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第十二話 ロスト・サムライ(全五部)
その2
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儂が故郷を離れ数年が過ぎた時、この国で祭りがあった。
何でも戦に勝ったらしい。
戦の顛末を侍女と共に見学した。何と活動写真である。しかもトーキーの。
この国に来て驚いた事だが、この国の技術は欧州諸国や米国を遥かに超えている。
この活動写真も驚嘆の一言であり、その中では黒い空の中で鉄の馬が最新式の突撃銃を打ち合っていた。火線は曲がる彗星、いや流星と言うべきものであった。
鉄の馬は色の付いた具足を纏っており、赤が姫の軍であり、青の単騎が敵である。
数の上では姫の軍が多かったが、一騎駆けの青の馬は手練れであり、次々と姫の軍を撃破していった。
だが、姫の軍は撃破されながらも敵を誘い込んでおった。
十字砲火、いや高所や低所からも火線が放たれている様は米字砲火とも言うべきだろうか、それに晒された敵は何度もよろめき、そして爆発した。
おそらく自決用の火薬を持っておったのであろう。爆発の大きさからして、欧州の最新爆薬、ダイナマイトの類と想像される。
勝利の後、街はかつてない程のお祭り騒ぎであった。
何でも、あの青い鉄の馬は”始まりの六種族”と呼ばれる列強の手の者で、それを倒す事が列強に名を連ねる条件の一つだそうだ。
列強を目指す国は万を数え、この国はその六種族を除けば初めて打倒した国らしい。
その六種族の鉄の馬は一騎当千どころか一騎当億に匹敵し、多対一であれども、それを打ち破った姫の馬は他の国のそれよりも遥かに強靭で、単騎で幾千の軍を打ち破れるらしい。
にわかには信じられぬが、光の九割の速さで駆けるらしい。光の速さとは詳しくは存じぬが非常に高速であると聞いた覚えがある。
するとあれは御前試合のようなものであったろうか。
正直、儂では理解を越えるが、あの鉄の馬はほぼ光の速さと同じ速度で闇夜を駆けるそうだ。儂は未だ異国の言語に慣れぬゆえ、間違いの可能性もあるが。
その後、勝利の祝宴には、儂も末席であるが参列を許された。侍女より下という事は少し不満であるが。
祝宴は鹿鳴館のような洋風の催しであったが、儂はその参列者の中に違和感を覚えた。
足運び、僅かな体臭、そして目線が儂にヤツが間者である事を告げていた。
間者が姫に近づこうとした所で、儂はヤツに前に立ちふさがり叫んだ。
「ヒメ! クセモノ、クセモノ!」
儂が間者の両肩を掴んだ時、ヤツは懐より単筒を取り出した。
しかもその銃口は姫を向いていたのである。
儂は咄嗟にその火線上に身を置いた。
単筒が火を噴き、儂の脇腹を貫く、だが、五稜郭でゲベール銃で撃たれた時よりは痛みは小さい。
侍女の悲鳴が聞こえ、儂は後ろを振り向く、姫は無事だ。
ならば、次の儂の使命はこの悪辣漢を切る事である。
儂は腰の大小に手を掛け、抜刀し、大上段に振りかぶると、気合いの声と共に切りかかる。
「ゼアァァァァアー!」
間者は儂の声に気圧され、動きが止まる。
だが、儂の愛刀はヤツの身体の表面で止められていた。
切れぬ、帷子か!
