超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

文字の大きさ
104 / 120
第七章 決勝

その10 センチメンタルフィッシング2

しおりを挟む
 「ほほう、儂にもわかるぞ。あれは中々の業物よ。この儂の包丁と同じ職人製と見える」

 げっ! あの不可思議な文様は蘭子のと同じダマスカス文様!
 俺は小学生の時、中二病を発症していた。
 そして、その時に、近所に住んでいたナイフ職人見習いのお兄ちゃんの手伝いを夏休み中して、お礼に現物支給で習作もらったんだ。
 それを蘭子がねだるので、プレゼントしてやったんだ。

 「何とぉ! ステージのふたりが同じ職人製の包丁を使っているぞぉ! あれは、奇才の新鋭包丁職人『太切断だいせつだん』さんの包丁だぁー!」
 「ちなみに太切断だいせつだんさんは東京出身であるぞ。江戸前ならぬ東京前じゃな」

 あ~、あの兄ちゃん、橋を渡った先にあったからな。

 「ふん! 至高の財をもって集めた道具があったとしても、それで寿司の旨さは変わらんわ」
 「そう! 重要なのは、魚と腕と愛よ! 魚と愛はあるとみたわ! でも、肝心の腕はどうかしら?」
 「魚も重要だぞ! 東京前と言いながら、違う地域の魚では東京前にならんからな」

 ふたりの会話を聞きながら、俺は何度も往復する。
 魚は小魚系が多い、30cmを超えない種類が大半だ。

 「さあ! 両者共に新鮮な魚を捌いていくぞ。蘭子選手の魚は……目光めひかりと……なんでしょう!? うぉうぉさん?」
 「うぉうぉうぉ! あれは、いっぱいいっぱいありますよぉ! 目光めひかりとキララギンメ、銀目鯛の仲間ですね。金目じゃなく、銀目ですよぉ。そして、カゴカマスに菱鯛ヒシダイ銀鏡ギンカガミに、小判鯵コバンアジに、ヒイラギです、木へんの魚なんですよぉ! それに駕籠担鯛カゴカキダイに、さらにソコホウボウに赤笠子アカカサゴ、少し大きい棘のある魚が鬼笠子オニカサゴの仲間のイズカサゴですね。いっぱいありますねぇ、まだまだあるみたいですよぉ!」

 うぉうぉさんは、魚を一見しただけで種類を見分ける特殊能力を持っている。

 「あの大きいのはアラですね九州でアラと呼ばれているクエじゃないです。和名のアラです。紛らわしいですねぇ。ああーっ! あれは珍しい! バケムツですよ! 隣のちっちゃいのが同じハタ科の大目羽太オオメハタですぅー! 小さいいっぱいあるのがミナミハタンポです。捨てられる小魚かもしれませんが、味はすごく良いのですよぉ! そしてダツ、攻撃力が高いですよぉ!」
 
 はぁ、はぁ……ものすごく多い。

 「どんどんありますよぉ! あれは旬のアオリイカですねぇ! 芝エビは東京湾を代表するエビですねぇ。最近になって水産資源が回復してきたのですよぉ! ああっー! あの可愛いのはミノエビですねぇ! 漁港でしか食べられない貴重なエビちゃんですよぉ! そして大きいエビちゃんがセミエビです! スリッパのようなエビですがロブスターの仲間ですよぉ! ああ、あれは幅海苔ですねぇ! 磯で幅を利かせているから幅海苔って言うんですよぉ!」

 俺が箱を運ぶ旅にうぉうぉさんが解説してくれて助かる。
 
 「ちょっと待てーい! 明らかに東京湾で採れない魚が多いではないか!」と土御門が気勢を吐く。
 「ふっ、惰弱だじゃくな!」と師匠が言う。
 「ふっ、情弱じょうじゃくな!」と俺も言う。

 「これは、土御門の言う通り、これは東京湾だけでななく、その先の太平洋で採れた魚も入っている! 深海魚系は特にそうだ!」

 俺は師匠に叩きこまれた魚知識を披露する。

 「少しは分かっているじゃないか雑煮! ならば! この東京前寿司対決で、沿岸漁業の沖の魚を使う愚かしさも分かっておろうな。まさか、水揚げを東京ですれば、産地は東京だと言い張る気ではあるまいな! そんなものは東京前ではない!」
 「愚かなのはお前だ! 東京は東京湾だけではない! いいか! 魚吉さんとその仲間は、このクルーザーで伊豆諸島の神津島まで行って、釣ってきたり、漁師さんから買って来てるんだ!!」

 俺はクルーザーに手を伸ばすと、その上で魚吉さんたちがピースをする。

 「ホント、強行軍やったわ、なーみんなー」
 「釣れんかったらどうしようかと思ったわ」
 「俺は買い出しやで、今度は釣りしたかや」
 「せな、来週いこか」

 蘭子が大将になった理由はここにもある。
 とにかく蘭子の試合開始時間を遅めにしたかったのだ。

 「伊豆ではないか! 伊豆諸島!」
 「へへーん、神津島は東京都に属しまーす。小笠原だって東京都だしー」

 部長が揶揄するような声で言う。

 「そっ、そんなっ!? あの第2作の冒頭で第1作の12股主人公が事故死して、そのショックで東京から離れなくなってしまった広島の女の子が陥った罠に、土御門さんがまったとでもいうの!」
 
