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第七章 決勝
その7 食えない料理、食えない奴ら
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「では、続いて安寿選手の審査に移りましょうぉ!」
安寿さんの寿司が審査員の席に配膳される、俺たちの控え席にも。
食材はゲテモノ系かと思いきや、寿司になると普通だ。
軍艦が3種、握りが1種、そして蝦蛄の姿寿司だ。
「おい、雑煮。これが何かわかるか? 俺がレクチャーしてやってもよいぞ」
「フハハハハ! 頼む!」
「おしえて~、きんぐさん」
「よかろう! まずは、この一番目立つシャコから教えてやろう!」
「あー、それは分かる、それだけは。筆で採る穴蝦蛄だろ」
小さい頃に読んだ『海の生き物図鑑』に載っていた。
住んでいる穴に筆を入れると取れる、珍しい蝦蛄だ。
「そうか、では食ったことは?」
「ないよ~、でも殻はむかなくてもいいの~?」
これは姿揚げされている。
「ふん、これは殻ごと食べられる! しかも、子持ちだ! 心して食え雑煮ども」
子持ちか、でも味は普通の蝦蛄と変わらないだろう。
バリッ
安寿さんからの説明を受け、審査員達も殻ごと食べ始める。
美味い! 普通の蝦蛄と全然違う! 卵のコクと殻の香ばしさと身の甘味が最高だ!
「ふん、美味くて声も出ぬか。まあ、無理もない。雑煮には過ぎた味よ」
バリバリと俺は穴蝦蛄をむさぼり食う。
「次は『わけのしんのす』だ! 丸い揚げた物が乗っている軍艦がそれだ」
「ああ、わかいけつあなね~」
蘭子が順調にフリージア様に毒されている。
くっ! 俺の桃闇が苦しんでいる!
もっと恥じらいを! と悶えている!
俺もわけのしんのすを口に運ぶ。
少しレバーを思わせる食感と味だが、うま味が噛む毎に溢れて来る。
「さらに、この卵のような粒粒は五本海胆! マヒトデの卵巣よ!」
「おいし~、ウニみたい」
ヒトデを食べたのは初めてだが、ウニに似た良い味だ。
「そして、そして、握りは平よ! ニシンの仲間だが全長50cmにもなる! そして、この刺身には秘密がある!」
「あ、わかった~、骨切りしているんだ~」
「ほほう、気づいたか、この平は小骨が多く、骨切りしないと食えたものじゃない。だが、仕事をちゃんとすれば、その美味さは絶品よ!」
スゴク美味い! 小骨は多少気になるが、それを上回る美味さだ。
「最後は筒牡蠣の湯引きよ! 非常に貴重なのだぞ!」
これも良い、貝の甘味が舌を唸らせる。
土御門と同様の説明を安寿さんは語っている。
会場の審査員からも『良い味』『見た目とは裏腹ね』『仕事も見事だ』『素材の味を十二分に引き出しているわ』といった称賛の声が上がっている。
だが、これは普通の美味さだ。
「それで、安寿選手。この寿司は、どこがマズイのかね? まさか素材の見た目が悪いだけとは言わんだろうね」
この程度で、部長のマズさを上回る事はない!
「そ……、それは……、これは『有明海の恵み』って寿司で……」
安寿さんが言葉に詰まっている。
「それだけかね?」
「それだけじゃないけど……」
安寿さんの声が、だんだん小さくなる。
「他には?」
「そ、それは言えません……」
「言ってくれないと、わからないねぇ」
よし! 勝ちはもらった!
「おかしい……安寿嬢は、もっと多弁なはずだ……」
なにやら土御門が呟いているが、きっと見た目がマズイだけなのだろう。
味ならば正直、安寿さんの方が上だが、マズさでは、さっきの俺たちのインパクトが遥かに上だ。
いや、何かがおかしい……
あの、魚鱗鮨のメンバーで寿師翁の娘の安寿さんが、”マズイ料理”というお題のテーマに対し、こんなに薄っぺらな料理を出すだろうか?
この寿司は『有明海の恵み』の名の通り、有明海産の海産物だ。
そして、美味い……まさか!?
