祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第3章 夢よもういちど

3-2.喜びの交渉 クリストファー・グッドマン

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 ”元祝福者”、クリストファー・グッドマンは不安にかられていた。
 幸福な夢からめ絶望の中で届いたメール、彼はそれに最後の希望を託した。
 エゴルトにその祝福で死んだ娘を生き返らせて欲しいと懇願した結果、彼から得た返答が今の彼の全て。

『君の娘を生き返らせる案はある。だがそれにはふたつの祝福が必要だ。ひとつめの祝福で死んだ人間は生き返らない”というルールを撤廃し、ふたつめの祝福で死んだ人間を生き返らせるという方法だ』

 その案にグッドマンは直ぐに協力を申し出た。
 いや、『なんでも言うことを聞く』と言ったという方が正確であろう。
 そしてエゴルトの指示でグッドマンは日本に来ている。
 ここで他の”祝福者”を金で買収するのが任務。
 プライベートジェットの移動中に”祝福者”の居場所の連絡を受け、この高崎のホテルまで来たのだ。
 ソーシャルカメラの映像から、ここに鈴成 凛悟と花畑 蜜子のふたりが滞在していることはわかっている。
 彼らへの交渉を前にグッドマンは臓腑を締め付けられるような緊張を感じていた。

 こんな夜中に無礼だと思われやしないだろうか。
 金なんかで”祝福”は売れないと一蹴されないだろうか。
 彼らにも病気の娘がいて、それを救いたいと思っていないだろうか。

 申し出を断られる可能性がいくつもグッドマンの脳裏に浮かぶ。
 だが、夢で見たキャロルの笑顔が、夢にされてしまった娘の苦痛の表情がグッドマンの身体を動かした。

 まずはノック、そして素早く土下座しよう。
 少なくとも敵意がないことを示さなければ。

 そう思いながら扉を叩こうとした時、扉は逆に開かれた。

「ようこそ、グッドマンさん! お待ちしていました!」
「どうぞ、お入り下さい」

 扉から陽気なふたりが姿を見せ、どうぞどうぞと導かれるままグッドマンは部屋に入る。

「えっと……、日本語は出来ますか? キャンユースピーク、ジャパニーズ?」
「ハイ、ある程度は」
「でしたら日本語で会話させて頂きますね」
「よかったー! あたし英語苦手だもん」
 
 グッドマンの前に凛悟が座り、その隣に蜜子が座る。
 明るいふたりの様子にグッドマンは少し面食らうが、ハッと自分の任務を思い出した。

「はじめまして、わたしは……」
「クリストファー・グッドマンさんですよね。ロサンゼルスにお住まいの」
「そ、そうです。わたしはエボルトテックCEOのエゴルトの使いで来ました」

 グッドマンの言葉にふたりは顔をパァァと輝かせ「「イェーイ」」とハイタッチを決める。

「どうして、そんなに、よろこんでいるのですか? お金がもらえそうだからですか?」

 ふたりの態度にグッドマンの声のトーンが低くなる。
 キャロルが死んだのに、夢の中で死んだ人が現実でも死んでいるのに。
 このふたりは自分の幸せのことしか考えていないのか。
 いや、よそう。
 ふたりは悪いことをしているわけではない。
 ふたりの態度がしゃくにさわっているのは、宝くじに当たった人をねたんでいるようなものだ。
 幸せそうな人の声を耳障りに感じるなんて、心がすさんでいる証拠だ。
 グッドマンは軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「しつれいしました」
「あたしこそごめんなさい。グッドマンさんの気持ちも考えないで。でも大丈夫! センパイが貴方も含めてハッピーにしちゃうんだから!」

 そう言って蜜子は両手を横にフリフリさせながら凛悟の方を示す。

「どういうことです?」
「詳しく説明しましょう。俺たちはふたつの祝福を確保している。ひとつは蜜子の手に、もうひとつは福岡にいる協力者に」

 福岡の協力者、それは湊 藤堂のことだろう。
 グッドマンはエゴルトから渡された”祝福者”の情報を思い出す。

「俺の”祝福”はこの”本”になった。ここには今まで叶えられた願いや元を含め”祝福者”の情報が記載されている」
「スマホの追跡機能みたいに現在位置だってわかっちゃうんだから」
「なるほど、それで私が来るのがわかったのデスね」
「そう、そしてエゴルトが”祝福者”を集めようとしていることもわかっている。残りの祝福者がここ半日で急に移動を開始した。スピードからおそらく飛行機だろう。こんなに一気に影響が与えられるのはひとりしかいない」
「あたしたちにもスパムみたいなメールが届きましたから。それに応じた”祝福者”がいたんでしょうね。きっと」

 エゴルトが自分だけでなく他のエージェントも使って”祝福者”と交渉しているのはグッドマンも知っている。

「俺たちの目的はみっつめの”祝福”を確保すること。そしてこう願う」

 凛悟は指を1本立てグッドマンの目をじっと見る。

「ひとつめ、”死んだ人間は生き返らないというルールを無くしてくれ”」

 さらにもう1本指を立てて凛悟は続ける。
 
「ふたつめ、”祝福ゲームが始まってから死んだ人間を全て健康な状態で生き返らせてくれ”」

 それを聞いた時、グッドマンの胸に熱いものがこみ上げて来た。
 娘が、キャロルが救われると、しかも病気も治って。

「みっつめ、”この祝福ゲームに参加した全ての祝福者がどんな運命改編や時空改編などがあっても幸せな人生を送れるように”。これをほぼ同時に願う」

 凛悟が考えたみっつめの願い。
 それは幸せを保証するものだった。
 グッドマンの目に熱い涙が流れおちた。

「へっへー、センパイの案って凄いでしょ。この案の良いところは3人目の”祝福者”が反対する余地がないってこと。だって幸せが約束されちゃうんだもの」
「俺からの要求はこうです。エゴルトさんに3人目の”祝福者”との合意を取り付けるのに協力して欲しい。他に条件はありません」
「お金はー、あったらいいけど、なくてもいいの。みんなで幸せになりましょ」

 ただ幸せが欲しい。
 ささやかだが、それが何よりも難しいことをグッドマンは知っていた。
 だからこそ、この案が至上のものだと理解できた。
 
「スバラシイです! カンペキです! すぐにエゴルト様にトークします! きっとダイジョブです。あの人はとてもクレバーな方ですから」

 エゴルト様ならきっと彼らに協力して3人目の”祝福者”になってくれる。
 グッドマンは喜びで震えながら、スマホを取り出そうとする。
 
「よかった。これでエゴルトさんも人殺しにならずにすみますね」
「えっ、それはどういう──?」

 蜜子の不穏な台詞にグッドマンの手が止まる。
 そんな彼の前に凛悟は“本”を差し出し、その中のエゴルトのページを開いて見せた。

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 第11の願い エゴルト・エボルト
 望むのはルール変更、”祝福者”が願いを叶える権利を行使せずに死んだ場合、ランダムで人類の誰かに”祝福”が移るのではなく、この僕に移るように

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 グッドマンにはその願いがとても邪悪なもののように見えた。
  
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