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第一章 大会前
その8 パイナップル・スウィート アンド サワー ポーク シュツルム・ウント・ドランク!
しおりを挟む「さあ、俺のプロトメロン酢豚だ! 冷めないうちに食べてくれ!」
制限時間までは5分程度ある。
だが、冷めた酢豚は味が落ちる。
だから俺はあえてフライング気味に出す。
「うむ、こっちは時間通りに出来る予定だ。だから先に審査に入って良いぞ」
覆面忍者は、まだ揚げている途中だ。
この分だと少し時間をオーバーしないか?
甘酢あんを絡めるのに時間が足りなさそうだが……
知ったこっちゃないね!
「じゃ、いただくわ」
「りっくんの料理、おいしそ~」
部長と蘭子が箸を手に取る。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす」
愛しのガキどもも食べ始める。
その隣で大人組も肉を口に運んでいる。
「やっぱ肉だよな、肉!」
魚吉さん、あなたが肉を食べているところ初めて見ました。
パリッと肉の衣が音を立てる。
そして、シャクっと白瓜が音を立てた。
「これ、ひょっとして瓜か!?」
良道さんが言った。
「そーだよ! にーちゃんのウリスブタだよ!」
宙弥、覚えててくれたか。
「一年ぶりですね」と海美。
「夏がキターって感じね」と空楽。
うん、瓜は夏しか売ってないからな。
「あんまり甘くないわね。結構良い味だわ」
「あ~、これ初めて~、おいし~」
部長と蘭子にも好評のようだ。
「俺っち、坊主ん時、こんなん甘え、甘えって喜んでたんやな」
「せやね」
「懐かしいな」
魚吉さんグループの箸も進んでいる。
「少し華がないな」
良道さんは手厳しい。
「そーいうのがいいんよ。うちに合った味やね」
善子さん、もっと褒めてください。
「お代わりもありますから、欲しかったら取って下さいね」
そう言って俺は大皿に残りの瓜酢豚を盛り、取りスプーンを添えてみんなの前に差し出した。
「ぼくおかわりー!」
宙弥が飛び出した。
「俺っちも、もう少しいただくか」
魚吉さんにも好評だ。
「では、拙者もいただこう」
「うわっ!?」
背後からの奇襲に俺は思わず飛び退く。
「ん? 何を驚いておる? 対戦相手分も用意するのは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★ではよくあることだぞ」
背後に忍者が音も無く立っていれば驚きもするわ!
「そんな事より、お前の料理は出来たのかよ!」
「ふふふ、心配無用だ! 拙者の料理は完成しておる!」
覆面忍者はバックステップで厨房に舞い戻り、大皿を抱えて来た。
うーん、忍者仕草が徹底している。
確かにキャラ付けはバッチリだ。
「これが拙者の料理! パイナップル スウィート アンド サワー ポーク シュツルム・ウント・ドランク! だ!」
くるりと一回転して、覆面忍者が大皿をテーブルに置く。
「なげぇよ!」
魚吉さん、ナイスつっこみ!
「貴様は何か感違いしている! パイナップル以下略は英語で、シュトツム・ウント・ドランク! はドイツ語だ!!!」
部長! きっとそのネタ、俺にしかわかりません!
「わ…私の酢豚が~~~!!!」
あ、善子さんが仰け反っている、わかっているんだな。
「で、どんな酢豚なのかな?」
善子さんが皿を覗き込む。
「にゃんだこれ!?」
「なになに? これは、けったいな!」
善子さんと良道さんが素っ頓狂な声を上げる。
「あー、これはシュツルム・ウント・ドランクだわ」
魚吉さんも感心したように言った。
「ねー魚吉さん。シュツルム・ウント・ドランクってなーに?」
宙弥が問いかける。
「ええとな、シュツルム・ウント・ドランクはドイツの言葉で、日本語に訳すと疾風怒濤、吹き荒れ渦巻くような荒々しさって意味さ」
魚吉さん博識だな。
「だから巻いてあるのね~」
蘭子が感心したように言う。
「どう? 陸、これが私がスカウトしたコーチの実力よ!」
部長も自慢気だ。
そういえば、部長も蘭子も調理シーンを見学してたな。
どんな料理になるか分かっていたのか。
ちくしょう! 俺にも見せろ!