俺は顔を上げて、寿師翁と部長の顔を見る。
隣の寿師翁は余裕のある表情をしていて、部長は唇を噛みしめている。
これはマズイ!
「やめろー! 部長ー! 俺たちは勝てるんだ! このまま、勝利出来るんだ! だから! お願いだ! 馬鹿なまねは止めろぉー! それは、それだけはマズイ!!」
くそっ、なんて恐ろしい敵なんだ、寿師翁!
さっき、俺の発言を遮って、部長の寿司を食べたり、トラフグをサバフグと言ったのは、この時の為か!!
会場で唯一、全体を把握して、試合をコントロールしていたと言うのか!!
部長の性格まで把握して!
「部長ー! そのまま、そのままで良いんだ! 俺たちの目的を、勝利を忘れないでくれー!」
俺の発言は逆効果かもしれない。
だけど、言わなければ、部長は言ってしまう。
だから俺は、一条の光明に掛けて、叫んだ。
「こっ、これはぁー!? 何が起きているのでしょう!? 何も言わない安寿選手とは裏腹に、大声を上げているのは、敵であるニンジャコック選手だー!?」
「りっくん、どうしたの? あたしたちの作戦通りじゃない?」
「騒がしいぞ、雑煮。 お前らの発言で結果が変わるわけでもあるまい」
変わるんだよ! それが!
部長の唇が動いた。
俺には読唇術の心得はないが、それでも小さなその声が聞こえた気がした。
『ごめん陸、私が目指すのは完全勝利なの。それに、寿師翁には借りがあるわ』
ああ、やはりダメだった……
「ケーケケッケ! 何度か言わせてもらったけど、相変わらずレベルの低い大会だねぇ!」
部長が反り返る程に背を曲げて高笑いを上げる。
「こっ、これは!? どうした事でしょう!? 撫子選手? いったい何が!?」
「わらっちゃうくらい、おかしいのさ! 特に審査員のレベルの低さには、あきれかえっちゃうくらい! このマズさが分からないなんてさ! いーっぺん、勉強しなおした方がいいんじゃない!?」
唇の端を吊り上げ、ケタケタと部長が嗤う。
「ん、また何か私達に言いたい事があるのかね!? そのレベルが低いって事を説明してもらおうか!」
初老の特別審査員が少し怒りの表情を浮かべて部長を睨む。
「あらー、それはできない相談だねぇ。でもヒントを言っちゃおっ! ヒントは『マグロ』と『サンマ』よ。あー、言っちゃったっ!」
「ん? 『マグロ』と『サンマ』? そんなものは、この試合に関係なさそうだが……」
部長の言葉に少し特別審査員が考え込む。
「うぉうぉうぉ! マズイですよぉ! これは!! すごくマズイです!」
「おや? 気づかれたのかね? この料理のマズさとは、どんな意味なのか教えてくれないか?」
やはり最初に気付いたのは海洋学者の特別審査員だ。
「うぉうぉうぉ! 味が悪いんですよ、この寿司は! マズくて、不味くて、食べる価値なんてないですねぇ」
「えっ!? さっきまでは『おいしいですぅー!』って言ってたではありませんか?」
「うぉうぉうぉ! あれは間違いです! 心にもない事を言っちゃったんですよぉ! この寿司の味は最低です! みなさんも食べない方がいいですよぉ!」
ああ、マズイ事になった……
「ああ! そういう事か! これは不味い! 食えたもんじゃない!」
続けて、別の特別審査員もマズイと叫んだ。
「こ、これは何が起きているのでしょう!?」
ラウンダも動揺の色を隠せない。
「あー! マズイ! マズイ! 不味い! これは最低の料理だ!」
一般審査員からもマズイの声が上がる。
スマホを見せ合う姿も見える。
それを見た審査員は「マズイ!」と声を上げる。
「マズッ! これは酷い味だ!」
「ええ! 二度と食べたくないわ!」
「これは最悪の料理だ!」
「不味い! 正真正銘、味が悪い!」
