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第七章 決勝
その3 ぴよぴよとラララららん
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「では、先攻の俺からだな! この『原初のヅケ握り』を味合うがいい!」
寿司舟板に乗って『原初のヅケ握り』が審査員に供される。
見た目は美味しそうなヅケ握り。
いや、隠し包丁の切れ目に濃い線が見える。
その格子模様の美しさがキラキラと光り、より輝きを際立たせる。
ネタは『マグロ赤身』『ビンチョウマグロ』『イカ』『茹でタコ』『サーモン』『ブリ』『鯛』『ボイルエビ』だ。
「うぉうぉうぉ! これスゴイですよ! 全部に包丁で細工されています! ぎょーおいしそう!」
特別審査員の海洋大学教授が喜びの声を上げる。
「それだけではないぞ! 刺身の種類に応じてヅケの調味液の調合は変えているのを儂は見た!」
「見た目も素敵! 刺身パックがこんなに美味しそうになるなんて!」
特別審査員は海洋学者や寿司職人の割合が多い。
だが、おひとり様飯や残業サラリーマン飯研究家といった人も居る。
一般審査員の層も完全に二層に分かれている。
寿司愛好家の人もいれば特売大好き層だ。
審査員の傾向としては総合で五分五分か。
「うまいっ!」
顎の大きいサラリーマン飯研究家の人が端的に味を表現する。
「これは立派な寿司だわ! たとえ銀座の一等地でランチとして出されても遜色ないくらい!」
「ヅケにした事と、隠し包丁が、水分を失った刺身の表面と固くなった身の欠点を補っている! あり余るくらい!」
「上の薬味は調味液に入れた葉ワサビと生姜を刻んだものね! 一体感のある味わいだわ!」
寿司が瞬く間に審査員の腹に収まっていく。
「おいし~ね~、なでちゃん」
「きぃー! くやしいっ! でも食べちゃうもーん!」
「相変わらず、いや、前以上に良い腕をしている」
部長と蘭子、師匠の評判も上々だ。
「食材への敬愛が伝わってくる良いお寿司ですね」
「ふむ、この程度はやってみせねば、この寿師翁の弟子とは言えんからな」
魚鱗鮨サイドからも良い評価が下されている。
きっと美味いんだろうな。
今度、愛しのガキどもにも食わせてやろう。
「ふっ! 握り寿司の原典は『ヅケ』にあり! 江戸時代に誕生した握り寿司ではヅケこそ一般であったのよ! ならば、魚鱗鮨がそれを現代に受け継いでいるのは道理! この『原初のヅケ握り』は世界の刺身全てが見切り品となる時代からの伝統料理よ! 中世江戸時代の味を噛みしめるがいい!」
「これはスゴイぃー! 圧倒的に不利なお題から、見事な寿司を作り上げたぁ! しかも歴史を感じさせる味ぃ! 高得点が期待されるぞぉー!」
やはり一筋縄ではいかない。
だけど、俺の料理だって負けてはいない!
「さて、次はニンジャコック選手の寿司の番だぁー!」
「では、俺の『ピヨピヨちらし寿司』を味わってもらおうか!」
格子状になっていて、中央が凹んだ皿に乗って俺の寿司が運ばれていく。
「これって、鳥の巣!?」
そこに盛られていたのは、鳥の巣の中にボール状の酢飯が、その上に揚げて断面が見えるようにカットされた刺身だった。
「ああ! たこ焼き器で何かしていたのは、このためだったのか!?」
「大根のツマで鳥の巣を作ったのじゃな」
「そうです、大根のツマに片栗粉をまぶし、たこ焼き器で挟んで揚げる事で、鳥の巣の形にしたのです」
だって、もったいないじゃない!
