超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

文字の大きさ
101 / 120
第七章 決勝

その7 食えない料理、食えない奴ら

しおりを挟む
 「では、続いて安寿選手の審査に移りましょうぉ!」

 安寿さんの寿司が審査員の席に配膳される、俺たちの控え席にも。
 食材はゲテモノ系かと思いきや、寿司になると普通だ。
 軍艦が3種、握りが1種、そして蝦蛄シャコの姿寿司だ。

 「おい、雑煮。これが何かわかるか? 俺がレクチャーしてやってもよいぞ」
 「フハハハハ! 頼む!」
 「おしえて~、きんぐさん」
 「よかろう! まずは、この一番目立つシャコから教えてやろう!」
 「あー、それは分かる、それだけは。筆で採る穴蝦蛄アナジャコだろ」

 小さい頃に読んだ『海の生き物図鑑』に載っていた。
 住んでいる穴に筆を入れると取れる、珍しい蝦蛄シャコだ。

 「そうか、では食ったことは?」
 「ないよ~、でも殻はむかなくてもいいの~?」

 これは姿揚げされている。

 「ふん、これは殻ごと食べられる! しかも、子持ちだ! 心して食え雑煮ども」

 子持ちか、でも味は普通の蝦蛄と変わらないだろう。
 
 バリッ

 安寿さんからの説明を受け、審査員達も殻ごと食べ始める。
 美味い! 普通の蝦蛄と全然違う! 卵のコクと殻の香ばしさと身の甘味が最高だ!

 「ふん、美味くて声も出ぬか。まあ、無理もない。雑煮には過ぎた味よ」

 バリバリと俺は穴蝦蛄をむさぼり食う。

 「次は『わけのしんのす』だ! 丸い揚げた物が乗っている軍艦がそれだ」
 「ああ、わかいけつあなね~」
 
 蘭子が順調にフリージア様に毒されている。
 くっ! 俺の桃闇ピンクダークが苦しんでいる!
 もっと恥じらいを! と悶えている!
 俺もわけのしんのすを口に運ぶ。
 少しレバーを思わせる食感と味だが、うま味が噛む毎に溢れて来る。

 「さらに、この卵のような粒粒は五本海胆ゴホンガゼ! マヒトデの卵巣よ!」
 「おいし~、ウニみたい」

 ヒトデを食べたのは初めてだが、ウニに似た良い味だ。

 「そして、そして、握りはヒラよ! ニシンの仲間だが全長50cmにもなる! そして、この刺身には秘密がある!」
 「あ、わかった~、骨切りしているんだ~」
 「ほほう、気づいたか、このヒラは小骨が多く、骨切りしないと食えたものじゃない。だが、仕事をちゃんとすれば、その美味さは絶品よ!」

 スゴク美味い! 小骨は多少気になるが、それを上回る美味さだ。

 「最後は筒牡蠣ツツガキの湯引きよ! 非常に貴重なのだぞ!」

 これも良い、貝の甘味が舌を唸らせる。
 土御門と同様の説明を安寿さんは語っている。
 会場の審査員からも『良い味』『見た目とは裏腹ね』『仕事も見事だ』『素材の味を十二分に引き出しているわ』といった称賛の声が上がっている。
 だが、これは普通の美味さだ。

 「それで、安寿選手。この寿司は、どこがのかね? まさか素材の見た目が悪いだけとは言わんだろうね」

 この程度で、部長のを上回る事はない!
 
 「そ……、それは……、これは『有明海の恵み』って寿司で……」

 安寿さんが言葉に詰まっている。

 「それだけかね?」
 「それだけじゃないけど……」
 
 安寿さんの声が、だんだん小さくなる。

 「他には?」
 「そ、それは言えません……」
 「言ってくれないと、わからないねぇ」
 
 よし! 勝ちはもらった!

 「おかしい……安寿嬢は、もっと多弁なはずだ……」

 なにやら土御門が呟いているが、きっと見た目がだけなのだろう。
 味ならば正直、安寿さんの方が上だが、では、さっきの俺たちのインパクトが遥かに上だ。

 いや、何かがおかしい……
 あの、魚鱗鮨のメンバーで寿師翁の娘の安寿さんが、”マズイ料理”というお題のテーマに対し、こんなに薄っぺらな料理を出すだろうか?
 この寿司は『有明海の恵み』の名の通り、有明海産の海産物だ。
 そして、美味うまい……まさか!?

