76 / 100
第3章 夢よもういちど
3-23.逆転の一手 鈴成 凛悟
しおりを挟む
駅から球場に向けて凛悟は走る。
エゴルトからの傍受を避けるため新規のスマホの契約は出来ない。
だが、WiFiを使ってネットの情報を収集するだけなら可能。
タブレットに表示される情報は球場が阿鼻叫喚の地獄絵図であることを彼に示していた。
ニュースサイトには『福岡ドームで大量変死! 局所的起きたら死ぬ病の再来か!?』とあり、ドームで大量の人が急性心不全で死亡していると伝えていた。
止まぬサイレンの音、行き交う救急車、それらを横目に彼は走った。
大丈夫、生きているはずだ。
この先で待つ仲間が彼の希望。
それなくしてはこの惨劇をどうにかすることは出来ない。
救急と警察で大混乱の球場の中で凛悟は一点を目指し、探し人を見つけた。
その男は、湊 藤堂は救護テントの片隅でタオルを肩にかけ震えていた。
「よかった。無事だったか藤堂」
「……リンゴはんか。ああ、生きとうよ、生きとう」
下を向き、地面を眺める藤堂の指が少し先のブルーシートの群れを指す。
少し盛り上がったそれの下は何があるか、それは説明不要だった。
「あれはテルやん、あっちはハレはん、そこのはリッちゃん、みんなワイの友達、同士やった」
「……そうか。でも藤堂が助かって良かった」
「よかった? きさん、今、何をいっちょる!? もういちどいってみい! なにがよかとね!?」
凛悟の胸倉をつかみ、涙で真っ赤になった目でにらみながら、藤堂は叫ぶ。
「藤堂が俺を信じてくれたことだ。約束を守ってくれたことだ。勝ちが確定する条件が整うまで”祝福”を使わなかったことにだ」
冷静に、諭すように、真っ直ぐな目で凛悟は藤堂の顔を見る。
「はっ、なんやきさん。これでまだ何か出来るちゅうんか? ミッコはんはどこにおる? 連絡が取れんみたいやけど?」
「蜜子なら東京だ。エゴルトの下にいる」
「つまり囚われのお姫様ちゅうわけか」
「そういう、ことになる」
ほんの少し、凛悟の声に震えが入る。
だがそれが逆に藤堂の心を落ち着かせた。
「なんや、リンゴはんもちっとは動揺しちょっとね」
「当たり前だ。俺もここまでの惨劇は想定していなかった。だから教えてくれ、ここで何があったのかを」
凛悟の真剣な目に応え、藤堂は説明を始める。
コンサートで起きた謎の爆発、銃声と思われる音、ヘリの乱入と機銃掃射。
それを受けてもなお、実はピンピンしていて、夜空を舞う女神のようだったことを。
「……女神はちょっと誇張しすぎじゃないか?」
「しぇからし。あの時、ファンがバタバタ倒れていくなかでもワイは思ってしまったんや。やっぱ実ちゃんは綺麗やって」
「そうか……」
これ以上のツッコミは良くないと感じたのか、凛悟は口を止め藤堂からの情報を整理し始める。
「藤堂、ひとつ質問いいか?」
「なんや?」
「犠牲者はファンだけか?」
「全部知っとるわけやなかけど、ファンばっかや」
「警備員とかスタッフは?」
「倒れた警備員の姿は見んかったな。スタッフは何人か倒れたやつがおったと思うで」
藤堂の答えに凛悟はまた考え込む。
「大体予想が付いた。実の願いは誰かと命を共有する系の願いだろう。いや、命だけではなく他にも色々共有しているな。その命を使って彼女は死を免れている」
「三只眼吽迦羅の无みたいなやつか? 三只眼吽迦羅が死なない限り无も死なないっちゅう」
「……それが何かは知らないが、微妙に違うな。命には限りがある。おそらく、この死んだファンの数だけ実は死んでいる」
「ああ、ハガレンタイプね。わかってきたわ。そっか……、ワイらは実ちゃんに捧げられたんやね」
「俺の予想が当たっていれば、そうだ」
藤堂は再び腰を下ろし、並べられたブルーシートの数々を見る。
「今の”祝福”の状況はどうなっちょる? ”本”でわかるんやろ」
「”本”はエゴルトに奪われた。藤堂を除いた全ての”祝福者”もエゴルトの下だ。きっと実もそこへ向かっている」
「八方ふさがりやないか。ミッコはんは敵の手の中。エゴルトはきっと金で他のヤツを買収しとるんやろ。せめて実ちゃんがエゴルトを倒してくれれば、あとはワイの愛の力でなんとかなるかもしれへんけど」