 安寿さんは絶対寿師翁の娘だ。
 20代だが可愛らしさの残る美少女のビジュアルは母親似なのだろう。

 「くっ、だが、いくら珍しい魚を集めようが、捌けなければ宝の持ち腐れよ! 鮮魚は集めて嬉しいコレクションではないぞ!」
 
 甘いな、お前は蘭子の真の実力を、俺たちみんなは知っている実力を知らない。

 ガリッガリッ、ガッガッ、ザシュザシュ、スッスッスッ

 音の源は当然蘭子の手元からだ。
 時に刃で、時に柄で、時に掌で、蘭子は魚を切り、断ち、引き抜き、いでいく。
 
 「ほほう、中々の腕ではないか! 兄貴の教えが良いのであろう」

 ガギャガギャ、グボッグボツ、スッスッスッ、ジャー

 最後の音は熱湯をかけた音だ。
 皮を湯霜づくりにしているのだ。

 「ええ、食材への愛が……つ、土御門さん、あれ、あれは!」

 ボキュ、ゴキュ、ガンガン

 蘭子の掌が活きセミエビをじり殺す音だ。
 蘭子の凄さは、その巨乳だけではない。
 蘭子の握力は70kgに達する、JKの平均は30kgに届かない。
 男子高校生でも平均は50kg以下、運動部で60kg超だ。
 俺より強いです。
 サトウダイコンを『ビート! エンドッ!』とばかりに握りつぶした時の恐怖は金玉がヒュンとした。
 キュンじゃない、ヒュンだ。
 巨乳の土台たる大胸筋も発達している。
 おっぱいはパワーだ!
 
 そして、パワーだけじゃない。
 彼女の見た目だけではわからないだろう。
 俺も師匠に指摘されるまでわからなかった。
 『竜の舌』での特訓には、当然刺身を作る練習もあった。
 師匠と蘭子の刺身は出来の差がふたりの間でしかわからない程、拮抗していた。
 『ん~、食影せんせ~の方がやっぱ上手いね~』と言っていたが、俺にも部長にも美味い刺身としか思えなかった。
 だが、蘭子が師匠に勝っている点があった。
 ”速さ”だ。

 「速い! なんという速さだ!」
 「あああああ、愛の力がこんなにも偉大だなんて! 知ってはいましたけど、思っていませんでした!」

 蘭子は特訓前から師匠の1.5倍程度の速さで魚を捌けたのだ。
 師匠はそれに驚嘆し、蘭子を教える時に、それを伸ばす方向で教えた。
 教える事は多くはなかったが、数少ないコツや、配置と手順を教え、そして最後には師匠の2倍の速さまで成長した。

 ちなみに師匠は俺の2倍の速さで魚を捌ける。
 倍率ドン! さらに倍だ!

 「こっ、これは、この寿師翁も度肝を抜かれたわ!」

 寿師翁も一旦、手を止めて蘭子の包丁技に見入っている。

 「速いぃー! 蘭子選手! 動きは繊細にて華憐だが、大胆な包丁使いで小魚を捌いていくぅー! 平たくて、身の小さい魚は1匹から4切れ程度しか刺身に出来ません! だが、この速さならぁー! 審査員に十二分に行き渡るぞぉー!」
 「十二分じゃないよー! 二十分にじゅうぶんだよー!」

 蘭子がさらにスピードを上げる。
 その勢いに合わせて、胸がバインバインと揺れる。
 蘭子の乳細胞がトップギアだぜ!
 あの動きには秘密がある……AMBACアンバック、それは運動においてデッドウエイトと思われていた巨乳を、その動きによる反作用で姿勢制御に使うシステム、能動的質量移動による自動姿勢制御だ!
 もちろん俺の桃闇ピンクダークによる架空の技術である!

 「おい、あのカサゴの棘を一太刀で切って捨てたぞ!」
 「しかも、肝を全く傷つけずに取り分けているわ!」
 「つ、次はアラだ! あの大きい高級魚をひとりで、あんなに小さな包丁で!?」

 アラは超がつくほどの高級魚だ。
 大きさは1m以上にもなる。
 だが、あそこにあるのは1.5mに達する。
 そして、その味は大きさに比例して美味くなるのではなく、二字曲線を描く形で増加するという話だ!
 話だ! 食った事はない!

 「まさか……、あの寿司マシーンは……このために!」

 寿師翁は既に寿司を握り始めているが、蘭子はまだ刺身を作っている。
 時間にして、かなり遅れて蘭子は寿司を握り始めた。
 刺身を乗せて軽く握るだけの作業だ。 

 「ヘイお待ち! 大皿をお持ちしました!」

 再び部長が搬入して来たのは直径90cmもの三尺皿。
 それも何枚も。
 そして、蘭子の寿司は種類別に大皿に載せられていく。

 「これが、あたしの全身全霊! 全力全開! 『江戸前改め東京前の皿鉢さわち寿司』だよ!

 刷毛で醤油を塗り終えた、蘭子の高らかな声と同時に調理終了の笛が鳴った。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...