 俺は顔を上げて、寿師翁と部長の顔を見る。
 隣の寿師翁は余裕のある表情をしていて、部長は唇を噛みしめている。
 これは

 「やめろー! 部長ー! 俺たちは勝てるんだ! このまま、勝利出来るんだ! だから! お願いだ! 馬鹿なまねは止めろぉー! それは、それだけは!!」

 くそっ、なんて恐ろしい敵なんだ、寿師翁!
 さっき、俺の発言を遮って、部長の寿司を食べたり、トラフグをサバフグと言ったのは、この時の為か!!
 会場で唯一、全体を把握して、試合をコントロールしていたと言うのか!!
 部長の性格まで把握して!

 「部長ー! そのまま、そのままで良いんだ! 俺たちの目的を、勝利を忘れないでくれー!」

 俺の発言は逆効果かもしれない。
 だけど、言わなければ、部長は言ってしまう。
 だから俺は、一条の光明に掛けて、叫んだ。

 「こっ、これはぁー!? 何が起きているのでしょう!? 何も言わない安寿選手とは裏腹に、大声を上げているのは、敵であるニンジャコック選手だー!?」
 「りっくん、どうしたの? あたしたちの作戦通りじゃない?」
 「騒がしいぞ、雑煮。 お前らの発言で結果が変わるわけでもあるまい」

 変わるんだよ! それが!

 部長の唇が動いた。
 俺には読唇術の心得はないが、それでも小さなその声が聞こえた気がした。

 『ごめん陸、私が目指すのは完全勝利なの。それに、寿師翁には借りがあるわ』

 ああ、やはりダメだった……

 「ケーケケッケ! 何度か言わせてもらったけど、相変わらずレベルの低い大会だねぇ!」

 部長が反り返る程に背を曲げて高笑いを上げる。

 「こっ、これは!? どうした事でしょう!? 撫子選手? いったい何が!?」
 「わらっちゃうくらい、おかしいのさ! 特に審査員のレベルの低さには、あきれかえっちゃうくらい! このが分からないなんてさ! いーっぺん、勉強しなおした方がいいんじゃない!?」

 唇の端を吊り上げ、ケタケタと部長がわらう。

 「ん、また何か私達に言いたい事があるのかね!? そのレベルが低いって事を説明してもらおうか!」

 初老の特別審査員が少し怒りの表情を浮かべて部長を睨む。

 「あらー、それはできない相談だねぇ。でもヒントを言っちゃおっ! ヒントは『マグロ』と『サンマ』よ。あー、言っちゃったっ!」
 「ん? 『マグロ』と『サンマ』? そんなものは、この試合に関係なさそうだが……」

 部長の言葉に少し特別審査員が考え込む。

 「うぉうぉうぉ! ですよぉ! これは!! すごくです!」
 「おや? 気づかれたのかね? この料理のとは、どんな意味なのか教えてくれないか?」

 やはり最初に気付いたのは海洋学者の特別審査員だ。

 「うぉうぉうぉ! 味が悪いんですよ、この寿司は! 不味まずくて、食べる価値なんてないですねぇ」
 「えっ!? さっきまでは『おいしいですぅー!』って言ってたではありませんか?」
 「うぉうぉうぉ! あれは間違いです! 心にもない事を言っちゃったんですよぉ! この寿司の味は最低です! みなさんも食べない方がいいですよぉ!」

 ああ、事になった……

 「ああ! そういう事か! これは! 食えたもんじゃない!」

 続けて、別の特別審査員もマズイと叫んだ。

 「こ、これは何が起きているのでしょう!?」
 
 ラウンダも動揺の色を隠せない。

 「あー! ! ! ! これは最低の料理だ!」
 
 一般審査員からもマズイの声が上がる。
 スマホを見せ合う姿も見える。
 それを見た審査員は「マズイ!」と声を上げる。 

 「! これは酷い味だ!」
 「ええ! 二度と食べたくないわ!」
 「これは最悪の料理だ!」
 「! 正真正銘、味が悪い!」
 「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」

 会場は『!』の大合唱で埋められた。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...