残したら、もったいないお化けが出るぞ。
「ではお味は……」
俺のピヨピヨちらし寿司が、鳥の巣ごと審査員口に運び込まれる。
パリッ
「うまい! もうひとつ……うまいっ!」
「うぉうぉうぉ! これ、美味しいです!」
「乾燥した刺身は油で揚げる事で瑞々しさを取り戻したのね!」
「乗っているネタが変わる度に味も違う! しかも調味料も個々に合わせて変えているんだ!」
「そうです、塩、ワサビ醤油、ポン酢ジュレ、もみじおろしと鳥の巣ごとに合わせています」
パリッ、パリッ、パリッと次々にピヨピヨちらし寿司が皿から消えていく。
「この、ツマ大根の巣が、特に美味しい! 今度、家でもやってみよう!」
「はい、鳥の巣にしなくても、片栗粉をはたいて、揚げるだけで立派なおつまみになります」
続けて俺が出したのは、平たいツマ大根揚げだ。
「こっちもうまい! 塩だけでいける! いける!」
「ちなみに、ちらし寿司が弟妹用で、ツマ大根揚げと刺身が母さんの晩酌用です」
俺の声に合わせて、メインビジョンに俺の家族が映し出される。
海美、空楽、宙弥、そして今日は母さんも来ている。
「そうです! ニンジャコック選手の実態はぁ、家族を愛するお兄ちゃん、なのです!」
「そう! そして、愛ある家庭に必要なのは金!だけではなく、手間暇かける愛情も必要なのだ! それよりもなによりも、食べる人の事を考える事よ!」
俺は空になった刺身のトレイを掲げる。
「半額刺身を買うのは、主婦や、残業で遅くなった労働者たちだ。そして、それを食べるのは自分と家族、ならば! 作るべきのは、簡単で、面白くて、美味しくて、衛生的でならなければならない!」
俺は油鍋を示す。
「特に重要なのは加熱! 俺の『ピヨピヨちらし寿司』は細菌の繁殖しやすい断面に火を通す事で、食中毒を防いでいる。もちろん、ツマ大根にもだ! そして、俺の誇りとして、おのこしは許さない! 大根もちゃんと食べよう!」
「異論ありだ! 雑煮! 俺の『原初のヅケ握り』もヅケにする事で雑菌の繁殖を抑えている!」
「否! それでは増殖を抑えるだけで、殺菌はしておらん! それに、そのヅケ汁の塩分濃度はそこまで高くはなかろう! 浅漬けの悲劇を忘れたか!」
浅漬けの悲劇……それは浅漬けから病原性大腸菌O157が検出され、食中毒が起きた悲劇。
昨今の塩分控え目な浅漬けでは、注意が必要だとニュースでも話題になっている。
「醤油の塩分濃度は17~18%、これをそのまま使えば菌は繁殖出来ないが、ヅケ汁でみりんや出汁で割ると、食中毒の危険が残る10%以下になる事はお主も承知のはずだ!」
「くッ! だが、それでも中心まで火を通さぬ雑煮も同じ事!」
「ぐぬぬ!」
俺と土御門の口論が対決する。
「そんな時にはぁ、専門家の意見を聞いてみましょう! 本大会のセミファイナリストでもあり、食品衛生文化学の権威でもあるスチュワート教授にお話しを伺ってみましょう!」
「はい、スチュワートです。簡潔に言えば、五十歩百歩ですね。どちらも、食中毒の危険性は低いでしょう。まあ、気分の問題ですね」
「だ、そうです! どちらも衛生的には問題ないようだぁー! だとしたら! これは料理の完成度勝負になるぞーぉ!」
料理の完成度という言葉に土御門の口元が上がるのが見えた。
よっぽど自信があると見える。
だが、お前は知らない。
寿司の出来を構成する要素、『新鮮な素材』『包丁技』『酢飯』、その他にある第四の要素の事を!
寿司舟板に乗って『原初のヅケ握り』が審査員に供される。
見た目は美味しそうなヅケ握り。
いや、隠し包丁の切れ目に濃い線が見える。
その格子模様の美しさがキラキラと光り、より輝きを際立たせる。
ネタは『マグロ赤身』『ビンチョウマグロ』『イカ』『茹でタコ』『サーモン』『ブリ』『鯛』『ボイルエビ』だ。
「うぉうぉうぉ! これスゴイですよ! 全部に包丁で細工されています! ぎょーおいしそう!」
特別審査員の海洋大学教授が喜びの声を上げる。
「それだけではないぞ! 刺身の種類に応じてヅケの調味液の調合は変えているのを儂は見た!」
「見た目も素敵! 刺身パックがこんなに美味しそうになるなんて!」
特別審査員は海洋学者や寿司職人の割合が多い。
だが、おひとり様飯や残業サラリーマン飯研究家といった人も居る。
一般審査員の層も完全に二層に分かれている。
寿司愛好家の人もいれば特売大好き層だ。
審査員の傾向としては総合で五分五分か。
「うまいっ!」
顎の大きいサラリーマン飯研究家の人が端的に味を表現する。
「これは立派な寿司だわ! たとえ銀座の一等地でランチとして出されても遜色ないくらい!」
「ヅケにした事と、隠し包丁が、水分を失った刺身の表面と固くなった身の欠点を補っている! あり余るくらい!」
「上の薬味は調味液に入れた葉ワサビと生姜を刻んだものね! 一体感のある味わいだわ!」
寿司が瞬く間に審査員の腹に収まっていく。
「おいし~ね~、なでちゃん」
「きぃー! くやしいっ! でも食べちゃうもーん!」
「相変わらず、いや、前以上に良い腕をしている」
部長と蘭子、師匠の評判も上々だ。
「食材への敬愛が伝わってくる良いお寿司ですね」
「ふむ、この程度はやってみせねば、この寿師翁の弟子とは言えんからな」
魚鱗鮨サイドからも良い評価が下されている。
きっと美味いんだろうな。
今度、愛しのガキどもにも食わせてやろう。
「ふっ! 握り寿司の原典は『ヅケ』にあり! 江戸時代に誕生した握り寿司ではヅケこそ一般であったのよ! ならば、魚鱗鮨がそれを現代に受け継いでいるのは道理! この『原初のヅケ握り』は世界の刺身全てが見切り品となる時代からの伝統料理よ! 中世江戸時代の味を噛みしめるがいい!」
「これはスゴイぃー! 圧倒的に不利なお題から、見事な寿司を作り上げたぁ! しかも歴史を感じさせる味ぃ! 高得点が期待されるぞぉー!」
やはり一筋縄ではいかない。
だけど、俺の料理だって負けてはいない!
