超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第五章 準決勝

その4 お酒はほどほどに

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 「蘭子選手の『二種の黄檗豆腐』と『はいぱぁもーど』! これはハンデをもろともしない評価! 高得点が期待できます! 続けて茶華選手の『変哲のないようであるような手作り豆腐』と『ばけねこ』の審査です!」

 審査員達の前に並べられたのは茶わん蒸しの器とスプーン、お猪口、そして小皿に盛られた塩と茶さじだ。

 「にゃは~、これは豆乳をにがりで固めた豆腐というものにゃ! えっ? ひねりがないって!? いや~そうなのにゃ! つまみは塩だけでもいいけど、豆腐にお好みでかけて食べてにゃ!!」

 茶華さんは手を猫の手にして言った。

 「ふーん、ただの豆腐ねぇ」
 「塩だけなのはシンプルでいいけど、さっきの伝統を素晴らしくアレンジした豆腐料理と比べると」
 「まあ、食べてみましょうか」

 審査員がスプーンで豆腐を口に運ぶ。
 表情が止まった。

 「にゃはは! ニンジャコックさんも、忍者コーチさんも、残念JKさんも食べてにゃ!」

 俺たちの前にも豆腐が運ばれてくる。
 猪口はない、当然か。
 俺は豆腐を口に運ぶ
 
 「何だこれは!? 豆腐だ!」
 「あたりまえの感想ありがとにゃ~!」

 俺が当たり前の事を言う。
 これは豆腐だ、だけど、今まで食べたどんな豆腐よりも豆腐をしていた。
 そう、豆も味が濃いというレベルではない! 豆腐なんだ!

 「これ何!? スゴイ! 豆の味がはっきりとしている!」
 「今まで食べた豆腐の比じゃないぞ!!」

 審査員席からも賞賛の声が上がる。

 「ありがとにゃ~、『ばけねこ』もよろしくにゃん」

 豆腐の未来にご奉仕するにゃん! みたいなポーズで茶華さんが言う。
 その声に合わせ、審査員も口にお猪口を運ぶ。

 「これ、甘口でいいお酒ね! さっきの辛口の『はいぱぁもーど』とは対極だわ!」
 「甘さの中に少し酸味も感じられて旨い!」
 「この酒を口に入れて、塩をちょっと舐めて、また豆腐に行くと……最高!」
 「ほんと最高!」
 「いや最低だ! 早くお代わりをよこせ! もっと食わせないと最低にしてやる! いや最高だから、もう一杯下さい!」
 「はいはーい! お酌の追加ですにゃよ~!」

 茶華さんが審査員席をクルクルと回り、手にした酒瓶からお酒をぐ。

 「それよりも、この豆腐の秘密を教えて! どうやったらこんなに濃い豆腐になるの!?」
 「にゃは~、その秘密はあれにゃ!」

 茶華さんの猫の手が示した物、それはポンプだった。

 「あのポンプが秘密なのですか!?」

 司会の人が茶華さんにマイクを向ける。

 「そうにゃ! あのポンプで容器の空気を抜いて真空にしたんにゃよ!」
 「真空!?」
 「んにゃ! 豆乳が入った容器を真空にすると気圧差で豆乳の水分が抜けるにゃ! 真空乾燥とか真空濃縮法と言われるのにゃ!」

 聞いたことがある、真空中では水分があっという間に蒸発するという話を。
 あの手の動きはポンプをシュコシュコしていたのか!
 そうやって豆乳を濃縮したんだ!

 「それでこんなに濃い味になったのね!」
 「それだけじゃない、この見事なお酒との組み合わせ! いや、さっきの黄檗豆腐も捨てがたいが、こっちもいい!」
 「酒飲みにとってはシンプルな方がいが、料理としてはあの黄檗豆腐の方が味のバリエーションがあってい。これは悩ましい……」
 「そんな時は、もっと飲んで考えるにゃ!!」
 「「それだ!」」

 茶華さんは猫まっしぐらに審査員席でお酌を続ける。

 「ちょ、ちょっと皆さん審査を、審査をお願いしまーす」

 このまま酒盛りに突入しそうな雰囲気を前に司会の人が少し焦りを見せる。

 「えー、まだ審査してたーい」
 「うーん、審査には両方の料理をもう一度食べないと……」
 「いいから酒もってこい!」

 うん、お酒はほどほどに。
 
 ◇◇◇

 「さて、やっと審査の結果が出ました! 結果は蘭子選手96点! 茶華選手98点! 茶華選手の勝利です!」

 負けた……、いや善戦した方か。

 「え~、なんで~、どこが悪かったの~!?」

 蘭子が不満そうな声を上げる。

 「では、審査員の方々に聞いてみましょう」

 司会の人が審査員席に向かう。

 「うーん、『はいぱぁもーど』の方は味にちょっと棘があったな」
 「少し苦みが強かったかしら?」
 「もう少しまろやかさがある銘柄を選んだ方が良かったと思うぞ」

 どうやら酒との組み合わせに難があったようだ。

 「そんなあなたに、もう一杯にゃ」

 どこからか茶華さんが現れ、お猪口を差し出す。
 その手にある瓶は『はいぱぁもーど』だ。
 いつの間に!