ならばと儂は刀を手放し、ヤツの服と脚を取り、朽木倒しの体制に入る。
あっけないほど、ヤツは地面に伏し倒れた。
儂はトドメとばかりに懐から小柄を取り出し、ヤツに突き立てようとする。
だが、儂の手はそこで止まった。ヤツは既に気絶しておったからだ。それに祝いの場を血で汚すのは良くない。
後は官憲に任せるのがよかろう。
「ヒメ! ケガナイカ!」
儂は姫の下に駆け寄り、安否を確かめる。
「ああ、問題ない。それより、イヌは平気なのか?」
お優しい事だ。儂の心配をしてくれている。
安堵と共に脇腹からの痛みが激しくなり、そして儂は意識を失った。
儂は混濁した意識の中で考える、儂は死ぬのだろうかと。
それも悪くない、上野や五稜郭で別れた友への土産話が出来たのだから。
だが、生きているのならば応えねばならぬ。
姫に無事であると。
音が聞こえ、儂の意識が浮遊感から重力を感じ始める。
維新の時に何度か感じた意識が回復していくさまだ。
聞こえてくるのは姫の泣き声、見えて来るのは姫と侍女と典医の顔、伝えるべきは心の言葉。
「ヒメ、ナカナイデ、イヌはブジでゴザイマス」
「イヌ、大丈夫なのか!?」
「ハイ、イヌはヘイキデス。ヒメ、ヤサシイ、アリガトウゴザイマス」
お優しい事だ。これならば良き君主になるに違いない。
典医がなにやら難しい事を言っているが、よくわからぬ。
典医が丸薬を差し出し、侍女が水を差し出す。これを飲めという事らしい。
儂は促されるままにそれを飲む。
意識が再び混濁する。最後に見たのは姫の安心した顔と、初めて見る殿と奥方の姿だ。
三人が部屋を出る所で儂の意識は再び途切れた。
傷は思いのほか軽かった。単筒であったからか、弾は小口径であり、膿む事もなかった。
ただ、典医と侍女の命で、一か月は床に臥す事を命じられた。
その間、姫が何度が見舞いに来てくれた。
侍女が言うには、儂は姫のお気に入りになったらしい。
その侍女は儂にこの国の言語と社会についてを教えてくれた。
意思の疎通が上手くなるにつれ、色々な事が分かった。
ここは、異国ではなく、異星であると、月より遠く、星々の彼方にあるらしい。
にわかには信じられぬが、この星の住人は人ではないらしい。
言われてみれば、目鼻立ちが少し違う。
侍女が言うには手足や顔の位置は同じだが、骨格や内臓が全く違うらしい。機能最適進化とか言っておったが、詳しくは分からぬ。この星の文明は日本を、欧米を遥かに凌駕しておるのだ
先日の単筒も儂が壁とならなかったなら姫を貫いていたらしい。
何でも、この星の住人は個人用”ばりあふぃーるど”という物を携えていて、普通の武器は通じぬらしい。儂の刀もそれで防がれたそうだ。
間者の単筒はそれをも貫く逸品であったらしいが、儂の身体が盾となり、姫の”ばりあふぃーるど”に防がれたらしい。
少しだが儂は自らの行為を誇らしく思った。
その後、儂の待遇は少し変わった。
儂の役目は姫の遊び相手兼護衛である。
儂はそう思っていたが、実は愛玩動物、ペットというものであったらしい。
だが、事件以降、姫はたいそう儂をお気に入りになり、儂は正式に姫のお抱えとなった。
中庭ではあったが、叙勲の儀式も賜った。
儂は誓った、この命の一片までも姫の安寧と繁栄の為に尽くすと。
侍女の中にはままごとと称する者もおったが、少なくとも姫と儂の間では、それが真実であったのだ。
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この話以降、戌久の言語は片言ではなくなります。
何でも戦に勝ったらしい。
戦の顛末を侍女と共に見学した。何と活動写真である。しかもトーキーの。
この国に来て驚いた事だが、この国の技術は欧州諸国や米国を遥かに超えている。
この活動写真も驚嘆の一言であり、その中では黒い空の中で鉄の馬が最新式の突撃銃を打ち合っていた。火線は曲がる彗星、いや流星と言うべきものであった。
鉄の馬は色の付いた具足を纏っており、赤が姫の軍であり、青の単騎が敵である。
数の上では姫の軍が多かったが、一騎駆けの青の馬は手練れであり、次々と姫の軍を撃破していった。
だが、姫の軍は撃破されながらも敵を誘い込んでおった。
十字砲火、いや高所や低所からも火線が放たれている様は米字砲火とも言うべきだろうか、それに晒された敵は何度もよろめき、そして爆発した。
おそらく自決用の火薬を持っておったのであろう。爆発の大きさからして、欧州の最新爆薬、ダイナマイトの類と想像される。
勝利の後、街はかつてない程のお祭り騒ぎであった。
何でも、あの青い鉄の馬は”始まりの六種族”と呼ばれる列強の手の者で、それを倒す事が列強に名を連ねる条件の一つだそうだ。
列強を目指す国は万を数え、この国はその六種族を除けば初めて打倒した国らしい。
その六種族の鉄の馬は一騎当千どころか一騎当億に匹敵し、多対一であれども、それを打ち破った姫の馬は他の国のそれよりも遥かに強靭で、単騎で幾千の軍を打ち破れるらしい。
にわかには信じられぬが、光の九割の速さで駆けるらしい。光の速さとは詳しくは存じぬが非常に高速であると聞いた覚えがある。
するとあれは御前試合のようなものであったろうか。
正直、儂では理解を越えるが、あの鉄の馬はほぼ光の速さと同じ速度で闇夜を駆けるそうだ。儂は未だ異国の言語に慣れぬゆえ、間違いの可能性もあるが。
その後、勝利の祝宴には、儂も末席であるが参列を許された。侍女より下という事は少し不満であるが。
祝宴は鹿鳴館のような洋風の催しであったが、儂はその参列者の中に違和感を覚えた。
足運び、僅かな体臭、そして目線が儂にヤツが間者である事を告げていた。
間者が姫に近づこうとした所で、儂はヤツに前に立ちふさがり叫んだ。
「ヒメ! クセモノ、クセモノ!」
儂が間者の両肩を掴んだ時、ヤツは懐より単筒を取り出した。
しかもその銃口は姫を向いていたのである。
儂は咄嗟にその火線上に身を置いた。
単筒が火を噴き、儂の脇腹を貫く、だが、五稜郭でゲベール銃で撃たれた時よりは痛みは小さい。
侍女の悲鳴が聞こえ、儂は後ろを振り向く、姫は無事だ。
ならば、次の儂の使命はこの悪辣漢を切る事である。
儂は腰の大小に手を掛け、抜刀し、大上段に振りかぶると、気合いの声と共に切りかかる。
「ゼアァァァァアー!」
間者は儂の声に気圧され、動きが止まる。
だが、儂の愛刀はヤツの身体の表面で止められていた。
切れぬ、帷子か!
