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第十四話 IQに時間を
前編
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太陽の光は大地を焼き、地に満ちる緑の植物はジメジメとした湿気を生み出し、それが僕の不快指数を高める。
降下艇ノンノン号を出て、現地時間で十分の一自転時間、僕は未開の大地を歩く。
自動移動機能どころか舗装すらされていない、大地を叩いて固めただけの道だ。
赴任当初はあまりにもの物珍しさにはしゃいで先輩に笑われたりしたものだが、それから現地時間で十公転時間も経てば不便さしか見つからない。
先輩の話では、現地知的生命体、通称”ヒト”が整備して、少しはましになったらしい。
昔は緑がもっとあって、代わりに道がなくなっていたそうだ。
時折、草や灌木の陰からは足の無い紐のような生物が逃げていく、水中ならともかく、地面を歩行しないなんて、何て無駄な進化を遂げたのだろうと思わざるを得ない。
しかもそれは、この緑の草原で食物連鎖のかなり上位に居る。
僕の先祖に似た毛の生えた尻尾のある四足歩行生命は、その紐生物に捕食されるらしい。
捕食される現場に出くわしたら、助けてやろう。
僕はそう思い、道とも呼べぬ道を進む。
幸いな事に、僕の先祖に似た生命とは遭遇しなかった。
僕の名はビクター、現地呼称”地球”の管理衛星『コテラ』の三代目管理人兼駐在員である。
『マスター、間もなく目的の都市に到着します』
ノンノン号を介してコテラから管理サポートAI”ナビィ”が語り掛けて来る。
『了解、とっとと現地生物を購入して戻るよ。戻ったらゴア社のスバッシュを用意しておいてくれ』
スバッシュは銀河連盟で最も売れている飲料だ。
コテラの在庫も十分にある。
『了解です。マスター』
僕の今日の目的は現地生物の採取だ。
だが、野生生物を捕えるのは面倒くさいので、ヒトが捕えた物を購入する事にした。
購入するのは現地呼称”ウマ”、”ヒツジ”、”ヤギ”、そして”ヒト”だ。
村が見えてくる。
『おい、ナビィ。どこが都市だ。あれは村だろ』
見えてきたのは、都市とは言い難い集落だ。
おそらくヒトの個体数は万程度しかないだろう。
都市と言うには小規模過ぎる。
『いえ、現地では指折りの都市ですよ』
これだから未開惑星は困るんだ。
僕は仕方なく、その都市とやらに入る。
現地の言語はマスターしている、ラテン語とその方言だ。
僕は町の入り口に立っているヒトに聞く。
「こんにちは、僕は旅の商人です。市場と宿を探しているのですが、どこでしょうか?」
ヒトはちらりとこちらを見ると、コホンと軽く咳払いして、もう一方の男と目くばせをした。
先輩から学んで知っている、賄賂を要求しているのだ。
僕は懐から小さな現地生命の革で作った袋を取り出すと、その中の半透明の結晶を数個取り出し、掌に置いた。
「これは何だ?」
「氷砂糖です。極東で仕入れた物ですよ。おひとつどうぞ」
そう言って僕は氷砂糖を一つ自分の口に入れた。
それを見てヒトも口に入れる。
「あま、あまい!」
ヒトの顔を綻ぶ、その喜びようを見て、もう一方の男も近寄ってくる。
「どうぞ」
僕はそのヒトにも掌の氷砂糖を差し出す。
それを口にしたヒトも大喜びしている。
「「もっとくれ! もっと!」」
先輩からの引継ぎで聞いた通り、この現地土人は、このカロリーを感じる味が大好きらしい。
その上、それは非常に貴重だそうだ。
「では、もうひとつずつだけ。これは本当なら高貴な方へ売る物なのですよ」
一人はそれを再び口にし、もう一人はそれを懐へしまった。
知性にも個体差があるのだな。
氷砂糖を今消費するか、高く売れる事を予期して取っておくか、二人の運命は今、分かれたかもしれない。
まあ、僕には関係ないが。
「で、市場と宿はどこでしょうか?」
「お、おう。それはだな……」
「待ってくれ、おい、これをやるから俺の分まで仕事をやってくれ」
食べなかった方が食べた方に言う。
「本当か! 任せろ!」
一方は喜々としてそれを受け取った。
「よし、旦那! 市場と宿だったな。それなら俺が案内するぜ!」
