祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第2章 夢からさめても

2-9.幕間2 ミラ・ミュラー

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 神の座、そこは有限の地平と明るい闇という矛盾を抱えた空間。
 だが、彼女にとっては親しんだ闇。
 映画館のスタッフロールの後、明るくなっていく劇場に似ているから。

「なるほど、あなたの正体がわかりましたわ」
「あ、やっぱりわかっちゃいました」

 神の座に用意された彼女だけの空間。
 そこでミラは自分と同じ顔をしたもうひとりの女性に語りかける。
 いや、もうひとりではない、自分自身に。
 
「あなたは1周目のでしたのね。わたくしと同じく”祝福ゲーム”の因果から外れた」
「その通りですわ。グンマー氏のタイムリープにより歴史はループしましたわ。25年前にね」
「ループ? 平行世界パラレルワールドではありませんこと?」

 ミラが知っている歴史改変SFでは、こんな時の説明に平行世界パラレルワールドが使われることが多かった。
 もちろん別のパターンも数多くある。
 時間ものはSFの中で人気のテーマなのだ。

「自分の立場がご理解出来ていないようですわね。さて、ここはどこでしょう」

 自分からの問いにミラは少しだけ足下を見る。
 そして理解した。

「なるほど、わたくしは神の視点にいるということですわね。さしずめ歴史の観測者、いや物語の観賞者といううことでしょうか」
「そう、この”祝福ゲーム”の鑑賞者はわたしとそこの方ですわ」

 1周目のミラはそう言って光の人型を見上げる。

「我も肝を冷やしたぞ。君がネタバレをして台無しにしてしまうのではないかと」
「わたしも神の座に2周目の人たちが集まってインストを受けている時、ジャジャーンって登場したくなりましたわ。でも、そんなことをしたら、この物語の続きが観れなくなってしまいますわ。25年も待ったのに」

 グンマーはその”祝福”で25年前へのタイムリープを行い、その妻を癌から救った。
 それは感動的な話であったが、”祝福ゲーム”の本筋からは外れた物語。

「待っている間、出来るだけ退屈しないようにもてなしたつもりだが」
「もてなしには感謝しています。時間が無くて観れなかった作品も鑑賞出来ましたし。でも、わたくしの世界はここで終わりね」

 終わりという言葉に2周目のミラはピクリと反応する。

「終わりとはどういう意味ですの?」
「ループが終わるということよ。1周目の世界はグンマー氏がループした時点で進まなくなりましたわ。そして2周目、あなたの世界に組み込まれるということよ。編み込まれるの方がロマンチックかしら」
物語になるのかしら」
「うーん、”、だけど正史ではない”ということかしら。ほとんどは同じですし、前の周の出来事は、って思われるくらいかしら。異譚いたんね」

 人の記憶は曖昧あいまいなもの。
 たとえ世界が編み込まれて記憶が重なったとしても、1周目の出来事は、そんなこともあったかも、ということになるのだろう。
 2周目の出来事、それが本物になるのだ。
 
「なるほど、でしたら2周目の方が良い結果になるとよいのですけど」
「少なくとも、グンマーさんにとっては良くなったと思いますわ」
「そうですわね」
「ええ、では続きを観賞しましょう。これからもよろしく、わたくし」
「こちらこそ、わたくし」

 ふたりのミラは立ち上がり、彼女の手を、自分の手を握る。
 握手が交わされた時、ミラが見た微笑みは不思議な光景だった。
 まるで、鏡合わせのように。
 
「ねえ、神様ちょっとよろしいかしら」

 声を上げたのは2周目のミラ。

「なにかね」
「”祝福”って最初は25個ありまして、本来の”祝福者”は25人ですわよね。わたくしが最初に神の座に集められた時、手の聖痕スティグマの数字が24でしたのは、既にグンマー氏が0番目の願いを叶えていたからですわよね」
「その問いに答えよう。その通りだ」
「それって第1のルールに反していませんこと。”祝福”の『どんな願いでもひとつ叶える権利』の総数は25から増えないのではなくって? 貴方あなたの視点ですと1週目の13個を叶えて、さらに2週目の24個を叶えることになってしまいますわ」

 そう言った時、ミラは光の人型が少し笑ったように感じた。

「その問いに答えよう。ミス・ミュラー、それは違うぞ」

 ”君は間違えている”。
 その返事にミラは少し考えて、ポンと手を叩いた。

「なるほど、でしたのね」
「貴方は全てわかってらしたと」
「全てではない、我がわかっていたのは。続きは誰も知らぬ。だが、君が面白いと感じてくれるよう、我も努力する」

 ミラは考える。
 これは盲点。
 この盲点を付いたものが、おそらく”祝福ゲーム”の勝者となるだろう。
 その鍵を握るものにミラの視線は自然と集中する。
 視線の先にはグンマー氏の家から出てくる凛悟の姿があった。
 彼は気付くだろうか……。
 標準的な基準でいえば、彼の知識と知恵は高い水準にあるだろう。
 だが、それよりもスペックの高い”祝福者”もいる。
 観賞者、ミラ・ミュラーはモニターの先の凛悟へと語りかける。

「凛悟さん、君は逸果いつか みのりの死が1周目の君をグンマー氏の所へ導いた理由だと思っているのでしょうけど……」
「……その認識って、間違っていますのよ」

 その声が彼の元へ届かないと知っていながら。
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