超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第五章 準決勝

その10 ふたりはブリギョダ!

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 ともあれ、調理が始まった。
 相手を見ている余裕などない。
 俺の予想通り、いや予想以上に良い運びだ。
 
 「ふむ、して少年、献立はどうする? 特に『高級ワイン』。拙者はアシスタントゆえ、アドバイスする立場ではないぞ」

 師匠の言う通り、師匠はアシスタントだ。
 メニューの組み立てや指示は俺が実行しなくてはならない。
 マイクで会話が会場に流れているしね。

 「師匠、コースの流れは昨日の打ち合わせの通りで、デザートを少し変えようと思います」
 「そうか、では、ゆくぞ!」
 「はい! 師匠!」

 食材は大量だ。
 豚の皮に、牛赤身肉、野菜に、乾物に各種香味野菜、フルーツ。
 それを俺ひとりで調理するのは、正直無理だ!
 だが、師匠は俺とは違う。
 俺より早く、そして正確な動きが出来る。
 昨晩、試作した時より早い。 

 「忍者師弟コンビ! 速い! 素早さが高いのが忍者の真骨頂! クリティカルヒットで首を飛ばすかの勢いで調理を進めていくー」
 「師匠、俺はワインを探しに行きます。少しの間、ここをお願いします」
 「ああ、任された」

 この『超絶! 悶絶! 料理バトル』の会場には当然ながら大量のワインも用意されている。
 俺はワインの銘柄は知らない。
 ロマネコンティとか有名な物の名前は知っているが、その背景や、意味と意義を語る事も出来ない。
 俺は冷蔵室の一角、すなわち、ワインセラーに入る。
 
 「ほっ、ほっ、ほっ。あなたのニンジャコックさんは、あなたと胸と同じで貧しいと聞きます。そんな彼で大丈夫ですの? ちなみにマゼンダさんは、これを想定して銘柄を持ち込んでますわよ」

 俺を追撃していたカメラが、俺からファインダーをずらし、ワインセラーの一角の木箱を映す。
 その木箱には『三好・クイーンズ私物』という札が付いていた。
 
 「真紅選手! この『フランス料理フルコース高級ワイン付き』を見越して、既にワインを仕入れていたー! ワインと料理の組み合わせはコースのキモとも言うべき要素! 一方、ニンジャコック選手は、まだ銘柄を決め切れていないようだー!! 当然ですが、このワインセラーのワインには値札なんて付いてないぞー!」

 耳のインカムから会場の音が聞こえる。
 少し、嘲笑めいた笑い声も。
 笑いたければ笑うがいい、俺は確かに高級ワインなんて知らない、当然だがワインを飲んだ事もない。
 あるのは母さんからの伝聞と、図書館で得られた知識だけ。
 それでも、わかる事はあるし、メニューを作る事だって出来る。
 そして、俺はを見つけた。
 俺はその銘柄をメモする。

 「これを人数分、準備をお願いする」

 俺は給仕のスタッフにメモを渡し「審査が始まるまで、ナイショでね。番組を盛り上げるためにな!」と言った。

 「ニンジャコック選手も銘柄を決めたようだー!」

 そして、俺はステージに戻る。
 ちょうど、オーブンのタイマーがゼロになり、俺はその中身を取り出す。
 作っていたのはローストビーフだ。

 「ニンジャコック選手は、ローストビーフを出してきたー! これがメインの肉料理になるのかー!」

 早く冷やさなくては。
 俺はアルミホイルで肉の塊を包み、氷水に浸ける。
 
 「スープも上がったぞ!」

 大きな壺が蒸しあがる。
 師匠はそれを抱きかかえ、作業台の上に置く。
 
 「食影選手! 30kgはありそうな巨大な壺を抱え上げたー! しかも熱々のはずだが、大丈夫なのかー!?」

 師匠を甘く見過ぎだ。
 師匠は、着ていたコートを脱ぐ。
 その下から清潔なコックコートが現れた。
 いや、上のコートも清潔なんだけどね。

 「危なかった……、保冷剤がなければ、額で支えなければならなかった……」
 「知らなかったのか! 師匠のコートには保冷剤が仕込まれているのだよ!」

 会場からクスクスという笑いが聞こえてくる。
 
 「にゃはは! あっちはおもしろいにゃねー!」
 「茶華さん、気を取られてはいけません。今は集中すべきです」
 「にゃは! そうにゃね! 破れないように、そーっと皮を剥くにゃよ」

 茶華さんが剥いているのは魚の皮か!?

