体は”馬鹿”、愉快でおバカな”あやかし”、出典『百鬼夜行絵巻』。
どんな妖力を持っているかは不明。
「待つでござるよ! 今は拙者の告白の時でござるよ!」
「おおっ!? それはこれはしらなんだ! つまりオラとアンタはラ、ラ、ラではじまってルでおわるかんけいズラね!」
「そうでござる! つまり、拙者と汝は!」
「ら、ランドセル!」
「「ピッカピカの、ヘイ! いっちねんせい!」でござる!」
伊豆奈さんのボケにノリノリのふたり。
「違う違う! ほら! ラで始まってルで終わる!」
「ら、ら、ラッセル!」
「なんだか無性に!」
「地面を掘りたくなるでござる!」
そう言ってふたりはガガガガと地面と採掘。
前言撤回、ひょっとしたら相手を馬鹿にする妖力があるのかも。
「違う違う違う! あれでござる! ラではじまってルで終わるといえば!」
「ら、ら、ら、ラスカル!」
「「キュ、キュキュー」」
「森へお帰りあそばせ」
野生に戻った渡雷と馬鹿が草むらの僕達へ吶喊。
やばっ!?
ガサガサッドーン
急なふたりの衝突に僕らの姿が露呈。
「あらやだ、趣味の悪い方が3名も増えましたわ」
「出刃亀とは、いい趣味してんな」
「に、二姉さま。きっと誤字ってると思います。出歯亀だと思います」
もつれて転ぶ僕達の姿を鎌井さんたちが見下ろす。
赤好兄さんが持っていたグラビアで見たような構図。
「あら? あなたは確か……『酒処 七王子』の赤好さんと蒼明様の弟でしたっけ?」
「そうだよ、名は橙依」
「切れ者の兄貴とは違ってどんくさそうだな」
「そ、そんな言い方悪いですよ。あれでも妖怪王候補のひとりなんですから」
へ? なにそれ?
僕は妖怪王候補になんてなった覚えないんだけど?
「そうだぜ! この橙依こそがあの酒呑童子に一泡吹かせた妖怪王候補のひとりさ!」
「吹かせたのはビールの泡でござるがな」
ああそう、君たちね。
というか主に天野の仕業。
この前、僕は酒呑童子との飲み比べ勝負に勝利。
その後、僕を妖怪王候補になんて話があって、僕は『お断りします』としたんだけど、そんな状況を天邪鬼の天野がほっとくはずがない。
いつのまにか僕は妖怪王候補のひとりになってたってわけね。
「そうですの……、そして無謀にもあたくしに告白してきた渡雷さんは蒼明様の弟さんの友人ってところかしら」
「その通りでござる! 拙者と橙依殿は親友でござるよ」
渡雷の返事を聞いて白美人さんは思案。
「わたくしと付き合いたいという話ですけど、わたくしこれでもお高くってよ。それなりの男でないと釣り合いませんわ」
「……何が言いたいの?」
「わたくしと付き合いたいなら、それなりの実績を見せてくださらないと。そうですわね。次の学園祭で最優秀を取ったら、その方と付き合ってあげてもよろしくってよ」
学園祭はクラスの他にクラブや有志での展示申請が可能。
もちろん、その展示への投票が最多であったら、みんなに褒めちぎられる特典を獲得。
どうやら、白美人さんは言ってるらしい、僕達に何か出展して最優秀を取れと。
「本当でござるか!?」
「本当ズラか!?」
白美人さんと付き合えるという特典にふたりの目が輝く。
「……だが断る」
「あら、東北地方在住の架空漫画家みたいなことをおっしゃいますのね。どうしてかしら?」
「……付き合うってのは対等、もしくは互いを尊重する形でするもの。付き合ってあげるだなんて失礼」
「橙依殿! 拙者のことをそこまで考えて! 拙者は感動でござる! しかし! その心遣いだけで結構でござる! どんな形でも美女の白美人さんと付き合えれば万事オッケーでござるよ!」
渡雷……ちょっと節操が無くない?
「いいですわ。蒼明様の弟さんの言う事にも一理あります。『最優秀を取ったら付き合って』これでどうかしら?」
「姉貴ってば後半部分をバッサリと切ったねぇ」
「ね、姉様ってはだいたーん」
「……それならいい」
それだけだったら、なおいい。
「ですが」
ほらきた。
「わたくしだけ条件があるのも不公平じゃありません?」
「……何か僕達にも条件があるの?」
「ええ、もし最優秀を取れなかったら、蒼明様にわたくしたちを紹介して下さらない? わたくしたち、蒼明様の親衛隊になりたいんですの」
「……紹介だけならいい。親衛隊になれるかは鎌井さんたち次第」
無理だと思う。
蒼明兄さんは単独行動を好む、親衛隊なんて持たない。
というか、誰もついてけない。
「よろしくってよ。それでは約束致しましたからね。恋太刀、伊豆奈、さ、いきましょう」
「申請は明日までだぜ。締め切りに遅れるなよ」
「で、では失礼いたちます」
ビュっと一陣の風が流れ、風のような速さで鎌井さんたちは消えていった。
「橙依殿! 拙者のためにありがとうでござる!」
「で、どうやって最優秀を取るつもりだ? ま、お前ひとりで大丈夫だろうがな」
天野がそう言うってことは、協力してくれるってこと、持つべきものは友達。
「どうせまた珠子さんを頼るんだろ。ま、それが目標達成への近道だけどな」
「……うん、部外者の力を借りちゃいけないってルールはない」
学園祭の来場者の半分くらいは”あやかし”。
その中には珠子姉さんの料理のファンも多数。
珠子姉さんプロデュースの料理を出店すれば勝利の目は高い。
馬鹿はどうするつもりかな。
「おもいだしたズラ! ライバルずら! これからはきみたちとは、がくえんさいさいゆうしゅうをあらそうライバル! たいけつをたのしみにしているズラよ! まけないズラ~!」
どうするつもりなんて考えていない、そんな愉快な語尾を残して馬鹿は去っていった。
まあいいや、”馬鹿はほっとけ”という格言もあるから、ほっとこう。
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