超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第七章 決勝

その11 ラスボスはかく語りき

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 「これはスゴイィー! 蘭子選手の寿司は皿鉢さわち形式だー! ものすごい量です!」

 えっほ、えっほと俺と部長はふたりで一つの大皿を運ぶ。
 これは一般審査員の分だ。
 そして、特別審査員には一人前を寿司下駄に載せ、蘭子と師匠が運んでいる。

 「一般審査員のみなさんには。立食パーティ式でめしあがれ~」

 大皿が載せられるのは江戸時代の屋台を模したテーブルだ。
 それが21軒ある。

 「江戸時代のお寿司は、屋台の方がおおかったんだよ~。気分は江戸じだい~」
 「それでは、審査に入って頂きましょお!」

 ラウンダの合図とともに一般審査院が屋台に殺到する。
 一番人気は、当然アラだ。
 一番高いからな。

 「これスゴイ! 美味しい! アラって高いだけの事はあるわ!」
 「俺にも食わせろ」
 「このカサゴ2軒、いや2貫が最高だ! 皮は湯霜で、上に載せられた肝がコクがあって!」
 「目光のトロッとした脂が、白身なのにトロみたいだ!」
 「アオリイカの刺身も絶品だ!」
 「芝エビも! セミエビも!」
 「幅海苔で巻いた軍艦の上に載っているのも幅海苔の佃煮なのね。海苔だけなのにこんなに美味しいなんて!」

 特別審査員からも一般審査員からも賞賛の声が上がる。

 「刺身は極上と言えよう! しかぁーし! 所詮はロボットよ! この酢飯シャリは及第点レベルよ! 俺なら、もっと美味く酢飯シャリを作ってみせるわ!」
 「へへーんだ。おばかさんだね~」

 土御門のダメ出しに蘭子がダメ出しで返す。

 「蘭子選手、この寿司マシーンにも秘密があるんですか?」
 「うん、あるよ~。東京はね~、食文化だけでなく、経済や技術の町でもあるんだよ~」
 「確かに! 東京は世界有数の経済都市です」
 「このマシーンのメーカーはね。設計と製造を八王子でやっているんだよ~、あたしの包丁もこのマシーンも同じ土地から生まれた、きょうだいみたいだよね~!」

 蘭子の言葉に合わせて部長がカメラをマシーンの一か所に誘導する。
 中央のビジョンに『Made in Tokyo』の刻印が映しだされ、会場からおおおぉーという歓声があがる。

 「そうよ! 寿司マシーンの歴史は80年代から始まっているわ! それから30年以上かけて、ここまで進化したの。昔は米を直方体に成型するしか能はなかったけど。今は扇形で口で軽く崩れるレベルには達しているわ!」

 部長が解説する。
 最近の寿司マシーンはスゴイな。 
 実は俺や部長より上手いかもしれない。

 「うぉうぉうぉ! こんなに美味しくて珍しいなんて、ここにあるネタの大半は漁港でしか食べられませんよぉ!」
 「おうよ! こいつらは流通には乗ってなか! 漁港で漁師さんが食うか、釣って自分で刺身にするしかないけね!」

 魚吉さんは自分で刺身にしてないでしょ。
 蘭子の店に持ち込んで刺身にしてもらっている。
 そして、蘭子の腕が上がったのは、このおかげでもある。

 「も~、我慢できません! ボクももっと食べたいですぅー!」

 うぉうぉさんが、特別審査員席を乗り越えて、一般審査員のエリアに突入する。

 「おいちょっと! あんたの席はあっちでしょ! こっちは俺たちの!」
 「そーよ、そーよ! なくなっちゃうじゃない!」
 「うぉうぉうぉ! まだまだ、あるじゃないですかぁ!? へるもんじゃあるまいしぃ!」
 「「「「「減るわぁ!!!」」」」」

 一般審査員の心がひとつに!

 「だいじょうぶだよ~、二十分にじゅうぶんにあるって言ったじゃない~、ひとり20貫よりちょっと多いくらいあるから、いっぱい食べてね~」

 一貫は寿司2個の意味だ。

 「やったぁ!」
 「うっひょー! もう一周! もう一周!」
 「さすが太っ腹の姉ちゃん!」

 ベキッ

 エビの殻が握りつぶされた音だ。

 「さすが、スタイル抜群のねぇちゃんでしたぁ!!」

 「じゃぁ、我々も、あの輪に加わりますか」
 「ええ! 正しく審査する為に、もう一度」

 他の特別審査員も席を離れた。

 「これはぁー!? 特別審査員たちが一般審査員席のエリアに向かって、寿司を食べ始めたぁー!?」
 「えへへ~、これは”自由”だからね。席にとらわれない自由と、好きなものを好きなだけ食べる自由と、それでお腹いっぱいにする自由をあじわってね~!」

