異世界人類を現代知識チートで導け!

相田 彩太

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第三章 ここは彼方の理想郷

その3 これは! うかつな!

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 「みな、よく聞け! あれはおっぱいではない! 偽乳にせちちだ! 神がそう言うのである! 勇気を持って立ち向かうのだ!」

 いったい俺は何を言っているんだ…… 
 
 「あれは偽乳にせちちなるぞ-!」
 「そうだったのか!! ならば、おそるる事など何もない!」

 こいつらも何を言っているんだろう……
 いや、ヤーもこいつらも真面目に俺の教えを守っていただけなのか。
 ならば、その心意気に応えねば男ではない 。
 こういう時、男の取るべき行動はひとつしかない。
 そう、ジャンピングドロップキックだ!

 ゴイン!
 
 俺はトカゲ人の盾へのドロップキックの反動を利用してちゅうに舞い、最前列の内側に着地する。

 「防御ー!」

 俺の叫びと共に、一夜漬けで訓練をした兵士が、盾を地面に突き、壁にする。

 キシャ―!
 ドンドン! ゴンゴン!

 トカゲ人は奇声を上げその盾を剣で叩くが、その盾は壊れない。
 所々を金属で補強した戸板の盾は意外に頑丈だ。
 木の部分で勢いを削がれた剣は中心の青銅の部分で止まる。
 挟まって動かなくなるケースもある。
 そして、少し斜めになった盾を乗り越えようとするトカゲ人は、二列目の兵の槍に突かれるのだ。
 だが、これは長くは続かない。
 俺達は最前列を長く取り、兵の厚みを失わせている。
 数で負けている分、しょうがないのだ。
 逆に兵の厚みで勝るトカゲ人は、最前列が槍に倒れても、次から次へと襲ってくるのだ。
 
 「持ちこたえよ! あと少しだ!」

 俺は叫び、自ら槍を手に応戦する。
 そして、それは、本当にあと少しだった。
 トカゲ人の左右斜め後方から矢が飛んで来たのだ。

 ギャ! ギュギャ! 

 予期せぬ後方からの攻撃に何人かのトカゲ人が倒れる。
 攻撃の主はもちろん、モモ―とガルガーの部隊である。

 作戦は単純だ。
 まずは人類の部隊が敵を盾で食い止める。
 同時に視界を塞ぐ。
 その隙に足の速い獣人部隊は左右より大回りして後方に回り込むのだ。
 そして、矢を射かける。
 人間は、いや、生物は前後から同時に攻撃されると対処できない。

 「あの、ゆみのがるーをころせ!」

 トカゲ人の指揮官らしき男……オスが叫ぶ。
 だが、無駄だよ、足は獣人たちの方が速い。

 「それ、逃げろー!」
 「やれ、にげろー!」

 向かってくるトカゲ人の一団に対し、モモ―とガルガーの合図で獣人たちは蜘蛛の子散らすように逃げる。
 しかも、一団となって逃げるのではなく、3~4人で散開して逃げるのだ。
 
 「ぼすー、どっち!?」

 結果、追い回す事が出来ずに立ち止まってしまうのである。
 そして、弓の前に立ち止まるということは、敗北を意味する。

 ヒュー、ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 今度は二方向からではない、 十重二十重とえはたえに飛んでくる矢が、トカゲ人の迎撃部隊を倒していく。
 中でも活躍が目立ったのがモモ―だ。
 モモ―は足が遅いので、力のある獣人に肩車をしてもらっている。
 だから、走りながらも矢が射れる。
 決して捕まらない速度の敵が一方的に攻撃してくるのだ。
 これでは敵はたまったものではない。
  そして中央では、未だ盾の防壁を突破できないトカゲ人は、槍と弓の前にその屍を晒すのである。

 「だめだー! にげろー!」

 そんな声が上がり始めたら、勝利は確定だ。
 モモ―とガルガーには、事前に逃げる敵は追うなと伝えてある。

 「にげるなー! たたかえー!」

 指揮官らしいオスが叫んでいるが、一度崩れた軍隊は脆い。
 もはや、その声を聞く トカゲ人はいない。
 それでも、最後まで残っていたのは賞賛に値するか。

 「くそー! ならば、かみよ! いったいいちで、たたかおうぞ!」

 あー、そうくるか。
 まあ、いいけどね。
 俺は、屍と負傷して動けなくなったトカゲ人の中に躍り出る。

 「おれはトー! だいいちのせんし!」

 あー、昨日、尻尾をもいだ奴!。
 
 「神である。その闘い、乗った!」

 動けなくなったトカゲ人と、人類と獣人の視線を浴びながら、俺はトーへと歩みを進める。
 手にするのは、青銅の棒、剣ですらない、だが、これで十分だ。

 「デヤァー!」

 昨日と同じく、勢いに任せた正直な剣筋だ。
 俺は、体を軽く捻り、その剣をかわす。
 鉄剣と青銅棒で打ち合うほど馬鹿じゃない。
 俺が狙うのは膝。
 すれ違いざまに棒で膝を打つ。

 「アァーッ!!!」

 トーの絶叫が響く。

 「これでおしまいっと」

 続けざまに俺はもう一方の膝も打つ。

 「グワァフアファーヒァ!」

 たまらず、トーは地面に倒れこみ、剣を手放し、膝を抱える。

 「生き残りに手当を」
 「は、はいっ! かしこまりました!」

 ヤーがテキパキと兵士に指示をしていく。
 ごめんな、ヤー、お前を疑ったりして、お前はおっぱいを守ろうとしたんだよな。
 えらいぞ、ヤー!

 「神様! 流石です! 神様を称えよー! ほめたたえよー! おっぱい!」
 「おっぱい! おっぱい!」
 「おっぱい! おっぱい!」
 「おっぱい! おっぱい!」

 モモ―と兵士たちが俺を称える。
 俺はバンザイという単語を残さなかった。
 その結果、バンザイに相当する言葉は”おっぱい”になっていた。
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