ハハハと力なく笑いながら藤堂は言う。
「そうしてくれるといいのだが。最悪、ふたりが手を組む可能性もある」
「実ちゃんは優しゅうてしっかりしとうから、金で水に流すってのもないっちゃぁ言い切れんのが悲しいな」
長年ファンを続けていれば黒い噂のひとつやふたつ聞くことがある。
藤堂は実がファンに向けている純粋で天真爛漫な姿だけではないことを知っていた。
「なあ、凛悟はん。前に言ったよな」
「どのことだ」
「ひとつ祝福があれば逆転可能って言ったことや」
「ああ」
「あれ、本当やよな。凛悟はんならこれ何とか出来るよな。ワイはもう無理やと思うけど、凛悟はんならやってくれる、よな」
その台詞には揶揄と懇願と、そして諦めが入り混じっていた。
だから藤堂は次の台詞を聞いた時、本当に、心から驚いた。
「出来る。藤堂が俺を信じて”祝福”を温存してくれていたから」
「本気か!?」
「真剣だ! 聞いてくれ、俺の作戦には信頼できる仲間と十分な説明が必要だ」
凛悟はこの窮地にあっても約束を守った藤堂を信頼した。
藤堂はこのピンチにあっても揺るがない勝利の意志を持つ凛悟に期待した。
「藤堂、頼みがある。俺を絶対に信用してくれ。俺は実の」
「実ちゃんや」
「実ちゃんの願い、その詳細に心当たりがある。それが真実なら、作戦はギリギリまで俺の心に留める必要がある」
真剣な目で凛悟は藤堂を見る。
そして、藤堂は……。
「わあった。こうなったら最後まで一蓮托生や。最後まで凛悟はんを信じたる」
「ありがとう、この恩は必ず返す。俺が藤堂を幸せにしてやる」
「いやぁ、それはちょっと遠慮したいわ」
男み見つめられる趣味はないとばかりに藤堂は目を逸らす。
「だから最初に力を貸して欲しい。”祝福”ではなく藤堂個人の伝手と金が必要なんだ」
「おう、いくらでもやっちゃる。それでいくら要ると?」
藤堂の職業はトレーダー。
しかも億り人の。
金なら任せろとばかりに藤堂は胸を叩く。
「ざっくり手付で1億円くらいだ」
藤堂はちょっぴり後悔した。
エゴルトからの傍受を避けるため新規のスマホの契約は出来ない。
だが、WiFiを使ってネットの情報を収集するだけなら可能。
タブレットに表示される情報は球場が阿鼻叫喚の地獄絵図であることを彼に示していた。
ニュースサイトには『福岡ドームで大量変死! 局所的起きたら死ぬ病の再来か!?』とあり、ドームで大量の人が急性心不全で死亡していると伝えていた。
止まぬサイレンの音、行き交う救急車、それらを横目に彼は走った。
大丈夫、生きているはずだ。
この先で待つ仲間が彼の希望。
それなくしてはこの惨劇をどうにかすることは出来ない。
救急と警察で大混乱の球場の中で凛悟は一点を目指し、探し人を見つけた。
その男は、湊 藤堂は救護テントの片隅でタオルを肩にかけ震えていた。
「よかった。無事だったか藤堂」
「……リンゴはんか。ああ、生きとうよ、生きとう」
下を向き、地面を眺める藤堂の指が少し先のブルーシートの群れを指す。
少し盛り上がったそれの下は何があるか、それは説明不要だった。
「あれはテルやん、あっちはハレはん、そこのはリッちゃん、みんなワイの友達、同士やった」
「……そうか。でも藤堂が助かって良かった」
「よかった? きさん、今、何をいっちょる!? もういちどいってみい! なにがよかとね!?」
凛悟の胸倉をつかみ、涙で真っ赤になった目でにらみながら、藤堂は叫ぶ。
「藤堂が俺を信じてくれたことだ。約束を守ってくれたことだ。勝ちが確定する条件が整うまで”祝福”を使わなかったことにだ」
冷静に、諭すように、真っ直ぐな目で凛悟は藤堂の顔を見る。
「はっ、なんやきさん。これでまだ何か出来るちゅうんか? ミッコはんはどこにおる? 連絡が取れんみたいやけど?」
「蜜子なら東京だ。エゴルトの下にいる」
「つまり囚われのお姫様ちゅうわけか」
「そういう、ことになる」
ほんの少し、凛悟の声に震えが入る。
だがそれが逆に藤堂の心を落ち着かせた。
「なんや、リンゴはんもちっとは動揺しちょっとね」