「マズイ!」「マズイ!」「マズイ!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」
会場は『マズイ!』の大合唱で埋められた。
安寿さんの寿司が審査員の席に配膳される、俺たちの控え席にも。
食材はゲテモノ系かと思いきや、寿司になると普通だ。
軍艦が3種、握りが1種、そして蝦蛄の姿寿司だ。
「おい、雑煮。これが何かわかるか? 俺がレクチャーしてやってもよいぞ」
「フハハハハ! 頼む!」
「おしえて~、きんぐさん」
「よかろう! まずは、この一番目立つシャコから教えてやろう!」
「あー、それは分かる、それだけは。筆で採る穴蝦蛄だろ」
小さい頃に読んだ『海の生き物図鑑』に載っていた。
住んでいる穴に筆を入れると取れる、珍しい蝦蛄だ。
「そうか、では食ったことは?」
「ないよ~、でも殻はむかなくてもいいの~?」
これは姿揚げされている。
「ふん、これは殻ごと食べられる! しかも、子持ちだ! 心して食え雑煮ども」
子持ちか、でも味は普通の蝦蛄と変わらないだろう。
バリッ
安寿さんからの説明を受け、審査員達も殻ごと食べ始める。
美味い! 普通の蝦蛄と全然違う! 卵のコクと殻の香ばしさと身の甘味が最高だ!
「ふん、美味くて声も出ぬか。まあ、無理もない。雑煮には過ぎた味よ」
バリバリと俺は穴蝦蛄をむさぼり食う。
「次は『わけのしんのす』だ! 丸い揚げた物が乗っている軍艦がそれだ」
「ああ、わかいけつあなね~」
蘭子が順調にフリージア様に毒されている。
くっ! 俺の桃闇が苦しんでいる!
もっと恥じらいを! と悶えている!
俺もわけのしんのすを口に運ぶ。
少しレバーを思わせる食感と味だが、うま味が噛む毎に溢れて来る。
「さらに、この卵のような粒粒は五本海胆! マヒトデの卵巣よ!」
「おいし~、ウニみたい」
ヒトデを食べたのは初めてだが、ウニに似た良い味だ。
「そして、そして、握りは平よ! ニシンの仲間だが全長50cmにもなる! そして、この刺身には秘密がある!」
「あ、わかった~、骨切りしているんだ~」
「ほほう、気づいたか、この平は小骨が多く、骨切りしないと食えたものじゃない。だが、仕事をちゃんとすれば、その美味さは絶品よ!」
スゴク美味い! 小骨は多少気になるが、それを上回る美味さだ。
「最後は筒牡蠣の湯引きよ! 非常に貴重なのだぞ!」
これも良い、貝の甘味が舌を唸らせる。
土御門と同様の説明を安寿さんは語っている。
会場の審査員からも『良い味』『見た目とは裏腹ね』『仕事も見事だ』『素材の味を十二分に引き出しているわ』といった称賛の声が上がっている。
だが、これは普通の美味さだ。
「それで、安寿選手。この寿司は、どこがマズイのかね? まさか素材の見た目が悪いだけとは言わんだろうね」
この程度で、部長のマズさを上回る事はない!
「そ……、それは……、これは『有明海の恵み』って寿司で……」
安寿さんが言葉に詰まっている。
「それだけかね?」
「それだけじゃないけど……」
安寿さんの声が、だんだん小さくなる。
「他には?」
「そ、それは言えません……」
「言ってくれないと、わからないねぇ」
よし! 勝ちはもらった!
「おかしい……安寿嬢は、もっと多弁なはずだ……」
なにやら土御門が呟いているが、きっと見た目がマズイだけなのだろう。
味ならば正直、安寿さんの方が上だが、マズさでは、さっきの俺たちのインパクトが遥かに上だ。
いや、何かがおかしい……
あの、魚鱗鮨のメンバーで寿師翁の娘の安寿さんが、”マズイ料理”というお題のテーマに対し、こんなに薄っぺらな料理を出すだろうか?
この寿司は『有明海の恵み』の名の通り、有明海産の海産物だ。
そして、美味い……まさか!?
