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第一章 大会前
その5 部長の洞察力
しおりを挟む蘭子の和菓子は水信玄餅をペンタゴンの形に並べデコレートしたものだ。
デコレート素材は、ココナッツパウダーの白、リンゴの皮の赤、抹茶の緑、黒蜜の黒、ブルーハワイの青、そして真ん中には無色のままの水信玄餅が鎮座している。
透明感の中にはっきりとした色合いが美しい。
対する部長のきんつばは白あんにドライフルーツを混ぜ、それを素麺で包み、溶いた白玉粉を塗って焼きあげたものだ。
それは、ある意味美しかった。
素麺がカラフルなのだ。
一本だけ赤い麺が入った素麺は珍しくない、だが部長が選んだのは七色素麺。
七夕に供されるやつだ。
「どちらも美しいですね。では試食を開始しましょう」
会長が上品に水信玄餅を竹の平たい楊枝で切り、口に入れる。
魚吉さん達は一口でそれを食べた。
「これ、いけるやん!」
魚吉さんが賞賛の声をあげた。
「そうね、プルプルとした食感の中に甘みがしっかりと感じられるわ」
会長の評価もいい。
「俺はココナッツパウダー味が好きやで」
魚吉さんの友人にも好評だ。
「蘭子選手の水信玄餅! これは評点が高そうだー!」
俺も食べたい。
水信玄餅は食べた事がないのだ。
「へへーん。あたしのペンタゴン水信玄餅は色、味、食感の全てでお客さんを楽しませるんだよ~!」
好評を受け、蘭子もノリノリだ。
「今度は私のターンね! どうぞご賞味あれ!」
いつからこれはターン制バトルになったんだ。
どっかの引き伸ばしバトル漫画じゃあるまいし。
俺の心のツッコミをよそに、審査員達は部長の七色きんつばを口に運ぶ。
パリッ
その音は口と皿から響いた。
そのまま口に運んだ魚吉さんと友人の口から、そして竹の楊枝で切ろうとした会長の皿からである。
「これは上品な甘さ……じゃねぇ!」
魚吉さんが叫んだ。
「甘いわね」
会長が落ち着いて言う。
会長、茶に手が出てますよ。
魚吉さん達も茶を飲んでいる。
「甘さの正体はドライフルーツね。白あんは控えめな甘さで、ドライフルーツの部分が濃厚な甘さを出しているわ」
会長が冷静に評する。
「その通りよ! アメリカと言えば破壊的な甘さ。でも、オーガニックもアメリカ的だわ。だから私はその味をドライフルーツで出したのよ!」
なるほど、和菓子は洋菓子に比べれば砂糖の使用量は少ない。
でも、アメリカンには甘さが必要。
部長はその解としてドライフルーツを示したのか。
今度のガキどものおやつの参考にしよう。
「撫子選手! アメリカ的にドライフルーツを入れてきた! 色と味はアメリカン! だが粧いはきんつば! これは見事だ! 色、味、食感のペンタゴン水信玄餅と色と濃厚な味の七色きんつば! 正義保餡官はどちらに勝利をもたらすのか!? それでは判定をどうぞ!」
俺の合図で4人が札を挙げる。
『撫子』『撫子』『撫子』『撫子』
全会一致で部長の勝ちだ。
「えーなんでー! どーして!?」
蘭子が疑問の声を上げる。
無理もない、きっと蘭子には理解出来ていないだろう。
「えーとな、簡単に言うと蘭子ちゃんの料理は菓子っぽさが足りないんや」
魚吉さんが言う。
「わかんない~、あたしのだって、ちゃんとしたお菓子だよ。見た目も味も」
「うーん、説明づらいな。なあ、あんちゃんなら分かるんじゃないか?」
食ってもない俺に振るな。
まあ、分かるが。
「そーだ、りっくんにも判定してもらおう! あたし、他の誰からも否定されても、りっくんに"おいしい!"って言ってもらえれば、それでいいもん!」
あー、部長と会長が砂を吐いているのがみえる。
「じゃあ、俺もいただきます」
そう言って、俺は蘭子のペンタゴン水信玄餅を食べる。
プルン
甘くて柔らかい食感が俺の舌を唸らせる。
ココナッツの甘みも良い。