「当たり前だ。俺もここまでの惨劇は想定していなかった。だから教えてくれ、ここで何があったのかを」
凛悟の真剣な目に応え、藤堂は説明を始める。
コンサートで起きた謎の爆発、銃声と思われる音、ヘリの乱入と機銃掃射。
それを受けてもなお、実はピンピンしていて、夜空を舞う女神のようだったことを。
「……女神はちょっと誇張しすぎじゃないか?」
「しぇからし。あの時、ファンがバタバタ倒れていくなかでもワイは思ってしまったんや。やっぱ実ちゃんは綺麗やって」
「そうか……」
これ以上のツッコミは良くないと感じたのか、凛悟は口を止め藤堂からの情報を整理し始める。
「藤堂、ひとつ質問いいか?」
「なんや?」
「犠牲者はファンだけか?」
「全部知っとるわけやなかけど、ファンばっかや」
「警備員とかスタッフは?」
「倒れた警備員の姿は見んかったな。スタッフは何人か倒れたやつがおったと思うで」
藤堂の答えに凛悟はまた考え込む。
「大体予想が付いた。実の願いは誰かと命を共有する系の願いだろう。いや、命だけではなく他にも色々共有しているな。その命を使って彼女は死を免れている」
「三只眼吽迦羅の无みたいなやつか? 三只眼吽迦羅が死なない限り无も死なないっちゅう」
「……それが何かは知らないが、微妙に違うな。命には限りがある。おそらく、この死んだファンの数だけ実は死んでいる」
「ああ、ハガレンタイプね。わかってきたわ。そっか……、ワイらは実ちゃんに捧げられたんやね」
「俺の予想が当たっていれば、そうだ」
藤堂は再び腰を下ろし、並べられたブルーシートの数々を見る。
「今の”祝福”の状況はどうなっちょる? ”本”でわかるんやろ」
「”本”はエゴルトに奪われた。藤堂を除いた全ての”祝福者”もエゴルトの下だ。きっと実もそこへ向かっている」
「八方ふさがりやないか。ミッコはんは敵の手の中。エゴルトはきっと金で他のヤツを買収しとるんやろ。せめて実ちゃんがエゴルトを倒してくれれば、あとはワイの愛の力でなんとかなるかもしれへんけど」
ハハハと力なく笑いながら藤堂は言う。
「そうしてくれるといいのだが。最悪、ふたりが手を組む可能性もある」
「実ちゃんは優しゅうてしっかりしとうから、金で水に流すってのもないっちゃぁ言い切れんのが悲しいな」
長年ファンを続けていれば黒い噂のひとつやふたつ聞くことがある。
藤堂は実がファンに向けている純粋で天真爛漫な姿だけではないことを知っていた。
「なあ、凛悟はん。前に言ったよな」
「どのことだ」
「ひとつ祝福があれば逆転可能って言ったことや」
「ああ」
「あれ、本当やよな。凛悟はんならこれ何とか出来るよな。ワイはもう無理やと思うけど、凛悟はんならやってくれる、よな」
その台詞には揶揄と懇願と、そして諦めが入り混じっていた。
だから藤堂は次の台詞を聞いた時、本当に、心から驚いた。
「出来る。藤堂が俺を信じて”祝福”を温存してくれていたから」
「本気か!?」
「真剣だ! 聞いてくれ、俺の作戦には信頼できる仲間と十分な説明が必要だ」
凛悟はこの窮地にあっても約束を守った藤堂を信頼した。
藤堂はこのピンチにあっても揺るがない勝利の意志を持つ凛悟に期待した。
「藤堂、頼みがある。俺を絶対に信用してくれ。俺は実の」
「実ちゃんや」
「実ちゃんの願い、その詳細に心当たりがある。それが真実なら、作戦はギリギリまで俺の心に留める必要がある」
真剣な目で凛悟は藤堂を見る。
そして、藤堂は……。
「わあった。こうなったら最後まで一蓮托生や。最後まで凛悟はんを信じたる」
「ありがとう、この恩は必ず返す。俺が藤堂を幸せにしてやる」
「いやぁ、それはちょっと遠慮したいわ」
男み見つめられる趣味はないとばかりに藤堂は目を逸らす。
「だから最初に力を貸して欲しい。”祝福”ではなく藤堂個人の伝手と金が必要なんだ」
「おう、いくらでもやっちゃる。それでいくら要ると?」
藤堂の職業はトレーダー。
しかも億り人の。
金なら任せろとばかりに藤堂は胸を叩く。
「ざっくり手付で1億円くらいだ」
藤堂はちょっぴり後悔した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる