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第一章 大会前

その12 これがルールだ! ★超絶! 悶絶! 料理バトル!★

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 「みなさん、ちょっと驚いているようですね。では詳細を説明しましょう。
 『談合』ですが、先攻・後攻を決める前にどちらかが宣言する事で、談合が可能となります。
 2つのお題は双方で話し合って決める事が可能です。
 だけど、気を付けて下さい。談合で決まった事は守らなければなりません。
 談合で決まったのに、別のお題を紙に書く事はスポーツマンシップに反します。
 その場合、失格になりますので、ご注意下さい。
 もちろん、談合が決裂した場合は通常通りにお題は決まります」

 これは、思ったよりも重要な変更だ。
 あらかじめ談合できていれば、試合開始前に話が決まっていれば、仕込みもメニューを考える時間も出来る。
 部長や俺の戦術は相手が面食らうお題を出す、もしくは相手が気づかない要素を持ったお題を出して、隙を突く事だ。
 談合を活用すれば、相手のメニューの予想が容易になる。
 なぜなら、相手は自分の店のメニューを宣伝したいという目的もあるからだ。
 もちろん、新作やスペシャルメニューへの警戒は必要だが。

 「部長」

 俺は小声で話しかける。

 「ええ、わかっているわ。談合は私たちの大きな武器になるわね」
 「それもありますが、問題は準々決勝以降です」
 「そこは、後で話ましょう。ここは人の目があるわ」
 「わかりました」

 そうだ、壁に目あり障子に耳あり、布団におっぱいありだ。
 くっ、しずまれ、俺の桃闇ピンクダーク
 くっ、すべては、この会場に漂う良い匂いのせいだ。
 ここは、女の人が多いのだ。
 半分くらいが女の人なのだ。それも、俺好みの楚々とした美人が。
 クラスの女の子とは違う、香水ではなく、自然のフェロモンとでもいう物質が放出されているのだろう。
 さすが料理人だけあって、香水をつけている人は少ないな。
 それだけ本気の人が多いって事なのだが。

 「さて、後は注意事項のご説明です」

 ラウンダが説明を続ける。
 「『料理』『食材』『テーマ』についての注意事項です。
 まず、『料理』ですが、この世に存在しない料理をお題に選ぶ事はできません。『料理:ゲレゲレ』とかですね。
 また、ネット検索してもヒントすら出ないマイナー過ぎる料理も同様にダメです。
 ですが、談合してお互いが分かっているならば大丈夫です」

 へえ、前回、中華の知名度の低い郷土料理を出したかったチームでもあったのかな?

 「次に『食材』です。食材はスタッフが会場に用意します。リストは小冊子に記されています。
 また、お題が決まった後にスタッフが買いに行くこともできます。
 無論、売っていないとダメです。
 もしくは『食材』を指定したチームが両チーム分準備すればOKです」

 俺は小冊子の準備食材のページに目を通す。
 かなり充実している。これならば、俺たちが持ち込む物はないだろう。
 持ち込みは、自腹という事だからな!

 「最後に『テーマ』ですが、ここは自由度が高いです。よっぽど公序良俗に反しない限り問題ありません。いいですか? 公序良俗ですよ!」

 ラウンダの目線がとある男に注がれる。

 「はいっ! わかっております!」

 視線の男がかしこまった返事をした。
 うーん、何か前科でもあるのか、あの男に。

 「さて、何か質問は?」

 ラウンダが参加者に語り掛ける。

 「はい」

 初老の男が手を挙げた。

 「どうぞ」
 「調理機材に制限はないのかの?」
 「搬入出来る物であれば制限はありません。野外炊具1号でもOKです」

 野外炊具1号は自衛隊の炊飯車両だ。

 「こちらもいいですか」

 別の女性が手を挙げた。

 「『食材』を選び、それが会場にある食材の場合、自分達は持参した食材を、相手は会場の食材となりますか?」
 「その通りですが、相手も同様に持参した食材を使う事も可能です。下ごしらえ等で準備した食材を自身の為に持ち込むのはOKです。なので、トーナメントが決定したら、勝ち上がった場合の対戦相手を予想して、下ごしらえしておくのをお奨めします」

 下ごしらえか、ラーメン屋とかと当たるのは嫌だな。

 「他にありますか?」

 ラウンダがあたりを見渡す。

 「無いようですので、最後に注意事項です。ルールを守って楽しく料理バトルする事を旨として下さい。当然ですが、暴力・妨害行為等の法律に違反したチームは即失格となります」

 まあ、当然だな。目を離した隙に鍋にコーラを入れられたら大変だからな。

 「では、トーナメント決定に移りましょう。といっても前回優勝の魚鱗鮨ぎょりんすしと前回の準優勝チームのリーダが所属する三好みよし・クイーンズは第一シードと第二シードに決まっています。Aブロックの最後が三好みよし・クイーンズ、Bブロックの最後が魚鱗鮨ぎょりんすしですね。両チームには各ブロックの一回戦のトリをお任せします。放送順ですと魚鱗鮨ぎょりんすしが大トリですね」
 「問題ないですよ」

 寿師翁じゅしおうが柔らかな物言いで応えた。

 「ええ、魚鱗鮨ぎょりんすしさんと決勝で戦えるポジションは望む所ですわ」

 げっ、今、応えた人、うざ子の隣に座っているぞ。
 どっかで見た事があると思ったら、寿師翁じゅしおうにマグロ一本勝負で負けた人じゃないか。

 「うざ子め、金に物を言わせて、あんな大物を引き抜きやがって、そんなに大盛ポイントが欲しいのかしら」

 部長も気づいている、小声だが心の声が漏れている。
 でも、大盛ポイントって何かな?
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