俺は身を屈め部長と蘭子の間に割って入る。
うーん、横乳もまた悩ましい。
だめだ! 鎮まれ! 俺の桃闇!
うーん、すっかり定着してしまったな。
おおっと、それより料理だ。
俺も覆面忍者の酢豚を覗き込む。
息を飲んだ。
その料理の姿もさるものだが、これを30分という短時間で仕上げる腕にもだ。
その酢豚は豚肉とパイナップルが一体になっていた。
巻いてあったのだ。
豚肉は桂剥きされたパイナップルの渦の中心にあった。
パイナップルだけではない。
人参も玉ねぎもジャガイモも肉に巻かれ串で止められていたのだ。
そして、その串は黒い甘酢あんの海に浮かんでいた。
「じゃあ、いただくで」
魚吉さんの手が伸びると同時に四方八方から手が伸びる。
その内の一本は俺のだ。
俺は大口を開けてそれにかぶりついた。
口に広がる黒酢の深い酸味、それに加わるパイナップルのトロピカルな酸味と甘み、そして肉の旨み。
どれもが自己主張するも、それらを損なわず、南国のハーモニーが口に満ちた。
今、気づいた。
酸味の奥深さを出しているのはグループフルーツだ。
このわずかな酸味と苦味がパイナップルの甘さを影ながら際立たせている。
汚い、さすが忍者、汚い。
旨い、文句なしに旨い。
見た目の派手さだけでなく、美味しさでも完敗だ。
俺は敗北を悟った。
くすん、泣くのは心の中だけだ。
「おいし~! おいし~!」
「こりゃイケるわ」
「おいしいです」
「おっかわりー!」
当然だがみんなも俺と同じ感想を持っている。
「では解説しよう、食べながらで良いぞ」
覆面忍者が揚々と語り始める。
「この勝負のポイントは、いかにフルーツ酢豚という好き嫌いの分かれる料理で好評を得るかだ」
「そうね」もぐもぐ
「私も最初はフルーツ酢豚なんてあり得ないと思って」もぐ
「いたわ」
部長、お嬢様にしては気品が無さ過ぎです。
「そうだ、だから拙者はふたつ策を講じた」
「へー、いろいろ考えるんやね」
魚吉さんが感心したように言う。
「ひとつめは温めたパイナップルへの忌避感を減らす事だな」
「あ~、あのマシュマロね~、おいしかった~」
俺は、そのマシュマロボディを味わいたいです、ぐへへ。
敗北感の中でも元気だな! 俺の桃闇!
「そうだ、塩味系の肉や野菜に対する甘いパイナップルが忌避感を産んでいる。温かい果物という点もだ」
覆面忍者が説明を続ける。
「そうね、果物は冷やして食べるのが正義で、温めたのは邪という傾向があるわ」
部長は王道派らしい。
「そもそも肉に甘酸っぱいフルーツを合わせる事は西洋料理では至極当たり前の事だ」
覆面忍者が解説を続ける。
「そうね、ベリーやオレンジのソースと肉の組み合わせは一般的だわ」
さすが部長はお嬢様なだけあって、高級フランス料理を嗜んでいるんだな。
俺も愛しのガキどもも本でしか知らないのに。
待ってな、いずれ兄ちゃんが作って……いやいや、食べに連れてってやるからな。
「あたしハワイアンピザ好き!」
海美が手を挙げる。
パイナップルの乗ったハワイアンピザは年に数回しか食べられない我が家のご馳走だ。
高いんだよピザ屋のピザは!
「その他にもパインバーガーとかも人気だ。肉とフルーツは実は良く合う。なのに何故、パイナップルと酢豚は嫌われるのだろうか!? わかるかね、諸君」
諸君と言いながらも、覆面忍者が俺を見つめる。
残念だが、俺にそんな趣味はない。
そして残念ながら、俺はその答えに気づいている。
俺の口から言えって事だよな。
「違いは明確だ。一緒に口に入るか、別々に入るかだ」
「その通りだ」
嬉しそうに、そして少し嫌味ったらしく覆面忍者は言った。
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