俺は顔を上げて、寿師翁と部長の顔を見る。
隣の寿師翁は余裕のある表情をしていて、部長は唇を噛みしめている。
これはマズイ!
「やめろー! 部長ー! 俺たちは勝てるんだ! このまま、勝利出来るんだ! だから! お願いだ! 馬鹿なまねは止めろぉー! それは、それだけはマズイ!!」
くそっ、なんて恐ろしい敵なんだ、寿師翁!
さっき、俺の発言を遮って、部長の寿司を食べたり、トラフグをサバフグと言ったのは、この時の為か!!
会場で唯一、全体を把握して、試合をコントロールしていたと言うのか!!
部長の性格まで把握して!
「部長ー! そのまま、そのままで良いんだ! 俺たちの目的を、勝利を忘れないでくれー!」
俺の発言は逆効果かもしれない。
だけど、言わなければ、部長は言ってしまう。
だから俺は、一条の光明に掛けて、叫んだ。
「こっ、これはぁー!? 何が起きているのでしょう!? 何も言わない安寿選手とは裏腹に、大声を上げているのは、敵であるニンジャコック選手だー!?」
「りっくん、どうしたの? あたしたちの作戦通りじゃない?」
「騒がしいぞ、雑煮。 お前らの発言で結果が変わるわけでもあるまい」
変わるんだよ! それが!
部長の唇が動いた。
俺には読唇術の心得はないが、それでも小さなその声が聞こえた気がした。
『ごめん陸、私が目指すのは完全勝利なの。それに、寿師翁には借りがあるわ』
ああ、やはりダメだった……
「ケーケケッケ! 何度か言わせてもらったけど、相変わらずレベルの低い大会だねぇ!」
部長が反り返る程に背を曲げて高笑いを上げる。
「こっ、これは!? どうした事でしょう!? 撫子選手? いったい何が!?」
「わらっちゃうくらい、おかしいのさ! 特に審査員のレベルの低さには、あきれかえっちゃうくらい! このマズさが分からないなんてさ! いーっぺん、勉強しなおした方がいいんじゃない!?」
唇の端を吊り上げ、ケタケタと部長が嗤う。
「ん、また何か私達に言いたい事があるのかね!? そのレベルが低いって事を説明してもらおうか!」
初老の特別審査員が少し怒りの表情を浮かべて部長を睨む。
「あらー、それはできない相談だねぇ。でもヒントを言っちゃおっ! ヒントは『マグロ』と『サンマ』よ。あー、言っちゃったっ!」
「ん? 『マグロ』と『サンマ』? そんなものは、この試合に関係なさそうだが……」
部長の言葉に少し特別審査員が考え込む。
「うぉうぉうぉ! マズイですよぉ! これは!! すごくマズイです!」
「おや? 気づかれたのかね? この料理のマズさとは、どんな意味なのか教えてくれないか?」
やはり最初に気付いたのは海洋学者の特別審査員だ。
「うぉうぉうぉ! 味が悪いんですよ、この寿司は! マズくて、不味くて、食べる価値なんてないですねぇ」
「えっ!? さっきまでは『おいしいですぅー!』って言ってたではありませんか?」
「うぉうぉうぉ! あれは間違いです! 心にもない事を言っちゃったんですよぉ! この寿司の味は最低です! みなさんも食べない方がいいですよぉ!」
ああ、マズイ事になった……
「ああ! そういう事か! これは不味い! 食えたもんじゃない!」
続けて、別の特別審査員もマズイと叫んだ。
「こ、これは何が起きているのでしょう!?」
ラウンダも動揺の色を隠せない。
「あー! マズイ! マズイ! 不味い! これは最低の料理だ!」
一般審査員からもマズイの声が上がる。
スマホを見せ合う姿も見える。
それを見た審査員は「マズイ!」と声を上げる。
「マズッ! これは酷い味だ!」
「ええ! 二度と食べたくないわ!」
「これは最悪の料理だ!」
「不味い! 正真正銘、味が悪い!」
「マズイ!」「マズイ!」「マズイ!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」「不味い!」
会場は『マズイ!』の大合唱で埋められた。
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