超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第一章 大会前

その10 説明会に行こう!

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 覆面忍者、いや食影との対戦の後、俺たちは彼の指導の下、修行に明け暮れていた。
 食影の事は師匠と呼ぶ事にした。
 そう呼ばれた師匠は少し面食らった顔をしたが、照れながらも「うむ、それで良い」と言った。
 俺とのバトルは僅差きんさではあったが、指導を受けるとわかる。
 師匠の腕は高い。
 俺たちとは比べ物にならないくらいに。
 蘭子ですら師匠の足下止まりだ。

 「へへーん、私の見立ては確かでしょ」と自慢する部長はウザかったが。

 修行は厳しかったが、喜びもあった。
 夜は師匠が手づから料理を振る舞うのだ。
 それも前回の★超絶! 悶絶! 料理バトル!★のベスト8の得意料理をだ。
 一昨日は三位の中華三昧、昨日はフランス料理フルコース、そして今日は寿司だ。
 量も多いので、愛しのガキどもとシェアして食べる。
 料理が美味すぎて海美が泣いていた。

 「なんちゅうもんを食わせてくれたんや。これに比べると兄さんの寿司はゴミや」
 と言ってたのは聞かなかった事にしよう。

 そして俺は最後の洗い物を終え、善子さんに挨拶をすると裏口から退出する。
 明日の修行は休みだ。
 大会の説明会に三人で行く予定だ。

 「少年」

 暗がりから声がする。
 俺はドキっとして振り向いた。

 「なんだ師匠か」

 うん、傍目はためには完全に変態だ。
 覆面から目だけが爛々と光っている。

 「夜分にすまぬ。少年に問いたい事があってな」
 「何?」
 「料理に最も重要な物は何だと考える?」
 「決まっている。"愛情"だ」

 俺は即答した。

 「フハハ!」

 こいつ笑い飛ばしやがった!

 「いや失礼、笑うつもりはなかったのだが、微笑ほほえましくてな」

 俺はピンときた。

 「あー、あいつらも同じ答えだったのか」

 あいつらとは無論、部長と蘭子の事だ。

 「察しがいいな。流石ボスが一目置く事はある」

 ボスとは部長の事だ。
 雇用主という意味合いらしい。

 「では続けて問おう。愛とは何だ?」
 「た……」
 「おおっと、躊躇ためらわない事さ、って誤魔化すのは無しだぞ少年」

 え、エスパーかこいつは!?

 「愛とは、見返りを求めず、相手の幸せを願い、それに向けて活動する意志だ。異論は認める、だが持論は曲げない」

 うん、言葉にすると恥ずかしい。

 「良き答えだ」

 月光の薄明かりの中でも、師匠の目尻が下がるのがわかった。

 「ちなみに、同じ問いに一方は『自らの全てを以って尽くし抜く事』と答え、もう一方は『いつもそばにいる事、同じ物を見て、同じ方向に進み、同じ気持ちを持ち続ける事』と答えた」

 へえ、部長と蘭子も良い事、言うじゃん。
 でも、どっちがどっちかな?

 「どっちかは教えぬが、ヒントを言えば、前者の方が胸が小さい」

 うん、それヒントじゃなくて答えだね。

 「しかし師匠、どうして俺たちを助けてくれるんだ? 金なんてないぞ」

 部長は令嬢だが小遣いが少ないと前に嘆いていたのを覚えている。

 「金では拙者は動かんよ。ボスから報酬を頂く算段は付いているので心配は無用だ」
 「金でじゃないとしたら、どうして師匠が手を貸すんだ?」
 「詳しくは話せぬ。だが、拙者はどうしても魚鱗鮨と、そのリーダーの寿師翁じゅしおうと戦わねばならんのだ」

 その言葉には重みがあった。
 必死の決意すら感じられた。
 師匠は魚鱗鮨に怨みでもあるのだろうか?

