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第三章 二回戦
その1 世紀末辣王伝説
しおりを挟む口腔に溢れるは熱と痛みと鉄の味。
俺が見る物は灼熱の大地と赤い液体。
血反吐の海の中で俺は聞く。
「りっくん! りっくん! しっかりして! 死んじゃイヤァァァァー!」
蘭子、大丈夫だ……いや、ちょっとまずいかな……
「衛生兵! 衛生兵!」
部長、おちついて下さい、ここは戦場ではありません……
「少年、しっかりしろ! さあ、これを飲んで吐け!」
師匠、そんな賽の河原で石を積んで崩すような事、言わないで下さい……
朦朧とする意識の中で俺は思い起こす、どうしてこんな事になったのだろうと。
◇◇◇
「さあ! 二回戦が始まりました! 第一試合は『料理愛好倶楽部』VS『激辛辣火』だー!」
俺たちはキッチンステージで激辛辣火と相対する。
蘭子はいつもの割烹着、部長は一回戦の角付き悪の女王スタイルから、銀色のてんとう虫のようなヘルメットスタイルに変わり、露出が下がっている。どうやら悪の女幹部スタイルらしい。
俺は昨日と同じ忍者装束だ。
相手の激辛辣火はというと……、うん、世紀末だな。
「うぬらが二回戦の相手か!」
「ヒーハー! ヒーハー! 暑いぜトゥデイ!」
「きょ、きょうも、あ、あなたの、あ、あすほーるを、で、ですとろーい」
激辛辣火は昨年ベスト8に入った強豪だ。
昨日、俺たちはB・B・Bとの激戦の後、活動拠点の竜の舌に戻り二回戦の研究と下ごしらえを開始していた。
二回戦の対戦相手が激辛辣火に決まった時、俺たちがまず見たのは相手の店舗のHPと昨年の対戦ビデオだ。
そこでは、白いコック服を身に着けた、清潔で清廉な三人の料理人が居た。
だが、昨日の一回戦では……。
どうやら、昨年大会の敗戦原因がパフォーマンス不足にあると思ったらしい。
だから今年の大会は世紀末感あふれる衣装で参戦しているのだ。
今はもう21世紀初頭です。
世紀末覇者辣王とヒャッハーな衣装はともかく、三人目の紅一点の娘が可哀想じゃないか。
羞恥心で完全に目が泳いでるぞ。
彼女は胸元が開いたミニスカートチャイナ服なのだが、何か所かの裂け目があり、その隙間から雪のような柔肌が見える。
くっ、俺の桃闇をメロメロにするつもりか!?
「あら、素敵なおべべね。さしずめ中華系ハニートラップアサシンくっころ系といった具合かしら」
部長が相手の娘を挑発する。
「こ、これは、だ、だめーじどチャイナって言うんです、です……」
ダメージドチャイナ! そんなのもあるのか!
「大丈夫だ、娘よ! とっても可愛いぞ! あんな下品な女よりも!」
「Wow wow wow wow マイ・シスター、Wow wow wow wow マイ・ファザーの言う通りだぜ。あんなぺドリアン女王二年目のような女よりも超絶キュートだぜ!」
「だれがぺドリアンだー! だれがー!」
部長が怒りの声を上げる。
言われたくなければ、そんな衣装を着なければいいのに。
俺でも言いたくなるよ。
「さあ! 盛り上がってまいりました! では、お題を決めていきましょー」
昨晩決めた俺たちの作戦は、今回も談合を使う。
今度は事前に部長とちゃんと話し合ったからな、水着エプロンのような事態にはならないぜ。
今回は相手の得意な『料理:麻婆豆腐』と『テーマ:審査はクーラーがガンガン効いた部屋、具体的には17度設定で行う』での対決に持ち込むのだ。
これならステージが雨天用の室内に移る。
俺たちは豆腐麺に麻辣肉餡を掛けた料理で挑む。
相手は店の看板料理の普通の麻婆豆腐を作ってくるだろう。
クーラーの効いた部屋では料理が冷めるのが早い。
設定温度が20度以下では特に顕著だ。
相手はそれを知らない、なぜなら料理店で室内温度が20度に以下になるケースは稀だからだ。
冬でも暖房は20度以上に設定されているはずだ。
そして、相手は辛い料理にするだろう。これは食べるのに少々時間が掛かる。
結果、冷めて肉の油が固まり、味が悪くなってしまうのだ。
対して、俺たちの麻辣豆腐麺は冷やした麺を小分けの鉢に入れ、それに熱々の肉餡を掛けて食べるスタイルで提供する。
冷えた豆腐麺と熱々肉餡の温度差を楽しめる料理だ。
肉餡はヒーター付きの器に入れておくので審査中に冷める事はない。
17度という温度設定は昨晩の試食を何度も繰り返して算出した数値だ。
いっぱい麻婆を食べて少し胃が重い。
だが、その甲斐があって計算は完璧だ。
科学者ではない料理人にこの発想は思いつくまい。
勝ったぞ!
「談合を申し込むぞ!」
「談合を申し込むわ!」
あれ?
「なんと奇遇な!」
「ええ、考える事は同じって事ね」
「おおーっと、談合が競合したぞ! これはどうなってしまうのだー!」
「では、そっちで話合いましょうか」
部長がステージの隅を示す。
「その前に聞いておこう、きさまは激辛辣火にご来店した事があるのか!?」
「ある!」
さすが部長、激辛辣火は結構高級店なんだが、行った事があるのか。
俺はない。みんな貧乏が悪いんや。
「ほう…あるのか…、ご来店ありがとうございます。フフ…そうか、きさまは、おれと戦う運命にあったらしい…」
「よかろう!! ここで談合するがいい!!」
「な!! なにィ~すみっこで語らぬのか~~!!」
「フフフ…おまえのような画面映えをするの娘とわしを画面端に追いやろうと思ったか!! もはやこのわたしたちを画面の端の地に立たせる男はおらぬわ!!」
この世紀末辣王、少しイチゴ味が混じっている!
「では、談合を晴天の下で語ろう! わしらは『料理:激辛料理』をお題として戦えれば、おぬしらの条件を何でも受け入れる!」
あー、そういうやり方があったか。
「いいわ! では、わたしは『食材:唐辛子』で先攻を選ぶわ! これで文句はないわね!?」
「あれれ~、なでちゃん、作戦と違うよ~」
蘭子が疑問を声にする。
だが、これでいい、うっかり『テーマ:審査はクーラーがガンガン効いた部屋、具体的には17度設定で行う』のままで行くよりはずっといい。
さすが部長、この一瞬で作戦を切り替えた。
「ヒャッハー正気かよ! 俺たちにそんなお題で挑むなんて!?」
「お、おトイレは済ませましたか? べ、便所の神様にお祈りは? おトイレのスミを見て、ガタガタ汗を流して、い、命ごいをする心の準備はOKですか?」
あ、あの娘も大変だな……、あんなお嫁に行けなくなるようなセリフを覚えさせられて。
「覇王は引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! 何でもと言ったであろう!」
「それならばよし!」
「決まったー! 二回戦第一試合のお題は『料理:激辛料理』と『食材:唐辛子』だー!」
両者の合意を以って、司会者が宣言する。
灼熱の夏空の下、二回戦が始まった。
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