ブルーハワイの縁日を思わせる奇妙な甘みも好みだ。
抹茶は和風の苦味と甘さが見事にマッチしている。
リンゴは酸味で一辺倒な味をリフレッシュさせてくれる。
黒蜜は濃厚な甘さだ。
そして、透明な水信玄餅は、かつて人が砂糖の魔力に取り憑かれた歴史をも納得させる。
「美味しいな」
それは側から想像したよりずっと美味かった。
「やったぁ!」
小躍りしながら蘭子が言う。
そしておっぱいがぽよぽよする。
うん、いいな。
「じゃあ、今度は私ね。陸、しっかり食べなさい」
部長が七色きんつばを俺の前に差し出す。
そして俺はそれを口に含む。
パリン
外側を彩っている七色素麺が小気味よい音をたてる。
白あんの仄かな甘みの中から、舌がドライフルーツを見つけ、それを噛むと、濃厚でわずかに酸味のある甘さが広がった。
もぐもぐ
これは美味しいな。
蘭子のが伝えたくなる美味さだとしたら、部長のは味わいたくなる美味さだ。
そして、そこには差がはっきりとある。
「蘭子」
「なあに? りっくん」
「魚吉さんや会長達の判断は正しい」
「ひどい! あたしの愛が足りないって言うの!?」
そんな事は言ってないし、議論もしてないぞ。
「いやいや、蘭子と部長の和菓子の差は満足度にあるんだ」
「あたしじゃ満足できないって言うの!?」
変な事を言うな、音声だけ聴くとヤバイ感じになるだろうか。
蘭子はいつもこうだ。
過激とも取れる言動をよく言う。
本人は冗談のつもりだろうが、あまりよろしくない。
だから俺も蘭子のアピールに本気で応えづらいのだ。
やーい、だまされた~、って言われるのは嫌だからな。
「解説を続けると蘭子の料理は和菓子としては上かもしれないが、審査員のお腹と脳を満たすには不十分なんだ。かいつまんで言うと、ちょっと物足りない」
「せやせや、それが俺っちの言いたかった事や。腹にたまらんのやよ」
魚吉さんが我が意を得たりといった感じで言う。
「そうね、これが茶道部用の菓子なら、私は蘭子さんの勝ちに票を入れるわ。でもアメリカン和菓子なら大和盛さんね」
会長も同調する。
「蘭子ちゃん。あなたの敗因は美味しいアメリカン和菓子を作る事に捉われて、審査員を観てなかった事よ!」
部長がキメポーズで言う。
「ふええ」
「あなたの料理では、年甲斐も無く海に出て魚を貪喰う海鮮胃袋親父と、マルチタスク能力で日常作業しながらエロい妄想を脳内で延々と続ける24時間年中無休脳内発情女を満たすカロリーを供給する事はできないわ!」
「ほめ……られているんだよな?」
魚吉さん達が言う。
「妄言です。議事録に残します」
キリッとした表情で会長は言った。
そうか、その理知的な眼鏡の下はエロエロなんだ。
いや、そんなわけねえよ。
「ついでに花屋敷君のだらしない裏の表情も議事録に残します」
会長の洞察力やべぇ。
「そっか、美味しいだけじゃダメなんだ~。食べる人の好みも考えないと~」
少し納得した表情で蘭子が言う。
「蘭子、あなたの欠点は美味しい料理を作ろうという目的ばかりに目が行って、ひとりよがりな料理になりがちな所よ。だから腕で劣る私や陸に出し抜かれちゃうの」
その部長の言葉で、この勝負は終結した。
俺も昔から思う所はあった。
蘭子は料理の腕は良いのだが、ひとりよがりになりがちなのだ。
不特定多数を相手にするならそれでも良いが、審査員という限定した相手では良くない。
そういう意味では部長は見事だ。
俺たちの勝利に足りない物を理解している。
「じゃあ、私はおいとましますね。ご馳走様。優劣を着けるのは心苦しかったけど、どちらも美味しかったですよ」
そう言って会長は席を立ち、俺の傍を抜けて店を出た。
「"ひとりよがり"と"出し抜く"って、なんかエロいわね」と囁いて。
部長の洞察力、超やべえ。
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