 「ん、審査の続きかね? まあ、頂くが」
 「うん、あたしも一杯」
 「俺も俺も」

 そう言って、彼らはくいっと飲み干す。

 「あれ、こっちの方がずっといいぞ!? 本当に同じ銘柄か!?」
 「本当! これなら減点しなかったわ!」
 「あー、これ、んだ!」

 こなれた!?

 「そうにゃ! これはさっき開封したやつを、ちょっと振って酸化させたやつにゃ! 本当は裏技なんにゃけど」

 振った!?

 「ああ、これ3日後のやつを疑似的に作ったのか」
 「そうね、こっちの方が好みだわ」
 「むしろこっちの方がいいぞ! 今度、家で開封したやつを残しとくわ!」

 その声を聞いて、他の審査員もテーブルの『はいぱぁもーど』の瓶を振って飲み始める。

 「おう! こっちの方がいいね!」
 「これなら、逆に票を入れたかもしれないわ!」
 「日本酒は開封した後も味を変えるにゃ。『はいぱぁもーど』は辛口で良いお酒にゃんやけど、ちょっち尖っているにゃ。あちしは一杯だけ呑んで、残りを3日寝かせた方が好きにゃよ。あくまでも個人の感想にゃけどね。にゃは!」

 そう言って、茶華さんはにははと笑った。
 
 「それじゃ、あたしが勝ってたかもしれないって事!?」
 「そうにゃ! 正直、かなり危なかったにゃ! 観客席からヒントが聞こえた時には肝が冷えたにゃ!」
 「観客席って……魚吉さん!」
 「そうそう『振れー』ってアドバイスが来てたにゃよ。おしかったにゃね~」

 そうだったのか! 魚吉さんも善子さんも師匠も気づいていたのか! 
 だが、蘭子にはその意味が理解出来ていなかった。
 俺もだ。

 「うふふ、まあ、お酒を知らないカマトト娘には荷が重かったという事ですわね」

 くそっ! うざ子うぜぇ!

 「チーフ、対戦相手には敬意を払うべきです。少なくとも、あの子の相手がチーフだったら負けていましたよ。わたしにはわかります」

 真紅さんが二種の黄檗豆腐を食べながら言う。
 この人、真面目な良い人なのか?

 「ごめん、まけちゃった……、あたしが勝って、なでちゃんとりっくんの負担を減らさないといけないのに……」

 蘭子が戻って来た、ほんの少し涙目で。
 昨日のタベルトさんとの敗北とは違う、全力を出し切れなかった、いや出せない領域での戦いをいられた試合だった。
 
 「大丈夫よ蘭子ちゃん。私が勝つわ、そして陸もね」

 そう言って部長はすっくと立ちあがった。
 うーん、こういう所はカッコいいんだよな。
 
 「うふふ、わたくしと撫子さんとの年期の差を見せてあげますわ」

 そう言ってうざ子も立ち上がる。

 「にゃはっ! しんくちゃん、勝ったにゃよ!」

 茶華さんも戻って来る。
 大量の酒瓶を抱えて。

 「茶華さん、見事でした。ですが、そのお酒は試合が終わるまで禁止です。わたしにはわかります」
 「へっ? あちしの試合はもう終わったにゃ、たとえチーフが負けても……、あ~わかったにゃ。しんくちゃんも真面目にゃね。そっちのニンジャコックは災難にゃけど」
 「油断は禁物です。わたしは全力で戦い勝利します。わたしにはわかります」
 「フハハハ! このニンジャコックを倒すというのか!? 出来ぬ事を言わぬ方が良いぞ」
 「強がりはおよしなさい。あなたは心の中でお題にアルコール関係が来る事を恐れているでしょう。ほら、あのように。わたしにはわかります」

 そう言って真紅さんはステージを指す。
 先攻はうざ子が取ったようだ。

 「これは! 再び『料理愛好倶楽部』の弱点を突いて来たー! お題は『料理:おしゃれカクテル(もちろんアルコール入りよ)』です!」

 くそっ! またアルコール関係か! だが……!

 「フハハハ! そっちこそウチの部長の恐ろしさを知らないらしい! あいつは、こんな状況でも笑顔と闇の力で俺たちに勝利をもたらすぞ!」
 「笑顔と闇の力!? 何ですかそれは? わたしにはわかりません」
 「え~、笑顔と闇の力なんて矛盾してない?」

 蘭子が少し元気を取り戻したようだ、よかった。

 「フハハハ! わからんだろうなぁー! 俺じゃなきゃわかるまい!」
 
 ステージの上では司会の人が後攻の部長のテーマを読み上げようとしていた。

 「そして、もうひとつのお題は『テーマ:名状しがたい混沌のようなもの』です!」

 いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌!
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