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第十二話 ロスト・サムライ(全五部)
その5
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「その後、皇女様は女王となり、叛乱軍のケガイは部下の裏切りによって殺されたそうだ。『失敗者は要らないのでしたよね』と言われたらしい」
コーヒーを片手にビクターは飛鳥に語り掛けた。
「良い話ね。ちょっと目が潤んできちゃった」
飛鳥は手にしたハンカチで目頭を拭った。
「ははっ、だから地球人は未熟で論理的思考に欠けてるんだ」
カップをソーサーに置きながらビクターがクスクスと笑う。
「何よ、どこがおかしいのよ」
少しムッっとした声色で飛鳥が言った。
「では、未熟なお前たちに知恵を授けてやろう。いいか、繁栄する種族には必須と言える優先思考がある。
それは、
1.個の繁栄
即ち、自らの安寧と利得を優先する行動
2.一族の繁栄
それ即ち、子や血族の隆盛を慮る心
3.種の繁栄
それ、まさしく、種族を栄華へ導く活動、だ。
この三つは状況に応じて優先順位は変われども、これに則った行動をしない種族は繁栄しない」
指を一本一本立てながら丁寧にビクターが説明する。
「何よ、あの鍋山さんが、その優先思考に反して自らの命を散らしたから、そんな事を言うの」
飛鳥の声にビクターはさらにクククと笑う。
「違うさ、彼の行動に不自然な事は無い。遠い異星に行ってしまったのだ。環境の変化に耐えられず心が病んでしまったのだろう。彼が自らの命を優先しない行動を採ったのは納得できる」
「じゃあ何よ、何がおかしいのよ」
「おかしいのはお前さ飛鳥。お前は彼の話に共感し感涙さえした。彼の行動はお前にも、地球人にも利をもたらさないのにな。だからお前たちは未熟だと笑ったのさ」
「何よ、いいじゃないの。そう思っても」
「ああ、自由さ。だが、その自由さがある限り、地球人が銀河連盟の一員となるのは、まだまだ遠いな」
飛鳥は憤慨し、ビクターはクスクスと笑い続けた。
飛鳥の愚かしさを笑いながらも、それを少し愛おしむように。
王家の墳墓には当然ながら王家の者しか埋葬されない。
そこには歴代の王族が埋葬されている。
現女王が戴冠してから百年が経過し、何度も繰り返された前王を悼む式典終了の後、墳墓の一角を訪れる影があった。
現女王である。
地球人より遥かに寿命が長い種族ではあるが、百年という月日は、あどけなさを残す少女を麗しい女性に成長させていた。
かつて少女だった者はひとり墳墓の一角に立つ。
その足元には石を積んだだけの粗末な墓が佇んでいた。
王家の墳墓に埋葬された王族を除く唯一の存在である。
「なあ、イヌよ、あの日から長い時が過ぎたな。今や叔父上も我を傀儡とするのに手を焼いておるぞ。なんせ国民の人気は我の方が上じゃからの。これもイヌの教えてくれた仁の心のおかげじゃ。ハガクレとかいうお前の遺品の本も面白いの。銀河連盟の基準からは外れておるが実に興味深い」
女王は膝を折り、語り続ける。
「我が女王になれたのも、今の栄光も全てイヌのおかけだ。感謝している」
「だが、それでも、そんなものはなくとも、今一度お前と野を駆け巡りたかった。お前の胸に抱かれていたかった」
石が水滴に濡れた。
式典の後、女王がひとりでペットの墓に参るのは公然の秘密である。
だが、それを見る者がいた。
かつてペットに言葉を教え、クーデターを生き延びた侍女である。
「女王様、お気に入りのペットが死んでしまって悲しいのですね。ならば、侍女として姫様、いや女王様のために尽力いたしましょう」
決意を胸に侍女は宮殿に戻る。
「マスター、ブラウ女王の侍女さんから注文が来ていますよ」
「んー、何だ?」
「前に買った、サムライの追加注文ですって」
メイの声にビクターは少し考えた。
「メイ、侍女さんに返事をしてくれ」
「はい、何と返事致しましょうか?」
「サムライは絶滅しました、と」
--------------------------------------------------------------------------------
この話はもっと短い予定でした。
書きたかったのは最後のビクターと飛鳥のやり取りの部分でした。
銀河連盟人の合理性と飛鳥の感性の違いを書きたかったのですね。