にこやかな笑いを浮かべヒトは僕の肩を抱く。
親愛を表現しているのだろうが、正直ウザい。
だが、現地土人の中では想像以上に知性が高そうだ。
僕に恩を売って、謝礼を貰うのが最も得になると踏んだのだろう。
その考えは正しい。
現在の僕の所有物で、現地土人に渡して良いものだけでも、この土人が一生暮らせる価値がある。
具体的には、現地で宝石扱いされているダイヤやエメラルド、金、銀、それと先ほどの氷砂糖だ。
逆に渡せないレベルのテクノロジーの産物は、その価値そのものが理解できないだろう。
「僕はビクター、よろしくお願いします」
「ああ、俺はゼキ、よろしくな。旦那!」
ゼキという男は有用だ。
僕が探しているのが、家畜と奴隷だと聞くと、まず宿に案内した。
そして、宿の男に馬小屋使用の許可と荷台の調達を交渉したのだ。
俺が居なかったら、ボッたくられていたぜ、と僕に恩を売るのも忘れずに。
「家畜はここで買える、奴隷は隣だな」
ゼキが案内した市場は野生生物の糞尿の臭いで溢れていた。
僕は一刻も早くこの場から離れたかった。
なので、ゼキの見立てで目当てのウマ、ヒツジ、ヤギ、を買い、ゼキに頼んで、宿に運んでもらう事にした。
支払いは現地の通貨、ソリドゥス金貨とミリアレシオン銀貨で行った。
もちろんコテラの技術で作った偽造品である。
手作り感を再現するのが面倒くさいとナビィがぼやいていたのを覚えている。
ゼキを信用している訳ではないが、ゼキは教養も高く、聖書とやらを読めるらしい。
それは一般的なモラルが記載されている現地の教本で、僕も読んだ事がある。
内容は、僕からすれば、おとぎ話でモラルを語っているようにしか見えない。
そこには盗人は罪だと書かれていたので、ゼキに任せる事にした。
なあに、失敗しても何ら問題ない。面倒臭いだけだ。
家畜の隣ではヒトが売られている。
土人としか思えない風習だが、勝手にすればいい。
僕はそれを活用するだけだ。
極東で一儲けしたという触れ込みで僕の噂は広まっていた。
「旦那、いい奴隷いるよ。若くて良く働くよ!」
いや、殴られたら僕が死にかねないような筋肉土人は要らない。
「いや、こっちはつがいだよ。子供が生まれたら、もちろん、それも奴隷だよ!」
うん、その精神が治らない限り、僕は君たちを土人と呼ぶのを止めないよ。
そんな中で、僕は杭に鎖で繋がれたヒトの女性幼体を見つけた。
顔をポリポリと掻き、虚ろな目で地面を見つめる。
僕は運が良い、あれこそが僕が探していた個体だ。
「旦那! あれ安くしとくよ! それか、この若い奴を金貨20枚で買ったら、おまけに付けるよ!」
若い男の個体がフルフルと嫌そうな素振りをみせる。
「主人、あの少女は仕入れた時から、顔のあばたがあるのかい?」
「そうそう、でも大丈夫だよ。すぐには死なないよ!」
「もう一つ、あれを仕入れて、どれくらい経つ?」
「一か月くらいだね。まだ新品よ!」
その新品が意味する所は分からなくもないが、生憎僕はそんなことには興味はない。
「いいだろう。ソリドゥス金貨一枚で買いましょう」
少女奴隷の相場からは相当低い。
「ええと、せめて三枚!」
「一枚だ、あとはこれでどうです」
僕は氷砂糖をひとつかみ、奴隷商人の掌に置いた。
「これは?」
「極東の砂糖菓子です。砂糖は知っていますね?」
「ええ、それは」
「これはそれを岩塩のように固めたものです。これはおまけです」
僕はそう言って、奴隷商人の口に一粒、氷砂糖をほおり込んだ。
入り口のヒトと同じく、カロリーの味に奴隷商人が喜ぶ。
「その味がしばらく続く。良い物でしょう?」
「これは、これは! よござんす、金貨一枚とこれで!」
奴隷商人は掌を握り、ヒトの女性幼体の鎖の鍵を外すと、その一方を僕に差し出した。
「鎖はおまけします!」
僕は金貨一枚と引き換えにその端を握った。
宿に戻る間、僕はそのヒトの女性幼体と会話する。
「僕はビクター、君の名は」
「マリア」
また”マリア”か、現地土人のネーミングバリエーションの少なさには、いささか閉口する。
想像力に欠けているとしか思えない。
少女の顔はあばたと呼ばれるひどい出来物の痕でまみれていた。
原因は天然痘ウィルスによるものだ。