 蘭子の言う通り、審査員は自由を満喫している。
 
 「これはスゴイィー! まだ後攻の審査が残っているというのに、審査員たちが蘭子選手の寿司に殺到しているぅー!」
 「えへへ~、あたしはね、昨日みんなに言われちゃんたの~。お前では寿師翁さんに勝てないってね」
 「ひどい事を言われたのですね。それで、気合を入れたのですか?」

 そう言ったのは事実だ。
 だが、この話には続きがある。

 「ちがうよ~、そのあとにね~『蘭子ひとりでは勝てない”だから一緒に戦おう” ”力を合わせて戦いましょう” ”共に戦うぞ”』ってね。そして、みんなで作戦を立てたの~」
 「そう。蘭子ちゃんでは、どんな料理でも最強の寿師翁に勝てないわ」
 
 蘭子の隣に部長が寄り添い、言う。

 「だけど、蘭子は俺や部長のような悪だくみのお題も出来ない! 向いてない! 心に残る罪悪感が包丁を鈍らせる!」 
 
 蘭子は良い子なんだ。
 部長のように相手を陥れる戦法は取れない。

 「だから、拙者たちは考えた! 彼女の最高の技術! 流通に乗らない小魚への包丁技を活かす方法を!」
 
 それを見出したのは師匠だ。

 「それがこれだよ~、時間をぜんぶ魚をさばくのに使うの~」
 「そう! 蘭子が勝てる戦法はただひとつ! 圧倒的な”力押し”よ! ならば、戦術と戦略は俺たちが助けよう!」
 「調達も! 搬入も! 酢飯シャリさえも考えなくていいわ! 蘭子ちゃん、あなたは何も考えなくていいの! ただ、美味しいお造りを作っていればいいの!」
 「パワー満タン! 絶対満足! おなか満腹! それがー、あたしたちの絆寿司!」
 「「「「おなかいっぱい、幸腹こうふく寿司」」」」

 活きた! 決めポーズの特訓が!

 「まんぷくぅー! あの大量の寿司が全て審査員の胃袋に吸い込まれていった~」

 あの大量の寿司が全てなくなった。
 
 「ほほう、なにやら良さそうな寿司であるな。儂も一下駄もらおうか」
 「はい、父さん」

 寿師翁も控え席にやってきて、安寿さんが寿司下駄を渡す。
 一貫、二貫と蘭子の寿司が寿師翁の口に運ばれ、そして、手が止まった。
 寿師翁は蘭子を見つめる。

 「なあ、ボインちゃ……、いやよく来た! 湧者ゆうしゃ蘭子よ! わしが魚鱗鮨のおう、寿師翁だ。わしは待っておった。そなたのような若者が現れる事を……。もし、わしの味方じゅうぎょういんになれば、わしはサレンダーしよう! どうじゃ? わしの味方じゅうぎょういんになるか?」 

 寿師翁が蘭子に問いかける。
 えっ、俺たち勝てる!?

 「ちょっ!? 父さん! 世界賞金を全部渡す気!? ここは半分を渡す所でしょ!」
 「し、師匠! 師匠が負けを認めると言うのですか!?」
 「ふっ、こやつは鐘や太鼓で探しても見つからぬ一傑よ! こやつを雇えるならば、1000万円など惜しくはないわぁ!」
 「た、たしかに、漁港から雑魚箱を箱買いして、それをランチで出せれば! この寿司ならランチでも1000円……、いや1500円は取れる! いや、いっそ時価にして”今日の時価とレアネタは”って配信すればSNSでの話題性も……、この我のものになれ、湧者ゆうしゃ蘭子よ!」
 「ことわる~」

 まあ、そうだよな。

 「だって、勝てば永久就職がきまってるから~」
 「いやいや、午前中だけのパートでも!」
 「時短正社員扱いでもいいから!」

 寿師翁と安寿さんのふたりが、蘭子に迫る。
 師匠も言っていた。
 『卒業したらネオ魚鱗鮨で働かないか、お賃金は奮発するぞ』と
 『わーい、あたし、おちんんだいすき~』と部長が下ネタを言っていたのは聞かなかったことにした。

 流通に乗らない魚を捌ける人材は非常にレアで、その人材がいるだけで看板メニューが出来るらしい。

 「うーん、やっぱりダメだよ~、ちゃんと勝負しましょ」
 「そうか! 愚か者とは言わん! 儂の力を味わうがいい!」

 寿師翁が燃えていた。
 そして……寿司も燃えていた。
 
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