 「それでも分からないな。師匠なら、俺たちのような素人ではなく、もっと腕の良い料理人と組んだ方がいいんじゃないか?」

 そう、勝ち上がって、魚鱗鮨と戦いたいのなら、俺たちより腕の立つ料理人と組んだ方が可能性は上がる。

 「残念だが、拙者には共に魚鱗鮨と戦う仲間がらぬ。かつての仲間は魚鱗鮨とは戦わぬだろう」

 うーん、師匠は友達が少ない。

 「それに別の理由もある」

 ほほう、さらに理由があると。

 「在野の料理人では駄目なのだ。お前が必要なのだ」

 ……

 「あー言い間違えた。お前が必要なのだ。だからバックステップで離れるのはやめてくれ」

 ふぅ、どうやら貞操の危機は去ったようだ。

 「ともかく、拙者はお前たちを勝利に導く。だからお前たちも全力で料理してくれ」
 「師匠は俺たちが勝てると思うか?」
 「心に愛があれば、どんな困難にも打ち勝てる! 恐れる事など何もない!」

 良い言葉だ。
 でも、こんな良い人の怨みを買うなんて、寿師翁じゅしおうって人は何をしたんだ!?
 それに、師匠はどっかで見覚えがあるようなないような……。
 まあ、考えても仕方がないか。きっと尋ねても言ってくれないだろうなぁ。

 ◇◇◇

 翌日、部長と蘭子と俺は東京DXテレビのスタジオに来ていた。

 「料理愛好倶楽部の方ですね、お待ちしておりました。こちらの番号札をお付け下さい」

 "1"と書かれたバッチを受け取り、俺たちはスタジオに入る。

 「よーこそ! 超絶! 悶絶! 料理バトル! の説明会へ! わたしはぁ! 当日司会を務めるぅ! ラウンダァ! と申します」

 ピエロのようなメイクをした声のデカい男が話しかけてくる。
 うーん、ウザい。

 「できれば、普通の話し方をしてくれない?」
 「これは失礼しました、お嬢様」

 ラウンダがうやうやしく礼をする。

 「そういうのは止めて」

 部長の眼光が鋭くなった。
 部長は大盛大和おおもりやまとホールディングスの権威を感じさせる挙動すると怒るからな。

 「わかりました、では事務的に進めましょう。まずはスタジオセットをご覧下さい」

 少し盛り上がった舞台にキッチンが据え付けられている。
 コンロは火力の出る中華仕様だ。
 IHタイプもあるな。
 スープや煮物に役立ちそうだ。
 その他に業務用炊飯器やオーブン、大型冷蔵庫、電子レンジもある。

 「うわー、りっくん、みてみて、ガスコンベクがあるよ!?」
 「あ、あれが噂のガスコンベク!?」

 ガスコンベク、正式にはガスコンベクションオーブン。
 家庭用の電気式ではなく、ガスで焼くオーブンだ。高い、だが大量に美味しく作れる。
 昔は蘭子の家にあったらしいのだが、蘭子が子供の頃に壊れてしまった。
 高いのと、ガス管の配線が大変なので、今は電気式になっている。

 「ここは試合会場と同じ調理場を整えました。説明会開始は30分後ですので、それまでご自由に見学なさって下さい。当日、ここに無い調理器具は持ち込みになります」

 そうか、結構な人数の料理を作るともなると設備のチェックは重要だよな。

 「蘭子ちゃん、陸、行くわよ」

 そう言って部長はステージに上がる。
 俺たち以外にも下見している人も居た。
 彼らもきっと出場者なんだろう。

 「すごーい、ひろーい、たーのーしー!」

 蘭子がIQの下がりそうな言葉を吐いてはしゃいでいる。
 竜の舌の厨房は狭いので、広いキッチンが嬉しいのだろう。
 俺もキッチンをチェックする。
 調理機材や寸胴ずんどうといった鍋類も一般的な物はそろっている。

 「ねえ陸、ここの設備どう思う?」

 部長が問いかけてきた。

 「基本的な設備はそろっている。普通の料理するならば問題無いと思う、の料理ならばな」
 「そうね、のならね」
 「うへへ」
 「うはは」
 「「ウワーハッハッハァ!」」

 部長と俺の心がシンクロする。そう、俺たちは普通の料理を作るのでは駄目なのだ。

 「あとは器の確認ね、チラ見した感じ、そこそこのが揃っているようだけど」

 器か、部長がと言うのなら、うちのお値段異常で買ったお客様用の食器なんて霞むレベルがあるのだろうな。

 「あら、下品な笑い声がしたかろ思えば、撫子じゃない」

 別の参加者と思える一段が部長に声を掛けてきた。

 「げっ、うざ子!」
 「うざ子じゃありません! わたくしは鶯宮うぐいすみや 柘榴子ざくろこです!」

 うざ子としか言いようがねえよ……
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