感染力が高く、僕も最高級のナノマシンで防疫していないと感染してしまうだろう。
銀河連盟の標準防疫ナノマシンでは、高確率で罹患する。
だから、僕はその抗体を持つヒトを手に入れに来たのだ。
無論、天然痘に留まらず、他の細菌やウィルスへの抗体を持つ生物を手に入れ、地球カスタム防疫ナノマシンを製作するのだ。
「よし、マリア付いてこい」
「はい」
村を歩くと、周囲の注目を浴びているのが分かった。
宿に戻るとゼキが、家畜を馬小屋に縛り付けていた。
荷車もある。宿の主人は上手くやってくれたようだ。
「だ、旦那! 何をやっているんです!? そんな病気の奴隷を買うなんて!」
「いいんだ、ゼキ。このマリアこそ、僕が買いたかったものだ」
「へ? いいんですか。そいつ悪魔に呪われていますぜ!?」
現地土人が根拠のない事を言う。
「構わないさ。ところでゼキ、僕は目的を達成したので、その荷車で出発する事にしたよ、ありがとうな。これは少ないがお礼だ」
僕は数枚の金貨をゼキに渡す。
「こっ、こんなに!?」
「君がいなければ、こんなに早く目的の物は集められなかった。これは正当な僕の気持ちさ」
そう、僕は早くコテラに戻って休みたい。
それが叶うなら、こんな物はいくらでもくれてやるというのが正直な気持ちだ。
「でも、もう少しで夜になりますぜ。夜は狼が出る。明日の朝の方が良いと思いますが」
この星系の主星は西に傾き、空の色も赤色に変わりつつあった。
「大丈夫だ、慣れている」
嘘だ、慣れてない。
「分かりました。どれくらい先まで行くのです?」
「ここから一晩先の村さ」
「なら、俺も同行しやす。こんなに貰っちゃ、何か恩返ししなくてはバチが当たります」
僕はしばし考える。
馬を扱うのは面倒くさい。
「そうか、では馬を荷車に繋いでくれ」
「わかりやした旦那!」
僕は宿屋の主人に荷車代を払い、家畜とマリアを連れて村を後にした。
ナビィが何と言おうが村だ。
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今回はビクターの過去話です。
大体千年くらい前の話ですね。
サブタイトルは「愛に時間を」からですね。
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降下艇ノンノン号を出て、現地時間で十分の一自転時間、僕は未開の大地を歩く。
自動移動機能どころか舗装すらされていない、大地を叩いて固めただけの道だ。
赴任当初はあまりにもの物珍しさにはしゃいで先輩に笑われたりしたものだが、それから現地時間で十公転時間も経てば不便さしか見つからない。
先輩の話では、現地知的生命体、通称”ヒト”が整備して、少しはましになったらしい。
昔は緑がもっとあって、代わりに道がなくなっていたそうだ。
時折、草や灌木の陰からは足の無い紐のような生物が逃げていく、水中ならともかく、地面を歩行しないなんて、何て無駄な進化を遂げたのだろうと思わざるを得ない。
しかもそれは、この緑の草原で食物連鎖のかなり上位に居る。
僕の先祖に似た毛の生えた尻尾のある四足歩行生命は、その紐生物に捕食されるらしい。
捕食される現場に出くわしたら、助けてやろう。
僕はそう思い、道とも呼べぬ道を進む。
幸いな事に、僕の先祖に似た生命とは遭遇しなかった。
僕の名はビクター、現地呼称”地球”の管理衛星『コテラ』の三代目管理人兼駐在員である。
『マスター、間もなく目的の都市に到着します』
ノンノン号を介してコテラから管理サポートAI”ナビィ”が語り掛けて来る。
『了解、とっとと現地生物を購入して戻るよ。戻ったらゴア社のスバッシュを用意しておいてくれ』
スバッシュは銀河連盟で最も売れている飲料だ。
コテラの在庫も十分にある。
『了解です。マスター』
僕の今日の目的は現地生物の採取だ。
だが、野生生物を捕えるのは面倒くさいので、ヒトが捕えた物を購入する事にした。
購入するのは現地呼称”ウマ”、”ヒツジ”、”ヤギ”、そして”ヒト”だ。
村が見えてくる。
『おい、ナビィ。どこが都市だ。あれは村だろ』
見えてきたのは、都市とは言い難い集落だ。
おそらくヒトの個体数は万程度しかないだろう。