最後の侍女の、お気に入りのペットが亡くなったので、新品を再購入して女王を喜ばせようという本人はいたって真面目なのですが、そうじゃない、という部分にもその差が現れています。
でもなぜか長編にになってしまい……
うん、もっと精進が必要ですね。
コーヒーを片手にビクターは飛鳥に語り掛けた。
「良い話ね。ちょっと目が潤んできちゃった」
飛鳥は手にしたハンカチで目頭を拭った。
「ははっ、だから地球人は未熟で論理的思考に欠けてるんだ」
カップをソーサーに置きながらビクターがクスクスと笑う。
「何よ、どこがおかしいのよ」
少しムッっとした声色で飛鳥が言った。
「では、未熟なお前たちに知恵を授けてやろう。いいか、繁栄する種族には必須と言える優先思考がある。
それは、
1.個の繁栄
即ち、自らの安寧と利得を優先する行動
2.一族の繁栄
それ即ち、子や血族の隆盛を慮る心
3.種の繁栄
それ、まさしく、種族を栄華へ導く活動、だ。
この三つは状況に応じて優先順位は変われども、これに則った行動をしない種族は繁栄しない」
指を一本一本立てながら丁寧にビクターが説明する。
「何よ、あの鍋山さんが、その優先思考に反して自らの命を散らしたから、そんな事を言うの」
飛鳥の声にビクターはさらにクククと笑う。
「違うさ、彼の行動に不自然な事は無い。遠い異星に行ってしまったのだ。環境の変化に耐えられず心が病んでしまったのだろう。彼が自らの命を優先しない行動を採ったのは納得できる」
「じゃあ何よ、何がおかしいのよ」
「おかしいのはお前さ飛鳥。お前は彼の話に共感し感涙さえした。彼の行動はお前にも、地球人にも利をもたらさないのにな。だからお前たちは未熟だと笑ったのさ」
「何よ、いいじゃないの。そう思っても」
「ああ、自由さ。だが、その自由さがある限り、地球人が銀河連盟の一員となるのは、まだまだ遠いな」
飛鳥は憤慨し、ビクターはクスクスと笑い続けた。
飛鳥の愚かしさを笑いながらも、それを少し愛おしむように。
王家の墳墓には当然ながら王家の者しか埋葬されない。
そこには歴代の王族が埋葬されている。
現女王が戴冠してから百年が経過し、何度も繰り返された前王を悼む式典終了の後、墳墓の一角を訪れる影があった。
現女王である。
地球人より遥かに寿命が長い種族ではあるが、百年という月日は、あどけなさを残す少女を麗しい女性に成長させていた。
かつて少女だった者はひとり墳墓の一角に立つ。
その足元には石を積んだだけの粗末な墓が佇んでいた。
王家の墳墓に埋葬された王族を除く唯一の存在である。
「なあ、イヌよ、あの日から長い時が過ぎたな。今や叔父上も我を傀儡とするのに手を焼いておるぞ。なんせ国民の人気は我の方が上じゃからの。これもイヌの教えてくれた仁の心のおかげじゃ。ハガクレとかいうお前の遺品の本も面白いの。銀河連盟の基準からは外れておるが実に興味深い」
女王は膝を折り、語り続ける。
「我が女王になれたのも、今の栄光も全てイヌのおかけだ。感謝している」
「だが、それでも、そんなものはなくとも、今一度お前と野を駆け巡りたかった。お前の胸に抱かれていたかった」
石が水滴に濡れた。
式典の後、女王がひとりでペットの墓に参るのは公然の秘密である。
だが、それを見る者がいた。
かつてペットに言葉を教え、クーデターを生き延びた侍女である。
「女王様、お気に入りのペットが死んでしまって悲しいのですね。ならば、侍女として姫様、いや女王様のために尽力いたしましょう」
決意を胸に侍女は宮殿に戻る。
「マスター、ブラウ女王の侍女さんから注文が来ていますよ」
「んー、何だ?」
「前に買った、サムライの追加注文ですって」
メイの声にビクターは少し考えた。
「メイ、侍女さんに返事をしてくれ」
「はい、何と返事致しましょうか?」
「サムライは絶滅しました、と」
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この話はもっと短い予定でした。
書きたかったのは最後のビクターと飛鳥のやり取りの部分でした。
銀河連盟人の合理性と飛鳥の感性の違いを書きたかったのですね。
最後の侍女の、お気に入りのペットが亡くなったので、新品を再購入して女王を喜ばせようという本人はいたって真面目なのですが、そうじゃない、という部分にもその差が現れています。
でもなぜか長編にになってしまい……
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