祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第3章 夢よもういちど

3-21.疑心の暗鬼 逸果 実

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 移動中のリムジンの中でみのりは考える。
 今、命を賭けて”祝福”を奪うべきかを。

 ……やっぱ、そこまでのリスクは負えないわよね。あー、しくったわ。でも、しょうがないじゃない。

 彼女の頭に浮かぶのはひとりファンの顔。
 ”祝福”を持つ藤堂の顔だ。
 昨日、藤堂がみのりの前に現れた時点で彼女は勝利を確信した。
 これで作戦を実行できると。
 彼女はこの”祝福ゲーム”が始まった時からずっと考えていた。

 どうにかして”祝福”を全て手に納められないか、と。

 そして気付いた。
 自分がいつもファンの前でやっている『結婚して-!』、『いいよー!』のお約束のことを。
 
 これよ! これを利用すれば勝つる!
 
 彼女の中で作戦の骨子が立った時、彼女はそう確信した。
 作戦は単純。

 まずはけん
 じっと耐えて他の”祝福者”の接触を待つ。
 次にどう
 接触があったら、それがファンであるかを確認、もしくはそこで結婚を誓わせる。
 最後にけつ
 確認できたなら、あとは決めるだけ。
 結婚の願いを叶えた後、結婚相手の“祝福”を奪って『全人類と結婚したい』と願えばいい。
 これで残りの“祝福”は自分のもの。
 
 あのファンはすでに『結婚してー! いいよー!』と言っている。
 条件は満たされていた。
 ”結婚”の願いを叶え、そして藤堂の”祝福”を搾取して『全人類と結婚したい』と願っていれば、この”祝福ゲーム”は彼女の勝利で終了していただろう。
 もし、彼女がミスをしたのだとしたら、その時点でけつできなかったこと。
 もう少し情報が欲しい、他の”祝福者”や叶えられた願いの情報が。
 そう考えてしまったのが彼女のミス。
 いやそこを攻めるのは間違いだろう。
 彼女は何が起きるか、起きているか、それを確認した上でけつをしようとしただけなのだから。

 昨日の夕方、みのりは知った。
 ”祝福”を奪おうとするエゴルトと”本”を手に入れた凛悟のことを。
 そして彼女はこう考えた。

 あーあ、あの”本”がなければあたしの坊主丸儲けだったのに。
 あたしの願いが叶えられたとするでしょ、そしてATMファンの”祝福”を使って”全人類と結婚”しようとする。
 でも、その時点であたしの願いが”本”でバレちゃうわよね。
 すると、凛悟って男は絶対に対策を取る。
 しかも凛悟には蜜子って女もいるって話じゃない。
 ”全人類との結婚”が叶うまで1手、次の”祝福者”から”祝福”を奪うまで2手。
 あっちは1手で対策が取れちゃう『祝福を奪おうとする者は死ぬ』みたいな願いで。
 1手目まではスピード勝負で勝てるかもしれない、だけどあたしの2手目よりあっちの1手目の方が早いわ。
 うん、この作戦は見直しが必要ね。

 そして彼女が見直している間に”祝福”は10から9に減った。
 それはケビンの『パパとママにあいたい、あいにいきたい』という願いであったのだが、彼女はそれを知る由もなかった。
 彼女の警戒は増々高まる。
 これはエゴルトに対抗するために凛悟の仲間の蜜子が願ったのではないかと。
 その結果、みのりは作戦を修正した。
 ”結婚”の願いはそのまま、ただし他の”祝福者”から奪うのは”本”を確認してから。
 あわよくば、自身の“願い”をヒミツにするオマケを付けようと。

 ”結婚”の願いが叶った後、彼女がまず行ったのは命の優先順付け。
 ”祝福者”が死ぬとその権利はエゴルトに移る。
 うっかり使ってしまわないように彼女はそれを守らなければならない。
 もちろん”祝福”を持っている者は、命の代替リストの終わりの方だ。
 次に行ったのは結婚相手の記憶を共有すること。
 特に藤堂の記憶を優先して。
 
 ”結婚”しているんですもの隠し事はなしよ。

 心にもないことを思いながら、みのりは藤堂の記憶を見た。

 あら? 凛悟くんとは連絡が取れない?
 しかも、蜜子ちゃんってパートナーも無事なことしかわかっていない。
 どうなっているのかしら……、見つけた。
 
 夢の中でのキングパレード。
 そこに参加したことでみのりの結婚相手は膨大な数になっている。
 おおよそ数千万人の記憶を共有する中で彼女は見つけた。
 蜜子がエゴルトと同じエボルトテック・ジャパンのビルにいることを。

 これってひょっとして、ひょっとするかしら。
 カマをかけてみる必要があるわね。

 そして彼女はエゴルトとの通話の中で”本”が彼の手の中にあると知った。

 あたしはツイてるわ、ノッてるわ。
 ”本”のりかがわかれば、どうにかしてそれを閲覧出来ればあたしの勝ちよ。
 さて、社長さんの所に着くまでの間、出来る限り情報を整理しておこーっと。

 みのりは再び藤堂の記憶を共有する。
 その中に、藤堂と凛悟の会話で『”本“のことを明かしてもいい』というものもあった。

 あーあ、”本”のことを知らなければ、あの時に決断できたかもしれないのに。
 情報を明かすことはマイナスと思えるけれど、それをバラすことで抑止力にするなんて……。

 みのりはリムジンの外を流れる車窓を見ながら、いまどこにいるかもわからない凛悟のことを考える。
 
 彼は今”祝福”もない、”本”もない、パートナーの蜜子はエゴルトの手の中。
 何も持っていないはずだし、何も出来ないはず。
 
「……あたし、気になります」

 幼いころに見た日常ミステリーアニメの決めセリフを口にしながら、彼女は思う。
 
 ひょっとして、一番警戒すべきなのは彼なのかもしれないわね。

 生き馬の目を抜く芸能界で鍛えられた女の勘。
 それが彼女にそう告げていた。

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