「さて、次はニンジャコック選手の寿司の番だぁー!」
「では、俺の『ピヨピヨちらし寿司』を味わってもらおうか!」
格子状になっていて、中央が凹んだ皿に乗って俺の寿司が運ばれていく。
「これって、鳥の巣!?」
そこに盛られていたのは、鳥の巣の中にボール状の酢飯が、その上に揚げて断面が見えるようにカットされた刺身だった。
「ああ! たこ焼き器で何かしていたのは、このためだったのか!?」
「大根のツマで鳥の巣を作ったのじゃな」
「そうです、大根のツマに片栗粉をまぶし、たこ焼き器で挟んで揚げる事で、鳥の巣の形にしたのです」
だって、もったいないじゃない!
残したら、もったいないお化けが出るぞ。
「ではお味は……」
俺のピヨピヨちらし寿司が、鳥の巣ごと審査員口に運び込まれる。
パリッ
「うまい! もうひとつ……うまいっ!」
「うぉうぉうぉ! これ、美味しいです!」
「乾燥した刺身は油で揚げる事で瑞々しさを取り戻したのね!」
「乗っているネタが変わる度に味も違う! しかも調味料も個々に合わせて変えているんだ!」
「そうです、塩、ワサビ醤油、ポン酢ジュレ、もみじおろしと鳥の巣ごとに合わせています」
パリッ、パリッ、パリッと次々にピヨピヨちらし寿司が皿から消えていく。
「この、ツマ大根の巣が、特に美味しい! 今度、家でもやってみよう!」
「はい、鳥の巣にしなくても、片栗粉をはたいて、揚げるだけで立派なおつまみになります」
続けて俺が出したのは、平たいツマ大根揚げだ。
「こっちもうまい! 塩だけでいける! いける!」
「ちなみに、ちらし寿司が弟妹用で、ツマ大根揚げと刺身が母さんの晩酌用です」
俺の声に合わせて、メインビジョンに俺の家族が映し出される。
海美、空楽、宙弥、そして今日は母さんも来ている。
「そうです! ニンジャコック選手の実態はぁ、家族を愛するお兄ちゃん、なのです!」
「そう! そして、愛ある家庭に必要なのは金!だけではなく、手間暇かける愛情も必要なのだ! それよりもなによりも、食べる人の事を考える事よ!」
俺は空になった刺身のトレイを掲げる。
「半額刺身を買うのは、主婦や、残業で遅くなった労働者たちだ。そして、それを食べるのは自分と家族、ならば! 作るべきのは、簡単で、面白くて、美味しくて、衛生的でならなければならない!」
俺は油鍋を示す。
「特に重要なのは加熱! 俺の『ピヨピヨちらし寿司』は細菌の繁殖しやすい断面に火を通す事で、食中毒を防いでいる。もちろん、ツマ大根にもだ! そして、俺の誇りとして、おのこしは許さない! 大根もちゃんと食べよう!」
「異論ありだ! 雑煮! 俺の『原初のヅケ握り』もヅケにする事で雑菌の繁殖を抑えている!」
「否! それでは増殖を抑えるだけで、殺菌はしておらん! それに、そのヅケ汁の塩分濃度はそこまで高くはなかろう! 浅漬けの悲劇を忘れたか!」
浅漬けの悲劇……それは浅漬けから病原性大腸菌O157が検出され、食中毒が起きた悲劇。
昨今の塩分控え目な浅漬けでは、注意が必要だとニュースでも話題になっている。
「醤油の塩分濃度は17~18%、これをそのまま使えば菌は繁殖出来ないが、ヅケ汁でみりんや出汁で割ると、食中毒の危険が残る10%以下になる事はお主も承知のはずだ!」
「くッ! だが、それでも中心まで火を通さぬ雑煮も同じ事!」
「ぐぬぬ!」
俺と土御門の口論が対決する。
「そんな時にはぁ、専門家の意見を聞いてみましょう! 本大会のセミファイナリストでもあり、食品衛生文化学の権威でもあるスチュワート教授にお話しを伺ってみましょう!」
「はい、スチュワートです。簡潔に言えば、五十歩百歩ですね。どちらも、食中毒の危険性は低いでしょう。まあ、気分の問題ですね」
「だ、そうです! どちらも衛生的には問題ないようだぁー! だとしたら! これは料理の完成度勝負になるぞーぉ!」
料理の完成度という言葉に土御門の口元が上がるのが見えた。
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