ならばと儂は刀を手放し、ヤツの服と脚を取り、朽木倒しの体制に入る。
あっけないほど、ヤツは地面に伏し倒れた。
儂はトドメとばかりに懐から小柄を取り出し、ヤツに突き立てようとする。
だが、儂の手はそこで止まった。ヤツは既に気絶しておったからだ。それに祝いの場を血で汚すのは良くない。
後は官憲に任せるのがよかろう。
「ヒメ! ケガナイカ!」
儂は姫の下に駆け寄り、安否を確かめる。
「ああ、問題ない。それより、イヌは平気なのか?」
お優しい事だ。儂の心配をしてくれている。
安堵と共に脇腹からの痛みが激しくなり、そして儂は意識を失った。
儂は混濁した意識の中で考える、儂は死ぬのだろうかと。
それも悪くない、上野や五稜郭で別れた友への土産話が出来たのだから。
だが、生きているのならば応えねばならぬ。
姫に無事であると。
音が聞こえ、儂の意識が浮遊感から重力を感じ始める。
維新の時に何度か感じた意識が回復していくさまだ。
聞こえてくるのは姫の泣き声、見えて来るのは姫と侍女と典医の顔、伝えるべきは心の言葉。
「ヒメ、ナカナイデ、イヌはブジでゴザイマス」
「イヌ、大丈夫なのか!?」
「ハイ、イヌはヘイキデス。ヒメ、ヤサシイ、アリガトウゴザイマス」
お優しい事だ。これならば良き君主になるに違いない。
典医がなにやら難しい事を言っているが、よくわからぬ。
典医が丸薬を差し出し、侍女が水を差し出す。これを飲めという事らしい。
儂は促されるままにそれを飲む。
意識が再び混濁する。最後に見たのは姫の安心した顔と、初めて見る殿と奥方の姿だ。
三人が部屋を出る所で儂の意識は再び途切れた。
傷は思いのほか軽かった。単筒であったからか、弾は小口径であり、膿む事もなかった。
ただ、典医と侍女の命で、一か月は床に臥す事を命じられた。
その間、姫が何度が見舞いに来てくれた。
侍女が言うには、儂は姫のお気に入りになったらしい。
その侍女は儂にこの国の言語と社会についてを教えてくれた。
意思の疎通が上手くなるにつれ、色々な事が分かった。
ここは、異国ではなく、異星であると、月より遠く、星々の彼方にあるらしい。
にわかには信じられぬが、この星の住人は人ではないらしい。
言われてみれば、目鼻立ちが少し違う。
侍女が言うには手足や顔の位置は同じだが、骨格や内臓が全く違うらしい。機能最適進化とか言っておったが、詳しくは分からぬ。この星の文明は日本を、欧米を遥かに凌駕しておるのだ
先日の単筒も儂が壁とならなかったなら姫を貫いていたらしい。
何でも、この星の住人は個人用”ばりあふぃーるど”という物を携えていて、普通の武器は通じぬらしい。儂の刀もそれで防がれたそうだ。
間者の単筒はそれをも貫く逸品であったらしいが、儂の身体が盾となり、姫の”ばりあふぃーるど”に防がれたらしい。
少しだが儂は自らの行為を誇らしく思った。
その後、儂の待遇は少し変わった。
儂の役目は姫の遊び相手兼護衛である。
儂はそう思っていたが、実は愛玩動物、ペットというものであったらしい。
だが、事件以降、姫はたいそう儂をお気に入りになり、儂は正式に姫のお抱えとなった。
中庭ではあったが、叙勲の儀式も賜った。
儂は誓った、この命の一片までも姫の安寧と繁栄の為に尽くすと。
侍女の中にはままごとと称する者もおったが、少なくとも姫と儂の間では、それが真実であったのだ。
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