 「茶華選手! 鮭に熱湯をかけて、皮を剥いている! 一方の真紅選手はパイ生地を折りたたんでいるぞ!」

 鮭、パイ皮? パイ包み焼きか!?

 「作っている料理はどっちも本格的だー! だが、忘れてはいけない! お題には『B級』がある事を! 双方はB級をどう表現するのかー!?」

 俺たちのフルコースはB級だ、昨晩、俺たちは『B級』と『フルコース』がお題になると想定して、メニューを組み立てた。
 だが、真紅さんは、B級は想定外のはずだ。
 彼女は一体B級をどう表現するのだろう?

 「さて、ここで解説にフリージア様に来て頂きました。フルコースについて聞いてみましょう!」
 「またまた、登場! ゴールデンヘアーのフリージアよ!」

 復活のF様!

 「フルコースの起源は16世紀にイタリアのメディチ家のカトリーヌ・ド・メディシスがフランスのアンリ2世に嫁いだ時に、コックを同伴させた事でフランスで始まったと言われているわ。彼女は『ズゴット』というアイス入りドームケーキを愛し、料理に"凍らせる"という当時では考えられない手間を掛ける事を示したの。そこから、ただ、腹を満たす事であった食事から、工夫を凝らした食事、美食という文化がフランスで広まり、フルコースの体系につながったと言われているわ」

 すんげぇ真面目な事を言ってる!

 「日本ではフルコースはディナーが多いけど、フランスでは昼のコースの方も多いわ。ちなみに、あたしとの夜のフルコースは、熱い肢体からだで、お口と胸とアソ……、ちょ、ちょっと、まだ終わってないわよ! デザートはア・タ……、らめぇー」

 うん、フリージア様はこうでなくっちゃ!
 そして、俺たちは調理を進める。
 目の前には油がグラグラと言っている。

 『タイームアップ! それでは、審査に入りましょう!」

◇◇◇◇◇

 コース料理ともなれば、テーブルにも広さが必要だ。
 それに給仕をする人員も控えている。
 真紅さんは鶯宮家が雇った執事たち、俺は大和盛家の執事隊だ。
 番組がスタッフを準備しましょうかと事前に声を掛けたのだが、俺たちはそれを拒否した。
 料理を出すタイミングや演出のための事前打ち合わせを済ませておく必要があったのだ。

 「これは、まるで結婚式を思わせるようなパーティ会場です!」

 審査員席は3~4名の丸テーブルになっていて、部長と蘭子とうざ子もそれに座っている。
 
 「さあ! まずは前菜からだー!」
 「季節野菜の冷製ゼリー寄せです」

 各テーブル配られた前菜はオクラと人参、トマト、キュウリで出来た美しいゼリー寄せだった。

 「これは美しく、味も良い。コースの入り口としては良い出来だ」
 「ええ、口の中がすっきりして食欲が沸いてくるわ」
 「しかし、これはB級か?」

 B級というキーワードで選定されたと思われる審査員が真紅さんをちらりと見る。

 「この野菜は、全てこの会場から20km以内で採れた物です」
 「へっ!? この都会でかい!?」
 「はい、わたしのレストランが契約している、小規模農園から仕入れています。都会であっても細々と続けていらっしゃいます。そういった方は利益ではなく、信念で野菜作りをされており、品質が素晴らしいのです。わたしにはわかります」
 「にゃは! B級のご当地グルメってやつにゃね!」

 審査員たちは優雅に相手の前菜を食べている。
 俺たちは、それを横目に物陰に隠れる。

 「撫子さん、マゼンダさんの実力、わかって頂けたでしょうか。『B級』というあなたにお似合いのお題でも、優雅に華麗に大胆にこなしてみせますのよ」
 「ふん、B級というお題を与えられれば、教科書通りのA級アクションしか取れない奴に、わしの陸が負けるか。そんなセオリーなど完全無視したB級アクションスターの登場じゃ!」

 ブリッギョダ! ブリッギョダ!

 日曜朝を思わせる、軽快なリズムが会場に響き渡る。

 「美味しいブリは水煮から! 豊かな水に味を煮しめる! ブリウィータ!」
 「血液サラサラ、不飽和脂肪酸! たっぷりの油で調理する! ブリオイリー!」
 「「ふたりはブリギョダ!!」」

 スカートをひるがえし、会場にふたりの覆面コスプレを男が乱入する!

 「こ! これは東京DXテレビで日曜朝8:30から放映している『ふたりはブリギョダ!』のコスプレ―をした、変態覆面男の登場だー! その正体はいかに!?」

 無論! 俺と師匠の忍者師弟コンビだ!
 美少女戦士というより、風貌は特殊刑事デカだけどね!
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