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第一章 大会前
その9 新生覆面忍者誕生!
しおりを挟む「少年が言った通り、違いは同時に口に入るか否かだ」
「チガウ! チガウ! パインといっしょに口の中に入レルンデス!」
「ゥンまああ~いっ」
部長と善子さんが何やら言っているが無視する事にする。
「だから拙者はパインをかつらむきにし、肉に巻いた。これで同時に口に入る。さすれば結果はご覧の通りだ!」
覆面忍者の手の先には空になった皿があった。
ご覧のありさまだよ……
「よしっ、じゃあ投票よ!」
部長が嬉しそうに言う。
「で、そちらの忍者さんのお名前は?」
ペンと紙を持った善子さんが問いかける。
「そうだな……さすらいの忍者料理人『食影』とでも呼んでもらおうか!」
高らかに覆面忍者、いや食影は言った。
「はいはい、じゃあ札を配りますよ」
俺と食影を除く全員に二枚の札が渡される。
「じゃあ、投票よ! せーの!」
部長は盛り上がっているが、俺は既に敗北を感じている。
俺はパインをかつらむきにして一体化させるアイディアは思いつかなかった。
フルーツという言葉で巧妙にパインを避け、白瓜を使うという姑息な手も使った。
愛しのガキどもの好みも利用した。
だが、食影はそれを真正面から驚きをもたらす料理で打ち破った。
俺の完敗だ。
「陸」「陸」「陸」「食影」「陸」「食影」「食影」「食影」「食影」
「5対4で食影のしょう……りー!?」
あれ~? 思ったより健闘してる!?
部長も意外なのか声に精彩を欠いている。
「うむ! ナイスクックだ! 少年!」
食影は相変わらずハイテンションだ。
「なんで? 俺、完敗と思ってたのに?」
俺は俺に投票してくれた人達を見る。
4票は魚吉さん達と善子さんだ。
「食影の料理はうまいが甘ったるいわな」
「そうそう、酒に合わんとよ」
「陸の料理は懐かしい感じが良いな」
あー、魚吉さん達は酒を呑んでるからか。
酒に合うとなると俺の方が良いんだ。
「食影の忍者はパインと肉が合体しかしてないのが欠点さね。あたしはパイン酢豚は好きだから、パインも肉も、それが一緒になったのも味わいたかった。それが叶わないのが減点ね。その点、陸ちゃんのは今までにないのがええわ」
善子さんが俺の料理を褒めてくれる。
そっか、合体にもデメリットがあるのか。
「忍者の料理! おもしろかった!」
「パインをいっぱい食べる事ができました」
「兄さんの白瓜酢豚は何度も食べてますから」
うん、愛しのガキどもよ、お前らは物珍しさが良かったのね。
「純粋にすごかったよ~、とっても早いんだもん」
蘭子よ止めてくれ。
お前の『早いんだもん』は俺の桃闇に効く。
「腕も発想も陸の一枚上手だと思ったわ」
つまり蘭子と部長は覆面忍者のテクにやられたってことだな。
「ぎ、ギリギリだったけど負けは負けよ! 陸、これからあなたは痛い中二キャラになってもらうわ!」
「ぐぬぬ、し、仕方がない。部長に従ってやる」
「従ってやる?」
「従います」
屈辱だ。
「よしっ、まずは裏手でプチリハーサルよ。みんな5分待っててね」
そして俺は部長に拉致された。
◇◇◇
5分後。
「お待たせ! さあ! 料理愛好倶楽部の謎の男の登場よ! じゃじゃーん!」
部長の口から擬音に続いて、俺は現れる。
「誰が呼んだか!? 謎の覆面! 俺の名はニンジャコック! 俺のコックを味わいな!」
顔から火が出そうだ。
「ふぎゃががぎゃぼあ!」
魚吉さんたちが腹を抱えて笑っている。
「はい次!」
「目にするのは一夜の奇跡! 料理を作る一陣の流星! 自ら名乗るのも烏滸がましいが、烏賊と読み間違えるなお嬢さん! ニンジャコック、ただいま参上! 俺のコック、見てみるかい!?」
あー、海美と空楽の視線が痛い。
「もう一丁!」
部長め、気楽に言ってくれるな。
「ニンジャコック! ただいま推参! ちなみに推参とは"およびじゃなくとも参上"って意味だ! 無頼がって事さ! 俺のコック、召し上がれ!」
「ぶひゃひゃひゃ! もうダメ! 限界!」
善子さんが椅子から転げ落ち、床をゴロゴロする。
「すご~い! たべたーい!」
蘭子さん!?
あなたわかって言っているのですか!?
わかって言っているとしたら、俺の桃闇はリミットブレイクですよ!?
うーむ、あの顔はきっとわかってない顔だな。
宙弥と同じ顔してるもん。
お願いだから、コックの隠語を検索するまねはしてくれるなよ。
何はともあれ、俺は敗北し、ニンジャコックとして生まれ変わった。
部長、でもこれ中二キャラというより、ただの変態じゃないかな?
まあいいや、もうどうにでもなーれ! だ。
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