都市と言うには小規模過ぎる。
『いえ、現地では指折りの都市ですよ』
これだから未開惑星は困るんだ。
僕は仕方なく、その都市とやらに入る。
現地の言語はマスターしている、ラテン語とその方言だ。
僕は町の入り口に立っているヒトに聞く。
「こんにちは、僕は旅の商人です。市場と宿を探しているのですが、どこでしょうか?」
ヒトはちらりとこちらを見ると、コホンと軽く咳払いして、もう一方の男と目くばせをした。
先輩から学んで知っている、賄賂を要求しているのだ。
僕は懐から小さな現地生命の革で作った袋を取り出すと、その中の半透明の結晶を数個取り出し、掌に置いた。
「これは何だ?」
「氷砂糖です。極東で仕入れた物ですよ。おひとつどうぞ」
そう言って僕は氷砂糖を一つ自分の口に入れた。
それを見てヒトも口に入れる。
「あま、あまい!」
ヒトの顔を綻ぶ、その喜びようを見て、もう一方の男も近寄ってくる。
「どうぞ」
僕はそのヒトにも掌の氷砂糖を差し出す。
それを口にしたヒトも大喜びしている。
「「もっとくれ! もっと!」」
先輩からの引継ぎで聞いた通り、この現地土人は、このカロリーを感じる味が大好きらしい。
その上、それは非常に貴重だそうだ。
「では、もうひとつずつだけ。これは本当なら高貴な方へ売る物なのですよ」
一人はそれを再び口にし、もう一人はそれを懐へしまった。
知性にも個体差があるのだな。
氷砂糖を今消費するか、高く売れる事を予期して取っておくか、二人の運命は今、分かれたかもしれない。
まあ、僕には関係ないが。
「で、市場と宿はどこでしょうか?」
「お、おう。それはだな……」
「待ってくれ、おい、これをやるから俺の分まで仕事をやってくれ」
食べなかった方が食べた方に言う。
「本当か! 任せろ!」
一方は喜々としてそれを受け取った。
「よし、旦那! 市場と宿だったな。それなら俺が案内するぜ!」
にこやかな笑いを浮かべヒトは僕の肩を抱く。
親愛を表現しているのだろうが、正直ウザい。
だが、現地土人の中では想像以上に知性が高そうだ。
僕に恩を売って、謝礼を貰うのが最も得になると踏んだのだろう。
その考えは正しい。
現在の僕の所有物で、現地土人に渡して良いものだけでも、この土人が一生暮らせる価値がある。
具体的には、現地で宝石扱いされているダイヤやエメラルド、金、銀、それと先ほどの氷砂糖だ。
逆に渡せないレベルのテクノロジーの産物は、その価値そのものが理解できないだろう。
「僕はビクター、よろしくお願いします」
「ああ、俺はゼキ、よろしくな。旦那!」
ゼキという男は有用だ。
僕が探しているのが、家畜と奴隷だと聞くと、まず宿に案内した。
そして、宿の男に馬小屋使用の許可と荷台の調達を交渉したのだ。
俺が居なかったら、ボッたくられていたぜ、と僕に恩を売るのも忘れずに。
「家畜はここで買える、奴隷は隣だな」
ゼキが案内した市場は野生生物の糞尿の臭いで溢れていた。
僕は一刻も早くこの場から離れたかった。
なので、ゼキの見立てで目当てのウマ、ヒツジ、ヤギ、を買い、ゼキに頼んで、宿に運んでもらう事にした。
支払いは現地の通貨、ソリドゥス金貨とミリアレシオン銀貨で行った。
もちろんコテラの技術で作った偽造品である。
手作り感を再現するのが面倒くさいとナビィがぼやいていたのを覚えている。
ゼキを信用している訳ではないが、ゼキは教養も高く、聖書とやらを読めるらしい。
それは一般的なモラルが記載されている現地の教本で、僕も読んだ事がある。
内容は、僕からすれば、おとぎ話でモラルを語っているようにしか見えない。
そこには盗人は罪だと書かれていたので、ゼキに任せる事にした。
なあに、失敗しても何ら問題ない。面倒臭いだけだ。
家畜の隣ではヒトが売られている。
土人としか思えない風習だが、勝手にすればいい。
僕はそれを活用するだけだ。
極東で一儲けしたという触れ込みで僕の噂は広まっていた。
「旦那、いい奴隷いるよ。若くて良く働くよ!」
いや、殴られたら僕が死にかねないような筋肉土人は要らない。
「いや、こっちはつがいだよ。子供が生まれたら、もちろん、それも奴隷だよ!」
うん、その精神が治らない限り、僕は君たちを土人と呼ぶのを止めないよ。
そんな中で、僕は杭に鎖で繋がれたヒトの女性幼体を見つけた。
顔をポリポリと掻き、虚ろな目で地面を見つめる。
僕は運が良い、あれこそが僕が探していた個体だ。
「旦那! あれ安くしとくよ! それか、この若い奴を金貨20枚で買ったら、おまけに付けるよ!」
若い男の個体がフルフルと嫌そうな素振りをみせる。
「主人、あの少女は仕入れた時から、顔のあばたがあるのかい?」
「そうそう、でも大丈夫だよ。すぐには死なないよ!」
「もう一つ、あれを仕入れて、どれくらい経つ?」
「一か月くらいだね。まだ新品よ!」
その新品が意味する所は分からなくもないが、生憎僕はそんなことには興味はない。
「いいだろう。ソリドゥス金貨一枚で買いましょう」
少女奴隷の相場からは相当低い。
「ええと、せめて三枚!」
「一枚だ、あとはこれでどうです」
僕は氷砂糖をひとつかみ、奴隷商人の掌に置いた。
「これは?」
「極東の砂糖菓子です。砂糖は知っていますね?」
「ええ、それは」
「これはそれを岩塩のように固めたものです。これはおまけです」
僕はそう言って、奴隷商人の口に一粒、氷砂糖をほおり込んだ。
入り口のヒトと同じく、カロリーの味に奴隷商人が喜ぶ。
「その味がしばらく続く。良い物でしょう?」
「これは、これは! よござんす、金貨一枚とこれで!」
奴隷商人は掌を握り、ヒトの女性幼体の鎖の鍵を外すと、その一方を僕に差し出した。
「鎖はおまけします!」
僕は金貨一枚と引き換えにその端を握った。
宿に戻る間、僕はそのヒトの女性幼体と会話する。
「僕はビクター、君の名は」
「マリア」
また”マリア”か、現地土人のネーミングバリエーションの少なさには、いささか閉口する。
想像力に欠けているとしか思えない。
少女の顔はあばたと呼ばれるひどい出来物の痕でまみれていた。
原因は天然痘ウィルスによるものだ。
感染力が高く、僕も最高級のナノマシンで防疫していないと感染してしまうだろう。
銀河連盟の標準防疫ナノマシンでは、高確率で罹患する。
だから、僕はその抗体を持つヒトを手に入れに来たのだ。
無論、天然痘に留まらず、他の細菌やウィルスへの抗体を持つ生物を手に入れ、地球カスタム防疫ナノマシンを製作するのだ。
「よし、マリア付いてこい」
「はい」
村を歩くと、周囲の注目を浴びているのが分かった。
宿に戻るとゼキが、家畜を馬小屋に縛り付けていた。
荷車もある。宿の主人は上手くやってくれたようだ。
「だ、旦那! 何をやっているんです!? そんな病気の奴隷を買うなんて!」
「いいんだ、ゼキ。このマリアこそ、僕が買いたかったものだ」
「へ? いいんですか。そいつ悪魔に呪われていますぜ!?」
現地土人が根拠のない事を言う。
「構わないさ。ところでゼキ、僕は目的を達成したので、その荷車で出発する事にしたよ、ありがとうな。これは少ないがお礼だ」
僕は数枚の金貨をゼキに渡す。
「こっ、こんなに!?」
「君がいなければ、こんなに早く目的の物は集められなかった。これは正当な僕の気持ちさ」
そう、僕は早くコテラに戻って休みたい。
それが叶うなら、こんな物はいくらでもくれてやるというのが正直な気持ちだ。
「でも、もう少しで夜になりますぜ。夜は狼が出る。明日の朝の方が良いと思いますが」
この星系の主星は西に傾き、空の色も赤色に変わりつつあった。
「大丈夫だ、慣れている」
嘘だ、慣れてない。
「分かりました。どれくらい先まで行くのです?」
「ここから一晩先の村さ」
「なら、俺も同行しやす。こんなに貰っちゃ、何か恩返ししなくてはバチが当たります」
僕はしばし考える。
馬を扱うのは面倒くさい。
「そうか、では馬を荷車に繋いでくれ」
「わかりやした旦那!」
僕は宿屋の主人に荷車代を払い、家畜とマリアを連れて村を後にした。
ナビィが何と言おうが村だ。
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今回はビクターの過去話です。
大体千年くらい前の話ですね。
サブタイトルは「愛に時間を」からですね。
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